イタリアでの「J-beauty」の可能性について聞く
イタリアの化粧品市場(後編)

2020年10月28日

イタリアの化粧品市場に関するレポート後編。前編では、国内市場の動向と電子商取引(EC)拡大など、昨今みられる特徴について解説した。後編では、そのようなイタリア市場で日本製化粧品(いわゆる「J-Beauty」)がどの程度認知され、どのように受け止められているかを、専門家へのインタビューで探る。

ミラノ市内で2019年10月にオープンし、スキンケア商品を中心とした日本製品を取り扱う店舗warewにて、製品の輸入から店舗運営までを取り仕切るChimarのパートナー、マルコ・ピアチェンティーニ氏に話を聞いた(10月1日)。


質問:
イタリア市場で日本製の化粧品は現在どの程度認識されているか。
答え:
現在のところ、限られたブランドしかイタリアを含む欧州で流通しておらず、日本製の化粧品に対する認知度は低い。製品自体の特徴というよりは、単に市場に出回っている量が少ないことに由来する。
化粧品以外の製品についても同様のことが言えるかもしれないが、日本製品は、質やパフォーマンスが最高レベルでも、ブランディングやマーケティングの面で他国勢に比べて弱い。よって現在は、日本製品に対するコンセプト・認識をまずは確立させていく段階にあると思っている。
質問:
今後、日本製品の認知度やプレゼンスはどのように変わっていくと思うか。
答え:
日本製化粧品は、堅実かつ競争力が高く、世界的に見ても規模の大きい日本の国内市場で磨かれてきた。このこともあり、高い質を兼ね備えていることが武器だ。その質の高さから、日本製品は中長期的にみて、イタリアで展開する上で大きなポテンシャルを持っていると考える。現在は認知度が低いものの、「眠れる巨人(sleeping giant)」と認識している。
質問:
日本製品を購入する層は。
答え:
価格を踏まえると、購買力の観点から基本的には30代以上の層が主になると考えている。20代でも、日本の文化自体に関心を持つ人は購入してくれる。日本製品は、何といっても質の高さが強みだ。将来的にはマスマーケットを狙えるかもしれないが、その質の良さが分かる顧客層をまずはターゲットにすべきだろう。
なお、イタリアのマスマーケットには、韓国コスメは普及している。しかし、現段階で(日本製品は)価格競争をすべきでないと思っている。

店内の様子(ジェトロ撮影)
質問:
イタリアでは自然派化粧品への関心が高まっている。消費者は日本製品にも同様の要素、あるいは特定の認証などを求めると思うか。
答え:
「メード・イン・ジャパン」であること自体が質の高さを示す大切な訴求要素になっており、日本製品が特定の認証などを付加することによって売れ行きに大きな違いが出るかというと、そうとは思えない。自然派をうたっているものはマーケティング要素が強く、一部の消費者は気にかけるが、皆が気にするわけではない。
なお、イタリアの消費者は商品のテクスチャーには意識が高い。この点で日本製品は欧州の製品とうまく違いを生み出せていると思っている。欧州の化粧品市場は既に成熟し、たくさんの製品が出回っている。消費者は「新しさ」を求めているので、このように違いがあることはアドバンテージになると思う。また、消費者は安全性への意識も高いが、この点について、日本製品は信頼性が高いと受け止められているように思う。
質問:
イタリアでは高齢化の影響により、アンチエイジング関連商品の売り上げが拡大しているなどの傾向がみられる。人々の意識について感じる変化はあるか。
答え:
高齢化の影響からか、メークアップ用品よりもスキンケア商品の方が伸びており、重視されるようになってきている。なお、アンチエイジングという概念に少し疲れを感じる人も出てきている。年を取るのは自然なことで、病気のように「治すべき」ものではないからだ。アンチエイジングという言葉のトーンは落ちつつあるものの、スキンケア、つまり「肌を守る」こと自体への関心は高い。特に、紫外線から肌を守ることへの意識は高まり、日焼け止めやSPF関連商品の消費は増えている。この点についても、日本製品が入り込む余地は大きいと思っている。もちろん、まだ一部の人はファッションとして日焼けを楽しんでいる。それにしても、紫外線に当たることが危険なことは認知されてきている。
質問:
新型コロナウイルスの影響で、イタリアでも日常的にマスクを着けたり、以前と比べて外出の機会が減ったりするなど、生活に変化がみられる。化粧品分野では、消費者の意識にどのような変化を与えたと思うか。
答え:
新型コロナウイルスの影響により、セルフケア、特に、家庭におけるケアへの意識が一層高まったように思う。新型コロナウイルスは人々の衛生に対する認識を高めたが、そこから派生して、自分をきれいに保とうという意識が高まり、それがセルフケアの一種であるスキンケアへの関心向上にもつながったと感じている。
なお、新型コロナウイルスにより、化粧品分野でもECは拡大した。感染の収束がしばらくは見通せない中、店舗に入ることにためらいを感じている人もいるので、しばらくこの成長は続いていくものとみている。

イタリアの化粧品市場

  1. 欧州内で強い存在感、高齢化とECが成長のカギ
  2. イタリアでの「J-beauty」の可能性について聞く
執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所
山崎 杏奈(やまざき あんな)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課・途上国ビジネス開発課、ジェトロ金沢を経て、2019年7月より現職。