世界最大級の自由貿易圏AfCFTAに新たな商機(アフリカ、モロッコ、エジプト、コートジボワール、ナイジェリア、ガーナ)
ジェトロがアフリカ市場開拓セミナー(北部・西部アフリカ編)開催

2020年3月25日

ジェトロは2月27日、在英国日本商工会議所の後援で「アフリカ市場開拓セミナー(北部・西部アフリカ編)」をロンドンで開催した。既に多くの日系企業が進出し、ビジネス深化が期待されるモロッコとエジプト、域内の成長市場であるコートジボワール、ナイジェリア、ガーナについて、ジェトロの事務所長が講演した。

アフリカの人口は2050年に世界の4分の1に達すると予測され、長期にわたる人口増加はアフリカ経済が注目される理由の1つだ。資源ブームが収束した後、経済成長は民間消費と投資が支える構造に変容した。消費の拡大により、域外企業にとってアフリカを輸出市場として捉える見方も強まってきている。デジタル化の進展により社会課題を新たな商機に変える革命的な変化が進行しており、その担い手であるアフリカ・スタートアップへの投資額も年々増加している(2020年2月4日付ビジネス短信参照)。また、域内経済統合に向け、加盟国数では世界最大級の自由貿易協定(FTA)となるアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が発効し、運用開始に期待が集まる。

対アフリカ輸出では、日本のシェア低下が続き、直接投資残高も減少傾向にある。一方で、日系企業のアフリカ進出は増加し続けており、既に進出した企業による域内の異なる国・地域での拠点新設も着実に増加している。日系企業が有望視する分野は消費市場が最多で、次にインフラ、サービス業、デジタル産業と、従来のアフリカ像から大きく変化している状況だ。

フリーゾーンやインフラ開発で成長目指すモロッコとエジプト

モロッコは、国王を元首とする立憲君主国家で、政治、社会は安定している。一方で、都市部と地方の格差、若年層の高い失業率が課題となっており、外資誘致や人材育成、社会政策の改善に力を入れている。アクセス面では、アフリカ54カ国中29カ国、31都市に直行便が就航しており、リージョナル・ハブとしての可能性を秘めている。また、51カ国とFTAを締結しており、米国やEUなどの巨大市場に有利にアクセスすることも可能だ。地理的優位性を利用して輸出産業の育成、外資誘致を図っている。ビジネス環境面では、多数のフリーゾーン、勤勉で優秀な労働力を安価で得られることから、日系企業は製造業を中心に70拠点近く構えている。モロッコは日系企業のアフリカ市場開拓で、ものづくり面のゲートウェイとなり得る。日系企業進出の際の課題としては、税制上の問題、駐在員派遣のコストの高さ、日本人コミュニティーが未発達なことによる駐在員家族の生活の不便さなどが挙げられる。

エジプトは、治安が安定傾向にあり、観光客数も増加し、近年では中国人来訪者が急増しているほか、外貨準備高も順調に回復している。また、国際機関の融資、外国人労働者の送金、スエズ運河通行料などから安定した外貨収入を得ている。新たな外貨獲得源として地中海沖のガス田開発が進んでおり、今後は天然ガス輸出国となる見込みだ。また、政府プロジェクトが旺盛で、新首都計画やスエズ運河経済特区など多数のプロジェクトに注目が集まっている。アラブ産業化機構(AOI)は日本との技術交流に期待しており、都市開発や電子産業、再生可能エネルギー、水処理などの分野が注目されている。ビジネス上の課題としては、ルールの透明性、模倣品対策による輸入規制の強化、汚職などが挙げられる。

西アフリカではエネルギー、スタートアップがチャンス

コートジボワールでは、消費やインフラが成長を牽引し、GDP成長率は7~8%と高い経済成長率を維持している。電力の自給をほぼ達成しつつ近隣諸国へも輸出しており、地域のエネルギーハブとしての側面を持つ。加えて、貿易拠点アビジャンを起点とした周辺国への交通網や、国家開発計画の下で進んでいるインフラ整備など、エネルギーのみならず貿易・物流としてのハブ、西アフリカへのゲートウエーとしての機能も強化している。また、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)と西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)加盟国は2020年までに共通通貨「ECO」の導入を目指しており、共通市場の形成に向け経済統合を促進していく方針だ(2020年1月6日付ビジネス短信参照)。

国内雇用の約66%が農業に従事、輸出額の約6割を農業が担っているが、生産性の低さが課題となっており、政府は農業生産性向上のための投資を推進するなど、生産性向上への需要が高まっている。その他のビジネスチャンスとしては、電力・エネルギー分野、住宅資材・設備、食品加工業、医療機器の供給などが挙げられる。また、2020年10月の大統領選に向けたさらなる政治の安定がカギとなる。

ナイジェリアは、2040年代後半には米国を抜いて世界3位の人口大国になると予測され、国連の人口予測統計では、少なくとも2100年まで人口ボーナス期が続く唯一の国だ。住みやすさや安全面での課題が多く、「ニーズの宝庫」であるナイジェリアはスタートアップにとって魅力的であり、2018年のナイジェリア・スタートアップ投資は件数、金額ともにアフリカ最多との報告もある。また、域内最大の都市であるラゴスにはナイジェリア全国から野心的な人材が集まり、ラゴス大学のあるヤバ地域では、米国帰りのナイジェリア人起業家が中核となって多種多様なイノベーションハブを立ち上げるなど、スタートアップシーン興隆を後押ししている。

ガーナの治安は良好で、政治・社会的にも安定している。経済面でも、財政赤字は縮小傾向にあり、2018年のGDP成長率は6.3%と安定した成長を維持している。政府は自国に生産拠点を設ける外国の自動車メーカーに対して税制優遇措置の導入を予定しておおり、新車の魅力を高めるために中古車の輸入関税を引き上げる計画などもあり、国内での自動車生産を促進していく方針だ。油田開発も進んでおり、石油・ガス生産の拡大が予測されることから、石油化学や肥料製造の可能性が期待されている。その他の有望分野としては、農業・農産品加工、鉱業・鉱物加工、観光などが挙げられ、2019年4月にはグーグルがガーナに人工知能(AI)研究所を設置するなど、情報通信技術(ICT)分野にも注目が集まっている。


質問に回答する西澤成世ジェトロ・ラゴス事務所長(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
近藤 亜美 (こんどう あみ)
2020年、ジェトロ・ロンドン事務所インターンシップ。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
木下 裕之(きのした ひろゆき)
2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2018年3月から現職。