在米日系企業の拠点数は36州で国別首位、全米各地で高いプレゼンス

2020年1月15日

1990年以降、日本から米国への直接投資は堅調に増加しており、2018年の日本の対米投資残高は3年連続で世界3位となった(2019年8月13日付ビジネス短信参照)。また、ジェトロの米国進出日系企業実態調査(2018年度)でも、米国への事業拡大を検討する日系企業の割合は2012年から7年連続で5割を超え、今後も対米投資の増加は続くと見込まれる。米国における日系企業の活動として、米国商務省のデータなどから、拠点数や雇用者数、輸出額、研究・開発(R&D)投資額などの動向をみる。

南東部・中西部・西部地域を中心に雇用創出にも貢献

これまで行われてきた直接投資を通じて、日系企業は幅広い地域で高い存在感を示している。商務省経済分析局(BEA)のデータにより、2017年の州別拠点数を諸外国と比較すると、日本は全50州で上位3カ国に含まれており、36州で国別首位となっている(図1参照)。州別では、カリフォルニア州(516社)、イリノイ州(317社)、テキサス州(308社)などで多い。

図1:2017年の州別の拠点数ランキングで日本が上位3カ国に含まれる州
2017年における州別拠点数ランキングにおいて、日本が上位3カ国に含まれる州の図。日本が拠点数1位の州は36州で、アラバマ、アリゾナ、アーカンソー、カリフォルニア、コロラド、フロリダ、ジョージア、ハワイ、アイダホ、イリノイ、インディアナ、アイオワ、カンザス、ケンタッキー、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガン、ミネソタ、ミシシッピ-、ミズーリ、ネブラスカ、ネバダ、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ニューヨーク、ノースカロライナ、オハイオ、オレゴン、ペンシルバニア、サウスカロライナ、テネシー、テキサス、ユタ、バージニア、ワシントン、ウィスコンシン。2位の州は12州で、コネチカット、デラウェア、ルイジアナ、メイン、モンタナ、ニューメキシコ、ノースダコタ、オクラホマ、ロードアイランド、サウスダコタ、バーモント、ウェストバージニア。3位の州は2州で、アラスカ、ワイオミング。

出所:商務省経済分析局資料を基にジェトロ作成

こうした拠点では、多くの雇用を生み出している。2017年の米国における日系企業の総雇用者数外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは88万5,200人(前年比1万8,700人増、同2.2%増)と、10年連続で英国(122万2,400人)に次ぐ国別2位だ。2011年以降は7年連続で増加し、2017年の外資系企業の総雇用者数の12%を占めている。他のアジア大洋州諸国と比較しても、韓国(5万7,500人)の15.4倍、インド(6万6,900人)の13.2倍、オーストラリア(7万1,800人)の12.3倍、中国(12万2,100人)の7.2倍となっている。

地域別では、南東部(31万8,500人)と中西部(24万7,600人)、西部(19万900人)でプレゼンスが高い(いずれも英国に次ぐ2位)。日本が上位3カ国に含まれる州は全米50州の約半数の23州となり、南東部が9州(テネシー州、ケンタッキー州、アラバマ州、ミシシッピ州など)、中西部が9州(オハイオ州、インディアナ州、カンザス州、ネブラスカ州など)、西部が4州(カリフォルニア州、ハワイ州など)となっている。州別にみると、販売拠点の多いカリフォルニア州(11万8,600人)、製造拠点の多いオハイオ州(6万4,200人)やインディアナ州(5万4,200人)、拠点形態の多様さが特徴のテキサス州(6万500人)などで多く、カリフォルニア州やオハイオ州などでは日本が国別で1位だ(表1参照)。

表1:米国内における日系企業の州別・雇用者数
州名 日系企業の州別雇用者数
(単位:万人)
州ごとにみた
日系企業の順位
カリフォルニア 11.86 1
オハイオ 6.42 1
テキサス 6.05 3
インディアナ 5.42 1
ケンタッキー 4.67 1
テネシー 4.67 1
イリノイ 4.26 2
ニューヨーク 4.10 6
ミシガン 3.45 2
ジョージア 3.14 2

出所:商務省経済分析局資料を基にジェトロ作成

日系製造業の雇用者数は7年連続で増加

日系企業の総雇用者数を業種別にみると、製造業(41万8,700人)が最も多く、2番目の卸売業(27万1,300人)と合わせると全体の8割弱を占める。製造業は2011年以降7年連続で増加しており、2017年の増加幅は1万6,400人となっている。製造業と卸売業に続いて、その他(4万9,900人)を除くと、金融・保険業(4万5,100人)、情報業(4万3,400人)の順だ。

製造業に絞ると、日本は2007年以降11年連続で国別最大となっている(図2参照)。2010年比では12万9,300人の増加(44.7%増)で、同期間の雇用増加分も国別最大だ。米国の製造業雇用者数は同期間に約91万400人(7.9%増)の微増にとどまっており、日系企業の伸びが全体を上回る。ジェトロの米国進出日系企業実態調査(2018年度)によると、2012年以降7年連続で4割以上の企業が前年より現地従業員の新規採用を増やしたと答えており、日系企業は米国の雇用創出にも貢献している。

図2:米国内における製造業企業の国別・総雇用者数
207年から2017年にかけての米国内における製造業企業の国別総雇用者数の推移。日本は2007年以降、11年連続で国別最大となっている。また、2010年から2017年にかけて12万9,300人の増加(44.7%増)した。その他のフランス、ドイツ、オランダ、スイス、イギリスなどは概ね横ばいだった。

出所:商務省経済分析局資料を基にジェトロ作成

自動車工場のある州への投資が目立つ製造業投資

次に、製造業の業種別・州別の投資動向を「フィナンシャル・タイムズ」紙のデータに基づいてみていく。2008~2019年上半期の製造拠点の対米直接投資件数(グリーンフィールド)は、トヨタとホンダ、スバルの工場がある中西部のインディアナ州(118件)が最も投資を集めているほか、テネシー州(73件)やオハイオ州(71件)など、日産やホンダなどの自動車工場がある州への投資が目立つ(表2参照)。製造業の業種別には、自動車部品(269件)、金属(67件)、プラスチック(67件)、化学(55件)、自動車OEM(54件)などが多い。

表2:2008~2019年上半期の日本企業の州別直接投資件数(製造業)
州名 投資件数
インディアナ 118
テネシー 73
オハイオ 71
ケンタッキー 68
アラバマ 45
ジョージア 43
テキサス 42
ノースカロライナ 37
サウスカロライナ 28
ミシガン 26

出所:「フィナンシャル・タイムズ」のデータを基にジェトロ作成

報道発表資料に基づき、2019年1月以降の日系製造業企業によるグリーンフィールド投資の事例をみると、自動車関連は引き続き活発で、それ以外の業種でもさまざまな投資が行われている(表3参照)。

表3:日系製造業企業によるグリーンフィールド投資の事例(2019年1月以降)

自動車関連
企業名 投資発表概要 投資額 発表時期
ダイキョーニシカワ アラバマ州にバンパーやインストルメントパネルなどの大型の樹脂製自動車部品を生産する新工場を建設 1億1,000万ドル 2019年5月
東洋タイヤ ジョージア州のタイヤ製造工場で、ピックアップトラックや大型SUV車両向け大口径タイヤの生産能力増強 70億円 2019年7月
日野自動車 ウェストバージニア州の工場生産設備増強 4,000万ドル 2019年8月
トヨタ紡織 アラバマ州にトヨタ紡織・デルタ工業・東洋シート、合弁会社新会社TOYOTA BOSHOKU AKI USA, LLC設立 6,000万ドル 2019年9月
トヨタ自動車 テキサス州のトラック生産工場であるTMMTXの中長期的な競争力向上を目指し、新しい生産設備の導入など工場を刷新(2021年までの長期対米投資計画130億ドルの一環)。 3億9,100万ドル 2019年9月
帝人 テキサス州の子会社コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックスの軽量複合材料自動車部品の生産工場を新設 7,000万ドル 2019年9月
日本ペイントホールディングス テネシー州に電着塗料などの自動車用塗料を提供できる新しい自動車用塗料生産工場を建設 6,000万ドル 2019年9月
ヒロテック テネシー州に排ガスの浄化やエンジンの消音を担う排気装置の製造工業を建設 4,800万ドル 2019年9月
その他
企業名 投資発表概要 投資額 発表時期
富士フイルム ノースカロライナ州FUJIFILM Diosynth Biotechnologiesのバイオ医薬品の製造設備を増強。 100億円 2019年1月
日清製粉グループ テキサス州の米小麦粉工場に生産ラインを増設、同工場の生産能力を約70%増強 6,760万ドル 2019年4月
大日本住友製薬 カリフォルニア州の子会社のサノビオン・ファーマシューティカルズ・インク傘下に再生・細胞医薬事業のオフィスを開設 未発表 2019年5月
JSR オレゴン州にある子会社JSR Microが最先端半導体向け機能性洗浄剤の製造能力増強を目的とした新工場設立 100億円 2019年7月
クボタ ジョージア州に大型芝刈り機・ユーティリティービークルなどの研究開発拠点を設立 8,500万ドル 2019年7月

出所:各社報道発表資料からジェトロ作成

日系企業による輸出額は国別最大

投資先で生産された財を米国外へ輸出すると、米国GDPの増加にも寄与する。日系企業による米国から海外への財の総輸出額は、2017年時点で952億9,600万ドルと米国の総輸出額の6.2% (GDP比0.5%)を占めており、10年連続で世界1位となっている(図3参照)。日本以外では、英国(422億9,500万ドル)、ドイツ(410億1,200万ドル)などが多い。

図3:米国からの輸出金額の推移(国別)
2007年から2017年にかけての各国の在米企業による米国から海外への財の総輸出額の推移。日本は2007年522億ドルから2017年953億ドルと431億ドル増加した。その他、2007年から2017年にかけて、英国227億ドルから423億ドル、ドイツ423億ドルから410億ドル、オランダ135億ドルから391億ドル、フランス110億ドルから273億ドル、韓国102億ドルから229億ドルとなった。

出所:商務省経済分析局資料を基にジェトロ作成

日系企業による輸出を業種別にみると、卸売業(581億4,000万ドル)、製造業(360億3,800万ドル)が多く、合わせて全体の9割以上だ。製造業の中では、自動車・同部品(169億4,600万ドル)が多く、製造業全体の半分弱を占める。

研究・開発(R&D)投資はG7の中で最大

米国拠点における研究・開発(R&D)投資の実施は、米国産業の生産性向上に寄与する。在米日系企業の研究・開発(R&D)投資額は2017年に88億2,800万ドルと、G7の中で最大となっている(表4参照)。金融危機前の2007年から2.0倍(44億1,200万ドル増加)で、同期間の増加幅もG7の中で最も大きい。

表4:G7参加国による米国内での研究・開発(R&D)投資額
国名 米国内における研究・開発(R&D)
投資額(単位:億ドル)
日本 88.28
英国 88.19
ドイツ 86.24
フランス 54.21
カナダ 10.02
イタリア 1.96

出所:商務省経済分析局資料を基にジェトロ作成

米国に進出する日系企業は、製造業を中心とした長年にわたる対米投資を通じて、拠点数や雇用者数、輸出額、研究・開発(R&D)投資額のいずれも、他国よりも高水準を維持している。この傾向はトランプ政権発足後も大きく変化しておらず、日本企業の変わらぬ対米投資意欲を確認することができる。先進国で唯一安定的に成長を続ける米国経済に対して、日本企業は今後も投資拡大を通じてさまざまな側面から貢献していくと考えられる。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
権田 直(ごんだ ただし)
2004年に内閣府入府。内閣府では、GDP統計、月例経済報告、経済財政白書、経済財政に関する中長期試算の作成のほか、経済財政諮問会議の事務局業務などを担当。2016年12月よりジェトロに出向。現在は、調査レポート執筆や企業への情報提供などを担当。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 調査部
菊池 蕗子(きくち ふきこ)
民間企業勤務を経て2019年から現職。進出日系企業の支援事業に携わり、各種情報提供を行っている。