「知られざる親日国」パラオで新たなビジネスの芽
2019年1月17日
太平洋島しょ国は14の独立国(以下、島しょ14カ国)などで構成され、ミクロネシア、メラネシア、ポリネシアの3地域に分けられる(図1参照)。一部を除き、国土や人口規模が小さい(表1参照)ため規模の経済が働きにくく、主要な国際市場から離れているため輸送コストがかかることなどから、日本企業からビジネス上の注目を集める機会が少ない地域となっている。こうした中で、同地域随一の親日国とされるパラオへ2018年12月に派遣された経済ミッションには、多くの企業が参加し、現地企業・政府関係者らと積極的な商談や会合が行われるなど、新たなビジネスの萌芽(ほうが)が見られつつある。

画像提供:国際機関 太平洋諸島センター(PIC)
太平洋島しょ国での外交的な動きが活発化
太平洋島しょ国は、日本にとっての鉱物資源や水産資源の供給地としてだけでなく、国際社会における日本の支持母体として、重要な役割を担ってきた。また、日本は第一次世界大戦から第二次世界大戦終結までの約30年間、ミクロネシア地域を統治したため、現地には今でも多くの日系人が存在するなど、日本との歴史的なつながりも深い。
一方、米国、中国、オーストラリアといった大国との地政学的な特徴から、これまで関係性の強かった米国からの財政支援が減少する中、海洋進出を強めたい中国の経済的・政治的関与が高まりつつある国もある。これに対し、同じく歴史的な関係性の強いオセアニア諸国も相次いで同地域への関与を強化する方針を示している。オーストラリア政府は2018年11月8日、20億オーストラリア・ドル(約1,560億円、豪ドル、1豪ドル=約78円)規模の太平洋諸国向けインフラ支援基金を設立すると発表。ニュージーランド政府も同日、1,000万ニュージーランド・ドル(約7億3,000万円、NZドル、1NZドル=約73円)で同様の基金を設立することを表明した。日本政府も「自由で開かれたインド太平洋構想」の下、インフラ整備や貿易・投資・観光分野への協力強化を打ち出すなど、同地域における関係各国の外交面での動きが活発化している。
国名 | 面積 | 人口 |
---|---|---|
クック諸島 | 237 | 20 |
ミクロネシア連邦 | 700 | 105 |
フィジー | 18,270 | 900 |
キリバス | 730 | 116 |
マーシャル諸島 | 180 | 53 |
ナウル | 21 | 14 |
ニウエ | 259 | 1 |
パラオ | 488 | 21 |
パプアニューギニア | 460,000 | 8,250 |
サモア | 2,830 | 200 |
ソロモン諸島 | 28,900 | 610 |
トンガ | 720 | 108 |
ツバル | 25 | 11 |
バヌアツ | 12,190 | 276 |
- 注:
- 人口は概数。順序は国名英文表記アルファベット順。
- 出所:
- 外務省ウェブサイト
日本と深い関係性を持つパラオ
島しょ14カ国のうち、最も親日的とされる国の1つがパラオである。第二次大戦終結までの約30年間にわたり日本が統治し、最大都市のコロールには当時のミクロネシア地域を統括する「南洋庁」が置かれ、多くの日本人が居住していた時期もあった。このため、太平洋島しょ国の中でも、特に日本の影響が強く残っているとされ、「ダイジョーブ」など日本語を起源としたパラオ語の表現や、「タロウ」「クニオ」といった日本人的な名前が姓名問わずに付けられるなど、現在でもその名残が色濃い。
また最近では、日本と時差がなく、チャーター便を使えば4時間30分と距離が近いことや、透明度の高い海など豊かな自然環境を有することなどから、日本から気軽に行ける観光地として知られるようになった。観光客を含むパラオへの日本人訪問者数は、2015年時点で3万1,026人と、島しょ14カ国への訪問者数(4万7,442人)の約3分の2を占め、他国を圧倒している(図2参照)。外務省の海外在留邦人数調査統計(2017年10月1日時点)によると、パラオにある日系企業は69拠点(登記上はパラオ人名義だが、実質的に日本人経営のものを含む)で、島しょ14カ国進出企業数(135拠点)の過半数に上る(表2参照)。ホテルやツアー会社などの観光関連サービスが太宗を占めている。
(総数:47,442人)

- 注:
- ただし、ナウルは数値不明。
- 出所:
- 国際機関 太平洋諸島センター(PIC)「統計ハンドブック2018」
国名 | 日系企業数 |
---|---|
パラオ | 69 |
フィジー | 20 |
ミクロネシア連邦 | 11 |
パプアニューギニア | 11 |
マーシャル諸島 | 4 |
ソロモン諸島 | 4 |
トンガ | 4 |
キリバス | 3 |
サモア | 3 |
バヌアツ | 3 |
クック諸島 | 2 |
ニウエ | 1 |
ナウル | 0 |
ツバル | 0 |
合計 | 135 |
- 注:
- 日系企業数の多い順。同数の場合は国名アルファベット順。
- 出所:
- 外務省「海外在留邦人数調査統計(平成30年要約版)」
対太平洋島しょ国で過去最大規模のミッションをパラオに派遣
このように日本と深い関わりを持つパラオに対し、2018年5月に日本で開かれた「第8回太平洋・島サミット」(2018年5月23日記事参照)を受けて、同年12月3~6日の期間、鈴木憲和・外務大臣政務官を団長とし、外務省、太平洋諸島センター(PIC)、国際協力機構(JICA)、ジェトロに加え、18の民間企業・団体から構成される官民合同経済ミッションが派遣された。太平洋島しょ国にこれまで派遣された同様のミッションとしては、フィジー(2015年)、サモア(2016年)、マーシャル諸島(2017年)があるが、今回のパラオは最大規模となった。参加した日本企業は、観光業、農業、水産養殖、インフラ、エネルギー、中古車、建機、海運、商社など多業種にわたった。
ミッション行程中の2018年12月4日にコロール市内で開催された、「日・パラオ貿易・投資・観光セミナー」では、業種ごとに日本企業各社がパラオをはじめとする島しょ国で展開したい事業などを紹介し、パラオ企業・政府関係者からは日本企業の投資を呼び込みたいプロジェクトなどの説明があった。それを踏まえて、セミナー翌日には日本側とパラオ側の間でビジネスマッチングが開催され、約60件の商談が行われた。民間企業側を取りまとめたPICによると、特に風力発電などのインフラ関連、農業、中古車、建機などの分野について関心が高かったとのことであった。
パラオは人口2万余りで、単独の消費市場として捉えるのは難しいが、エネルギー、食糧などを輸入に依存している経済状況に加え、同国の主要産業である観光業やその土台となる豊かな自然環境の維持などの社会的課題を解決するため、日本の先進的技術や知見に対する現地政府の期待は大きい。実際に、前述のセミナーで冒頭あいさつに立った、トミー・E・レメンゲサウ・ジュニア大統領は、観光業の発展および食の安全保障、環境に配慮した持続可能な経済社会の観点から、農林水産業やインフラ分野などへの投資に強い期待を示した。
人材交流の深化がビジネスチャンスに
太平洋島しょ国でのビジネスが、短期的に急伸する余地があるとは考えにくいものの、島しょ国の状況に詳しいある関係者は「(観光や留学などの)人材の交流が契機となって、ビジネスにつながる可能性がある」と指摘する。特に、2019年に開催予定のラグビー・ワールドカップ日本大会や2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会など、日本との人材交流が深化するチャンスが目前にある。一方、こうした人材交流に欠かせないインフラの1つである定期直行便に関しては、2018年7月にフィジー・エアウェイズが成田とナンディを結ぶ直行便が就航したのに対し、パラオについては2018年5月に成田からの直行便が運休しており、1日も早い定期直行便の再就航が待たれる。
向こう数年間の日本における大型イベントなどを、中長期的なビジネスチャンスにつなげていくために、太平洋島しょ国でのビジネス展開に関心のある企業と関係機関が連携・協力してオールジャパンで取り組みむことが期待される。

- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
竹内 直生(たけうち なおき) - 2005年、ジェトロ入構。経済分析部知的財産課(2005年~2008年)、ジェトロ香川(2008年~2011年)、展示事業部海外見本市課(2011年~2014年)(部署名はいずれも当時)を経て、2014年~2018年ジェトロ・ハノイ事務所勤務。2018年7月より現職。