廃プラスチックの貿易フローに変化(世界)
中国の輸入規制後、東南アジア向け輸出のシェアが増加

2020年9月16日

廃プラスチックの貿易は、縮小が続く。2019年の世界全体の輸出額は前年比16.3%減の29億6,000万ドルとなった。

2017年までは世界各国が輸出する廃プラスチックの約6割(金額ベース、2013~2017年の平均値)を中国が受け入れていた。しかし、2017年末に中国が環境保護を目的とした輸入規制を導入。このことで、同国向け輸出が著しく減少し、代替地として東南アジア向け輸出の比率が高まった。また、欧州や米国・カナダ・メキシコ間では域内貿易の比率が高まった。 2021年には、改正されたバーゼル条約付属書が発効する。各国・地域の規制に加え、バーゼル条約で規制対象となるプラスチックの定義についても注視する必要がある。

廃プラスチック輸出額が5年連続で減少

2019年の世界の廃プラスチック(HSコード3915で定義)の輸出額は前年比16.3%減の29億6,000万ドルだった。廃プラスチックの貿易は、2015年から減少が続く。特に2018年は、世界の輸出額が前年比27.6%減と大幅に落ち込んだ(図参照)。背景には、2017年末から中国が厳格な輸入規制を導入したことがある。中国はそれまで、廃プラスチックの最大の輸入受け入れ先だった(詳細は、2019年1月10日付地域・分析レポート参照)。

2019年の輸出上位国はドイツ、日本、米国だった。3カ国は数量ベースでも上位3カ国となっている(表1、2参照)。また、2017年まで金額ベースで輸入シェアの6割近くを占めるなど、廃プラスチックの主要輸入国だった中国は、2019年に金額・数量ともに前年から98%以上の減少。対世界輸入額はわずか100万ドル、輸入量は1,000トンにまで落ち込んだ。

図:世界の廃プラスチック輸出額と伸び率の推移
世界の廃プラスチック輸出額は、2010年は63.7億ドル、2011年は73.9億ドル、2012年は73.4億ドル、2013年は69.3億ドル、201年は72.5億ドル、2015年は59.3億ドル、2016年は54.7億ドル、2017年は48.8億ドル、2018年は35.3億ドル、2019年は29.6億ドルだった。 また、世界の廃プラスチック輸出額の前年比伸び率は、2010年が21.2%増、2011年が16.0%増、2012年が0.7%減、2013年が5.6%減、2014年が4.7%増、2015年が18.2%減、2016年が7.8%減、2017年が10.7%減、2018年が27.6%減、2019年が16.3%減、だった。

注1:廃プラスチックはHS3915で定義。
注2:世界の輸出額はジェトロ推計値。詳細については本文末尾の注参照。
出所:各国・地域貿易統計を基にジェトロ作成

表1:世界の廃プラスチックの貿易額(2019年) (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)

輸出
順位 国・地域 金額 伸び率
世界 2,959 △ 16.3
1 ドイツ 364 △ 12.7
2 日本 353 △ 10.5
3 米国 279 △ 37.6
4 フランス 157 △ 8.3
5 オランダ 154 △ 7.6
6 ベルギー 152 △ 14.3
7 英国 123 △ 14.8
8 メキシコ 113 △ 25.6
9 タイ 106 △ 12.0
10 中国 85 14.6
輸入
順位 国・地域 金額 伸び率
世界 2,716 △ 9.2
1 米国 226 △ 7.8
2 香港 199 △ 18.3
3 オランダ 190 △ 4.3
4 台湾 181 △ 5.8
5 ドイツ 165 3.6
6 ベトナム 115 6.8
7 トルコ 113 △ 2.9
8 マレーシア 110 △ 40.8
9 ベルギー 94 △ 15.0
10 イタリア 92 △ 16.3
(参考)中国 1 △ 98.7

注1:2019年の輸出入上位10カ国・地域のみ掲載。
注2:廃プラスチックは、HSコード3915で定義。
注3:世界計とメキシコ、ベトナムの金額はジェトロ推計値。
出所:各国・地域貿易統計を基にジェトロ作成

表2:世界の廃プラスチックの貿易量(2019年) (単位:万トン、%)(△はマイナス値)

輸出
順位 国・地域 数量 伸び率
1 ドイツ 105.1 △ 1.6
2 日本 89.8 △ 10.9
3 米国 66.7 △ 38.1
4 英国 57.6 △ 5.6
5 ベルギー 47.9 △ 10.4
6 フランス 38.6 △ 5.7
7 オランダ 37.5 8.5
8 香港 23.3 △ 19.2
9 イタリア 19.3 △ 9.5
10 オーストリア 19.1 17.0
輸入
順位 国・地域 数量 伸び率
1 香港 60.6 1.3
2 オランダ 59.4 5.5
3 トルコ 56.0 28.1
4 ドイツ 48.0 △ 2.1
5 米国 39.9 △ 9.8
6 台湾 34.9 △ 18.6
7 マレーシア 33.4 △ 61.8
8 ベトナム 32.8 71.6
9 タイ 31.6 △ 42.7
10 インドネシア 25.0 △ 22.1
(参考)中国 0.1 △ 98.2

注1:2019年の輸出入上位10カ国・地域のみ掲載。世界計は未公表。
注2:廃プラスチックはHSコード3915で定義。
注3:国際貿易センター(ITC)または国連統計部(UNSD)による推計値を含む。
出所:Trade map(ITC)を基にジェトロ作成

廃プラスチックの東南アジア向け輸出や欧州域内貿易が増加

前述のとおり、廃プラスチックの貿易は、2017年まで中国に極端に偏重している状態だった。しかし、同年末から中国で輸入が規制されたのは既に述べた通りだ。さらに、中国の代替地として輸入シェアが急増した東南アジア諸国でも相次いで輸入規制が導入された。これにより、貿易の流れは大きく変化した。

ここで、表1、2で貿易額または数量が多かった国・地域を中心に、廃プラスチックの貿易マトリクス(輸出額ベース)を見てみることにする。まず、中国の輸入規制導入前の状況として2015年の動向をみると、世界で輸出される廃プラスチックの50%近くを中国が受け入れていたことがわかる(表3)。

輸入規制導入後の2019年をみると、中国の対世界輸入シェアは4.3%と大幅に縮小した(表4参照)。反対に、ASEANや欧州の輸入シェアが高まった。ASEANは、日本からのシェアが増加したことが図表から読み取れる。欧州はアジア向けの輸出シェアが減少した一方で、欧州域内の貿易シェアが2015年の17.0%から38.5%に増加した。また、米国・カナダ・メキシコ間でも、域内貿易のシェアが2015年の4.4%から7.3%に増加した。

表3、4はあくまで構成比を示したものだ。貿易額・量そのものが増えたことを示しているわけではない。だとしても、各国・地域によって主要な輸出先が変化したことが読み取れる。中国に代わる新たな廃プラスチックの輸入大国は現れていない。その結果として、欧州や米国・カナダ・メキシコ間では、域内貿易のシェアが高まった。中国向けの輸出が困難となったため、各国・地域が需要やコストなどの条件を考慮して廃プラスチックを輸出した結果、域内貿易の割合が相対的に高まった可能性がある。

しかし、廃プラスチックの輸入規制は東南アジアや南西アジアでも導入が進みつつある。このため、アジアに廃プラスチックを輸出し続けることができる保証はない(2019年6月18日付地域・分析レポート参照)。規制導入状況によっては、今後も貿易フローが変化する可能性があるだろう。

表3:世界の廃プラスチック輸出マトリクス(2015年、対世界構成比)(単位:%)
輸出 / 輸入 世界 アジア 日本 中国 香港 台湾 ASEAN マレーシア 米国・
カナダ・
メキシコ
米国 欧州 EU28 ドイツ オランダ 中東 トルコ その他
国・地域
世界 100.0 74.2 0.1 49.9 15.0 1.3 4.3 1.3 5.8 3.8 18.0 17.4 3.4 2.3 1.0 0.5 1.1
アジア 39.6 38.4 0.0 30.6 4.6 0.6 1.7 0.5 0.4 0.4 0.2 0.2 0.0 0.1 0.3 0.0 0.2
階層レベル2の項目日本 10.6 10.5 6.0 3.4 0.5 0.5 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
階層レベル2の項目中国 1.2 0.4 0.0 0.0 0.0 0.3 0.1 0.4 0.3 0.1 0.1 0.0 0.1 0.3 0.0 0.1
階層レベル2の項目香港 15.1 15.1 0.0 14.9 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
階層レベル2の項目台湾 0.9 0.9 0.0 0.5 0.3 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
階層レベル2の項目ASEAN 8.4 8.1 0.0 6.4 0.8 0.1 0.5 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1
米国・カナダ・メキシコ 19.1 14.1 0.0 6.9 4.6 0.4 1.0 0.2 4.4 2.6 0.2 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.4
階層レベル2の項目米国 13.8 11.5 0.0 5.3 3.8 0.3 0.9 0.1 1.8 0.2 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3
欧州 35.5 17.5 0.0 10.1 4.8 0.2 1.1 0.5 0.3 0.3 17.0 16.7 3.4 2.2 0.4 0.2 0.3
階層レベル2の項目EU28 34.5 17.5 0.0 10.1 4.8 0.2 1.1 0.5 0.3 0.3 16.1 15.9 3.0 2.1 0.3 0.1 0.3
階層レベル3の項目ドイツ 9.1 5.7 0.0 3.7 1.2 0.0 0.2 0.1 0.1 0.1 3.3 3.3 0.8 0.0 0.0 0.0
階層レベル3の項目オランダ 2.9 1.2 0.0 0.7 0.3 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 1.6 1.6 0.5 0.0 0.0 0.0
中東 1.9 1.3 0.0 0.7 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 0.1 0.0 0.0 0.3 0.3 0.0
その他国・地域 3.8 2.7 0.0 1.5 0.6 0.0 0.4 0.1 0.6 0.5 0.3 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2

注1:各国の輸出額ベースで作成。
注2:ASEANは10カ国。香港は再輸出を含む金額。その他の国・地域には大洋州、中南米、アフリカが含まれる。
注3:太字は対世界シェアが5%以上の国・地域(その他国・地域は除く)。
注4:世界、アジア、ASEAN、メキシコ、欧州、EU28、その他の国・地域の対世界構成比は推計値を基に算出。
出所:各国・地域貿易統計を基にジェトロ作成

表4:世界の廃プラスチック輸出マトリクス(2019年、対世界構成比) (単位:%)
輸出 / 輸入 世界 アジア 日本 中国 香港 台湾 ASEAN マレーシア 米国・
カナダ・
メキシコ
米国 欧州 EU28 ドイツ オランダ 中東 トルコ その他
国・地域
世界 100.0 40.6 0.2 4.3 5.6 4.7 (*)19.5 (*)8.5 10.4 7.1 (*)42.3 (*)40.4 6.8 5.6 4.6 3.4 2.2
アジア 27.7 23.3 0.1 3.7 1.1 3.3 (*)12.3 4.5 1.1 1.1 1.9 1.8 0.1 0.0 0.7 0.1 0.6
階層レベル2の項目日本 11.9 11.3 0.4 0.9 2.1 (*)6.4 3.1 0.3 0.3 0.2 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1
階層レベル2の項目中国 2.9 1.5 0.0 0.0 0.0 1.4 0.4 0.3 0.3 0.3 0.3 0.0 0.0 0.5 0.0 0.3
階層レベル2の項目香港 2.2 2.2 0.0 0.0 0.0 2.2 0.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
階層レベル2の項目台湾 0.9 0.7 0.0 0.2 0.0 0.3 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
階層レベル2の項目ASEAN 9.3 7.2 0.1 3.1 0.1 1.2 1.8 0.3 0.4 0.4 1.3 1.3 0.0 0.0 0.2 0.1 0.2
米国・カナダ・メキシコ 15.4 6.3 0.0 0.3 1.7 0.8 1.7 0.7 7.3 4.5 0.6 0.6 0.0 0.0 0.3 0.3 0.8
階層レベル2の項目米国 9.4 5.0 0.0 0.3 1.0 0.5 1.6 0.5 2.8 0.5 0.4 0.0 0.0 0.3 0.3 0.8
欧州 (*)51.1 9.0 0.0 0.3 2.5 0.3 4.3 2.9 0.8 0.5 (*)38.5 (*)37.2 6.7 5.5 2.6 2.2 0.3
階層レベル2の項目EU28 (*)49.1 9.0 0.0 0.3 2.5 0.3 4.3 2.9 0.8 0.5 (*)36.6 (*)35.8 6.0 5.3 2.5 2.1 0.3
階層レベル3の項目ドイツ 12.3 3.5 0.0 0.0 0.9 0.0 1.9 1.4 0.3 0.3 8.1 7.9 2.0 0.4 0.4 0.1
階層レベル3の項目オランダ 5.2 0.7 0.0 0.0 0.1 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 4.3 4.3 1.1 0.2 0.2 0.0
中東 1.8 0.4 0.0 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.1 0.1 0.6 0.4 0.0 0.0 0.6 0.6 0.0
その他国・地域 4.0 1.6 0.0 0.0 0.2 0.1 1.1 0.4 1.1 1.0 0.5 0.4 0.0 0.0 0.3 0.3 0.4

注1:各国の輸出額ベースで作成。そのため、表1と2に記載の各国の輸入データ(各国の輸入通関統計ベース)とは出所や計上方法が異なる。
注2:ASEANは10カ国。香港は再輸出を含む金額。その他の国・地域には大洋州、中南米、アフリカが含まれる。
注3:太字は対世界シェアが5%以上の国・地域(その他国・地域は除く)。
注4:(*)は、2015年に比べて対世界シェアが5%以上増加した国・地域。
注5:世界、アジア、ASEAN、メキシコ、欧州、EU28、その他の国・地域の対世界構成比は推計値を基に算出。
出所:各国・地域貿易統計を基にジェトロ作成

2021年には改正バーゼル条約付属書が発効

足元で導入に向けた準備が進んでいる規制として、バーゼル条約がある。2019年5月の締結国会議で、リサイクルに適さない廃プラスチックの貿易が同条約の付属書に追加された。

この改正により、新規制に該当する廃プラスチックを輸出する際には、事前に相手国に通告し、同意を得ることが必要になった。改正付属書は2021年1月1日に発効する予定だ。

規制対象の「リサイクルに適さない廃プラスチック」には、改正付属書Ⅷ(A3210)に該当する「有害な廃プラスチック」と、付属書Ⅱ(Y48)に該当する「特別の考慮が必要な廃プラスチック」が含まれる(注2)。もっとも、日本の環境省によると、具体的にどのような廃プラスチックが「特別の考慮が必要な廃プラスチック」に該当するかは各国の解釈に委ねられるという。そのため、例えば、日本から廃プラスチックを輸出する場合、その廃プラスチックが輸出規制対象となるかどうか、国内外の関係者が判断するための日本国内で判断するための基準が必要となる。

その判断基準の確定と改正付属書の発効により、貿易フローにさらなる変化が生じる可能性もあるだろう。各国・地域の輸入規制に加え、バーゼル条約の規制対象についても、引き続き情報を収集することが求められる。


注1:
ジェトロ推計値の推計手法は、世界貿易投資報告の資料PDFファイル(1.49MB) 「付注2」を参照。
注2:
2019年5月のバーゼル条約締結国会議では、付属書Ⅷ(A3210)と付属書Ⅱ(Y48)に加え、付属書Ⅸ(B3011)も改正された。規制の対象外になる廃プラスチックとして、「非有害かつ特別の考慮が必要ないプラスチック」が追加された。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか)
2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。