生鮮EC市場の発展と今後の課題(中国)

2020年6月29日

中国の生鮮ECは、易果生鮮など生鮮専門のECプラットフォームが2005年からサービスを開始したといわれる。2012年以前はこうした生鮮専門のECプラットフォームがほとんどだった。2012年以降、京東やアリババなどの総合ECプラットフォームが生鮮分野のビジネスに参入を始めた。結果、総合ECプラットフォームの参入で美味七七などの生鮮ECを専門的に扱うEC企業が淘汰(とうた)され、総合ECプラットフォームによって物流のインフラ施設への投資が盛んに行われたことで、生鮮ECのサプライチェーンが整備された。こうして、中国の生鮮ECはオンラインとオフラインを融合した新たな小売りスタイルとなり、注目を集めることになった。

インターネット産業関連のシンクタンクであるiResearch(艾瑞諮詢)によると、中国の生鮮EC市場の2018年の市場取引額は2,045億元(約3兆675億円、1元=約15円)を突破し、2022年には7,000億元を超える(図1参照)。

図1:中国の生鮮EC市場規模と伸び率の推移
中国生鮮EC市場取引額は2013年の127億元、2014年の275億元、2015年の487億元、2016年の889億元、2017年の1308億元、2018年の2045億元という増加傾向で、年々に成長していた。 また、2019年から2022年までの見込み取引額がそれぞれ、2888億元、4040億7000万元、5508億7000万元、7054億元2000元になると予測されている。 一方、2013年~2017年の成長率がそれぞれ2014年の116.7%、2015年の81.1%、2016年の78.9%、2017年の47.1%となり、年々低下傾向にあるが、2018年は56.3%という小幅な増加傾向があった。また、見込みとして、2019年~2022年の成長率はそれぞれ41.2%、39.9%、36.3%、28.1%となっている。

出所:iResearch(艾瑞諮詢)の資料を基に作成

総合ECプラットフォームの参入で生鮮ECビジネスは急速な発展期に入り、「二超-多強-小衆」という局面を迎えた。二超とは京東系とアリババ系のような2大総合ECプラットフォーム、多強とは比較的強い競争力を有する毎日優鮮(注)のような生鮮専業のEC企業、小衆は成長過程にある特色を持つ生鮮ECプラットフォームを指す。

前瞻産業研究院のデータによると、2019年12月時点で中国における使用頻度の高い生鮮ECプラットフォームは多点DMALL(京東系、アリババ系と異なる独立系)、盒馬鮮生(フーマー、アリババ系)、毎日優鮮、叮トン買菜の順となった(詳細は図2参照)。

図2:中国の生鮮ECプラットフォームのユーザー利用数(2019年12月)
一番使われたのは「多点」で、一か月に約1,492万人が利用した。「多点」に次ぐのが「フーマー」である。約1,373万人、3位は「毎日優鮮」の886万人、4位は「叮トン買菜」703万人、次に「朴朴超市」の147万人、「百果園」の133.6万人、「永輝生活」の133万人、「美莱商城」の103万人の順となった。

出所:前瞻産業研究院のデータを基に作成

新型コロナウイルスで利用者が急増

生鮮EC市場は順調に拡大しているが、新型コロナウイルスの感染拡大により、さらに注目されるようになった。中国の民間コンサルティング会社である比達のデータによると、2020年第1四半期(1~3月)の生鮮EC市場の取引総額は744億5,000万元に達し、2019年第4四半期(10~12月)と比べ9.4%増となった。また、上海市に関していえば、第1四半期の取引総額が前年同期の2.7倍の88億元となり、取引件数も80%増となった。

利用者の増加に伴い、ECプラットフォームに出店する企業も急増した。京東系の総合ECプラットフォーム「京東到家」における生鮮品のラインナップは前年の3倍以上、1月27日~2月13日の期間中、京東到家の販売額は前年同期の5.5倍になった。

コスト、品質管理、物流などの問題も顕在

中国電子商務研究センターが2017年に発表したデータでは、全国4,000社の生鮮EC企業の中で、黒字企業の割合は1%に過ぎず、赤字企業が88%に上る。巨額の損失を出している企業も多く、生鮮ECビジネスが発展する上で幾つかの問題点が存在している。

中国社会科学院財経戦略研究院インターネット経済研究室の李勇堅主任は、コストと品質管理、サプライチェーンの管理を生鮮ECの固有の問題点としている。

まず、コストについて、一般的に生鮮ECの客単価は低く配送料は高い。李勇堅主任によると、2019年上半期の生鮮ECの顧客平均単価は38.2元で、中国EC平均単価の150元に比べて相対的に低い。また、生鮮商品を生産する農家は加工や包装、物流面でECに十分に対応できていない。そのため、ECプラットフォームは生鮮製品を販売する際に、通常多くのコストをかけることになる。

次に、品質管理について、現在、生鮮ECの品質管理は不十分だ。購入した商品の品質や見た目がイメージしたものと異なるケースが多いが、商品が生鮮食品であることから、消費者は簡単に返品することができない。一般的に、中国の大手ECプラットフォームで販売されている生鮮食品以外の商品は、理由を問わず購入後7日以内の返品ができる。しかし、生鮮食品は、鮮度の問題からこうした返品ルールを設けることができない。

また、サプライチェーンについて、生鮮ECのプラットフォームでは、サプライチェーンを管理するのが難しい。例えば、生鮮食品の生産過程に投与された農薬などが最終商品の品質に影響を及ぼすことがあるが、ECプラットフォームは生産過程の全てをモニタリングすることができない。それに加え、生鮮ECは鮮度が重視されることから、物流企業に対する技術要求が高い。現在、一部の大手EC プラットフォームを除き、冷蔵の運送技術や物流システムを完備している物流企業は少ない。特に、交通渋滞や交通制限などが発生した場合、短時間で配送できず、商品が傷むケースがある。生鮮食品の物流企業は一般的な物流企業と比べると、規模が小さく、資金力が少ないことが特徴として挙げられるため、十分な設備投資ができる企業は少ない。

上記の問題点について、李勇堅主任は以下のようにコメントしている。まずコスト面では、生鮮食品の種類を増やすことで単価を引き上げられるとみている。また、消費者の購入頻度を増やし、消費習慣を育成することが解決策になり得る。

品質管理については、生鮮ECプラットフォームが生産加工から配送までの関連作業に対する基準を設けることが必要との見方を示した。サプライチェーンについては、生鮮ECプラットフォームがオフライン店舗(実体のある店舗)と連携し、生鮮サプライチェーンを専門とする管理企業と提携することが解決策になると述べた。

信頼できる取引システムの構築が必要

国家発展改革委員会など12省庁は6月8日、連名で「生鮮農産品の流通を促進し、より一層発展環境を最適化することに関する実施意見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(発改経貿[2020]809号)(以下、実施意見)を発表した。実施意見では、生鮮農産品に関連する企業に対し、冷蔵施設の電気料金の優遇や「生鮮農産品リスト」に掲載された生鮮農産品を運ぶ車両の通行料金の免除などの項目を盛り込んだ。また、生鮮農産品を分類、包装、貯蔵する施設の建設を支持するとしている。実施意見の狙いは、生鮮農産品の流通と特徴を把握し、流通集中度を高めることで、流通コストの削減や農民収益の増加につなげることにある。全体的に生鮮農産品を発展させていくとした。

生鮮ECがEC市場の販売総額に占める割合は現在1%にすぎず、生鮮ECの市場空間は非常に大きいと言える。一方、生鮮ECを利用するに当たり、返品しにくいという点は消費者が積極的に生鮮ECを利用しない理由の1つになっていると考えられる。こうした問題を解決するには、生鮮ECプラットフォームが、消費者が安心して購入できるシステムを構築していく必要があると考える。消費者と信頼関係を築くことができて初めて、生鮮EC市場は健全に発展、拡大していくことができる。


注:
毎日優鮮は2014年に発足した生鮮O2O(インターネットなどのオンラインから店舗などのオフラインへ消費者を呼び込む施策のことを指す)のECプラットフォーム。
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
侯 恩東(こう おんとう)
2018年、ジェトロ・上海事務所に入所。調査事業を担当。