2019年の米貿易赤字は6年ぶりに前年比減
対中追加関税により中国からの輸入が大幅に減少

2020年5月29日

米国商務省の発表によると、2019年の米国の貿易赤字額は6年ぶりに前年を下回り、6,164億ドルだった。赤字額の減少には、石油輸出国機構(OPEC)諸国からの原油や、1974年通商法301条に基づいて中国に課している追加関税対象品目の輸入が大幅に減少したことが影響した。

2019年の貿易赤字は113億ドル減少

米国商務省が3月6日に発表した2019年の貿易統計(国際収支ベース、季節調整済み)によると、輸出額(財・サービス)は前年比0.1%減の2兆4,980億ドル、輸入額は0.5%減の3兆1,145億ドルだった(表1、図参照)。貿易赤字額は前年比113億ドル減少し、6,164億ドルになった。2014年から増加していた赤字額は6年ぶりに減少した。

表1:財・サービス貿易収支推移(国際収支ベース、季節調整済み) (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
項目 2018年 2019年
金額 前年比 金額 前年比
輸出 2,501,310 6.3 2,498,034 △ 0.1
階層レベル2の項目 1,674,330 7.8 1,652,806 △ 1.3
階層レベル2の項目サービス 826,980 3.5 845,228 2.2
輸入 3,128,989 7.8 3,114,459 △ 0.5
階層レベル2の項目 2,561,667 8.6 2,519,049 △ 1.7
階層レベル2の項目サービス 567,322 4.3 595,409 5.0
貿易収支 △ 627,679 △ 77,556 △ 616,425 11,254
階層レベル2の項目 △ 887,338 △ 82,138 △ 866,244 21,094
階層レベル2の項目サービス 259,659 4,582 249,819 △ 9,840

注:貿易収支の前年比は差額。
出所:米商務省データを基に作成

図: 財・サービス貿易収支推移(国際収支ベース、季節調整済み)
図は1980年から2019年までの財・サービス貿易収支推移(国際収支ベース、季節調整済み)を示しています。貿易赤字は、2006年に最高値7,617億ドルを記録しましたが、その後、リーマンショックの影響により2009年には3,838億ドルまで減少しました。その後、貿易赤字は再び拡大を続けています。2019年は、輸出が2兆4,980億ドル、輸入が3兆1,145億ドル、貿易赤字は6,164億ドルとなりました。2014年から連続で増加していた赤字額は6年ぶりに減少しました。

出所:商務省データを基に作成

輸入は原油などエネルギー製品の減少が押し下げ要因に

財貿易をみると、輸出額は前年比1.3%減の1兆6,528億ドル、輸入額は1.7%減の2兆5,190億ドルだった。輸入の減少額が輸出のそれを上回ったことから、赤字額は前年より211億ドル少ない8,662億ドルになった。

輸出を品目別にみると、民間航空機(前年比22.2%減)が大きく減少した。民間航空機の減少額は、輸出全体の減少額の約6割を占め、資本財輸出の減少に大きく寄与した(表2参照)。一方で、民間航空機用エンジン・部品(9.9%増)や原油(35.6%増)を含むエネルギー関連製品(2.9%増)などは増加した。

輸入を品目別にみると、原油(18.8%減)を含むエネルギー関連製品(12.6%減)の減少が輸入額最大の押し下げ要因となった。そのほか、コンピューター周辺機器(18.0%減)、通信機器(15.6%減)などが減少した。一方で、医薬品は12.0%増となった。

表2:2019年の主要財別貿易(国際収支ベース、季節調整済み)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)(-は該当なし)
区分 主要品目 金額 前年比 主要品目に対する寄与度が最大の個別品目
品目 寄与度
輸出 合計 1,652,806 △ 1.3
食料品・飲料 131,133 △ 1.5 穀物類 △3.30
工業用原材料 525,705 △ 1.7 化学品(薬品を除く) △0.72
(うち原油) 65,364 35.6
資本財 547,363 △ 2.8 民間航空機 △2.23
自動車・同部品など 161,848 1.9 乗用車(中古車含む、カナダ向け以外) 3.71
消費財 205,689 0.1 医薬品 3.05
その他 81,067 2.6
輸入 合計 2,519,049 △ 1.7
食料品・飲料 151,597 2.2 野菜、果物、種子など 0.71
工業用原材料 528,974 △ 9.3 エネルギー関連製品 △5.54
(うち原油) 130,096 △ 18.8
資本財 681,551 △ 2.1 コンピューター周辺機器 △1.67
自動車・同部品など 376,956 1.0 トラック、バスなど(カナダから以外) 1.07
消費財 656,165 1.1 医薬品 2.47
その他 123,806 10.7

出所:米商務省データを基にジェトロ作成

2019年の原油の輸入量はOPEC諸国などからの輸入が減少し、前年比12.5%減の1日当たり679万5,000バレルと1994年以降で最低になった。また、原油価格の下落も輸入額を押し下げた。米国エネルギー情報局(EIA)によると、2019年の米国原油価格指標(WTI)平均は1バレル当たり57.0ドルと、前年より8ドル23セント下落している。一方、輸出額の増加は、輸出量が前年比45.4%増の1日当たり297万8,000バレルと過去最高の水準となったことが寄与した。韓国やインドといったアジア向けを中心に増加した。

対中輸入減少額の4分の3を占める追加関税対象品目

財貿易を主要国・地域別にみると、対中輸出額は前年比11.3%減、対中輸入額は16.2%減となり、それぞれ輸出入額全体の減少に最も寄与した(表3参照)。輸入の減少幅はデータの確認できる1999年以降で最大の877億ドルとなり、対中貿易赤字額は前年比741億ドル減の3,455億ドルだった。対世界の貿易赤字額に占める対中貿易赤字額の割合は、前年の47.3%から39.9%に低下し、2011年以来8年ぶりに4割を下回った。

表3:2019年の国・地域別財貿易(国際収支ベース、季節調整済み) (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出 輸入 貿易収支
金額 前年比 金額 前年比 金額 前年比
世界計 1,652,806 △ 1.3 2,519,049 △ 1.7 △ 866,244 21,094
中国 107,179 △ 11.3 452,700 △ 16.2 △ 345,521 74,082
EU 338,580 5.7 517,354 5.6 △ 178,775 △ 9,178
北米 550,161 △ 2.9 690,222 1.9 △ 140,061 △ 28,918
階層レベル2の項目 メキシコ 256,860 △ 3.4 364,461 3.4 △ 107,601 △ 21,017
階層レベル2の項目 カナダ 293,301 △ 2.4 325,761 0.2 △ 32,460 △ 7,901
日本 75,321 △ 0.8 145,534 0.8 △ 70,213 △ 1,762
インド 34,535 2.9 57,762 6.1 △ 23,227 △ 2,333
アジアNIES 152,590 △ 4.3 163,784 6.3 △ 11,196 △ 16,686
サウジアラビア 14,110 4.1 13,522 △ 44.0 588 11,176
ブラジル 42,813 8.8 30,514 2.6 12,299 2,684
その他 337,517 △ 2.1 447,657 0.1 △ 110,138 △ 7,971

注:貿易収支の前年比は差額。
出所:米商務省データを基に作成

対中輸入額の減少には、1974年通商法301条に基づく対中追加関税の対象品目の輸入減少が大きく寄与した。米国通商代表部(USTR)が2018年7月から段階的に発動した追加関税リスト1~4Aの対象となった品目の2019年の合計輸入額(通関ベース)は前年比24.2%減で、その減少額は対中輸入減少額全体の75.7%に相当する662億ドルだった(表4参照)。中でも、追加関税対象品目の5割弱(注1)を占める機械機器(HS第84~91類)は、30.6%減と大きく落ち込んだ。また、2018年12月28日以降2019年末までに合計19回発表された追加関税の適用除外品目(注2)の輸入額は、22.0%減となった。適用除外となった時期が多くの品目で年後半だったため、関税賦課の影響がみられた。

表4:米国の対中追加関税措置別の対中輸入額 (試算、通関ベース)(単位:100万ドル、%、ポイント)(△はマイナス値)
追加関税措置 2018年 2019年 前年比 寄与度 差額
制裁関税
(注1)
リスト1 9,912 6,820 △ 31.2 △ 0.57 △ 3,091
リスト2 4,769 2,319 △ 51.4 △ 0.45 △ 2,450
リスト3 147,225 83,476 △ 43.3 △ 11.81 △ 63,749
リスト4A 111,410 114,495 2.8 0.57 3,085
合計 273,316 207,111 △ 24.2 △ 12.27 △ 66,205
適用除外(注2) リスト1 20,719 16,512 △ 20.3 △ 0.78 △ 4,207
リスト2 9,868 6,620 △ 32.9 △ 0.60 △ 3,248
リスト3 55,720 44,170 △ 20.7 △ 2.14 △ 11,550
合計 86,308 67,302 △ 22.0 △ 3.52 △ 19,006
対中輸入額合計 539,675 452,243 △ 16.2 △ 16.20 △ 87,432

注1:適用除外の対象品目を除く。
注2:特定HTSコードの一部品目のみが適用除外となっているケースが多数あるが、一部品目のみの輸入額を算出するのは困難なため、全品目が適用除外となっているものとして試算。
出所:米国国際貿易委員会データを基に作成

対日貿易は、輸出額が前年比0.8%減の753億ドル、輸入額が機械類などの伸びが寄与し0.8%増の1,455億ドルとなり、貿易赤字額は18億ドル増の702億ドルだった。対日貿易赤字額は4年ぶりに増加した。


注1:
追加関税発動後に適用除外となった品目も含む割合。
注2:
2020年に入って発表された適用除外品目の最新の状況については、2020年5月15日付ビジネス短信参照。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 リサーチャー
大原 典子(おおはら のりこ)
民間企業勤務を経て2013年よりジェトロ・ニューヨーク勤務。自動車産業を柱に米国の産業調査を担当。