バイデン氏のリード続くも、不透明な2020年米大統領選挙の民主党候補者レース

2019年12月12日

2020年の米国大統領選挙まで1年を切った。民主党候補者レースでは、ジョー・バイデン氏が一時はエリザベス・ウォレン氏に追い越されたが、首位を維持している。同氏に続く支持率上位者を見ると、健康上の不安もあったバーニー・サンダース氏の支持率が持ち直し、4月から徐々に支持率を伸ばしてきたウォレン氏が失速傾向にある(表1参照)。12月19日に第6回の民主党候補者討論会を控え、各候補者の主張や動向、ドナルド・トランプ大統領に対する弾劾調査の影響を合わせて報告する。

民主党各候補者の詳細については、2019年12月12日付ビジネス短信参照

表1:支持率上位者の世論調査支持率平均値の推移 (単位:%)
候補者名 4月2日 6月2日 9月2日 10月2日 11月2日 12月2日
ジョー・バイデン氏 30.3 35.0 30.7 26.2 27.6 27.0
バーニー・サンダース氏 21.7 16.3 16.9 16.8 17.0 16.0
エリザベス・ウォレン氏 5.8 9.2 15.9 24.0 20.4 14.0
ピート・ブッティジェッジ氏 2.3 5.8 4.6 5.5 7.1 11.4

出所:リアルクリアポリティクス

民主党候補者の主張の相違点

民主党候補者の上位4人(バイデン氏、サンダース氏、ウォレン氏、ピート・ブッティジェッジ氏)の主な項目に関する主張をまとめると(表2参照)、ヘルスケアについては、サンダース氏とウォレン氏が提唱するメディケア・フォー・オール(国民皆保険)は、バイデン氏を除く3人が支持する。ただし、ブッティジェッジ氏は皆保険といえども、「希望する人のために」という注釈を付けている。

サンダース氏とウォレン氏はメディケア・フォー・オールの財源として、富裕層への課税を主張しているが、ブッティジェッジ氏は35%の法人税を財源として挙げている。

バイデン氏は、環太平洋パートナーシップ(TPP)に条件付きで参加するとしており、サンダース氏、ウォレン氏は加盟しないとしている。ブッティジェッジ氏は言及していない。

4人の共通点としては、「パリ協定」に再び参加するとしており、気候変動への対応が世界的にも差し迫った問題であることが認識されている(注)。

注目集めるブッティジェッジ候補

全国調査では支持率上位3人に加わることがなかったピート・ブッティジェッジ氏が11月のキニピアク大学の全国調査では、1位のバイデン氏に続いて2位に浮上した(2019年11月29日付ビジネス短信参照)。また、11月にアイオワ州、ニューハンプシャー州で実施された世論調査では、いずれも25%の高い支持を得て1位になった。両州とも、2020年2月の早い時期に党員集会や予備選が実施される州として注目される。アイオワ州の世論調査では、上位4人の候補者の政治的主張の印象を聞いたところ、ブッティジェッジ氏がバイデン氏を抑えて最も中道的という結果だった(表3参照)。

表3:各候補者の主張の印象について(アイオワ州) (単位:%)
候補者名 リベラル過ぎる 中道 保守的過ぎる わからない
ジョー・バイデン氏 7 55 28 11
ピート・ブッティジェッジ氏 7 63 13 17
バーニー・サンダース氏 53 37 3 6
エリザベス・ウォレン氏 38 48 4 10

出所:デモイン・レジスター、CNN、メディアコム

ブッティジェッジ氏はメディケア・フォー・オールに関して、「希望する人のために」という注釈付きでより中道的な立場を取り、中道を支持する層が、左寄りの発言が目立つウォレン氏からブッティジェッジ氏に回ったと言われる。同氏は37歳と候補者の中で最も若く、第5回民主党討論会では経験不足を指摘されたが、理想的な息子像や孫像の体現者として、白人で比較的高い年齢層のブーマー世代が注目している。しかし、先のキニピアク大学の全国調査では、同氏の黒人層からの支持率は4%にとどまり、上位4人のうち、バイデン氏(43%)、サンダース氏(11%)、ウォレン氏(6%)と比べて最も低かった。今後、黒人層からの支持を獲得できるかが課題だ。

12月の第6回民主党候補者討論会の参加者には、支持率上位ではないが、エイミー・クロブチャー氏が含まれる。同氏は世論調査の支持率の平均値が2.4%(12月2日付リアルクリアポリティクス)と、これまで高い支持率を獲得したことはないが、第1回討論会から全ての討論会に参加し存在感をアピールしている。同氏の主張は、「パリ協定」への再参加やライフル銃の禁止など他の候補者との共通点もあるが、サンダース氏らが唱えるメディケア・フォー・オールからは距離を置いている。

11月には、前マサチューセッツ州知事のデバル・パトリック氏と前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏の2人が民主党から大統領選への立候補を表明したが、民主党予備選への影響は不透明だ。12月3日には、支持率上位5人に含まれていたカマラ・ハリス氏が撤退を表明した。

社会主義を肯定する国民も

ウォレン氏の支持率低下は社会主義的な発言によると言われているが、ピュー・リサーチ・センターが実施した米国民の社会主義と民主主義に関する意識調査では、社会主義を否定すると回答した割合は55%と過半数を占めたが、肯定するとの回答も42%となっており、少なくないことがわかった。社会主義を肯定する理由として、「より公平で寛大なシステムの構築」が挙がり、貧富の差が進んでいることを反映しているともみられる。

地方選で民主党躍進

11月に実施されたバージニア州議会選挙では、共和党が過半数を占めていた上院、下院とも逆に民主党が過半数を獲得する結果となった。実際に投票した有権者の中には、共和党の国家のかじ取りに不安を口にする者もおり、地方議会の選挙とはいえ、ワシントンから地理的に近い州でのこの結果は注目を集めた。

また、共和党優勢といわれる3州で11月に州知事選挙が行われたが、2州で民主党候補が勝利した。ケンタッキー州では民主党候補が共和党の現職知事を破り、ルイジアナ州では民主党の現職知事が当選したが、ミシシッピー州では共和党の副知事が当選した。

弾劾調査の影響少なく

弾劾調査が進む中、ドナルド・トランプ大統領の仕事ぶりを「認める」という評価は10月下旬にいったん低下したものの、11月には2ポイント上がって39%(キニピアク大学世論調査)になった。大統領が弾劾・罷免されるべきかという問いに対して、「賛成」と回答した率は10月下旬から3ポイント下がり45%だった。

11月のエマーソン大学の全国調査では、大統領選挙で最も重視する項目として、「経済」(34.3%)、「ヘルスケア」(17.5%)への関心が高い。「大統領の弾劾」は6.6%にとどまり、同大学の10月調査時の11.3%から4.7ポイント下がった。

今のところ、弾劾調査がトランプ氏に与えるダメージは少なく、むしろ国政の妨げになっていることも指摘されており、民主党の方向性を危ぶむ声もある。


注:
トランプ米政権は2019年11月4日、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を国連に正式通告した。
各種調査の出所、調査時期、対象者数
アイオワ州調査 デモイン・レジスター、CNN、メディアコム、11月8~13日、アイオワ州の有権者2,012人、うち民主党党員集会参加予定者500人対象
ニューハンプシャー州調査 セント・アンセルム大学、11月13~18日、ニューハンプシャー州の有権者512人、うち民主党予備選投票予定者255人対象
全国調査 キニピアク大学、11月21~25日、全国の有権者1,355人、うち民主党支持者574人対象
社会主義と民主主義に関する意識調査 ピュー・リサーチ・センター、4月29日~5月13日、10,170人対象
全国調査 エマーソン大学、11月17~20日、全国の有権者1,092人対象

変更履歴
表2に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2020年1月23日)
エリザベス・ウォレン氏の税制
(誤)(5,000万ドル以上の所得に2%、10億ドル以上は3%課税)。
(正)(5,000万ドル以上の資産に2%、10億ドル以上は6%課税)。
執筆者紹介
海外調査部米州課 課長代理
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。米国の移民政策に関する調査・情報提供を行っている。