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新規財源で新型コロナ禍対策、同時に気候中立目標も(EU)
徹底解説:EU復興パッケージ(第2回)

2020年9月24日

欧州理事会(EU首脳会議)が7月21日に合意した復興パッケージの概要を解説する3回シリーズ。今回は、2021~2027年度の中期予算計画(多年度財政枠組み:MFF、以下、次期MFF)とは別に編成した「次世代のEU」と呼ばれる復興基金の概要を説明する。また、EUの新たな財源などの復興パッケージ全体の注目ポイントを押さえながら、復興パッケージの成立までの今後の流れを見ていくことにする。

「次世代のEU」、復興基金とは

「次世代のEU」と呼ばれる復興基金は、新型コロナ禍による被害からの復興対策に充てられる7,500億ユーロ規模の臨時の特別予算だ。EUの通常の中期予算であるMFFとは別枠になる。EU加盟国での新型コロナ禍による社会的・経済的な被害の例外的な深刻さを考慮し、復興のためにはその被害に見合った巨額の公共・民間投資が臨時に必要とされた。EUはMFFを通じて復興対策の投資を実施する。それを補完する一時的な対策として充てられる特別予算が、復興基金だ。復興基金の予算の支払いは2021年から順次開始される。

復興基金の財源は、MFFとは異なる。欧州委員会がEU名義の債権を発行し、市場から調達することになる。債券の償還は、加盟国への融資に対する当該加盟国からの返済分を除き(後述)、EU予算で賄われる。遅くとも2058年末までに償還を完了する予定だ。また、EU予算における同債券の償還資金として、加盟国からの従来の拠出金とは別に、新たな税収をEUの独自財源として加える予定もある。

復興基金の予算配分に関しては、「復興レジリエンス・ファシリティー」(Recovery and Resilience Facility: RRF)が全体の9割弱を占める。RRFとは、新型コロナ禍の影響の緩和を目的として、影響を特に受けた加盟国が実施する改革や投資などに対する大型の財政支援だ。RRF予算の約6,725億ユーロは、返済義務のない補助金(grant)約3,125億ユーロと、返済義務のある融資(loan)約3,600億ユーロからなる。

RFFの補助金と融資の提供方法に関しては、以下のプロセスとなる。まず、各加盟国は改革や投資内容を明記した2026年までに実施可能な計画を欧州委に提出する。次に、欧州委は計画内容について評価する。その評価にあたっては、経済効果だけでなく、環境に優しい経済への移行やデジタル化などEUの優先政策に対する貢献などの観点を加味する。その後、欧州委の提案を基に、加重票を用いた特定多数決によりEU理事会(閣僚理事会)が承認する。承認済み計画に基づく予算の執行に関しては、計画目標の達成などを条件に、EU理事会の勧告の下で欧州委が決定する(注1)。

RFF以外に、(1)「リアクトEU」(感染拡大の影響を最も受けた加盟国・地域に対し、危機・復興対策として、医療体制の強化や生活・雇用支援などを迅速に提供する追加的支援策:約475億ユーロ)、(2)「公正な移行基金」(「欧州グリーン・ディール」の一環として脱炭素化社会への移行を目指す上で、移行の影響を最も受ける加盟国や地域を支援する「公正な移行メカニズム」(注2)の柱となる基金:約100億ユーロ)、(3) 「RescEU」(災害や公衆衛生上の危機対策用の緊急物資の備蓄計画などを含むEUの市民保護メカニズム:約19億ユーロ)、が設けられた。このほか、農村開発(共通農業政策の一部として:約75億ユーロ)、次期MFFからの拠出に加えて、「ホライズン・ヨーロッパ」(約50億ユーロ)、「インベストEU」(約56億ユーロ)にも、復興基金から予算が配分される。

図:復興基金の予算配分
融資が3,600億ユーロ、内RFF融資分が3,600億ユーロ。補助金が3,900億ユーロ、内RFF補助金分が3,125億ユーロ、リアクトEUが475億ユーロ、ホライズン・ヨーロッパが50億ユーロ、インベストEUが56億ユーロ、農村開発が75億ユーロ、公正な移行基金が100億ユーロ、RescEUが19億ユーロ。

出所:欧州理事会資料からジェトロ作成

新たな独自財源と気候中立目標規定に注目

欧州理事会が7月21日に合意した復興パッケージには、新たな独自財源や予算配分と気候中立目標を関係づける規定なども盛り込まれた。今後に向けた注目点だ。

EUの独自財源としては、従来、関税、砂糖課徴金、付加価値税(VAT)に基づく加盟国からの拠出金、国民総所得(GNI)に基づく加盟国からの拠出金があった。これに加えて、新たな独自財源を創出することに言及された。新たな独自財源は、復興基金の財源となる債券の償還に充てるのが目的だ。

その第1弾として、リサイクルできないプラスチック廃棄物1キロ当たり0.80ユーロの拠出金を加盟国に求める制度が2021年1月1日から開始される予定になっている。さらに、炭素国境調整メカニズム(「欧州グリーン・ディール」の中で発表)やデジタル化課税に関する法案を欧州委が2021年上半期に提出し、遅くとも2023年1月までに施行する。また、EU排出権取引制度(ETS)を船舶・航空部門に適用拡大する改正案を欧州委が提案することなども盛り込まれた。

また気候温暖化対策として、EUの優先政策の1つである2050年までの気候中立(温室効果ガスの排出実質ゼロ)の達成に向けて、原則としてEU予算が気候温暖化に関するパリ協定や「欧州グリーン・ディール」の「害することがない(do not harm)」という原則を順守するかたちで使われるべきともした。その上で、次期MFFと復興基金の下で実施される政策も気候変動対策に貢献すべきであることから、次期MFFと復興基金の全予算の少なくとも30%が気候中立の達成に役立つ政策に歳出されるべきとの目標が設定された。

このほか次期MFFでは、加盟国分担拠出金の払い戻し(リベート制度)を維持することでも合意した。この制度の下、EU予算の純拠出国(デンマーク、ドイツ、オランダ、オーストリア、スウェーデン)には、国民総所得(GNI)に基づく加盟国からの拠出金の支払い額を調整し、一部が一括して払い戻されることになる。

欧州議会と加盟国内手続きに課題も

7月21日の欧州理事会で合意した復興パッケージは、そのまま自動的に予算として成立するわけではない。最大の関門とされる欧州理事会での合意は達成できたものの、成立までには今後も幾つかのハードルが予想される。

まず注目されるのは、欧州議会の動きだ。EUの統治機構において、欧州理事会とEU理事会は加盟国政府の利益を、欧州議会はEU市民の利益をそれぞれ代表するとされる。EUは度重なる条約改正の中で、EUの意思決定の民主的な正当性を高めるために、立法手続きなどにおける欧州議会の権限を強化してきた。MFFに関しても、EU理事会は従来、欧州議会との協議の上で採択していたが、欧州議会の意見に強制力はなかった。EU基本条約(リスボン条約)の2009年の発効以降は、EU理事会が最終的な決定権を持つ。ただし、同時に欧州議会の同意が必要となった。そのため、EU理事会からの要請に基づきMFFの提案を行う欧州委は、次期MFFの議論でも欧州議会と事前の協議を重ねてきた。欧州議会は5月、次期MFFを含む復興パッケージについて、野心的な内容の決議を圧倒的多数で可決した。例えば、予算を2兆ユーロと規模した上で、EUの新たな独自財源の創出などを求めたのだ。その上で欧州議会は、7月21日の欧州理事会での復興パッケージ合意について、欧州議会の求めていた内容と比べ大幅に薄められているとした。そのため、次期MFFに関する欧州理事会の合意をそのまま認めないとする声明を発表するなど、要求を強めている。このことから、復興パッケージの内容は一定程度の修正を迫られる可能性がある。

一方、復興基金に関しては、欧州議会の同意は不要だ。しかし、加盟国議会での批准承認など、各加盟国の憲法上の要件に従った批准手続きが全加盟国で必要となる。復興基金の財源としては、債券を発行して市場から資金を調達することが予定される。しかし、その発行には、債券の規模や期間を限定し、欧州委に発行権限を与える必要がある。また、発行に当たって、EUの返済能力を保証しより低い金利での発行を可能にするためには、EUの歳出上限を引き上げる(EU全体のGNIの0.6%程度とされる)必要がある。このような債券の発行の前例はなく、その額も巨額になる。そこで、EUの財政規律を加盟国が監督する観点から、全加盟国による批准が必要となるわけだ。

今後、欧州理事会と欧州委は欧州議会と、また加盟国首脳は加盟国の議会などと、意見を調整することが必要だ。このように復興パッケージは、欧州議会の同意と加盟国の批准を全て取り付けた上で、初めて正式に成立することになる。


注1:
「復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)」に関しては、2020年9月18日付ビジネス短信参照
注2:
「公正な移行メカニズム」に関しては、2020年1月21日付ビジネス短信参照
執筆者紹介
ジェトロ・ブリュッセル事務所
吉沼 啓介(よしぬま けいすけ)
2020年、ジェトロ入構。

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