観光分野を直撃、新型コロナウイルスの感染拡大(シンガポール)

2020年3月4日

観光分野を直撃、新型コロナウイルスの感染拡大

新型コロナウイルスの感染拡大により、シンガポールで現在、最も直接的な影響を受けているのが観光関連の分野だ。2019年まで4年連続で過去最高を更新していた外国人来訪者は、2020年には一転、2ケタ減となると見込まれている。感染警戒レベルが2月7日から引き上げられたの受け、同国で開催を予定している大型展示会や国際会議も続々と中止や延期となった。今回の感染拡大の影響は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の時よりも深刻なものになるとの懸念が高まっている。

外国人来訪者、2020年は前年比20~30%と大幅減へ

シンガポール観光庁(STB)の発表(2月11日)によると、同国を2019年に訪れた外国人(ビジネス目的を含む)は前年比3.3%増の1,911万人と、4年連続で過去最高を更新した(図参照)。しかし、同庁は2020年については、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で前年比20~30%も大幅に減少すると見込んでいる。

図:シンガポールの外国人来訪者の推移 (単位:人、前年比〔%〕)
シンガポール観光庁(STB)の発表(2月11日)によると、同国を2019年に訪れた外国人来訪者は前年比3.3%増の1,911万人と、4年連続で過去最高を更新した。しかし、同庁は2020年については、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で外国人来訪者が前年比20~30%大幅に減少すると見込んでいる。

出所:シンガポール(STB)データからジェトロ作成

同国を訪れる外国人は2017年以来、国別で中国が最も多い。中国からの来訪者は2019年に前年比6.1%増の362万6,700人と、シンガポールへの来訪者の19%を占めた。しかし、2月から中国からの来訪者が制限されるだけでなく(注)、一部の国・地域はシンガポールへの渡航延期を勧告するなど、同国を訪れる外国人は急速に減少している。

大型展示会は続々と延期、航空便は運休、ホテルの稼働率も急低下

こうした新型コロナウイルス感染拡大への懸念が広まる中、2月11~14日に予定通り開催された「シンガポール・エアショー2020」では、約70社が参加を見送った。このショーは隔年開催のアジアで最大の航空ショーで、前回2018年のショーでは航空業界や軍事関係者ら約5万4,000人が参加した。主催するエクスペリア社の2月14日の発表によると、2020年の業界関係者の参加は約3万人と例年を大きく下回った。


「シンガポール・エアショー」の3日目、出展企業の取りやめにより、
展示会場の人影もまばら(ジェトロ撮影)

国際会議協会(ICCA)によると、2018年の国際会議・展示会(MICE)の都市別の開催件数でシンガポールは世界第8位と、アジアでは最も多いMICEの一大ハブだ。しかし、2月に入り、イベントの中止や延期の動きが相次いでいる。同国で隔年開催されているアジア最大級の飲食国際展示会「フード・アンド・ホテル・アジア2020」が延期となったほか、フィンテック分野の大型イベント「マネー20/20」や、旅行博「シンガポール旅行代理店協会(NATAS)トラベルフェア」も、それぞれ延期を決めている(中止・延期の主な大型イベントは表の通り)。

表:新型コロナウイルス感染拡大を理由に中止・延期となった主な大型イベント
イベント名 当初の開催予定日 中止・延期
ブルームバーグ・サステーナブル・ビジネスサミット・シンガポール 2月12日 中止
ケアハブ2020(CAREHAB2020、ヘルスケア) 2月14~15日 7月10~11日
シンガポール旅行代理店協会(NATAS)トラベルフェア 2月21~23日 5月1~3日
PEREアジア・サミット (不動産) 3月3~5日 6月17~18日
ITショー2020 3月12~15日 延期(開催日は後日発表)
マネー20/20・アジア(Money 20/20 Asia) 3月24~26日 8月25~27日
フード・アンド・ホテル・アジア(FHA) ホテル (FHA-HoReCa) 3月3~6日 7月13~16日
フード・アンド・ホテル・アジア(FHA) 食品・飲料 3月31~4月3日 2021年3月2~5日

出所:イベント・ホームページ、地元紙からジェトロ作成

外国人がシンガポールへの渡航を取りやめているのを受け、国内のホテルの稼働率も落ち込んでいる。「ストレーツ・タイムズ」紙(2月17日付)によると、1月の中国の春節(正月)直前に100%近くあった稼働率は、2月9日の週には平均で50%を下回った。また、航空各社も旅行客の減少を受け、運航を縮小している。シンガポール航空(SIA)は2月18日、同社と子会社のシルクエアが2~5月にかけて、米国や欧州、日本、韓国、東南アジアなどの航空便合計688便を運休すると発表した。

2003年のSARS流行時よりも観光分野の打撃は深刻となる可能性も

ヘン・スイキャット副首相兼財務相は2月18日、2020年度政府予算案(2020年4月~2021年3月)の中で、総額64億シンガポール・ドル(約4,992億円、Sドル、1Sドル=約78円)の新型コロナウイルス感染拡大に伴う法人・個人向け支援パッケージを発表した。この中でも、最も直接的な影響を受けている観光や航空、小売り、飲食、輸送部門への支援が最も手厚いものになっている。発表によると、観光分野への支援として、金融機関と共同でつなぎ融資(上限100万Sドル、金利の上限5%、政府保証8割)を1年間実施。また、ホテルやサービスアパート、国際会議場への支援として、2020年に30%の不動産税の軽減(リベート)のほか、クルーズ船のターミナルには15%。カジノ付設型統合リゾート(IR)には10%の不動産税を軽減する。さらに、航空会社への支援として、チャンギ空港の着陸料、停留料のリベートなどを行う。

貿易産業省(MTI)は2月17日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で経済の先行き不透明感が深まる中、2020年のGDP成長率予測を「前年比0.5%減~1.5%増」へと下方修正した。しかし、政府は景気が予測よりもさらに落ち込む可能性にも言及している。同国ではSARSが流行した2003年には外国人来訪者は前年比19%減少したが、終息後は来訪者数がV字型の回復を遂げていた。シンガポール観光庁(STB)のキース・タン長官は2月11日、今回の新型コロナウイルスの影響が「少なくともSARSの時と同程度、またはさらに深刻なものになる」との見通しを示した(「ビジネス・タイムズ」紙2020年2月12日付)。


注:
シンガポール政府は新型コロナウイルスの感染拡大防止を図るために、2月1日午後11時59分から、過去14日間に中国に渡航歴のある人について、国籍を問わずに入国を停止。同月7日から、感染病警戒レベル(DORSCON)を4段階で上から2番目(オレンジ)に引き上げた。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。