越境EC普及の理由に迫る(その1)(ブラジル)
郵便輸入手続きの電子・簡素化が寄与

2019年10月7日

ブラジルの越境電子商取引(EC)に、いま新たな動きが起きている。ブラジル人消費者による海外ECサイトの利用者が増え、国内のECサイトでも、ブラジル国内に在庫を持たない出展企業が増えてきた。いまだ国内に在庫を持つ出展企業が多いECサイトが主流だが、ブラジル国外から商品を調達する海外ECサイトも、一定の市場を確保しているようだ。高額な輸入関税が課され、税関での罰金リスクもあるブラジル市場で、なぜ越境ECが普及し始めたのか。その理由を探った。

海外ECサイトが普及、国内ECサイトにも海外在庫供給店舗が登場

中国越境EC大手のアリエクスプレスは、ブラジル市場を世界の5大市場の1つに位置付け、現地の決済IT企業と共同で30日間の期間限定店舗を開設した(2019年9月11日付ビジネス短信参照)。

米国のアマゾンは、2012年にアマゾン・ブラジルとしてブラジルに進出。当初は書籍販売のみだったが、徐々に取り扱い製品を増やし、現在は電気電子製品や衣服まで対象製品を拡大し、2019年9月にはアマゾン・プライムを開始した。アマゾン・ブラジルは国内に在庫を持ち製品を供給するが、米国のAmazon.comはブラジルへの配送サービスを行っている。米国インターネットオークションのイーベイ(eBay)も、ブラジルへの配送サービスを行っている。

香港発の電気電子製品通販で有名なギアベスト(GearBest)、主に中国からの低価格商品通販で急成長する米国発のウィッシュ(Wish)など、海外ECサイトもポルトガル語サイトを整備し、ソーシャルメディアを通じてブラジルへの広告宣伝を活発化している。

中南米有数のECマーケットプレイス運営事業者で、ユニコーン級企業に成長したアルゼンチン発のメルカド・リブリも、ブラジルでの事業開始直後は、ブラジル国内に在庫を持つ出展企業で構成されていた。しかし、2019年以降は、ブラジルに在庫を持たず注文が入る都度、中国など海外から製品を輸入して提供する企業も増えてきた。メルカド・リブリと競合する、ブラジルのベー・ドイス・ダブリュー(B2W)が運営するECサイトAmericanas.comにも、中国から製品を供給する企業が登場している。

海外ECサイトの普及によって成長したブラジル発のフィンテック・スタートアップ企業にも、注目が集まっている。オンライン決済を仲介するイーバンクス(EBANX)は、携帯アプリを使用してブラジル消費者の海外ECサイトへの支払いを仲介し、多様の決済手段を提供する。近々、ユニコーン級企業になる、と市場関係者の間で期待されている。

輸入国際小包の急増により2018年8月から配送料一律15レアル徴収

ブラジル国内や海外のECサイトが最も利用している物流手段は、ブラジル郵便電信公社(Correios、以下、ブラジル郵便と略記)が受け手となり、追跡番号による運送状況把握が可能な郵便航空荷物である。ブラジル郵便の輸入貨物は、国際空港・港湾から荷物の体積、重量、配送スピードによっていったん、サンパウロ、リオデジャネイロ、クリチバの国内3カ所の国際郵便集配センター(CEINT)に振り分けられる。その後、関係当局と連携して、一部自動化されたX線検査や、大量の人員も投じた通関手続きを行っている。例えば、中国ECサイトの注文は米国や欧州経由で、国内最大の物流取扱量を誇るサンパウロのグアルーリョス空港に到着後、2キロ未満の航空便荷物を扱うクリチバのCEINTに振り分けられるのが一般的だ。

ところが、越境ECの普及により輸入が急増し、1日当たり国際取り扱い荷物個数が2018年5月時点で30万個と、2017年12月末比で3倍に増加。配送到着までに3カ月以上かかる事態となった。この結果、ブラジル郵便では、2018年8月26日までの輸入小包は非課税であれば配送料なしで配達されていたが、今後はすべての輸入小包は配送料15レアル(約390円、1レアル=約26円)を徴収することになった。ブラジル郵便は、15レアルの配送料は競合となる民間ロジスティック会社などの4分の1程度だと主張している。

輸入関税60%課税でも海外ECからの購入は決して高くはない

ブラジルでは、郵便貨物の輸入関税は出版物を除き、課税対象額(商品価額+輸送費+保険料)に対して一律60%が課せられ、さらにブラジル国内の州で異なる商品流通サービス税(ICMS:0~25%)が付加される(ブラジル郵便サイト参照)。このため、日本からみると高額な関税がかけられ、商売にならない、との指摘がある。

しかし、ブラジル国内で販売される輸入品は輸入関税(0~35%)、工業製品税(0~20%)、社会統合基金(PIS)2.1%、社会保険融資負担金(COFINS)9.65%などが課税される。輸入から販売までのブラジル国内でかかる流通マージンも考慮すると、海外ECサイトで購入する輸入が、ブラジル国内の店舗で購入する輸入品と比較して決して高額なわけではない。実際には、海外ECサイトで購入した方が安く手に入る、とのコメントも多い。

その一例がiPhoneである。ブラジル市場で安価にiPhoneを購入する方法として、(1)新古品やリファブリッシュ品を買う、(2)割引クーポンやキャッシュバックを利用する、(3)海外ECサイトを確認する、(4)クイントリー(Qwintry)、ショップファンズ(Shopfans)、シッピート(Shipito)といった国際荷物転送サイト(各社の倉庫をECサイトで購入した商品の送付先に指定し、同倉庫からまとめてブラジルなどの居住地に発送するサービス)を利用する、などの対応策が当地ソーシャルメディアに掲載されている。海外ECサイトの利用は、iPhoneのような高額製品を安く購入する手段の1つになっている。

国際郵便小包の輸入手続きの電子・簡素化で利便性が大幅に向上

ブラジルにおいて越境ECの普及に寄与したのが、ブラジル郵便における国際郵便小包の輸入手続きの電子化、簡素化である。これにより、輸入手続きの利便性が大きく向上した。

2017年10月27日以降、「ミーニャス・インポルタソンイス(マイ・インポート)」と呼ばれる、WEB上ですべての操作が可能な新簡易輸入システムが導入された。新システムは、ブラジル輸入関連法規や連邦収税局などによる関連当局の検査を変更するものではなく、以下のブラジル郵便の簡易輸入の運用を拡大して電子化したもの。

表:旧簡易輸入システムと新簡易輸入システムの比較
項目 旧簡易輸入システム 新簡易輸入システム
関税対象額(CIF) 500米ドルまで 3,000米ドルまで
送付先 個人 個人および法人
配送可能先 最寄りの郵便局まで 自宅まで
配送料・関税など支払い 現金 クレジットカード(ネット上決済可)またはボレト(注)
顧客との対話 郵便局またはEメール インターネット上(ログイン認証)
税金見直し 郵便局またはEメール インターネット上(ログイン認証)
補足データー提出 実物送付 インターネット上(ログイン認証)にアップロード

注:ブラジル銀行連盟が規定する請求書。銀行、郵便局、ATM、インターネットバンキングなどで、期日までに支払う。
出所:ブラジル郵便局ウェブサイトなどからジェトロにて作成

「輸入禁止または規制品目リスト」に掲出された品目は、海外ECでの購入が不可能あるいは困難になる。当リストに記載されるHSコードを確認しておきたい。

まずは多言語ECサイトの活用に集中投資すべき

このように、輸入関税が高いブラジル市場においても、一般消費者は一部の禁制品を除き、海外ECサイトで購入した商品を簡単に輸入できる時代になった。ユーチューブでは、ブラジルで海外ECサイトを通して購入した商品を、簡単に自宅に届ける方法や体験を解説している。

ブラジルでも、スマートフォン、ソーシャルメディア、ECサイトの普及が輸入ビジネスの構造や慣習を変えつつある。ブラジル市場における越境ECプレイヤーは、中国と米国企業が多く、日本企業の存在感は残念ながらまだ見られない。半面、ブラジル人消費者の間では、多少値段が高くても、品質や信頼性の高い日本製品を求めるニーズが存在する。

以上の現状を踏まえると、日本企業は、日本で脚光を浴びつつある多言語ECサイト開発・運用(または有力な海外多言語ECサイトへの出店)に集中投資して、日本国内の商品在庫を海外の消費者に直接売り込んでみるのも1つの戦略と言えそうだ。自社ウェブサイトと、多言語ECサイトの連携も欠かせない。他の海外ECサイトの取り組みをみると、多言語ECサイトを、現地のソーシャルディアを通じてインフルエンサーマーケテイングに取り組むことも有効だと言えそうだ。日本では、ブラジルから直接商品を発送するポルトガル語ECサイト「ロ―ジャ・ド・ジャポン」も登場している。

第2段階として、多言語ECサイトでの売れ行きが良い商品や同ECサイトでは規制上、取り扱えない商品については、現地インポーターの確保、代理店、現地販売法人、現地生産の必要性を段階的に検討していくことになると考えられる。

世界の使用言語別人口をみると、1位は13億人の中国語だが、2位は4億6,000万人のスペイン語、7位は2億2,200万人のポルトガル語である。

多言語ECサイトを活用して、日本国内に在庫されている商品を海外販売することは、ネット上で海外の消費者が日本に買い物に来るとも言え、ある意味でインバウンド・ビジネスの一種だと言える。その購入の手間や時間は、地理的な距離とは無関係だ。最近では機械翻訳の精度も上がり、幸いにも日本国内には日系ブラジル人などの多くの中南米人材が居住している。中国語サイトに加えて、スペイン語やポルトガル語といった多言語ECサイトの活用に取り組んでみてはいかがだろうか。

越境EC普及の理由に迫る(ブラジル)

  1. 郵便輸入手続きの電子・簡素化が寄与
  2. マイ・インポートによる輸入手続き方法
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所長
大久保 敦(おおくぼ あつし)
1987年、ジェトロ入構。ジェトロ・サンパウロ事務所調査担当(1994~1998年)、ジェトロ・サンティアゴ事務所長(2002~2008年)等を経て、2015年10月より現職。同年10月からブラジル日本商工会議所理事・企画戦略委員長、2017年1月から同副会頭。