ドイツ自動車メーカー、中国EV関連市場で事業拡大の動き

2020年10月12日

新型コロナウイルス禍による世界的な景気低迷の中、いち早く苦境から脱しつつある中国の巨大消費市場に熱いまなざしが注がれている。米国ブルムバーグニュース(2020年9月25日付)は、「世界の自動車産業は、中国市場頼み(中国の回復に期待を寄せる)」と題する記事(注1)を掲載。欧米市場がコロナ禍に苦しみ続ける今日、世界の自動車メーカーが中国を従来に増して注目するとともに、「自動車需要がコロナ禍から回復した中国は、自動車メーカーにとって唯一の避難先(safe harbor)である。中国は今後数年間、明確な成長潜在力を提示している」(在上海の市場産業調査会社幹部)、としている。

本稿では、以下に中国の電気自動車(EV)関連市場で積極的な動きをみせるドイツ自動車メーカーの最近の動向について概説する(表参照)。

BMV、中国でのEV用電池生産を倍増

BMWと中国国有自動車メーカー華晨汽車との合弁会社(華晨宝馬汽車)は9月14日、(中国で今後生産される)全てのBMW・EV用の第5世代バッテリー(電池)パックを生産する準備が整った旨、発表した。同合弁会社は遼寧省瀋陽に「高電圧バッテリーセンター」と呼ばれる電池工場を有しており、この度、以前の2倍の車載用電池を生産できるようになった。

BMW関連のオンラインマガジン記事(注2)では、「当社の高電圧バッテリーセンターの拡張は、瀋陽、遼寧省、中国東北部への投資を継続するという我々のコミットメントの具体的な証拠である。 また、電気自動車「BMW iX3」の販売開始に際し、持続可能なモビリティ(移動手段)で主導的な役割を果たすという私たちの決意も示している」(華晨宝馬汽車のヨハンウィーランド社長)、「中国はBMWグループにとって、市場としても、生産や革新の場としても、極めて重要。 我々の投資は、長期にわたる中国と瀋陽への強いコミットメントを強調している。投資は進行中であり、工場拡張プロジェクトは順調に進んでいる。我々は将来の成長に備え、この新しいバッテリーセンターにより、中国における地場電池生産の容量が2倍以上になる」(BMW関係者)といったコメントが紹介されている。

VW、アウディも中国市場を重視

また、フォルクスワーゲン(VW)も9月28日、2020年から2024年の間に、世界最大のEV市場である中国でのEV生産に約150億ユーロ(約174億4,000万ドル)を投資する計画を発表(注3)。VWと、第一汽車、上海汽車、安徽江淮汽車(JAC)との3つの合弁会社による投資により、2025年までに中国で15車種のバッテリー交換式EVまたはプラグインハイブリッド車を製造する予定である。 加えて、ロイター通信(フランクフルト電)は9月26日付のドイツ誌「Automobilwoche」の報道として、VW傘下のアウディが、第一汽車と、中国でEV生産のための第2の合弁会社設立の協議をしている模様、としている(注4)。

なお、ダイムラー傘下のメルセデス・ベンツも、中国企業との戦略的連携を進めている。同社は7月3日、中国バッテリーセル(車載電池)メーカーである孚能科技(ファラシス・エナジー)の株式を取得し、自社EV用のバッテリー確保に取り組む、としている(注5)。

中国国内では、2019年3月下旬に公布・施行された新エネルギー車への政府補助金基準の引き上げ(2019年4月5日付ビジネス短信参照)などにより、地場EVメーカーの淘汰(とうた)が進められ、真に競争力を持ったEVメーカー育成に取り組もうとする動きが見られた(注6)。上記ドイツ自動車メーカーをはじめ、優れた技術を有する外国企業の中国での事業活動拡大とともに、中国EV産業のさらなる発展が予見される。

表:独自動車メーカーによる最近の中国電気自動車(EV)関連での主な動き
企業名 概要
BMW BMWと華晨汽車との合弁会社・華晨宝馬汽車は、(中国で今後生産される)全てのBMW・EV用第5世代バッテリーパックの生産体制を整備。
フォルクスワーゲン(VW) 2020年から2024年の間に、世界最大のEV市場である中国でのEV生産に約150億ユーロ(174億4,000万ドル)を投資する計画。
アウディ 中国でEV生産のための第二の合弁会社設立について第一汽車と協議中、との報道あり。
メルセデス・ベンツ 中国バッテリーセル(車載電池)メーカーである孚能科技の株式を取得。

出所:企業・マスコミ報道からジェトロ作成


注1:
Bloomberg News, “The World’s Car Industry Pins Its Hopes on China’s Recovery”, September 25, 2020
注2:
BMWBLOG ,”BMW kicks off fifth-gen battery production, doubles capacity in China”, September 14, 2020
注3:
The Reuters, “Volkswagen, Chinese ventures to invest 15 billion euros in electric vehicles”, September 28, 2020
注4:
The Reuters, ”Audi Considering Electric Car Venture With China's FAW: Automobilwoche”, September 26, 2020
注5:
日本経済新聞、2020年7月3日付、「独メルセデス・ベンツ、中国の車載電池中堅に 3%出資」
注6:
新エネルギー車への政府補助金に関しては、当初は2020年に終了予定であったが、2022年まで延期されている。詳細はジェトロ・ビジネス短信(2020年4月30日付)「新エネ車補助金は2022年まで延長、FCV支援はサプライチェーン構築に軸足を移す」参照。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部上席主任調査研究員
川田 敦相(かわだ あつすけ)
1988年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、シンガポール、バンコク、ハノイ事務所などに勤務、海外調査部長を経て2019年4月から現職。主要著書として「シンガポールの挑戦」(ジェトロ、1997年)、「メコン広域経済圏」(勁草書房、2011年)、「ASEANの新輸出大国ベトナム」(共著)(文眞堂、2018年)など。