日本のスイーツの味をサウジアラビアにも
リヤド市内にオリジナルブランドの店舗が開店

2020年8月28日

サウジアラビアの首都リヤドでは、日本食を代表する「寿司(すし)」の人気が高まりつつある。そのリヤドで、日本の菓子パンやシュークリームなどを販売するカフェ・レストラン「Amai Japanese Bakery」が、2020年2月にオープンした。日本のスイーツのフランチャイズ形式での販売店舗は既に市内にいくつか存在するが、オリジナルブランドを一から立ち上げた点が新しい。外食産業はコロナ禍で打撃を受けたが、サウジアラビア経済を下支えしてきたサービス産業の1つとして、回復が期待される。


Amaiの概観(ジェトロ撮影)

Amai Japanese Bakeryが立地しているのは、リヤド市内の新興商業地区の一角だ。店内をのぞいてみると、抹茶味をはじめとする各種ミニタルトやシュークリームなどのスイーツ、クリームパンなどの菓子パン類が、ショーケースに並べられている。サウジアラビア人のサーレム氏とアブドゥッラー氏が共同オーナーをつとめる。当地のスイーツ類は、たいてい日本人の口には甘みが強すぎる。しかし、同店は 「Japanese Bakery」と看板に掲げていることもあり、どれも甘さが控えめだ。特にクリームパンの生地は、日本のクリームパンやあんパンの食感と風味を彷彿(ほうふつ)とさせる。日本を訪問した際に、日本のスイーツや菓子パンに感銘を受けたオーナーが、「日本の味をサウジアラビアでも」と、試行錯誤を繰り返して作り上げた商品という。


日本風の菓子パンやスイーツが並ぶ(ジェトロ撮影)

オープン自体は2020年2月だった。しかし、3月以降、当地でも新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う外出規制に見舞われた。そのため、同店も、デリバリーやテイクアウトのみでの営業に転じざるを得なかった(注1)。6月21日に政府による行動規制が全面解除されてから、店内での飲食を視野に入れて実店舗での営業再開の準備を進めてきたという。筆者が訪問した8月上旬の巡礼後の犠牲祭(イード)明けの週末の夕方には、店内で飲食を楽しむサウジアラビア人らの姿が見られた。これは、新規感染者数が減少傾向だったことも影響してのことだろう。

新規メニューで差別化を図る

リヤド市内には、日本(または日本風)のスイーツを販売している店舗が少なくとも2店ある。1つは、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイ発のM'OISHÎだ。アイスクリームを餅で包んだ「餅アイスクリーム」を販売する。価格帯は高めだが、中東らしいフレーバーの取りそろえもある。もう1店は、福岡発のUncle Tetsuだ(日本では「てつおじさんの店」として営業)。人気ショッピングモール内に店舗を構え、日本のスフレチーズケーキを販売する。また、現在、市内高級ショッピングモールの中で、日本の生チョコレートを販売する店舗開店準備が進んでいる。

当地で「日本食」といえば、圧倒的に「寿司」の知名度が高い。市内にはカジュアルなものも含めて寿司を提供するレストランが増えつつある。そうした中で、前述の2店は寿司ではなく、日本(または日本風)のスイーツ店として出店した先駆者だ。もっともAmai のオーナーは、「当店は、特定のスイーツ単品の販売ではなく、フードも含めたバラエティーに富んだ日本のメニューを提供している点で新しいと自負している」と語る。フランチャイズではなく、オリジナルのブランドを一から立ち上げた自信が垣間見える。当地では犠牲祭に羊をほふる(ささげる)慣習があることから、イード期間中にはメロンパンを羊に見立てた期間限定商品を展開した。このほか、最近では日本でも流行したふんわりとしたパンケーキや、和牛(注2)を使用したスライダー(ミニバーガー)の提供も始めた。このように、新しいメニューの開発にも取り組んでいる。

サウジアラビアには、一般的に親日家が多い。近年は、観光旅行で日本を訪問するサウジアラビア人旅行者数が増加傾向にあった(図を参照)。この結果、日本で食べたメニューやスイーツに感激し、それらを「ぜひサウジアラビアでも」と、ビジネスを考えるサウジアラビア人も少なくない。しかし実際には、規制、手続き、パートナー確保などの諸事情で、現実に事業が開始されるケースはあまり多くない。その中で、Amaiがフランチャイズではなく、独自のブランドを立ち上げた点は注目される。

図:訪日サウジアラビア人数推移
近年、日本を訪問するサウジアラビア人旅行者の数は増加傾向にある。特に2019年は前年比50.5%増の11173人のサウジアラビア人が訪日した。

出所:日本政府観光局よりジェトロ作成

湾岸諸国内でのカフェ・レストランの進出は、ドバイ(UAE)が先行している。しかし、サウジアラビアでも、食に関して常に新しいものを追い求める傾向がある。外国人を除く人口の67.0%が35歳以下(2018年統計)と若年層が厚いことがその一因だ。欧米で人気の高い飲食店ブランドのフランチャイズ店舗が相次いでオープンしている中、「日本のスイーツ」も外食業界に新たな風を吹き込もうとしている。

投資コンサルティング会社ジャドワ・インベストメントによると、外食産業は、卸売り・小売り、娯楽・レジャー、運輸・交通、ホテル、非石油部門の製造業などとともに、コロナ禍のロックダウンで大きな影響を受けた業種の1つだ。もっとも、デリバリーやテイクアウトなどを通じて営業が完全に断たれたわけではない。すなわち、閉鎖を余儀なくされた他のサービス業態ほどの打撃は免れたと考えられる。2019年のサウジアラビアの分野別実質経済成長率をでは、卸売り・小売り/レストラン・ホテル、交通/保管・倉庫/通信、金融/保険といった非石油部門、サービス業が同国の経済を下支えしていた(表参照)。世界的な原油価格の低迷や石油施設攻撃に伴う原油生産能力低下などが重なり、サウジアラビアで主力の石油・石油化学部門がマイナス成長を記録していたのとは対照的だ。将来的に外食産業が回復し、新型コロナウイルスの感染拡大で縮小した経済活動全般の回復の牽引役となることが期待される。

表:2019年の分野別実質経済成長率(△はマイナス値)
業種 成長率(%)
農業・林業・漁業 1.31
鉱業・採石 △ 3.64
階層レベル2の項目原油・天然ガス △ 3.72
階層レベル2の項目その他 4.77
製造業 △ 1.56
階層レベル2の項目石油精製 △ 3.18
階層レベル2の項目その他 △ 0.88
電気、ガス、水 △ 3.96
建設 4.6
卸売・小売、レストラン・ホテル 6.27
交通、保管・倉庫、通信 5.6
金融、保険、不動産・ビジネスサービス 5.53
階層レベル2の項目不動産 3.4
階層レベル2の項目その他 7.98
地域、社会・個人サービス 6.94
銀行手数料 3.46
小計 0.08
政府サービス 1.51
関税を除く合計 0.28
関税 8.77
実質経済成長率 0.33

出所:総合統計庁からジェトロ作成


注1:
サウジアラビアでは、3月16日にショッピングモールなどの小売店が一時閉鎖された。行動規制、経済活動規制が実施された3月16日から5月28日までの間、飲食店はテイクアウトおよびデリバリーに限定して営業が認められていた。
注2:
日本産和牛の輸入はまだ実現していない。そのため、オーストラリア産が使用されている。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
柴田 美穂(しばた みほ)
2004年、ジェトロ入構。海外調査部(中東アフリカ課)、企画部(中東・アフリカ担当)、農林水産・食品部を経て2018年8月より現職。