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【中国・潮流】大連市、水素エネルギー産業発展ガイドラインを発表

2020年12月24日

中国東北地域の主要都市・大連で2020年10月、水素エネルギー産業発展ガイドラインが公表された。中国では近年、次世代エネルギーとして水素が注目され、関連の産業政策が各地で打ち出されている。こうした動きに追随したかたちだ。

あまり知られていないが、大連では比較的早い時期から水素関連の研究などが行われてきた。今回の政策公表は、満を持してと言える。果たして地方主導による水素産業発展モデルを形成することができるのか。課題は山積している。

各地で熱帯びる水素産業の発展政策

2019年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)では、政府活動報告に水素関連の政策が初めて盛り込まれたことが話題となった。もっともこれは、水素産業全般というよりは、燃料電池車(FCV)普及に向けた水素ステーションの建設を推進するというものだった。2020年は全人代の開催時期が5月にずれこみ、国家としてのエネルギー発展戦略を策定することが示された(2020年9月8日付地域・分析レポート参照)。

水素関連政策はこれまでのところ、地方政府が主導しているケースが多い。上海を取り囲む長江デルタ地域や、広東省、河北省などで水素産業の発展政策が先行して打ち出されている。その多くは、FCVの導入台数や水素ステーション建設を主な目標として掲げる。いわゆる水素産業の川下に当たる水素の活用に主眼を置いているようだ。しかし、水素産業は、製造、輸送、貯蔵など川上分野でもクリアしなければならない技術的課題が多く、根本的なエネルギー政策とも深い関わりがある。水素の社会実装を実現するための政策は、エネルギー、環境、産業など幅広い分野を体系的に整理しなければならない難しさがある。

大連市のガイドラインは包括的

こうした中、大連市も新エネルギー分野の産業育成にかじを切った。もともと同市には、一汽客車や奇瑞汽車、東風日産、BYDなどの完成車メーカーが所在。各社とも、電気自動車(EV)の開発、製造、販売に注力する。リチウムイオン電池、モーターなど日中双方の関連部品メーカーが、EV向け供給を強化している。このように、市内新エネルギー産業はEVを中心に一定の集積があり、EVの次に期待されるFCVの普及を志向するのは自然の流れといえよう。

大連市では、燃料電池や水素に関して比較的早くから研究開発が進められてきた。2006年には、国家発展改革委員会の委託を受けるかたちで「燃料電池および水素エネルギー技術国家工程研究センター」が大連市ハイテクパーク内に設立された。燃料電池スタックやモジュールの研究開発・測定に取り組み、敷地内には水素ステーションも設置している。

大連市は2020年10月、「水素エネルギー産業の加速育成、発展に関する指導意見」(以下、ガイドライン)を公表した(表1参照)。注目したいのが、水素の供給能力を確保するために、太陽光や風力、水力の余剰電力を活用して水素を製造するとうたっている点だ。同市には大規模な石油化学基地があり、従来の石油精製プロセスで水素製造も可能だが、「2060年までにカーボンニュートラルを達成」という国家目標に合致するクリーンエネルギー活用も取り込んでいることになる。

表1:大連市の水素エネルギー産業発展ガイドラインの主なポイント
発展目標
  • 2025年までに業界トップクラスの企業を5~8社育成、水素燃料電池車(FCV)の生産能力1000台/年以上
  • 2035年までにFCVのほか、船舶、機関車、分散型発電施設など重点産業チェーンを整備
技術研究・開発
  • 石化由来水素の純化、電解製造の効率化とコスト低減
  • 水素の貯蔵・輸送技術の開発
  • 貯蔵・輸送施設の圧力検査
水素燃料電池車および関連部品産業育成
  • 水素燃料電池車の公共交通、港湾物流領域への応用
  • 水素燃料電池およびエンジンの研究開発
  • 燃料電池用コンプレッサーなど重要部品の生産企業誘致、育成
水素資源確保
  • ガソリンスタンドの水素ステーション転化、水素ステーション建設
  • 太陽光、風力、水力発電による余剰電力の優先活用
  • 電力企業の電解質による水素製造を奨励
  • 市内石化産業の副生物としての水素の純化利用を推進
  • 庄河市(大連行政区域内)においてクリーンエネルギー利用の水素製造基地を建設
水素総合利用モデル
プロジェクト
  • 2021年末までに水素燃料電池車両を300台導入し、水素ステーションを10カ所建設
  • 水素燃料電池バスの順次導入(新規導入車両の50%以上)
  • 2022年末までに港湾物流応用モデル区において水素燃料電池車両(フォークリフト、トラックなど)20台導入
体制整備
  • 大連市水素エネルギー産業発展工作指導グループを設立し、川上から川下まで水素産業のエコシステム構築を推進
  • 水素設備製造、公共検査、研究開発プラットフォームなどに財政資金を投入
  • 検査認証、品質監督、知的財産権保護、標準化システムの整備
    (水素ステーション建設、輸送・貯蔵、消防などの分野における技術要求の体系化と審査システム整備)

出所:「水素エネルギー産業の加速育成、発展に関する指導意見」から筆者作成

所管する政府部門が複数にまたがる場合の対応も、課題といえる。この点ガイドラインでは、水素エネルギー産業発展指導グループを立ち上げ、重要課題を解決しつつ規制・政策を調整するとした。結果、川上から川下までのサプライチェーンを構築して、水素エネルギー産業のエコシステムを確立する計画だ。地方政府の政策としては水素産業を幅広くとらえた包括的な内容で、一定の評価ができるだろう。

産業サプライチェーン構築に課題

特定の都市が単独で水素産業の発展を推進するには、サプライチェーン全体を考えると課題も見えてくる。

大連市では、風力発電基地の建設に注力している。例えば、再生可能エネルギーを活用するため、東北地域で初の洋上風力発電所を稼働させた。しかし、電気分解で得た水素を利用して発電する場合、総合的なエネルギー効率が低いことが弱点とされ、大連の都市部の水素需要を満たすには相応の規模が必要であろう。他方、風力発電が必ずしも有効に活用されていない状況がある。中国で最も風力発電の棄風率(chance loss、注)が大きいのは、新疆ウイグル自治区や甘粛省、内モンゴル自治区などだ。東北地域では吉林省などが大きい(表2参照)。こうした他地域の余剰電力を活用して水素を製造・貯蔵し、需要地へ輸送するサプライチェーンを視野に入れた場合、特定都市内だけなく、地域間の連携も欠かせない。また、水素社会の実現には、最終的に電気に代替できるまでに水素の価格を引き下げる必要もある。いかに広域に効率的なサプライチェーンを整備できるか、持続可能な水素産業のエコシステムモデルを示すことができるか、その動向が注目される。

表2:風力発電の棄風率(chance loss)が大きい主な省・区
省・区 2018年 2019年
発電量(TWh) 棄風率(%) 発電量(TWh) 棄風率(%)
新疆ウイグル自治区 359 19.0 413 14.0
甘粛省 230 22.9 228 7.6
内モンゴル自治区 632 10.3 666 7.1
河北省 283 5.2 318 4.8
吉林省 105 6.8 115 2.5
黒龍江省 125 4.4 140 1.3

出所:国家能源局「風力発電およびネットワーク状況」(2018年、2019年)


注:
発電能力がありながら、送電能力の不足などの理由により利用されないことを指す。いわゆるチャンスロス(chance loss)。中国では「棄風」と表現する。政府は、棄風率の高い地域では新規風力発電所の建設を制限するなどの政策を取る。
執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所長
重岡 純(しげおか じゅん)
1990年、ジェトロ入構。香港センター、国際経済課、ジェトロ・青島事務所勤務などを経て、2020年9月から現職。

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