「米国中西部スタートアップ」インタビュー(4)
シカゴ最大級のデジタルテックインキュベーター「1871」後編
大阪イノベーションハブやユニクロにみるコラボレーション事例

2019年5月7日

シカゴ最大のデジタルテックインキュベーター「1871」について、CEO(最高経営責任者)のジーグラー氏にインタビューした報告(「イノベーション創出の鍵は多様性」の後編。ここでは、大阪イノベーションハブなど、1871と日本企業の協働を紹介する。

大阪イノベーションハブとの協力で目指すもの

ジーグラー氏が率いる1871と、大阪イノベーションハブ (OIH、注1) は2018年10月22日、イノベーション・イニシアティブ、イノベーション・プログラムにおける協力に関するMOU (了解覚書) に調印した。シカゴ市と大阪市は2018年に姉妹都市提携45周年を迎え、これを祝って代表団が相手都市を相互に訪問した。吉村洋文大阪市長(当時)がシカゴを訪問、シカゴからはワールド・ビジネス・シカゴCEOのアンドレア・ゾップ氏を団長とする代表団が訪日した。その中にはジーグラー氏もいた。

この代表団の訪日について、同氏は次のように語った。「私は何度も日本を訪れているし、日本に住んだことも2回ある。今回の旅は短かったけれど非常に素晴らしいものだった。私たちは大阪イノベーションハブ訪問から幾つかのことを学んだが、『これは一緒にできるのでは?』と思ったこともあった。1871は2020年のHack Osaka(注2)には確実に参加するし、もしかしたら2019年後半のHack Osakaにも参加するかもしれない。1871の幾つかの企業をこのイベントに招待し参加させる予定だ。大阪イノベーションハブのチームにも、シカゴに来ていただいて何かできればと思っている。日本は非常にイノベーティブな経済、文化を持つ国だ。私たちのパートナーシップが拡大していくことをとてもうれしく思う」

大阪からどんな企業を1871に迎えたいと考えているのか、についても聞いた。「デジタル志向の企業であれば、どんな企業とでも提携の機会はあると思うが、アメリカ、そしてシカゴでの事業展開を考えている企業に来ていただきたい。B2CよりもB2Bを多く取り扱う企業の方がシカゴ、1871に来て得るものは大きいと思う。ここでのビジネスはその領域に集中しているからだ」との答えだった。

ユニクロとの協力を拡大

1871は日本との間では、ユニクロ (UNIQLO) とも提携している。2017年には3カ月にわたり、イノベーティブなメンバー企業5社の商品をユニクロのシカゴ店で展示した。このパートナーシップは、「シカゴの土地柄やコミュニティーの文化に合ったインスピレーションあふれるショッピング体験を創る」という、ユニクロのミッションから生まれたものだが、1871と参加メンバーにとっても新しいユーザー層に目に見える形でアピールするユニークな機会となった。1871とユニクロはパートナーシップを拡大し、2018年にはユニクロ店舗で1871シニアリーダーやコミュニティーメンバーによる4回のトークイベントが開催された。「私たちはユニクロと連携するのが大好き。今、ユニクロとは、パートナーシップについての一種の再イメージングの作業を行っているところだ。より良い形で連携の機会を調整し、両組織のメンバーにインパクトを与えるにはどうしていくのが良いのかを模索している」と同氏は語った。


注1:
Osaka Innovation Hub:スタートアップ、起業家支援を展開する。年間に200本以上のイベントを開催し、大阪のイノベーションを支えるエコシステムを構築。
注2:
大阪市と公益財団法人都市活力研究所が2013年より開催している国際会議。基調講演、パネルディスカッション、世界選りすぐりの起業家によるピッチコンテストを全編英語で行う、日本国内でも例を見ない会議。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2019年7月24日)
注2
(誤)エンジニア、プログラマー、マーケッターらが集い、アイデアや技術を持ち寄り、一定期間に成果を競う開発イベント。
(正)大阪市と公益財団法人都市活力研究所が2013年より開催している国際会議。基調講演、パネルディスカッション、世界選りすぐりの起業家によるピッチコンテストを全編英語で行う、日本国内でも例を見ない会議。
執筆者紹介
ジェトロ・シカゴ事務所 ディレクター
河内 章(かわち あきら)
2006年、ジェトロ入構。デザイン産業課(2010年〜2014年)、ジェトロ仙台(2014年〜2016年)などを経て、2016年4月より現職。米国自動車メーカーと日系サプライヤーの商談支援や、米国企業による日本進出支援、米国・中西部のスタートアップ・イノベーションなどを主に担当している。