高度外国人材を活用したベトナムビジネスが拡大
ベトナムへの展開と高度外国人材をテーマにセミナー開催

2019年9月27日

日本企業の進出が続くベトナム。進出した企業の拡大意欲は高いが、頭を悩まされるのは人材難だ。そこでカギとなるのが「高度外国人材」。本レポートでは、ベトナム人を採用するメリットや注意点について、先行する事例を中心に解説する。

ベトナムでの事業は拡大、人材不足を高度外国人材で克服

日本企業の海外展開先として、ベトナムは依然として高い注目を集めている。ジェトロが実施した「2018年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、「現在、海外に拠点があり、今後さらに海外進出の拡大を図る」と回答した企業のうち、拡大を図る国・地域について35.5%の企業がベトナムと回答し、中国に次いで2位につける。他方、こうした海外ビジネスの課題として挙げられるのは、担い手となる人材の不足にある。この調査で、「海外ビジネス(輸出・海外進出)の課題」として、54.5%の企業が「海外ビジネスを担う人材」が不足していることを挙げている。

この担い手となる人材として期待されるのが、「高度外国人材」だ。同調査でも、外国人材の雇用もしくは採用を検討するという中小企業が58.6%と半数を超え、外国人材の登用によって海外展開を図ることは一般的な選択肢となりつつある。中でもベトナムについては、近年、日本への留学生数が急伸していることがベトナム人材採用を後押しする。2018年度にベトナム人留学生は7万2,354人と、2014年度比で2.7倍に伸び、中国に次ぐ規模となっている(図参照)。 こうした中、ジェトロ名古屋は7月19日、「高度外国人材と目指すベトナム展開」をテーマとしたセミナーを名古屋市内で開催した。

図:外国人全留学生数の推移
2018年度にはベトナム人留学生は、7万2,354人と2014年度比で2.7倍に伸びている。

注:各棒グラフ上の数値は、全留学生の数。
出所:日本学生支援機構「外国人留学生在籍状況調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」からジェトロ作成

世代によって異なる背景や価値観を持つベトナム人

まず、ジェトロ・ホーチミン中小企業海外展開現地支援プラットフォーム(注1)の財部真奈美コーディネーターが、ベトナムの経済動向に加え、ベトナム人材の特徴について解説した。

同氏によると、2018年には約14万人のベトナム人が28カ国・地域に労働者として派遣された。最大の派遣先が日本で、約48%の6万8,737人だった。次いで台湾が約6万人、韓国が6,500人だった。親日と言われるベトナム人だが、世代によってその背景や価値観はさまざまであり、日本に対する捉え方も異なるという。1970年代生まれ(人口の約13.7%)はベトナム戦争と貧困を体験し、社会主義思想の影響を強く受けており、尊敬や憧れの念を日本に抱いている世代だ。1980年代生まれ(人口の約16.5%)はドイモイ(刷新)政策により、広く海外に関心を持ち始め、社会主義と市場経済の両立が始まった時代を経験しており、ODAなどの国際協力を通じて日本にポジティブな印象を抱いている。また、1990年代生まれ(人口の約17.3%)は、70年代生まれの子ども世代に当たり、資本主義の影響が色濃く出始めた時代で、高い経済成長の下、米国への憧れや、外国に移住した越境人のリターン、留学経験者の増加などを経験しており、アニメなどの日本文化に触れることで、日本に興味を持っている。

異なる文化的背景を認識した上でのベトナム人材の活用が大事

セミナーでは続いて、海外展開と高度外国人材活用の事例として、建築物の電気設備の設計・施行・管理を行う光電気工事の取締役の大西昭光氏から発表があった。ベトナムで初めて採用面接をした際、「失敗をどう克服し、何を学んだか」と聞いたところ、「失敗したことはありません」と即答され驚いたという。ベトナムでは自分の失敗を他人に知られることは恥だと捉える傾向にあり、日本と同じ面接方法はそもそも通用しないことを実感したという。

また、採用したベトナム人が来日した際、現金を3万円分しか持っていなかったため、会社のサポートと本人の徹底的な節約でなんとか乗り越えたことなど、ベトナム人と接する上での文化的背景の違いによる注意点について、実体験を交えて語った。さまざまな苦労があった一方で、日本語もわかる高度人材を採用したことで、ベトナム進出時に、現地語の契約書類の内容確認や、現地調達を行う際に部材価格の相場の把握がたやすくなったという。

セミナー後半のパネルディスカッションでは、医療材料メーカーのオオサキメディカル営業推進部購買・物流課CRM課長の西室周並氏などから、高度外国人材の受け入れ前の期待と受け入れ後の感想について、「予想以上に能力が高く、仕事への取り組みは非常に積極的だった」と口をそろえてポジティブな意見が出た。会場からの「日本で採用して海外法人で勤務する場合の給与差に高度外国人材は不満を持たないか?」といった質問に対し、大西氏は「それでも、現地の相場から考えると給与は倍以上に設定しており、不満はないと考えている」と説明した。

ジェトロでは、こうした高度外国人材を採用し、海外ビジネスの拡大を検討する企業をサポートする伴走型支援(注2)に2019年度から取り組んでいる。


セミナーの様子(ジェトロ撮影)

注1:
中小企業のビジネスへの関心が高い国・地域(16カ国・地域の23カ所)で、現地の協力機関や公的機関のネットワークを有効活用して、ビジネスの成功に向け支援するサービス。各プラットフォームには、現地での知見や地元政府当局、地場企業などとのネットワークに強みを持つコーディネーターを配置し、海外展開に関する企業からの相談に対応している。
注2:
高度外国人材活躍推進コーディネーターによる伴走型支援:高度外国人材の活用を考える中堅中小企業に対し、関係機関の取り組みや高度外国人材に関連する情報に精通したコーディネーターが支援するサービス。支援企業には、継続的な訪問などのフォローを通じて、高度外国人材採用の計画策定から採用活動、採用後の社内制度整備まで、多岐にわたるアドバイス・情報提供を実施。
執筆者紹介
ジェトロ ビジネス展開・人材支援部 国際ビジネス人材課
河野 尭広(こうの たかひろ)
2015年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部新興国進出支援課(2015年4月~2019年3月)を経て2019年4月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ名古屋 高度外国人材活躍推進コーディネーター
脇村 美緒(わきむら みお)
中国工場の生産管理、ベトナム進出コンサルタントを経て、2019年から現職。東海・北陸地域の日本企業における高度外国人材の活用をサポートしている。