中国など北東アジア地域では「第2波」抑制が次の課題
再拡大を抑え込みながら、ワクチンの治験を加速

2020年7月10日

北東アジア地域において、新型コロナウイルスの1日当たりの新規感染者数は、2~4月に順次ピークを越えた。例えば、中国本土が2月4日、韓国は2月29日、台湾は3月20日、香港は3月31日~4月1日、日本は4月12日だった。現在は、感染症の再拡大、いわゆる「第2波」をどのように抑制するかが重要な局面に入っている(図1参照)。

図1:北東アジア地域の新型コロナウイルス新規感染者数
1月11日~7月6日の中国本土、韓国、台湾、香港、日本の感染者数の推移を示す。 新規感染者数のピークは、中国本土が2月4日(3,887人)、韓国は2月29日(813人)、台湾は3月20日(27人)、香港は3月31日~4月1日(いずれも57人)、日本は4月12日(743人)となり、その後は減少傾向にある。

注:中国本土では2月12日に感染者の定義が見直された。このため、同日の感染者数は1万5,152人となった。
出所:国家衛生健康委員会、香港特別行政区政府、台湾衛生福利部疾病管制署、世界保健機関(WHO)の発表を基にジェトロ作成

中国では、再流行の兆しもあった。3~4月には海外からの感染者流入やそれに伴う感染者増が警戒されていた。しかし、外国人の入境制限や国際線の運航本数の制限、PCR検査の徹底といった水際などでの対策が強化された。このため、5月の新規感染者は20人未満にとどまった。

一方、国内感染者数を省・市別にみると、広東省(3月31日~4月28日)で計43人、 黒龍江省(4月9~30日)で計76人、 吉林省(5月7~23日)で計43人となり、数十人規模の国内感染が散発した。また、6月に入ると、北京市の食品卸市場を中心とした大規模な集団感染で、再び国内感染者数が増加した。北京市の集団感染に関する感染者が6月11日以降、7月6日までに北京市では計335人、また河北省でも計21人確認された。もっとも直近では、改めて抑制への道筋が見えてきている(図2、2020年7月6日付ビジネス短信参照)。

図2:中国の新型コロナウイルス新規感染者数
3月1日~7月6日の中国の新規感染者数の推移を示す。3月上旬は国内感染者が中心であったが、3月13日からは輸入感染者数が国内感染者数を上回った。5月の新規感染者数は20人未満にまで減少した。6月11日から国内感染者数が再び増加したが、7月に入ると1ケタ台に落ち着いている。

出所:国家衛生健康委員会の発表を基にジェトロ作成

しかし、こうした「第2波」のリスクを完全に抑え込むには、ワクチンなどの医学的な解決手段が欠かせない。当初段階で流行の中心地だった中国は、ワクチン開発の中心地の1つだ。世界保健機関(WHO)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが7月6日に集計した世界の治験開始済みワクチン候補は、19種類ある。このうち、7種類が中国発だ。全体の約3分の1を占めることになる。

ただ、中国国内は感染を抑え込めているだけに、治験によるワクチンの有効性を確認する場として、必ずしも適切といえない。治験は、感染可能性のある地域で行う必要があるからだ。このため、最終段階での治験実施地に選ばれたのは、いまだ感染拡大の続く米州や中東だ(図3参照)。康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)はカナダで、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック、2020年6月15日付ビジネス短信参照)はブラジルで、中国医薬集団(シノファーム)はアラブ首長国連邦(UAE)で、それぞれ治験を実施すると発表した。

最初に感染症に直面し迅速にワクチン開発に踏み出した中国と、その後に危機に直面している国・地域。この両者の連携がワクチン開発で実を結ぶのか、今後が注目される。

図3:世界の新型コロナウイルス新規感染者数(地域別)
1月20日~7月6日の世界の地域別感染者数の推移を示す。 1月20日から2月下旬までは、西太平洋が感染者数の大半を占めていた。 3月上旬からは欧州や中東の割合が高まり、3月下旬からは米国の割合も上昇した。 5月中旬からは、米州(米国を除く)でも感染者数が急増している。 欧州では、5月下旬から新規感染者数は2万人を下回る水準を推移している。 東南アジアでは6月下旬から2万人を超える人が多い。 アフリカでも、7月に入り、1万人以上となる日が増えている。 西太平洋では、5月以降、1,000人前後で推移しており、全体に占める比率は1%前後となっている。 世界全体の1日あたりの新規感染者数は、6月上旬から10万人を上回るようになり、7月4日には初めて20万人を超えた。

注1:地域の分類はWHOの発表に基づく。
注2:「その他」は、国際輸送機(クルーズ船など)で確認された感染者を指す。
出所:世界保健機関(WHO)、CEICのデータの発表を基にジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
森 詩織(もり しおり)
2006年4月、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、ジェトロ広島、ジェトロ・大連事務所を経て、2016年9月から現職。