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新型コロナ禍で相次ぐ苦境からの脱却を目指す(米国、メキシコ)
日系マキラドーラ協会(JMA)事務局長インタビュー

2020年8月5日

バハカリフォルニア州は、米国カリフォルニア州と国境を接するメキシコの州だ。製造品の多くが米国に輸出される。そのメキシコでは、新型コロナウイルスの感染拡大が続く。このため政府は、工場の稼働停止措置を発動。結果として同州の日系マキラドーラ企業は、米国顧客の発注と州政府の執拗(しつよう)な立ち入り検査の間で板挟みの状態が続いた。稼働再開がようやく認められた後は、米国政府による入国制限措置の問題に直面する。

バハカリフォルニア州のマキラドーラ企業の最新の状況について、サンディエゴにある日本マキラドーラ協会(JMA、注1)の大須賀明(おおすが・あきら)事務局長に聞いた(6月25日)。


日系マキラドーラ協会事務局長 大須賀明氏(本人提供)
質問:
メキシコ政府は、新型コロナウイルス対策(表参照)の一環として、3月30日に事業停止措置導入した。ヘルスケアや食品製造など「必要不可欠な活動」(Essential Activities)を除いて、事業の停止を求めるものだった(2020年4月1日付ビジネス短信参照)。この措置で、現地企業は多大な影響を受けたと聞いている。バハカリフォルニア州のマキラドーラ企業はどのような問題に直面したか。
答え:
事業停止措置の導入を受けて、4月初旬にバハカリフォルニア州労働局による工場への立ち入り検査が相次いだ。検査は、(1)「必要不可欠な活動」に属しているか、と(2)現場でソーシャルディスタンスの確保や衛生管理をきちんと順守しているか、を確認するものだった。この2点をクリアしていない企業は、強制的に工場を一時閉鎖させられるといった事例が見られた。すなわち、(1)と認められたとしても、(2)が守られていなければ閉鎖の対象になった。しかし、例えば生産ラインで隣同士の従業員の間隔が30センチ程度しか離れていないような職場では、安全衛生ガイドラインに沿って1.5メートル以上の距離を確保するのは困難だった。ガイドラインでは、アクリル板の仕切りを設置しなければならないが、設置しにくいレイアウトの職場では対応が難しいという事例もあった。
製造品のほとんどを米国に輸出しているマキラドーラ企業は、米国各州で「必要不可欠な活動」と認められる企業からの発注に基づいて生産している。しかし、米国が定める「必要不可欠な活動」とメキシコ政府の定義が異なる。このため、米国顧客の発注に応えられないなどの事態に陥った。 稼働が認められない企業は、従業員への給与支払い問題にも直面した。伝染病のまん延などを原因に連邦政府が操業停止を指示する場合には、労働法により最低賃金を休業補償として支払うことになっている。しかし、少なくともバハカリフォルニア州では、稼働停止前の給与の100%の支払いが半ば義務付けられた。それが相場となっていたのだ。売り上げがない状況での給与支払いで、企業は厳しい経営を余儀なくされた。
表:メキシコ連邦政府の新型コロナウイルスに関連する措置(2020年)
措置発表日 概要
3月20日 3月21日から30日間、不要不急の渡航を米国およびカナダとの間で相互に制限。その後3カ国は期限の延期を繰り返し、7月20日時点では8月21日まで実施予定。
3月30日 「衛生上の危機的状況」を宣言、3月30日~4月30日の間、医療や食品産業など「必要不可欠な活動」(Actividades Esenciales)以外の操業の停止を命じる内容の保健省令を公布。
4月16日 3月30日概要の「必要不可欠な活動」以外の操業の停止の期限を5月31日に延期。
5月13日 経済・社会活動の再開に向け、3段階で構成される計画を発表。
  • 第1段階では、感染がない市町村に対して5月18日以降の経済・社会活動の再開を許可。
  • 第2段階では、5月18日~31日に連邦政府公示の職場環境における安全衛生ガイドラインに従い、操業再開に向けた準備を開始。
  • 第3段階では、保健省が各州に「青(緑)」「黄色」「だいだい」「赤」の4種類の信号表示を指定。信号の色に応じて、制限の内容や条件が異なる。各州は信号の色に応じて、6月1日以降に再開を進めていく。
5月14日 建設、鉱業、輸送機器製造に関連する活動を「必要不可欠な活動」と見なし、6月1日から活動の再開を許可。ただし操業準備期間が始まる5月18日以降に企業が準備する安全衛生プロトコルが政府に承認されれば6月1日以前でも操業開始可能とした。
5月29日 再開に向けた計画どおりに6月1日以降に実施される信号システムに基づく活動規制を発表。

資料:政府発表資料などを基にジェトロ作成

質問:
メキシコでは業界団体による政府への事態改善の申し入れが相次いだと聞いている。しかし、これらはあまり聞き入れられなかったか。
答え:
バハカリフォルニア州知事は、オブラドール大統領が率いるポピュリスト政党の国家再生運動(Morena)に所属。基本的に企業に厳しく、労働者に優しいスタンスを取る。Morenaはメキシコ全土で勢力が強く、稼働停止措置の根拠が「国民が生きるか死ぬか」というセンシティブな内容だった。このため、メキシコ経営者連盟など業界団体の要望は、事態の改善になかなかつながらなかったのではないか。現地企業の窓口、バハカリフォルニア州経済開発局も、今回ばかりは衛生局や労働局の主張に同調していた印象がある。
連邦政府は経済・社会活動の再開に向け、各州の感染状況に応じて活動を許可する「信号システム」(2020年5月15日付ビジネス短信参照)を6月1日に導入した。「必要不可欠な活動」でなくても、再稼働を許可する動きが見え始めた。だが、バハカリフォルニア州は、現在でも稼働停止の「赤」に指定されている(注2)。その結果、いまだに工場の稼働再開は認められず、企業にとっては厳しい状況が続いていると想像する。
信号システムに関しては、連邦と地方政府との間で連携が取れていない。州によっては独自の基準で作成した信号システムを導入し、連邦政府が毎週発表する信号色に準じずに、経済・社会活動を再開する例が見られる。バハカリフォルニア州政府は連邦政府の信号システム導入以前から、一部のマキラドーラ企業を「必要不可欠な活動」と認め、稼働再開許可を出し始めていた。前述のとおり、当初こそ厳しい姿勢を見せた州衛生局や労働局も、徐々に柔軟になっていった。明確な理由は分からないが、経済開発局が衛生局や労働局に働きかけたのかもしれない。
現時点で日系マキラドーラ企業の多くが、稼働停止措置導入前の7~8割程度まで生産を戻している。中にはフル稼働に近い企業もある。各社は従業員のフェースカバーはもちろん、体温測定器やアクリル板仕切りの導入、従業員間の距離の確保など、州政府の安全衛生ガイダンスを忠実に順守している。衛生管理をきちんとこなしつつ、シフトを増やすことでフル稼働に近づけている。
マキラドーラ企業と米国の自宅を行き来する現地の駐在員には、ビザの更新申請を米国政府から拒否されるといった問題が以前からあると聞く。近年、マキラドーラ企業の米国駐在員がビザの更新を申請する際、日中にはほとんどメキシコ側にいることから、米国のビザは不要との判断から更新が認められない事例が見られる。こうした状況により、メキシコ駐在員として赴任するケースが増えている。しかし、メキシコ側での生活には、頻繁に起こる断水や停電、悪化する治安、食材の調達、子弟の教育など多くの問題を抱えている。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、米国とメキシコ間では、3月から不要不急の渡航の制限が実施されている(2020年3月24日付ビジネス短信参照)。国境を行き来する駐在員は、この制限により、米国側に帰れるかどうか常に不安を感じている。加えて、6月24日には、米国政府が一部の非移民ビザ取得希望者に対して入国制限措置を施行した(2020年6月23日付ビジネス短信参照)。この措置により、企業内転勤者(L)ビザの申請ができなくなった。Lビザから制限措置対象外の貿易・投資家(E)ビザに切り替えるという話も聞かれるが、条件を満たせない可能性もある。難しい問題だ。
質問:
新型コロナ禍で厳しい状況が続く中、JMAや現地企業にできることは。
答え:
当協会はバハカリフォルニア州の経済開発局との間で良好な関係を長きにわたり維持している。他方、上述のとおり、州政府がMorenaに交代して以降、コロナ禍もあり政府とのアポイントが取りにくいといった問題が生じている。
日系マキラドーラ企業は、テレビを中心とする電気・電子産業が盛んだった20年前ごろまでは高い知名度を誇っていた。例えば、当時、駐在員がメキシコに入国する際に「日本人か?」と税関に聞かれた。しかし今では、それは「韓国人か?」に変わっている。サンディエゴと国境を接するティファナ市周辺には、サムスンなど韓国系メーカー勢が進出し、プレゼンスを高めている。日本の知名度が低下していないといえばうそになる。とはいえ、他のアジア諸国と比べて、メキシコ人の間で日本人や日本製品の信頼度が高いのは相変わらずだ。
国際協力機構(JICA)は2010年、現地工業高校の電気・電子産業の人材育成プロジェクトを実施した。このような協力はメキシコ側で大歓迎だ。また日系企業は、稼働再開申請で政府機関を訪問する際、フェースカバーやアルコール消毒液などを提供していると聞いている。こうしたグラスルーツでのサポートでメキシコ側に気持ちを伝えていくことは重要と考える。

注1:
メキシコのバハカリフォルニア州ティファナ進出の日系マキラドーラ企業による相互情報交換や親睦の場として1986年に発足。メキシコ北部国境地帯を中心に一時は会員企業数約70社に達した。現在は、主要家電メーカーの撤退なども受け、約40社で構成される。メキシコ日本商工会議所との業務提携をはじめ、他の業界団体とも緊密に連絡。当地日系企業を取り巻く環境の整備や向上を目指している。
注2:
インタビュー時点(6月25日)は「赤」だったが、本記事掲載時には「オレンジ」に移行しており、制限付きで不可欠な活動以外の経済活動も再開している。
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所次長
浅井 康孝(あさい やすたか)
1996年、ジェトロ入構。2017年6月から現職。

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