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スケジュール通りに進むかドイツ5G導入
米中ハイテク摩擦の影響を受け遅れる通信網の敷設

2020年1月22日

ドイツ連邦政府は、デジタル化におけるキーテクノロジーである第5世代移動通信システム(5G)の導入を推進している。5Gは超高速大容量、多数同時接続、超高信頼低遅延が主なユースケースとして想定されており、インダストリー4.0の肝となるスマート工場の推進、通信環境が十分ではない地域の中小企業のIoT(モノのインターネット)化促進、またドイツの経済成長にも必須のインフラとされている。しかし、2017年に発表された「5G戦略」で、2025年までに完了するとされている5G通信網整備のプロセスは難航している。2019年には周波数割り当ての入札(オークション)が行われたが、3カ月を要し、小規模利用の3.7~3.8ギガヘルツ(GHz)周波数の割り当て手続きも11月下旬にようやく開始された。このほか、光ファイバーなど通信回線インフラの未整備、華為技術(ファーウェイ)問題など、遅れにつながる要因もあり、2020年中に商業実用を開始できるか、注目される。

喫緊の課題は光ファイバー網の構築

2019年3~6月に連邦ネットワーク局(BNetzA)による2GHz帯および3.6GHz帯での5Gの周波数割り当ての入札が実施され、ドイツテレコム、ボーダフォン(英国)およびテレフォニカ(スペイン)のドイツ法人、インターネット大手ユナイテッド・インターネット傘下の1&1ドリリッシュの4社が合計65億4,965万ユーロで落札した(2019年6月24日付ビジネス短信参照)。3月19日の入札開始から497回にわたって入札が行われ、終了したのは約3カ月後の6月12日だった。また、落札額は事前の予想を上回り、落札企業にとっては負担が増す結果となった。

落札企業には、光ファイバー網の敷設も義務付けられている。ドイツでは光ファイバーケーブルの敷設がほぼ行われておらず、いまだモバイル接続および固定ブロードバンド接続を利用できない地域や通信速度が非常に遅い地域が存在するためだ。インターネット・ネットワークのテストをするアプリケーションを提供するオーカラが発表している「スピードテスト・グローバル・インデックス」の2019年11月時点のランキングによると、ドイツのネット通信速度はモバイル接続で世界42位、固定ブロードバンド接続で38位と低迷しており、インターネット接続環境の改善は喫緊の問題であると同時に、5G通信網拡大に後れをとっている一因にもなっている。

この状況を打破すべく、連邦政府は通信事業者に対し、国内98%の世帯に2022年末までにLTEモバイルネットワーク(4G)の提供を義務付け、また2025年までに農村地域を含む国内全域に光ファイバーを敷設するための資金提供プログラムを決定した。このインフラ投資には、5Gの周波数割り当ての入札による収益から資金供給される。

5G キャンパスネットワークのための周波数割り当ても受け付け開始

ドイツ国内では、大企業や研究機関がすでに5Gを利用した実証実験のプロジェクトを実施している(表参照)。 BNetzAは、インダストリー4.0の基盤となるとみられ、さらに農業や林業でも利用可能な3.7〜3.8GHz帯の小規模利用(5Gキャンパスネットワーク)(注)の周波数割り当てを、3~6月の入札とは別枠で確保していた。しかし、このコストをめぐり、BNetzAが当初提示した価格を大幅に上回る価格設定を財務省が求めたため、両者間の調整に時間を要し、ようやく2019年11月21日から利用申請が可能となった。

表:5Gを利用した実証実験・プロジェクト(ベルリン)
プロジェクト名 プロジェクト内容 代表および参画企業・団体
Digital Test Field City Traffic Berlin
  • 都市交通における安全で快適な自動化されたコネクテッドドラビングのための技術的なパラメーターと要件を設定する。
連邦運輸・デジタルインフラ省
ベルリン州
フラウンホーファー・オープン通信システム研究所(FOKUS)
ダイムラー車両情報技術イノベーションセンター(DCAITI)
ベルリン自由大学
IAV
ヘッラ・アグライア(Hella Aglaia)
BLIC
ドイツテレコム
DIGINET-PS
  • 都市アプリケーション向けAVFのテストフィールドとフレームワーク
  • 車両のOEMおよびサプライヤー、モビリティ事業者、輸送用機器プロバイダーとアプリケーション開発者、AIおよび沿道ICTインフラストラクチャとの相互作用
  • 連邦経済・エネルギー省が支援。
ベルリン工科大学DAI 研究所
シスコシステムズ
DCAITI
Tシステムズ・インターナショナル
ベルリン電気モビリティ・エージェンシー (eMO、ベルリン州の関連機関)
FOKUS
Transfer Center 5G Testbed
  • ミリ波帯でのハードウェアおよびソフトウェア実装の開発、テスト、および最適化のための5Gテクノロジーのための実験室環境。
フラウンホーファー・ハインリッヒ・ヘルツ通信技術研究所(HHI)
ベルリンに所在する3つのフラウンホーファー研究所〔FOKUS、 生産システム・デザイン技術研究所(IPK)、信頼性・マイクロインテグレーション研究所(IZM)〕が協力
5G Playground (Germany)
  • 新しいプロトタイプと製品間のキャリブレーション、ベンチマーク、相互運用性テストなど、現実的で包括的な5Gのエンドツーエンド環境で革新的な製品プロトタイピングを行う実証実験プラットフォーム。
FOKUS
5G Berlin
  • ベンダーに依存しない環境での技術テスト、新しい5Gアプリケーションの促進と評価を行う。
  • 5Gコアのすべてのコンポーネントと、ベルリンの実験的な5Gテストフィールドのアクセスインフラストラクチャを統合。
HHI
FOKUS
ベルリン州
主要企業、ベルリン所在の中小企業およびスタートアップ
5Grid: Smart Grid Control
  • エネルギー分野における5G技術の活用。
ドイツテレコム
エリクソン
ベルリン電気ネットワーク
5GENESIS
  • 制御された環境・状況と大規模イベントの両方で、さまざまな5Gユースケースの5G KPIを検証。
ギリシャ国立科学研究センター・デモクリトス(NCSR Demokritos)
マラガ大学
インテル
テレフォニカ
エリクソン
アトス(Atos)
エアバス
FOKUS
サリー大学
ほか、20の機関
IC4F Industrial Communication for Factories
  • 製造業向けの安全で堅牢なリアルタイム通信ソリューションを開発。
HHI
ベルリン工科大学
ボッシュ
ドイツテレコム
ブラウン・イポス(brown-iposs)
MAG IAS
ノキア
rt-ソリューションズ.de(rt-solutions.de)
シンドラー・フェンスター+ファサード(Schindler Fenster + Fassaden)

出所:連邦教育研究省 Industrielles Internet(https://www.ip45g.de/en/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

統一的な戦略を欠いた、ファーウェイ問題への対応

ドイツで5G実装に当たり最大の議論となっているのは、ファーウェイの信頼性に対する懸念である。大量のデータの送信と処理を行う5Gのセキュリティ対策を万全に講じるため、政府は連邦情報セキュリティ庁(BSI)の助言を受けており、BSIは毎年、ドイツのサイバーセキュリティに関するレポートを発行している。2019年版の同レポートでは、前回のレポ―トとりまとめ時以降、1億 1,400万件の新型マルウェアプログラムが特定されたとし、77万件に及ぶマルウェアが添付されたEメールを政府ネットワーク内で除去・隔離したほか、重要インフラ関連企業に対する252件の攻撃が報告されている。5Gネットワークの拡大において、セキュリティの確保が最優先されるべき理由を示唆する数字である。

米国政府はドイツなどに、5G通信網の構築に当たり、ファーウェイの排除を要請している。ファーウェイは中国政府、軍および中国共産党と密接な関係にあり、同社を経由して機密情報が中国側に流れるのではないか、という懸念によるものだが、ドイツ政府はこの問題に対する統一的な戦略を欠いた状態にある。

2019年10月にBSIとBNetzAは、5Gに関与する全企業に適用されるセキュリティ要件の草案を発表した。クリティカルコンポーネントは認定制とすること、メーカーおよびサプライヤーには信頼性に関する証明の義務付け、製品の安全監視システムの導入などが盛り込まれた。しかし草案では、ファーウェイ排除は明言されておらず、専門家、政治家、経済人からの厳しい批判につながった。例えば、ドイツの情報機関である連邦情報局(BND)も、中国政府と企業の緊密な関係を理由に5Gネットへのファーウェイ参入に否定的な見方を示している。

当事者のファーウェイは、ベルリン自由大学主催の講演会でファーウェイドイツのデビッド・ワン副最高責任者が、ファーウェイ製品が危険であるとの主張を裏付ける証拠は米国から提示されていないとして、米国によるファーウェイ制裁を非難した。また、5Gネットワークを構築する世界各国の通信会社がファーウェイを利用しているが、同社製品の中から1つでも安全上のリスクが見つかれば、ファーウェイのビジネス全体が崩壊する、とも発言した。

他方で、ドイツテレコムやボーダフォンは、既存ネットワークでファーウェイ機器に依存しているため、ファーウェイを排除すれば、5G導入のコストが高騰し敷設も大幅に遅延するとの声もある(通信プロバイダー・付加価値サービス協会のユルゲン・グリュッツナー代表)。また、スペインの通信大手テレフォニカのドイツ部門は、5G通信網構築の事業者にファーウェイとノキアを選定したと発表した。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は一貫して、特定企業を排除せず、厳格な安全要件を設定し、またEU全体でファーウェイ問題の共有ソリューションを見いだしたいとしている。ファーウェイをめぐる論争は、5G導入のプロセスを遅らせている。キリスト教民主同盟・社会同盟(CDU/ CSU)と連立政権を組む社会民主党(SPD)は、ファーウェイにより懐疑的な立場をとっているが、各党内で意見がまとまっているとは言えない状況だ。今後、5Gネットワークのセキュリティ規定がどのような内容で決定するか、2020年春の政府決定が注目される。


注:
限定された地理・エリア内の相互接続で構成されるコンピュータネットワーク。長距離には対応できないが、大容量のデータ処理が可能。
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所
ヴェンケ・リンダート
2017年より、ジェトロ・ベルリン事務所に勤務。

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