在マレーシア日系企業はほぼ100%操業再開、稼働率や注文回復が課題
新型コロナウイルス対策に関わる緊急アンケート結果
2020年6月12日
マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)とジェトロ・クアラルンプール事務所は5月12~15日、JACTIM会員企業588社を対象に「在マレーシア日系企業の新型コロナウイルス対策に関わる緊急アンケート」を実施した(注)。その結果、在マレーシア日系企業は製造業、非製造業ともに8割以上が操業し、再開の目途が立っている企業を含めるとほぼ100%の企業で操業再開が可能になったことが明らかとなった。再開時期については、ほぼ全ての経済活動の再開が許可された5月4日前後に分けると、製造業では同日以前に約8割が操業を再開していた。非製造業では同日以降の再開が約8割に上った。
フル稼働、国内外からの注文の回復が課題
生産・稼働状況をみると、製造業では通常時に比べて「5割から8割程度の生産状況」の企業が最多で33.8%となった。非製造業では「3割から5割程度の稼働状況」と答えた企業が35.0%と最も多かった。通常どおり、または通常以上の生産状況にあると答えた企業は全体の2割程度にとどまった。

注1:5月末までに再開または再開見込みの企業。製造業は生産状況(生産量)、非製造業は稼働状況(従業員の出勤率)。
注2:未回答の製造業2社、非製造業7社を除く。
出所:JACTIM・ジェトロ「在マレーシア日系企業の新型コロナウイルス対策に関わる 緊急アンケート」
通常時に比べて生産・稼働状況が低い要因として、製造業では、「海外供給先/顧客からの注文量留保・減少」(49.5%)、「国内供給先/顧客からの注文量留保・減少」(48.6%)との回答が多かった。また、約2割が「国内サプライヤーからの製品・部品・原材料などの納品遅延」を要因として挙げており、特に自動車部品や電子部品などの業種で影響を受けている企業が一定数みられる。非製造業では、「操業再開に際して政府が定めた標準手順書(SOP)の条件を満たすにあたっての制約があるため」を挙げた企業が54.9%と最多となった。

注1:生産/稼働規模が通常より小さいと回答した企業。
注2:未回答の製造業2社、非製造業3社を除く。
出所:JACTIM・ジェトロ「在マレーシア日系企業の 新型コロナウイルス対策に関わる 緊急アンケート」
オンライン販売やデジタル設備導入などで対応する企業も
生産・稼働状況が通常より低い要因への対策としては、製造業、非製造業ともに「稼働率の抑制あるいは向上」「在庫調整」による対応が最も多かった。他方、「自動化・省人化のための設備・システムの導入」「供給方法の変更(オンライン販売の開始、デリバリーサービスの利用など)」「生産管理/運営管理におけるデジタル技術の導入」など、今後のニューノーマル(新常態)への対応を見越した新たな事業体制を検討する企業もそれぞれ1~2割程度いるようだ。オンライン化やデジタル技術を取り入れる企業の比率に関しては、非製造業の方が高い傾向にある。

注1:生産/稼働規模が通常より小さいと回答した企業。
注2:未回答の製造業6社、非製造業14社を除く。
出所:JACTIM・ジェトロ「在マレーシア日系企業の 新型コロナウイルス対策に関わる 緊急アンケート」
約6割が資金繰り難による影響あり
資金繰り難による影響では、全体の約4割の企業が「運転資金(留保資金)の切り崩し」を行っていると回答した。次いで、「供給先からの支払い(入金)延期」「サプライヤーへの支払い遅延」が続き、各種支払いの滞りが起きていることが浮き彫りになった。

注1:「資金繰り難には陥っていない」と回答した企業は同選択肢のみ回答した企業数。
注2:未回答の非製造業2社を除く。
出所:JACTIM・ジェトロ「在マレーシア日系企業の 新型コロナウイルス対策に関わる 緊急アンケート」
資金繰り難への対策としては、製造業、非製造業ともに「親会社からの支援」や「マレーシア政府の支援策の利用」が多かった。マレーシア政府の支援策で最も利用率が高かったのは、一定の条件を満たした企業に対して従業員の賃金の一部を3カ月間助成する賃金助成制度だった。財務省の5月19日の発表によると、同制度の給付状況は5月17日時点で約22億リンギ(約550億円、1リンギ=約25円)に上り、全体予算の138億リンギに対して、執行率は約16%となっている(2020年4月21日付ビジネス短信参照)。

注1:「資金繰り難には陥っていない」と回答した企業以外を対象。
注2:未回答の非製造業2社を除く。
出所:JACTIM・ジェトロ「在マレーシア日系企業の 新型コロナウイルス対策に関わる 緊急アンケート」
今後の投資方向性は現状維持が最多
今後1~2年の投資の方向性については、「現状維持」とする企業が、製造業で58.0%、非製造業で70.6%と最多だった。次いで、「拡張(純粋増設、新規ビジネス開発など)」と回答した企業の割合が高く、製造業で15.2%、非製造業で17.4%となった。製造業では食料品、医療関連、電子部品、非製造業では物流やメンテナンスの分野で拡張を検討する企業がみられた。
撤退と答えた企業は製造業、非製造業ともに5%未満だったが、縮小と答えた企業はマレーシアからの部分的な移管も含めると2割程度となり、非製造業に比べて製造業の方が、比率が高かった。

注:未回答の非製造業1社を除く。
出所:JACTIM・ジェトロ「在マレーシア日系企業の 新型コロナウイルス対策に関わる 緊急アンケート」
現状維持や拡張と答えた企業の多くは新型コロナウイルスの影響が発生する以前から方針を決定していたようだが、縮小に関しては、新型コロナウイルスの影響を受けて検討、加速するケースが製造業で80%、非製造業で100%となった。
約3分の1がマレーシア政府の支援策を利用
マレーシア政府または日本政府の支援策の利用状況を見ると、マレーシア政府の支援策については、32.9%が「すでに利用している」と答え、37.0%が「利用を検討している」と回答し、そのほとんどが上述の賃金助成制度だった。マレーシア政府の支援策の中でも、日系企業を含めた外資系企業が利用できる数少ない支援策であることが理由だと思われる。
一方、日本政府の支援策については、「利用の予定はない」と答えた企業が52.3%と最多だった。背景には「在外企業が直接利用できる支援策がほとんどない」という現状があるとみられ、自由回答では在外日系企業を対象とした支援策を求める回答が目立った。

注:それぞれ未回答の企業を除く。
出所:JACTIM・ジェトロ「在マレーシア日系企業の 新型コロナウイルス対策に関わる 緊急アンケート」
支援策拡充、税制の緩和を求める声
日系企業からマレーシア政府への要望として、製造業、非製造業ともに「従業員への賃金助成制度の拡充」「税制上の緩和措置(法人税削減、サービス税上の規制緩和など)」「感染検査以外のガイドライン(SOP)や通達で定められているルールの緩和・明確化」が上位に挙がった。また、移動制限令中に各省庁が発信する通達やガイドラインなどがマレー語のみだったり、発信される媒体が統一されてなかったりと、包括的な情報を入手することが難しかったことから、英語による同時の情報発信、媒体の統一化などの要望も多かった。

注:未回答の非製造業1社を除く。
出所:JACTIM・ジェトロ「在マレーシア日系企業の 新型コロナウイルス対策に関わる 緊急アンケート」
加えて、外国人の入国制限が3月18日以降続いていることから、一時帰国などでマレーシア国外に滞在している駐在員や帯同家族の早期入国再開への要望も多い。 (注)本アンケートは、回答企業248社(うち、製造業138社、非製造業110社)で、回答率は42.2%だった。調査結果の詳細はジェトロの「在マレーシア日系企業の新型コロナウイルス対策に関わる緊急アンケート(1,008.01KB) 」(2020年5月)で閲覧できる。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり) - 2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。