欧州内で強い存在感、高齢化とECが成長のカギ
イタリアの化粧品市場(前編)

2020年10月28日

化粧品産業は、イタリアの主力産業の1つだ。欧州内でもイタリアは主要な位置を占め、国内市場、輸出ともに近年堅調な伸びを続ける。イタリアで開催される展示会も大きな影響力を持つ。例年ボローニャで開催される化粧品の世界的見本市「コスモプロフ」は、2021年3月に53回目の開催を迎えるが、同展示会は香港や米国のラスベガス、インドのムンバイにも展開。2021年には新たにタイのバンコクでも開催される予定だ(注1)。

本稿「イタリアの化粧品市場」前編では、国内産業の動向と特徴、昨今みられる注目すべきポイントについて取り上げる。

国内市場、輸出は拡大傾向

世界最大規模の化粧品市場を誇る欧州で、イタリアは重要な地位を占めている。欧州の化粧品業界団体Cosmetics Europeの資料によると、欧州におけるイタリアの市場規模はドイツ、フランス、英国に次いで4番目。化粧品の卸売り関連企業数でみると、欧州全体の約2万3,000社のうち、最多の17%がイタリアに集中(2015年時点)、化粧品を製造する中小企業数では、イタリアは828社と、フランス(872社)に次いで2番目に多くなっている。

国内市場をみても、イタリアの化粧品産業はここ数年、堅調に拡大を続けている(図1参照)。化粧品の業界団体COSMETICA ITALIAが2020年6月25日に発表した年間報告書によると、2019年の国内出荷額は前年比2.6%増の70億9,000万ユーロ、輸出も0.8%増の49億1,700万ユーロ、全体で1.5%増のプラス成長となった。5年前の2014年と比較すると、全体生産額は約27%増と2桁成長を遂げている。消費額をみても、2014年の底打ち後、右肩上がりで拡大を続けている(図2参照)。

図1:イタリアの化粧品生産額推移
2013年の国内出荷額は 61億300万ユーロ。 輸出額は31億7600万ユーロ。 合計で92億7900万ユーロ。 2014年の国内出荷額は 61億1600万ユーロ。 輸出額は33億3300万ユーロ。 合計で94億4900万ユーロ。 2015年の国内出荷額は 61億6400万ユーロ。 輸出額は38億700万ユーロ。 合計で99億7100万ユーロ。 2016年の国内出荷額は 62億900万ユーロ。 輸出額は43億900万ユーロ。 合計で105億1800万ユーロ。 2017年の国内出荷額は 65億4400万ユーロ。 輸出額は46億1500万ユーロ。 合計で111億5900万ユーロ。 2018年の国内出荷額は 69億1400万ユーロ。 輸出額は48億7700万ユーロ。 合計で117億9100万ユーロ。 2019年の国内出荷額は 70億9000万ユーロ。 輸出額は49億1700万ユーロ。 合計で120億700万ユーロ。

出所:COSMETICA ITALIAが毎年発表する年間報告書のデータからジェトロ作成

図2:イタリアの化粧品消費額推移
2012年 100億7100万ユーロ。 2013年 99億4700万ユーロ。 2014年 98億4600万ユーロ。 2015年 99億9900万ユーロ。 2016年 100億5700万ユーロ。 2017年 102億1800万ユーロ。 2018年 103億3100万ユーロ。 2019年 105億5800万ユーロ。

出所:COSMETICA ITALIA 年間報告書第52版

輸出も好調

輸出の伸びも堅調な業績を支える要因の1つだ。イタリア国家統計局(ISTAT)のデータによると、イタリアの化粧品輸出額は2008年から2009年にかけていったん下振れしたものの、それ以降は順調に増加。2019年は10年前と比較して、約2.5倍に拡大している(図3参照)。

図3:イタリアの化粧品輸出額推移
2008年 22億7638万9849ユーロ。2008年 22億7638万9849ユーロ。 2009年 20億2668万1053ユーロ。 2010年 23億8936万9191 ユーロ。2011年 26億4859万7469ユーロ。 2012年 28億2493万4371ユーロ。 2013年 31億616万4400ユーロ。 2014年 32億5087万4192ユーロ。 2015年 37億2242万6813ユーロ。 2016年 42億6569万2349ユーロ。 2017年 46億5199万7050ユーロ。 2018年 49億6288万5560ユーロ。 2019年 51億2469万2028 ユーロ。

注:分類番号CE20420(化粧用品:香水、化粧品、せっけんおよびそれらに類するもの)でデータを抽出。2019年は暫定値。
出所:イタリア国家統計局(ISTAT)

また、生産額全体に占める輸出額の割合も増加傾向にあり、2019年の時点で4割超となっている。COSMETICA ITALIAによると、2019年の最大の輸出先はフランス、次いでドイツ、米国が続く。上位10カ国・地域のうち7カ国は欧州諸国だが、3位の米国のほか、6位に香港、10位にアラブ首長国連邦(UAE)が入っている(図4参照)。香港をはじめとするアジア市場への関心も高い。前述したコスモプロフの香港開催は、2021年に25回目を迎える予定だが、同地では2018年、2019年と連続して約100社のイタリア企業が出展した。

図4:2019年イタリアの化粧品主要輸出先
フランス 12.4%。 ドイツ 11.4%。 米国 10.4%。 英国 7.1%。 スペイン 6.0%。 香港 5.0%。 オランダ 3.5%。 ポーランド 3.2%。 ベルギー 2.9%。 アラブ首長国連邦 2.8%。 その他 35.3%。

出所:COSMETICA ITALIA年間報告書を基にジェトロ作成

国内の企業分布に目を向けると、イタリアの化粧品関連企業の多くは北部に集中している。中でも、ミラノを州都とするロンバルディア州に55.5%と、全体の半数以上の企業が集積。次いで、エミリア・ロマーニャ州(州都:ボローニャ)に10.1%、ベネト州(州都:ベネツィア)に7.2%、中部トスカーナ州(州都:フィレンツェ)に5.8%、ピエモンテ州(州都:トリノ)に4.7%と続く。中部に位置するトスカーナ州を除き、北部4州で約8割の企業を抱えていることになる。

なお、ロンバルディア州の企業の集積は、いわゆる生産受託型の企業が多数存在し、同地域で生産システムが確立していることに由来している。実際、生産受託型企業の生産額全体16億ユーロのうち、81.8%が同州に集中する。

化粧品市場でも高齢化の流れを反映

イタリアの化粧品市場の昨今の特徴として挙げられるのが、高齢化の流れをくむ関連商品の成長と、電子商取引(EC)の拡大だ。

イタリアは日本と同様に高齢化が顕著な国の1つだ。日本の総務省統計局によると、2020年の総人口に占める高齢者(65歳以上)人口の割合は、日本が28.1%と世界1位になる。日本に次ぐ2番目が、イタリアの23.3%なのだ(注2)。この社会的な流れを反映してか、2019年はアンチエイジング用・小じわ防止用クリーム消費額が前年比3.4%増だった。フェースケア用商品全体の伸び率2.9%増を超える伸びだ。また、フェースケア用商品全体の消費額約15億1,600万ユーロのうち、アンチエイジング用・小じわ防止用クリームはその約44%に当たる6億6,600万ユーロを占めた。

なお、小じわ防止クリームの消費が順調に伸びている理由の1つとして、Cosmetica Italiaは「anti age」から「no age」へと風潮が変わりつつあることを指摘する。つまり、解決策としてクリームを使い始めるのではなく、予防策として利用し始める傾向が生まれ、これによって消費が拡大したということになる。

ECの急速な普及も、イタリアの化粧品業界における注目すべきポイントの1つだ。Cosmetics Europeのデータによると、2016年の段階で、化粧品やスキンケア、ヘアケア商品をオンラインで購入した顧客の割合は、最も高い英国で32%だったのに対し、イタリアは約半分の17%にとどまっていた。このように、他国と比較してECの利用が低水準だったことは否めない。しかし、近年、加速度的に拡大を続けている。化粧品のEC消費額の推移をみると、2019年は5年前と比較して4倍超の伸びとなった(図5参照)。化粧品は実際の使用感や効果がキーになる商品類だ。それだけに、店舗での試用経験は引き続き一定の意義を持ち続けるとは思われる。とは言え、新型コロナ禍で以前とは異なる行動様式が求められる中、ECが提供するアクセシビリティー(入手可能性)は今後も重要な要素であり続けるものと思われる。

図5:化粧品のEC市場規模の推移
2012年 4500万ユーロ。 2013年 8100万ユーロ。 2014年 1億1700万ユーロ。 2015年 1億9400万ユーロ。 2016年 2億7600万ユーロ。 2017年 3億4000万ユーロ。 2018年 3億9100万ユーロ。 2019年 4億9800万ユーロ。

出所:COSMETICA ITALIA年間報告書を基にジェトロ作成


注1:
2020年のボローニャの「コスモプロフ」は新型コロナウイルスの影響を受けて開催を見合わせ、デジタルイベントを開催している。バンコク開催の「コスモプロフ」も同様に2020年開催の予定が2021年に延期された。
注2:
日本の値は「人口推計」の2020年9月15日の値。イタリアは国連の2020年7月1日時点の推計値。

イタリアの化粧品市場

  1. 欧州内で強い存在感、高齢化とECが成長のカギ
  2. イタリアでの「J-beauty」の可能性について聞く
執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所
山崎 杏奈(やまざき あんな)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課・途上国ビジネス開発課、ジェトロ金沢を経て、2019年7月より現職。