マレーシア国内の外国系企業に向けた新たな販路を模索
日台第三国商談会を開催

2021年2月2日

在マレーシア日系企業にとって、マレーシア国内の新規販路開拓は中長期的な課題だ。従来は日系企業同士や地場企業との取引が中心で、それ以外の外国系企業との取引は少ないのが現状だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で売り上げが減少し、サプライチェーンが混乱した。これを契機に、日系企業では同国内での新たな販路や調達先の開拓を模索する動きが加速している。

新型コロナ禍で国内販路開拓ニーズ高まる

ジェトロが実施した「2020年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」によると、マレーシアでの回答企業257社のうち、回答時点の取引先は約8割が日系企業や地場マレーシア企業だった。しかし、将来的に新規開拓したい取引先としては、日系企業が7割に低下。対して、地場企業をはじめ日系以外の企業への新規開拓を検討する比率が増える傾向にある。

図1:マレーシア国内の現在の取引先/将来新規開拓したい取引先
(上位8項目、複数回答)
在マレーシア日系企業の現在の取引先(n=257)、将来新規開拓したい取引先(n=157)について、それぞれ、日系企業83.3、69.1、地場(マレーシア)企業77.3、80.9、欧州企業21.5、19.7、米国企業19.7、21.1、ASEAN企業18.9、22.4、中国企業15.5、6.6、台湾企業9.0 、4.6となっている。数値の単位はパーセント。出所はJETRO 2020年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

出所:ジェトロ「2020年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

マレーシアでは、新型コロナウイルス感染対策として、2020年3月から段階的な移動制限を実施してきた。感染者数が落ち着いてきた6月からは、回復移動制限令(Recovery Movement Control Order: RMCO)となり、ほぼ全ての経済・社会活動が再開、国内での移動も制限がほぼ解除された。しかし、9月下旬から再び感染者数が増加し始め、その後も大幅な減少には至っていない。企業活動では取引先の訪問や営業活動に慎重になる傾向がある。

こうした情勢を背景に、日系企業では国内外での営業活動の制限をオペレーション上の課題と感じている企業が多い。マレーシアと周辺国の出入国制限のため国外出張ができないことから、特に外国での新規販路開拓が難しい。そのため、国内での新たな販路開拓を模索する動きがある。マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)とジェトロが共同でJACTIM会員の日系企業に対して7月に実施したアンケート結果によると、「オペレーション上の課題に対して、実施・検討している対策」としては「新規販路開拓(マレーシア国内)」が45.4%と最も多かった。

図2:オペレーション上の課題に対して、検討・実施している対策
(上位10項目、複数回答)
在マレーシア日系企業の対策は、割合が高い順に、新規販路開拓(マレーシア国内)45.4、生産計画の見直し30.9、人材育成28.5、在庫調整26.6、マレーシア政府の支援策の利用22.7、新規販路開拓(海外)22.2、自動化・省人化のための設備・システムの導入 18.4、資金調達16.4、生産管理・運営管理におけるデジタル技術の導入15.9、ローカル人材の登用15.0となった。数値の単位はパーセント。出所はJACTIMおよびJETRO 第2回 在マレーシア日系企業の 新型コロナウイルス対策に関わる緊急アンケート。

出所:JACTIM/JETRO「第2回 在マレーシア日系企業の 新型コロナウイルス対策に関わる緊急アンケート」

台湾企業、自動化や太陽光パネルに関心

こうした状況を踏まえ、11月11日から13日の3日間、「日台第三国連携商談会(オンライン形式)」が開催された。対象は、マレーシアに進出する日系企業と台湾系企業。ジェトロ・クアラルンプール事務所が台湾貿易センター(TAITRA)クアラルンプール事務所と共催で実施した。新型コロナ禍により日台双方にマレーシア国内での新規販路開拓ニーズがあって実現したかたちだ。

商談会には、日系企業は情報通信技術(ICT)や自動化技術、太陽光パネル、金属加工、電気・電子製品、環境関連製品など14社、台湾企業は電気・電子製品や金属加工、自動車部品、機械・部品など25社が参加。33件の商談が行われた。その結果、日系企業から台湾企業に対する売り込みの成約見込みは、見積書提出やサンプル提供などを含めて8件となった。成約見込みの主な事例としては、工場のスマート化を行うソリューションの提供や、類似する業種の企業間で原料調達の連携などがあった。

在マレーシア台湾企業からは、自動化・効率化技術の導入、省エネルギーおよびエネルギーコスト削減のための太陽光パネルの導入などに関して、日系企業による工場規模や現状の設備に応じたきめ細かい提案に関心が集まったようだ。また、参加した台湾企業には、自動車関連部品を中心に、日系企業からの調達を検討する企業も見られた。さらに、在マレーシア日系企業からの調達だけでなく、日本本社からの部品調達を希望するケースもあった。

商談会に参加した日台双方の企業から、今まで接点のなかった新たな企業との商談機会が得られた点が有益だったという評価があった。もっとも、工場や製品の実物を見てからでないと具体的な商談に進めない製品・サービスも多い。そのため、オンライン商談をビジネス相手候補としての可能性を探る機会として捉える企業が多かった。

他方、製品サンプル提供にこぎつけた日系企業A社は「自社製品の販売では、工場訪問や製品の実物が必須ではないため、今後はオンライン面談やメールで商談を進めることが可能だ」と、商談した台湾企業との継続商談に期待を示す。

また、日系企業による台湾製品の代理販売(第三国での販売を含む)や、台湾企業から部品を調達する日系企業の商談もあった。マレーシア国内での新規販路開拓だけにとどまらず、両国企業の連携による第三国展開や日本からの調達などにも広げてビジネスを検討するきっかけになった。

日系企業以外の販路開拓にオンライン商談会の有効活用を

冒頭の図1で示したとおり、在マレーシア日系企業が台湾系企業との将来的な取引を希望する比率は2.8%。他の外国系企業に比べても低かった。しかし、今回の商談会では、今まで知らなかった企業とのネットワークができたことを評価する声が高かった。また、日系企業A社は「日系企業であれば、日本のネットワークを使ってアプローチも可能。しかし、日系企業以外は開拓が非常に難しい」と指摘した。こうしてみると、さまざまな国の企業との機会を持つこと自体が重要と言えそうだ。

マレーシア国内だけでなく、他国での主要展示会や商談会もオンライン化している。日系企業以外との新たな接点を作るためには、オンライン商談の機会の有効活用が不可欠と言えるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。