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自動車部品クラスターの次世代車開発拠点「AIC」が進める競争力強化(スペイン)
ものづくりの集積地バスク州で進むインダストリー4.0とオープンイノベーション(1)

2019年4月19日

スペインで自動車部品産業の集積が最も進んだバスク州には、部品クラスターがバックアップする国際オープンイノベーション型の研究開発センター「オートモーティブ・インテリジェンス・センター(AIC)」があり、現在では部品産業が一体となってインダストリー4.0(バリューチェーンのデジタル化)への移行を推進している。バスク自動車産業クラスター(ACICAE)のラケル・ピニャン国際部長に話を聞いた(3月12日)。

完成車メーカーに依存しない強力な部品産業

スペインは地場の主要完成車メーカーを持たないが、日欧米9社の完成車メーカーが17カ所に製造拠点を置く欧州第2位の自動車生産国として、裾野の広い部品サプライヤー網が確立されている。部品産業の集積が最も大きいのはバスク州で、2017年のスペインの自動車部品の総売上高362億ユーロ(前年比7%増)の50%強に相当する184億ユーロ(同11.7%増)を同州が占める。主な製造部品は、エンジンやサスペンション、ブレーキ、ステアリング関連だ。

一方、同州に拠点がある完成車メーカーは、中堅規模のメルセデス・ベンツ工場のみである。同州の部品工業会で、300社(うち48社は外資系)が加盟する欧州最大の自動車部品産業クラスターでもあるバスク自動車産業クラスター(ACICAE)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます のピニャン国際部長は「ガリシア州ではPSAプジョー・シトロエン、バレンシア州ではフォードなど、クラスターは地元にある完成車メーカー工場頼りだが、バスクの部品産業は地域の完成車メーカー拠点に依存していないからこそ強い」と話す。

同州の部品産業の売上高のうち60%が完成車メーカー向け、38%が1次部品メーカー(Tier1)向けで、スペアパーツの売り上げは2%に過ぎず、開発段階から関与している企業が多いことを物語る。スペインの5大部品メーカーのうち、ゲスタンプ、CIEオートモーティブ、モンドラゴン・アウトモシオンの3社がバスク系であり、スペイン部品産業の意思決定機能の相当部分が同州にある。同州部品産業の海外売上高比率は9割に上り、州内部品メーカーの海外生産拠点の数は284カ所に達している。州内に生産拠点を構え、2018年10月に三重県で熱間プレス(ホットスタンピング)工場を設立したゲスタンプはその好例である。

クラスターの強さの秘密はオープンイノベーション

バスク自動車産業クラスターは2009年、自動車産業のオープンイノベーション推進を目的として「オートモーティブ・インテリジェンス・センター(AIC)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を自治体の協力の下、バスク州最大の都市であるビルバオ郊外に創設した。

10年目を迎える現在、日系を含む8カ国30社の部品メーカーやエンジニアリング企業、コンサルティング企業など、自動車産業に関わる多様な企業がAICに入居している。日本企業では、パナソニックが溶接システムの南欧販売代理店であるロボテコ・イタラルゴンと協力し、同社製のアーク溶接ロボットを、ゲスタンプの溶接工程手順の下で生産試験するプロジェクトが進行中だ。

入居企業の合計約950人の人材が、地場自動車産業、地元の大学・研究機関や自治体といった層の厚い産官学ネットワークと連携しつつ、それぞれの開発に取り組んでいる。AICは入居企業間のオープンイノベーションを奨励しており、そこからスピンオフしたスタートアップも生まれているという。「伝統的に州の産官学が一体となって成長してきたバスク製造業にとって、オープンイノベーションはお家芸ともいえる。どこの部品メーカーも、環境対応のための軽量化や電気自動車(EV)、安全・自動運転技術への対応、製造プロセスのデジタル化、そのための人材開発など共通の課題を抱えており、オープンイノベーション協力を通じた知識や資源の共有・最適化で、地元の部品製造業の全体的な底上げにもつながっている」と、ピニャン部長は語る。

業界が一丸となって4.0導入に取り組む

AIC内には以下4つの実証施設であるコンピテンスセンターがある。

  1. 仮想開発センター〔ドライビングシミュレーターによるエンジン制御ユニット(ECU)開発や振動テストなど〕
  2. EV化センター(EV向けシャーシや駆動系、バッテリーボックスの開発など)
  3. 軽量化センター(複合材料やアルミニウム加工、冷・熱間プレス技術開発)
  4. スマートファクトリー〔インダストリー4.0(先進製造)〕

4のスマートファクトリーは、2018年1月に稼働したインダストリー4.0の製造プロセスの実証施設だ。国内の完成車、鉄道車両、航空、食品大手に広く4.0ソリューションを提供する地元エンジニアリング企業のシステプラント外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます の協力を得て、協働ロボットや無人搬送車(AGV)、QRコードによる検査工程をラインに組み込んだインライン検査システム、プロセスを自動的にリアルタイム監視・管理するスマートシステムなど最新鋭のモデル工場を設置。不良品の発生防止や個々の生産品のトレーサビリティー保証、ビッグデータ/マシンラーニング(機械学習)による自動制御、故障予測などの実証試験ができる。AICは、各社の課題やニーズに即したロードマップを作成し、EUの研究開発・イノベーション枠組みの「ホライズン2020」も活用しつつ、実証から導入まで総合的な支援を行っているという。ピニャン部長は「インダストリー4.0導入と一概にいっても、企業ごとに目標は異なり、投資に対する短期的なリターンが要求される。モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)など時々によって注目される技術があるが、AICでは木よりも森を見て、各工場が全体的にうまくデジタル化されるには何が必要かを見極める。企業間の協力をベースに、各社にポイントを絞った導入プロジェクトを提案するという独自のアプローチを取っている」と述べた。

このスマートファクトリーでは、国内外の自動車大手から2次部品企業(Tier2)まで既に多数の実証プロジェクトが行われており、自動車産業による本格的なインダストリー4.0導入の取り組みの活発さがうかがえた。


ビスカヤ県アモレビエタ=エチャノ市の
オートモーティブ・インテリジェンス・センター(AIC提供)

ICスマートファクトリー(AIC提供)

日本のTier2部品メーカーとのパートナー関係を模索

AICは、日本の大手完成車メーカーからの実証実験の請負や、電気電子分野の企業のプロジェクトチームの入居、人材交流などで、日本や日本企業とも関係が深いが、今後は特に、部品メーカーとのパートナーを深めていきたいとしている。

「大手部品メーカーだと当地のTier1と競合するので難しいかもしれないが、日本からの海外展開を検討するTier2企業なら、バスク州の自動車部品企業はパートナーの選択肢となり得るはずだ。多くのバスク州の部品企業は国際的なネットワークを持ち、日本企業の関心が依然強いメキシコでも、中南米諸国との言語・文化的親和性を活用して強力な足掛かりを築いている。AICはそうしたパートナー関係づくりに適したプラットフォームだ」と、ピニャン部長は期待を寄せる。

ものづくりの集積地バスク州で進むインダストリー4.0とオープンイノベーション

  1. 自動車部品クラスターの次世代車開発拠点「AIC」が進める競争力強化(スペイン)
  2. イノベーション施策を通じ、スタートアップとダイムラーなど州内大企業が協業(スペイン)
執筆者紹介
ジェトロ・マドリード事務所
伊藤 裕規子(いとう ゆきこ)
2007年よりジェトロ・マドリード事務所勤務。

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