日本産食品輸入業・外食産業へのコミュニティー隔離措置の影響(フィリピン)
デリバリーサービスへの移行、eコマース活用の可否がカギ(前編)
2020年6月22日
新型コロナウイルスの感染拡大のため、フィリピンでもコミュニティー隔離措置(以下、隔離措置)が取られている(隔離措置の詳細については、「フィリピンにおけるコミュニティ隔離措置の最新状況(699.11KB)」(ジェトロ)参照)。営業形態が制限される外食産業や同事業者を主要取引先にする日本産食品輸入業者にとって厳しい状況が続く。連載の前編となる本編では、隔離措置のもたらした日本産食品輸入業・外食産業への影響を解説する。
隔離措置による経済損失は、マニラ首都圏地域で甚大
フィリピン国家経済開発庁(NEDA)は、外出禁止令や公共交通機関の停止を含むルソン島全域の広域隔離措置(以下ECQ)による最初の最初の45日間(3月17日~4月30日)の経済損失は、GDPの5.6%に相当する1兆1,075億ペソ(約2兆3,258億円、1ペソ=約2.1円)に及ぶとする報告書(1.99MB)を発表した(2020年6月1日付ビジネス短信参照)。
経済損失の産業別の内訳は、第一次産業が943億ペソ、第二次産業が5,377億ペソ、第三次産業が5,897億ペソだった。特に第三次産業への影響が大きい(注)。同産業の損失額のうち、マニラ首都圏地域が4,548億ペソと突出している。
地方名 |
第一次産業 (100万 PHP) |
第二次産業 (10億 PHP) |
第三次産業 (10億 PHP) |
全体 (10億 PHP) |
GDPに対する 割合 |
---|---|---|---|---|---|
フィリピン全体 | 94.3 | 537.72 | 589.72 | 1,107.54 | 5.56 |
マニラ首都圏 | 0.45 | 134.41 | 454.84 | 589.25 | 7.89 |
コルディリェラ行政地域 | 7.56 | 5.99 | 3.61 | 9.61 | 2.76 |
イロコス地方 | 3.69 | 7.02 | 6.69 | 13.72 | 2.19 |
カガヤン・バレー地方 | 6.35 | 9.05 | 3.80 | 12.86 | 3.71 |
中部ルソン地方 | 24.84 | 68.70 | 14.87 | 83.59 | 4.51 |
カラバルソン地方 | 26.33 | 244.48 | 20.62 | 265.13 | 9.02 |
ミマロパ地方 | 1.52 | 4.58 | 4.58 | 9.16 | 2.92 |
ビコル地方 | 2.32 | 4.31 | 10.27 | 14.57 | 3.41 |
西ビサヤ地方 | 3.52 | 7.81 | 9.81 | 17.62 | 2.09 |
中部ビサヤ地方 | 1.96 | 25.10 | 12.55 | 37.65 | 2.85 |
東ビサヤ地方 | 0.62 | 5.58 | 3.92 | 9.50 | 2.34 |
サンボアンガ半島地方 | 5.88 | 1.81 | 3.09 | 4.91 | 1.26 |
北ミンダナオ地方 | 2.56 | 4.24 | 5.87 | 10.11 | 1.28 |
ダバオ地方 | 0.91 | 6.13 | 7.39 | 13.52 | 1.45 |
ソクサージェン地方 | 1.52 | 3.60 | 4.66 | 8.27 | 1.53 |
バンサモロ自治地域 | 1.55 | 0.34 | 0.55 | 0.89 | 0.61 |
カラガ地方 | 2.73 | 4.57 | 2.60 | 7.17 | 3.23 |
注:NEDAの報告書上、第一次~第三次産業の損失額を足し合わせた数値は、全体の合計額と異なる。PHは、フィリピン・ペソ。
出所:NEDA報告書からジェトロ作成
商業施設やホテルの閉鎖、レストランの店内飲食が禁止
マニラ首都圏地域の第三次産業の経済損失が高いのは、同地域に集積している商業施設やホテルが、スーパーマーケットを除き、軒並み営業を停止したのが原因と言えそうだ。ECQ実施期間中は、商業施設内のレストランなども営業を停止し、ごく一部の独立した店舗でデリバリーやテークアウトのみの営業が認められていた。多くの高級日本食レストランも入居しているホテルも操業を停止していた。その後、ルソン島内の一部地域ではECQが緩和され、修正広域隔離措置(以下、MECQ)、一般的な隔離措置(以下、GCQ)に移行したが、マニラ首都圏地域は5月15日までECQが継続された(2020年5月14日付、5月19日付ビジネス短信参照)。
その後、マニラ首都圏地域は5月16日からMECQ、6月1日からGCQへ移行。商業施設も通常の50%の操業態勢での営業再開が認められた。これにより、商業施設のレストランも徐々に再開している。レストラン店内でのダイニングサービスは禁止されていたが、6月15日からは席数の30%以下での営業が認められるようになった。ただし、商業施設やレストランに入る前に来店客全員が体温をチェックされ、混雑時は入店を制限している(2020年6月2日付ビジネス短信参照)。

今後、マニラ首都圏地域が修正一般隔離措置(MGCQ)に移行した場合、商業施設は通常どおりの操業が認められる。しかし、レストランのダイニングサービスは席数の50%以下での営業にとどまる。当面の間、フィリピンの日本産食品輸入業・外食産業市場にとって、厳しい状況が続くだろう。
6月7日付のマニラブリティン によると、フィリピン貿易産業省(DTI)のラモン・ロペス長官は「消費者が感染を懸念し、混雑した場所に行くのを避けるようになっている。このため、商業施設では多くの来客が見込めない」と指摘した。また、「クリスマスまでに通常の状態に戻ればよいが、客が少ないためテナントが営業を再開しないケースもある」と発言した。
隔離措置が日本産食品輸入業・外食産業に与えた影響と今後の動き
日本産食品輸入業者へのヒアリングによると、隔離措置の期間でも営業が認められたスーパーマーケットへの販路を有している業者と、高級レストランやホテルが主要取引先で高級食材を扱う業者で明暗が分かれた。前者は隔離措置開始から、保存の利くインスタントラーメンなど加工食品を中心に追加発注が相次いだという。後者は取引先の営業停止により、主要取引先への卸売りというB to Bビジネスが止まってしまった。そのための打開策としてB to Cの販路構築を目指す動きがある。例えば、自社のウェブサイトでのオンライン販売や大手eコマースサイトへの出店などを通じ、デリバリーサービスに取り組み始めている。
5月8日付ビジネス・インクワイヤー によると、フィリピンの大手eコマースのラザダフィリピン
の責任者カーボネル氏は「隔離措置開始後の最初の1週間は、初めてのユーザーが増加した。新しい消費者の行動であり、オフラインの小売業者とオンライン運営者が連携する機会ではないか」と指摘する。
外食産業関係者へのヒアリングによると、ダイニングサービスができる座席数が制限を受ける中、デリバリーやテークアウトサービスの提供に動き出している。ただし、デリバリースタッフの確保が難しいことや、店内での提供よりも味が落ちる問題がある。容器代やデリバリーのコスト増により、販売価格の値上げにつながることも課題だ。
デリバリーの態勢整備には、受注やデリバリーを提携レストランから受託するフードパンダ やグラブフード
の活用も選択肢の1つとなる。4月15日実施のユニリバーフードソリューションズが主催するウェビナー
で、グラブフードフィリピンの責任者ベガ氏は「隔離措置開始前と比べて、開始後は20%利用率が増加した」と発言した。

デリバリーサービスへの移行、eコマース活用の成否がカギ
- 日本産食品輸入業・外食産業へのコミュニティー隔離措置の影響(フィリピン)
- 日本産食品輸入業・外食産業事業者へのインタビュー(フィリピン)

- 執筆者紹介
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ジェトロ・マニラ事務所
石見 彩(いしみ あや) - 1999年、経済産業省関東経済産業局に入局。経済産業省貿易振興課に出向(2001年~2003年)、関東経済産業局国際課(2003年~2004年)、イリノイ大学シカゴ校に留学(2004年)、経済産業省経済連携課に出向(2005年~2007年)、ジェトロ東京本部サービス産業部サービス産業課出向(2016年~2018年)などを経て2018年6月より現職。