【中国・潮流】日本企業の対中投資は回復するか

2019年1月16日

中国商務部の発表によれば、2018年1月~11月の中国の対内直接投資は、前年同期比1.1%増の1,212億6,000万ドルと前年並みだが、日本からの投資は24.1%増の36億6,000万ドルと好調で、2017年通年の実績(32億7,000万ドル)を超えた。仮にこのまま推移して、2018年が前年比で2桁の伸びを達成すれば、日本からの対中投資は5年ぶりの大幅な回復基調となるが、中国経済の変調、2019年初から株価が乱高下するなど米中貿易摩擦の影響の広がりが懸念される。

日本の対中投資は、2008年のリーマン・ショック以降、拡大基調が続き、2012年に過去最高の73億8,000万ドルを記録した。しかし、反日行動の影響を大きく受け、2016年はピーク時に比べて半分以下の水準(31億1,000万ドル)まで落ち込み、2017年まで低水準で推移してきた。

2018年は日中平和友好締結40周年で、日中首脳の相互訪問が実現した。10月に北京を訪問した安倍晋三首相は、「競争から協調へ」「日中両国の関係は、今まさに『新たな段階』へと移りつつある」と述べた。日中間の政治的な融和を背景に、日本企業の対中マインドにも明るい兆しが見られた。

ジェトロの「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によれば、中国に進出している日系企業は、景況感(DI)、事業拡大意欲ともに改善傾向にある。

特に、事業拡大意欲(今後1~2年の事業展開の方向性)に関する設問では、「拡大」と回答する企業の割合が2015年に38.1%(20カ国・地域中19位)にまで落ち込んだが、2018年は48.7%(同17位)と2015年より10.6ポイントも回復している。

一方、「縮小」もしくは「第三国(地域)への移転・撤退」と回答した企業の割合は低下している。2015年に10.5%まで上昇したその割合は、2018年はピークだった2015年から3.9ポイント低下し、6.6%となった。これは、(1)人件費・調達コストの増加、(2)売り上げの減少、(3)労働力確保が難しいなど、中国から労働集約型の輸出産業が移転、撤退する動きに一服感があるためといえるが、「国内販売比率」と「事業拡大意欲」、「輸出比率」と「縮小」「第三国(「地域)への移転・撤退」との相関性は強く、中国で輸出比率の高いビジネスに取り組む企業にとっては、厳しい状況が続いている。

こうした中、懸念されるのが、米中貿易摩擦の影響である。とりわけ、米中貿易摩擦が日本企業の対中投資動向にどのような影響を与えるのかは、注目すべきポイントである。国際協力銀行の「2018年度海外直接投資アンケート結果(第30回)」によれば、保護主義政策が企業の海外直接投資に与える影響について、「影響がない」が46.6%、「分からない」42.1%、「海外投資の増加が見込まれる」6.1%、「減少が見込まれる」5.2%となった。

同アンケートによると、「影響がない」との回答には「国際貿易をめぐる不確実性の高まりを受け、投資判断を保留している」などの意見が含まれており、今後の動向次第では、投資の手控えなどの形で影響が広がる可能性があると指摘する。

「海外投資の増加が見込まれる」との回答には、自動車関連企業が多く、「市場としての米国・中国の大きさは引き続き魅力であり、直接投資は継続していく」との声があったと指摘するが、この結果は、実際の2018年上半期の日本企業の対中国投資動向にも強く表れている(2018年11月9日地域分析レポート参照)。

海外直接投資の増減理由の比較では、米国は増加が減少を上回った一方、中国では増加と減少が同数であった。また、注目点として、米国と中国以外の直接投資が増加するとの回答も多かったと分析されている。

ちなみに、台湾の中華経済研究院などによれば、台湾の製造業全体の61.6%が、中国(大陸)に工場または営業拠点を有しており、米中貿易摩擦を理由に、投資先や工場・サービス拠点の変更・移転で「台湾回帰」を検討する企業の割合が、製造業全体の12.3%だったのに対し、ASEANを検討する企業の割合は18.5%と、台湾を上回った。

日本企業の対中投資は、本格的な回復基調に戻ることができるのか、他国・地域企業の投資動向とともに、注視していく必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課長
天野 真也(あまの しんや)
1993年、ジェトロ入構。ジェトロ・北京事務所(1998~2002年)、本部海外調査部中国北アジア課課長代理(2002~2005年)、ジェトロ・広州事務所(2005~2010年)、本部企画部北東アジア事業推進主幹(2010~2011年)、ジェトロ・武漢事務所所長(2011~2015年)ジェトロ・広州事務所所長(2015~2018年)を経て、2018年より現職。