新型コロナ禍におけるカンボジアの入国制限措置と運用実態
2020年7月1日
カンボジア保健省によると、6月26日時点で、国内の新型コロナウイルス感染者は130人。死者は出ていない。感染者が拡大していないため、とくに活動制限もない。他国と比較しても平穏、安全かつ自由だ。
一方で政府は、6月8日、入国する渡航者に対し、規制や手続きの厳格化と入国時のPCR検査手数料などを新たに設定した。駐在員・出張者にとって、渡航するためのハードルが一層高まったことになる。また、入国した日本人駐在員から「入国規制・手続きが正当に運用されていない」との声も聞こえる。
本レポートでは、現実の入国者(6月7日時点)の声も踏まえ、発令されている入国制限措置とその運用実態を比較する。
入国にあたり非感染診断書、即時PCR検査などを要求
カンボジア外務国際協力省は3月30日から、外国人の入国に際し、(1)有効なビザ、(2)補償額が5万ドル以上の保険証書、(3)新型コロナウイルスに感染していないことを証明する健康診断書(出発元の出国72時間前までに保健当局が発行したもの)の提出を求めると発表している(2020年4月1日付ビジネス短信参照)。保険証書や健康診断書は、いずれも英語版を用意する必要がある。
また、5月20日から、カンボジア到着時にPCR検査を受け、結果判明まで政府指定の一時隔離場所で待機することとなった。同一フライトに陽性者がいれば、乗客全員が当局指定ホテルで14日間隔離される。乗客全員の陰性が確認された場合は、自宅などでの14日間の自主隔離が求められる。あわせて、隔離13日目に再度検査を受けなければならない。しかし、入国後13日目の再検査を受診するために指定病院を訪れた邦人の中には、「隔離13日目の検査や健康診断書の発行は行っていない」と指定病院から回答された例もある。注意が必要だ。
入国から解放まで、現実にどのような行程をたどるのか
日本からカンボジアへの渡航について。ANA(全日本空輸)の直行便(成田~プノンペン)は7月末まで欠航が予定される。そのため、6月26日時点では、トランジットでの待ち時間が短い韓国・仁川(インチョン)経由便(アシアナ、成田~仁川~プノンペン)が直行便に代えて活用されている。聞き取りによると、6月7日(日)午後7時30分に仁川発のアシアナ便の搭乗率は約90%で、機内は3密状態だったという。韓国人や欧米人に加え、海外在住のカンボジア人など多くの乗客が搭乗したことが要因とみられる。
成田・プノンペン間の移動から一時隔離場所解放までの行程(6月7~8日)について、ジェトロが入国者から聴取した。その結果は、表のとおり。従来は、PCR検査は翌朝、空港近くの簡易施設で実施するとされていた。しかし、空港内に検査ブースが設置されたことで、到着時に検査ができるようになった。このため、結果が出るまでの時間が短縮されている。

ホテルの宿泊料金も、以前は同じホテルで1泊100ドル近く請求されたケースもみられた。しかし、6月7日の宿泊分は1泊59ドルだったという。渡航者の負担も軽減されつつあることが推測される。その後の政府通達では、1泊30ドルとされる。一方、一時隔離場所となる客室の不足により相部屋となるなど、安全対策の面で懸念のある対応も見られたという。
日程 | 時刻 | 場所 | 行程 |
---|---|---|---|
6月7日(日曜) | 11:00 | 成田空港 | アシアナ航空チェックインカウンターで、パスポート、保険証書、健康診断書を提示。コピーをとられた後、返却。 |
13:20 | 成田空港発(搭乗フライト:OZ101) | 搭乗前に検温、機内でメディカルチェックシートを記入。 | |
15:50 | 仁川空港着 | — | |
— | Transferゲートへ入る | ゲートへ入る前に検温。 | |
19:30 | 仁川空港発(搭乗フライト:OZ739) | 搭乗前に検温、機内で入国関係書類を記入。 | |
22:55 | プノンペン空港着 | 10分後機外へ移動。移動後「Health Notice」と書かれたカードを渡される。 | |
23:30 | 入国審査 | 審査時にパスポート、保険証書、健康診断書を回収される。 | |
6月8日(月曜) | 0:00 | プノンペン空港内PCR検査ブース | 検体採取。 |
0:50 | プノンペン空港発(政府指定バス) | 外国人旅客は政府指定ホテル、カンボジア人旅客は無料の隔離施設へ移動。 | |
1:00 | Tian Yi International Hotel(一時隔離施設)着 | チェックイン(料金:59ドル/泊)、一部の宿泊客は相部屋。 | |
9:00 | Tian Yi International Hotel | 朝食の配給。 | |
20:20 | 同上 | ホテルより全員の陰性確認の連絡。 | |
20:30 | 同上 | チェックアウト(追加料金59ドル/泊)、パスポート、保険証書、健康診断書が返却され、自主隔離誓約書へサイン。 | |
21:00 | 同上 | 解放。 |
出所:ヒアリング結果からジェトロ作成
さらなる規制厳格化の可能性も
ただし、その後も各種措置が発表されているので注意が必要だ。カンボジア外務国際協力省は6月8日、入国する渡航者に対し、規制や手続きの厳格化を実施すると発表した(2020年6月15日付ビジネス短信参照)。入国後のPCR検査費や一時隔離施設の使用料、強制移動のバス代、食事代などを徴収する通達は、フェイスブックにクメール語で発表された。このため、外国人には混乱を招く結果になった。
さらに、外国人渡航者への防疫措置にかかる負担も増加している。保健省は6月11日、到着時に指定銀行へ各種費用のデポジットとして最低3,000ドルの預け入れ(現金またはデビットカードでの支払い)を求める措置を追加で発表した。6月19日時点で、この措置が実際に運用されていることも確認された。また、カンボジア日本人会のウェブサイトによると、6月24日のプノンペン着アシアナ便に搭乗していた日本人渡航者4人がPCR検査による健康証明書ではないという理由で入国拒否となったという。一方で、抗体検査による健康証明書で入国できた人もいたもようだ。
このように、入国制限措置には朝令暮改が散見される。また、発令されたルールどおりには運用が徹底されていないのが実態だ。カンボジアへの渡航に当たっては、感染状況や政府の対応について、ジェトロや在カンボジア日本大使館 、カンボジア日本人会の各ウェブサイト
などから、最新の状況を確認することをお勧めしたい。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・プノンペン事務所
石川 晶一 (いしかわ しょういち) - 本部、ジェトロ愛媛での勤務を経て、2019年8月から現職。