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日本にイノベーション・エコシステムを作るには
CIC Japan 代表 梅澤高明氏に聞く

2020年10月28日

イノベーションの創出やスタートアップの育成は、日本経済活性化のための重要な課題となっている。これらを促進するための環境、いわゆるイノベーション・エコシステムの形成が日本でも急務だ。そうした中、米国ボストンのエコシステムで中心的役割を果たすケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)が10月1日、東京・虎ノ門に、アジア初の拠点CIC Tokyo外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを開設した(2020年9月23日付ビジネス短信参照)。

起業家や投資家、大企業、行政、学術界などが集まるコミュニティーの形成を通じてスタートアップを支援するCICは、日本をどう見ているのか。CIC Japanの梅澤高明会長に、コミュニティーの拠点として東京(虎ノ門)を選んだ狙いや、日本にエコシステムを作る上での課題、起業家や大企業への期待を聞いた(インタビュー日:2020年9月17日)。


CIC Japan 梅澤高明会長。CIC Tokyo内のイベントスペースで(CIC Japan提供)

行政や大企業とのアクセスを重視

質問:
なぜ東京・虎ノ門を選んだのか。
答え:
東京にしようというのは、CIC創業者ティム・ロウ氏も最初から決めていた。そのこころは、アジアで最初に旗を立てる場所は、スタートアップを軸とするイノベーション活性化という意味で、アジアで最もポテンシャルが高い都市である必要がある。日本なら当然、東京だ。東京の中でなぜ虎ノ門かと言えば、2つ理由がある。まず、虎ノ門は多様なステークホルダー、つまりスタートアップ、大企業、アカデミア(学術界の人)、そして行政から人が集まりやすいこと。われわれは、第4次産業革命時代のイノベーションの核にならねばならないと考えているが、これはスタートアップとベンチャーキャピタル(VC)などの投資家だけで成り立つ世界ではない。行政にも働きかけて色々な規制緩和も獲得しつつ、新しいソリューションを世の中に実装していく必要がある。行政に近い虎ノ門は、その意味で最良のロケーションだ。また、大企業の役割も大きく、大企業が多い丸の内・大手町周辺や都内各地からもアクセスしやすい。
もう1つの理由は、「誰と一緒に街をつくるか」だ。CIC Tokyoは森ビルが開発を主導するエリアにあるが、日本のディベロッパーの中で最もイノベーションへの理解度が高く、かつ、国際的な街づくりの経験があるのが森ビルだった。それで、森ビルと組んで虎ノ門にコミュニティーを作りたいと考えた。

起業の数と幅を増やしたい

質問:
日本にボストンのようなエコシステムを作ることは可能か。実現するためには何が必要か。
答え:
まずは、起業家の数を増やすことが重要だ。そのためにも、CICがやっているように、起業に関心のある人が、そこに行けば、同じように起業を志す仲間や起業家応援団に会える場所を作ることに価値があると思っている。
2つ目に重要なのは、起業の中身についてで、ディープテック(注1)を増やしたい。女性の起業家も増やしたい。外国人の関わるスタートアップも増やしたい。さらに言えば、海外発のスタートアップも引きつけたい。つまり、スタートアップの品ぞろえを広げることが重要だ。従来の日本のスタートアップ・コミュニティーではBtoCのウェブサービスやモバイルサービス、さらに言えば稼ぎ頭がゲームという会社が多い。そうした会社が上場して、時価総額が大きくなるというのが典型的な成功ストーリーだった。この成功ストーリーに別のパターンを増やしていきたい。日本のイノベーション・エンジンを大きくするために、新しい種類のスタートアップが増えるよう応援したい。渋谷のスタートアップ・コミュニティーはモバイルゲームや広告で成功した企業が作った街という色彩が強いが、虎ノ門はある意味「無色」だ。そのため、これから多様なスタートアップが集まるよう働きかけたい。

資金提供側も進化が必要

質問:
ディープテック系のスタートアップを育てるには何が必要か。
答え:
ディープテックを育てようと思うと、VCなどの資金提供側も、今までとは違うタイプの、足の長い、よりハイリスクの、1回当たりの額の多い投資をする必要がある。これまでBtoCサービスのスタートアップへの投資が中心だったVCも、近年増加したコーポレートVC(CVC)も、ディープテックへ投資の姿勢を見せているので、少しずつ環境は整ってきている。日本のスタートアップが世界展開をしようとする場合、海外での成功モデルを移植したBtoCサービスだけでは限界があり、日本発のディープテックを武器にすることも重要だ。そのためにも、CICはディープテックが育つ環境を作りたいと思っている。

ヘルスケアとロボティクスは世界で戦う上で重要なドメイン

質問:
ディープテックに根差すスタートアップが海外で勝てる勝算は。
答え:
勝算はある。特に勝算が高いと思われるのが、広い意味でのヘルスケア・バイオ、そしてメカトロニクスを絡めたロボティクス。この2分野が、日本にとっては世界で戦う上で重要なドメインだ。3つ目を挙げるとすると、ライフスタイルやカルチャー分野も強いと思う。日本の文化的な側面を絡めたスタートアップも、十分に戦い得るだろう。
質問:
海外展開で成功するための課題は何か。
答え:
日本のスタートアップに課題は2つある。1つは、起業時点から世界市場のことを考えておらず、日本での成功を最初のマイルストーンとしている企業がほとんどであること。2つ目は、そもそも世界市場に出て行こうにも、どの市場でどう戦うか、どうチャネルを作るかなど海外展開に要する知見やネットワークが欠けているケースが多いことだ。そう考えると、最初から多国籍の経営チームを持つスタートアップは知見やチャネルへのアクセスがあり、海外展開する場合に話が早い。だからこそ、外国人が関わるスタートアップも支援し増やしたいと思っている。

コロナ禍でも大事にしたいリアルな出会い

質問:
人が集まりコミュニティーを作ることが重要とはいえ、新型コロナウイルス禍で不安やリスクが付きまとう。CICはどのようにこうした不安を解消するのか。
答え:
タッチレス化をできる限り進める。ボストンのCICにおいて、低コストでタッチレス化を進めるための実験を種々行っており、その結果を東京にも生かしたい。当然、政府などのガイドラインを順守し、検温、消毒、収容人数制限などをしっかり行う。ただ一方で、日本社会が過度な萎縮傾向にあることは問題だと思っている。われわれは、リスクを最小化しながら、リモートでは起こり得ない「セレンディピティ」(注2)と、そこから生まれる創発を大事にしていきたい。人と人とが直接集まることがとても大事なので、イベントもリアルとオンラインのハイブリッド形態で進めていきたい。スタートアップ、研究者、投資家、大企業、行政など、さまざまな属性の人同士がいろいろな形で出会うことで、新しいアイデア、プロジェクトが生まれる。そのようなコミュニティーを作るのがCICのミッションだ。

出会いを生むには小部屋から人々を引っ張り出さねば

質問:
他のコワーキングスペースやシェアオフィスと比べたCICの強みは何か。
答え:
物理的にオフィスが集まっているシェアオフィスは、日本にも増えてきた。だが、大事なのは、そこで人々がどう行動するかだ。多くの人が入居していたとしても、マネジメントに失敗すると、ただそこに人が通っているだけ、小部屋にこもっているだけの状態になってしまい、集まっている価値がない。イノベーションを起こす出会いを作るには、小部屋から人々を引っ張り出さねばならない。CICでは、そのための工夫や設計を随所に施している。例えば、外部の起業家や研究者を招いたイベントや、入居者間の出会いを作るイベントを数多く実施している。また、カフェやリラクゼーションスペースなど、施設内の共用スペースの設計も、さまざまなエリアの人が交差・交流しやすいように設計されている。

大企業はスタートアップにリソースの開放を

質問:
大企業や大学には何を期待するか。
答え:
ボストンのエコシステムと東京に作るべきエコシステムとの違いは、東京では大企業の役割が大きいことにある。大企業に期待することの1つは、大企業の中に眠っていて使われていない多くの技術。会社がそれを使う予定がないのなら、社内起業して外に飛び出す社員を後押ししてほしい。イントレプレナー(社内起業家)からスタートするスタートアップには、日本はすごくポテンシャルがある。技術以外にも、大企業の持つ資金、販売チャネル、場合によってはブランドなどのリソースを、スタートアップに使わせてあげてほしい。そうすることで、日本のスタートアップの成長が大きく加速すると思う。大企業は近年、オープンイノベーションを進めているが、多くは欲しい技術やアイデアをスタートアップから取り込んで、自社の事業に生かそうというパターン。その逆のパターン、つまり、スタートアップが欲しいリソースを大企業側から開放してあげることを、是非してほしい。
アカデミアにも期待したい。大学発のスターアップが増えてきているが、まだまだ増える余地がある。研究者自身が経営者になってもよいし、スタートアップ立ち上げに慣れた人が研究者と組んで起業してもよいと思う。どんどん起業して成功し、学生たちにその「背中」を見せてくれると、学生の起業家も増えるだろう。
質問:
日本の大企業は、米国におけるエンジェル投資家(起業家に資金提供する裕福な個人)のような存在になり得るか。
答え:
大企業に投資を期待したいし、資金も十分保有されているとは思う。ただ問題は、大企業になればなるほど意思決定プロセスが複雑化し、例えば10億円規模の投資を即断即決するのが難しいことだ。米国のエンジェル投資家の強みは10億円でもそれ以上でも、その人1人が「ゴー」と言えばできること。大企業が単純に同じ役割をするのは難しいだろう。現段階で大企業に期待したいのは、イントレプレナーを増やすこと、そして外から起業経験のある人をどんどん採用して社内のオープンイノベーション部隊で活躍させること。その2つができると、大企業側もだいぶ変わるのではないか。日本のエコシステムを発展させるうえで、大企業とスタートアップ・コミュニティーとの間で人の流動性を高めることは非常に重要で、国を挙げてやっていかねばならないことだと思っている。

まずは一歩踏み出してほしい

質問:
日本の起業家や起業に関心のある人に期待することは。
答え:
まず、一歩踏み出してほしい。アイデアがあっても、どうしようか何年も悩んでいる人は多いと思う。とにかく、まず踏み出すことだ。最初の一歩を踏み出す先としてCIC Tokyoに来て、色々な人と出会ってアイデアをぶつけてほしい。そこでチームができれば起業すればよいし、スタートアップの成長を後押しするベストの環境はCICが提供する。

注1:
大学や研究機関などで生み出された最先端の研究成果や技術などを指す。また、それらを活用したビジネスモデル。
注2:
予期していなかった偶然によってもたらされる幸運や有益な発見。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課長
藤井 麻理(ふじい まり)
中東アフリカ課、アジア大洋州課、アジア経済研究所、国際ビジネス情報誌『ジェトロセンサー』編集部、国際ビジネス情報番組「世界は今 JETRO Global Eye」ディレクター、在ボストン日本国総領事館勤務(2014年11月~2017年12月)等を経て、2019年2月より現職。

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