日用品トレンドにも広がるサステナビリティ(持続可能性)、消費者のニーズも高まる(ドイツ)
アンビエンテ、新型コロナ感染拡大で来場者減も活発な商談

2020年5月11日

世界最大級の消費財見本市アンビエンテ(Ambiente)が2月7~11日、ドイツ・フランクフルトで開催された(2020年1月28日付ビジネス短信参照)。折しも、新型コロナウイルスの中国やアジアでの感染拡大が大きく報じられる中での開催となった。ジェトロは2019年に引き続きジャパンパビリオンを設置し(2019年4月4日付地域・分析レポート参照)、日本デザインをアピールした。アンビエンテ2020の結果とトレンド、そして2021年の見通しを紹介する。

新型コロナウイルスと大型ハリケーンに影響されたアンビエンテ2020

アンビエンテ2020は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で開催中止も検討されたが、予定通り2月7日から2月11日までの5日間にわたり開催された。会場入り口の消毒液設置、清掃の徹底や医療チームの配置など、感染予防策を強化しての開催となった。出展者数は93カ国4,635社(2019年は92カ国、4,460社)と、前年より増加した。他方で、訪問者数は158カ国から10万8,000人(2019年は167カ国、13万6,081人)と2割減になった。これは、新型コロナウイルスの感染予防対策としてドイツや欧州の企業が出張制限を課していたこと、バイヤーが休日を利用して視察する2月9日の日曜日に欧州が大型ハリケーンに見舞われ航空および鉄道が運休になるなど、天候の影響を受けたこと、が主な要因とみられる。しかし、メッセフランクフルトのデトレフ・ブラウン執行役員によると、見本市の訪問者の満足度は前年と同じ95%を維持、「来場者は前向きな姿勢で注文にも熱心だった」という。海外からの来場者が62%を占め、国別には中国が減少する一方で、エストニア、日本、ヨルダン、コロンビア、ルーマニア、トルコからは増加した。

ジャパンパビリオンにはバイヤー招聘の企業も来場

ジェトロは、ホール1.1(ホールテーマ:キッチン・トレンド)とホール4.0(ホールテーマ:テーブル・コンテンポラリー・デザイン)で日本企業10社によるジャパンパビリオンを構成した。日本商品の取り扱い拡大を狙い前年にジェトロが金沢に招聘(しょうへい)したバイヤーもパビリオンを訪れ、日本製品のラインアップを熱心に視察した。同バイヤーは30年以上、ドイツ北部のハンブルクで茶器をはじめとする日本のデザイン雑貨店を営んでいて、常に新しい商品を探しているという。


茶器のバイヤーと商談するジャパンパビリオン出展企業(ジェトロ撮影)

2020年日用品デザインのトレンド

ドイツのトレンドスタジオ、スティルビュロー・ボラ・ヘルケ・パルミザーノ(Stilbüro bora.herke.palmisano)は毎年、アンビエンテでデザインのトレンドを3つに絞り紹介している。2020年の3つのトレンドは、「精密+建築」「シェイプ+ソフトニング」と「芸術性+多様性」。「精密+建築」の重要なポイントは、精密さ、不朽、洗練といった要素にある。建築から着想を得たアプローチで、さびやセメントのような色調と、金属、ガラス、鋼、黒ずんだ木材などの強い素材、さらにコードや革などの厚手の生地を組み合わせる。デザインは、エレガントで落ち着いた雰囲気が強調される。「シェイプ+ソフトニング」は、繊細さ、明るさ、感覚、柔らかさなどをキーワードに、白やグレー、落ち着きのあるナチュラルなウッドカラーを基調とした色調でまとめられている。滑らかさやテクスチャー感のある手触りの磁器、ガラスや布を素材として利用し、日常使いに適したシンプルなデザインが特徴だ。最後のトレンド「芸術性+多様性」は、型破りなデザインや、新しい素材や生産方法を試し実験的な遊びの要素が盛り込まれている。明るい青、蜂蜜色、オレンジ色やベリー色などの鮮やかな色調と、活気に満ちた芸術的なデザインが組み合わされる。


デザイントレンド「精密+建築」のショーケースに展示された
ジャパンパビリオン出展企業のフライパンやカトラリー(ジェトロ撮影)

エシカルスタイルが潮流に

アンビエンテ2020のテーマは「エシカル(倫理的)スタイル」だった。商品をリサイクルできるか、生産者が社会的倫理的な基準を満たした製品づくりをしているか、といった観点への消費者の関心が高まり、年々拡大する潮流となっている。企業の社会的責任(CSR)に基づく商品や、製造過程からリサイクルに至るまでの商品サイクルに責任を持つという企業倫理(ethics)の下でデザインされた商品を流通させることがサステナブル(持続可能)な社会実現のためには重要とし、そうした商品を主催者が選定する「エシカルスタイルガイド2020」を発行し、ブースにもラベルを掲示できる取り組みを行っている。環境にやさしい素材、資源を大事に使う製法、公正かつ社会的責任を全うした製品、リサイクル・アップサイクル製品、手工芸品、サステイナブル・イノベーションの6分野で、審査に通過した商品がガイドブック掲載やブースにエシカルスタイルのマーク掲示ができる。ジャパンパビリオン出展企業からも、2社が選定された。

サステナビリティ対応は欧州市場参入の必須条件となるか

会場には、サステナビリティを強調した出展企業がどのホールでも目に留まる。ドイツのプラスチック台所用品メーカーのコジオル(Koziol)は、1年以上にわたり開発に取り組んできた生分解性のプラスチックを利用した製品を展示した。同じくドイツのキッチンウエアメーカーのマグ(Magu)も、合成樹脂30%、竹繊維70%で組成するプラスチック製品を発表。イタリアの老舗日用品メーカーのグッチーニ(Guzzini)は、使用済みペットボトルを材料とするリサイクル可能な食器やカトラリーの新ラインを紹介した。

サステナビリティを考慮した商品開発は、これまでセールスポイントとして機能してきた。しかし、世界的な気候変動と環境問題への意識の高まりにより、ドイツや欧州に市場参入するにあたり、サステイビリティへの対応は消費者がますます重視する要素になると見込まれる。


木材と繊細な布を使いエシカルスタイルを表現したジャパンパビリオン(ジェトロ撮影)

アンビエンテ2021の出展スペース申し込みは好調

メッセフランクフルトの4月8日の発表によると、新型コロナウイルスの感染拡大により消費財業界は厳しい状況に立たされているものの、2021年2月19日から23日にかけて開催予定のアンビエンテ2021は、90%のスペースが埋まっているという。これについて対面コミュニケーションの必要性が引き続き高い証左だとみている。2020年の会期は、コロナウイルス感染拡大に伴う移動の自粛が企業で開始された時期だった。にもかかわらず活発な商談が行われたことからしても、アンビエンテは消費財業界のホットスポットであり、展望は明るいと予測している。

執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所
ヴェンケ・リンダート
2017年より、ジェトロ・ベルリン事務所に勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所
中村 容子(なかむら ようこ)
2015年、ジェトロ入構。対日投資部外国企業支援課を経て現職。