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【中国・潮流】武漢は次世代の中国経済を牽引するか
日系企業のビジネスチャンスを探る

2019年11月29日

湖北省武漢市の最大の特徴は、若者人口の多さであり、当地経済が活況を呈する根幹だと感じている。武漢市の経済的地位や優位性、市場としてのチャンスはどこにあるのかについて他地域と比較するとともに、日系企業のビジネスチャンスを探る。

世界から見た武漢

世界に武漢はどのように見えているのか。11月12日にUN-HABITAT(国連人間居住計画)と中国社会科学院財経戦略研究院が公表した「グローバル都市競争力報告(2019-2020)」では、武漢市は「経済競争力」で第43位にランクインしている(表1参照)。トップ50にランクインした中国の都市の多くは沿海地域の都市で、武漢は内陸部の都市として唯一ランクインした。一方で、何が評価されてこの位置にいるのか、公表されている範囲では把握できない。同報告書の「持続可能競争力」では武漢は122位であり、一過性の高評価と判断されている可能性もある。

表1:経済競争力のある都市(上位50位)

順位 都市名
1 ニューヨーク
2 ロンドン
3 シンガポール
4 深圳
5 サンノゼ
6 東京
7 サンフランシスコ
8 ミュンヘン
9 ロサンゼルス
10 上海
11 ダラス・フォートワース
12 ヒューストン
13 香港
14 ダブリン
15 ソウル
16 ボストン
17 北京
18 広州
19 マイアミ
20 シカゴ
21 パリ
22 フランクフルト
23 テルアビブ・ヤフォ
24 シアトル
25 蘇州
26 ストックホルム
27 フィラデルフィア
28 シュトゥットガルト
29 大阪
30 トロント
31 ボルチモア
32 ブリッジポート·スタンフォード
33 デュッセルドルフ
34 サンディエゴ
35 ジュネーブ
36 アトランタ
37 クリーブランド
38 バース
39 デンバー
40 デトロイト
41 イスタンブール
42 南京
43 武漢
44 台北
45 シャーロット
46 ナッシュビルダビットソン
47 ミネアポリス
48 ベルリン
49 オースティン
50 ハンブルク

出所:「グローバル都市競争力報告 (2019-2020)」を基にジェトロ作成

中国の主要都市と比較した武漢

次に、PwCが中国発展研究基金会(CDRF)と共同で公表した「Chinese Cities of Opportunity 2019」(以下、都市機会レポート)では、さまざまな角度から都市別のランキングを掲載している。

都市機会レポートによれば、武漢は高等教育在校生の規模や就業者の教育レベルなど8項目で、トップ10にランクインしている(表2参照)。特に、高等教育在校生の規模では1位、教育レベルと国家重点実験室(ラボ)の設置数ではいずれも3位に位置付けられており、武漢は高等人材の集積地であると評価されている。

表2:武漢のランキング(項目別)

高等教育在校生の規模
順位 都市名
1 武漢
2 広州
3 北京
4 上海
5 鄭州
6 重慶
7 成都
8 西安
9 南京
10 ハルビン
就業者の教育レベル
順位 都市名
1 石家庄
2 ハルビン
3 武漢
4 蘭州
5 長沙
6 瀋陽
7 北京
8 大連
9 ウルムチ
10 南京
国家重点実験室
順位 都市名
1 北京
2 上海
3 武漢
4 南京
5 香港
6 深圳
7 蘇州
8 成都
9 天津
10 蘭州
知的資本とイノベーション
順位 都市名
1 北京
2 上海
南京
長沙
5 武漢
6 広州
7 西安
8 成都
9 杭州
10 鄭州
文化と生活の質
順位 都市名
1 マカオ
2 香港
3 上海
長沙
5 福州
6 武漢
7 南京
8 寧波
9 海口
10 杭州
イノベーション都市指数
順位 都市名
1 香港
2 北京
3 上海
4 天津
5 杭州
6 広州
7 南京
8 武漢
9 蘇州
10 成都
経済影響力
順位 都市名
1 北京
2 香港
3 深圳
4 上海
5 杭州
6 成都
7 広州
8 西安
9 武漢
10 重慶
地域の重要都市
順位 都市名
1 上海
2 北京
3 香港
4 広州
5 重慶
6 深圳
7 成都
8 杭州
9 武漢
10 西安

注:武漢が上位に位置する主要指標のみ抽出。
出所:「Chinese Cities of Opportunity 2019 」を基にジェトロ作成

大学生の集積地としての武漢-沿海主要都市への人材流出が課題-

武漢が人材集積地の1つとなった背景には、清朝末期に、武漢(漢口)が天津、上海、広州と並び、内陸で唯一租界として開放され、「洋務運動」(列強の技術導入による国力増強)の一環で、大学の拠点づくりが開始されたことが影響している。

現在、武漢には、中国最多といわれる120万人超の大学を含む高学歴学生が在籍している。武漢市の若者(15歳~34歳)は、武漢市人口(約1,100万人)の25%、生産年齢人口(15歳~65歳)においては約8割を占めるとされる。こうした若者の生活向上への意欲は強く、当地の消費や起業に貢献している。

また、理系人材が多く、華中科技大学、武漢科技大学、武漢理工大学、武漢大学などに、約20の国家重点ラボが設置(都市機会レポートでも3位)されており、光通信、デジタル製造、新素材、バイオ、医療などの研究が進められている。一方で、こうした理系の高度人材は、当地に根付いているとは言い切れない。例えばAI(人工知能)人材については、2019年8月、北京科学技術委員会の楊仁全副主任が、中国成立70周年記念記者会見の場で「中国全国で6万7,000人いるうち、4万人近く(全体の6割)が北京にいる」と発言(「中国新聞網」2019年8月22日付)しており、当地の理系人材も、北京はじめ沿海主要都市に多く流出していることがうかがえる。都市機会レポートにおいても、人材は豊富な一方、武漢から沿海主要都市に流れていく傾向にあることが示されている。

武漢に「第二本部」を設置する新たな動き

武漢市政府は(1)卒業生に対する戸籍取得の簡素化、住居提供、創業支援、(2)武漢へのITデジタル産業の投資誘致、に注力している。(1)(2)は他の地域でも散見される取り組みだが、(2)については近年、人材獲得を目的に、中国有数のITデジタル企業が、武漢に「第二本部」を設立する動きが加速している。例えば、ニュースアプリの「今日頭条」(Toutiao)、スマートフォン・IT機器の「小米科技」(xiaomi)、IT大手の「神州数码集団」(デジタルチャイナ)、SNS型EC(電子商取引)アプリの「小紅書」(RED)、オンライン教育の「猿輔導」(ユアン・フーダオ)などが挙げられる。現在、武漢にはユニコーン企業17社、上場企業21社を含む約80もの有力ITデジタル企業が「第二本部」を設置しており、現地メディアも度々「光谷(大学周辺のIT開発区)は、中国における第2本部の集積地」と紹介している。

日系企業のチャンスはさまざまな分野にあり

武漢は、鉄鋼、自動車を基幹産業として成長してきた地域であり、当地日系企業も、自動車、自動車部品など関連産業の割合が圧倒的に高い。日系自動車関連産業は総じて好況で、当地への投資を検討する企業は現在、なお相次いでいる。上記以外で、新たに投資が期待できる分野としては以下が挙げられる。

(1)ITデジタル関連企業との提携

多くのIT企業の「第二本部」の進出が増えているほか、政府の創業支援策により、スタートアップ企業も玉石混交で増加している。まだ成功事例はあまり見られないが、日本に新たな市場を構築し得るアイデアを持つ企業も多く潜在している。

(2)日本との直航便を生かした「メード・イン・ジャパン」産品の市場拡大

大阪(神戸、名古屋)と武漢を結ぶ直航便が11月28日から週1便で開通する。上海での積み替えが不要となり、輸送日数が短縮され6日で荷揚げが可能になる。フリーズやチルドをはじめとする温度管理ができるコンテナによって、これまで輸送されてきた自動車部品や電子機器以外に、日本の生鮮食品の輸送が可能となり、販路開拓に期待できる。

(3)新たなサービス市場の創造

7月24日に発表された「アリババナイトエコノミー報告」では、武漢市は夜間消費が旺盛な都市TOP10にランクインした。しかし、その中身は、夜間交通利用で第4位、夜間宅配で第2位と上位であるものの、映画、舞台、演奏などの文化消費や、外食消費に関していえば、ランク外だ。これは、武漢人は夜活動するものの、外には魅力的なサービス提供が少ないことを表しているように思える。現在、日本国内で観光客向けに研さんが重ねられる多様なサービスが提供できる可能性がある。

(4)環境・省エネなど、課題対応型産業の市場開拓

都市機会レポートにおいて、武漢は、緑化面積(ワースト4)、汚水集中処理率(同15)、温暖化ガス排出レベル(同19)、大気レベル(同12)など、環境対策の評価は総じて低い。今後、さらなる環境対策が求められることから、既進出の日系企業にとっては負担増となる一方、日系の環境・省エネ関連企業にとってはビジネスチャンスとも成り得る。

武漢市の大学が輩出する年間30万人の若い人材は、これまでの沿海地域への流出から、徐々にITデジタル産業などの地場産業に定着するようになってきている。消費性向の高い若者の定着は、地元の景気を底上げしている。われわれ日系企業にとっても、上述のようなIT企業との提携や、高付加価値の日本産品の輸出、新たなサービスによるナイトタイムエコノミー市場でのシェア獲得、ひいてはVOC(揮発性有機化合物)処理や土壌浄化などの環境ビジネスの開拓など、多くのチャンスが期待できるのではないだろうか。

執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
佐伯 岳彦(さえき たけひこ)
1999年経済産業省入省、在瀋陽日本国総領事館(経済領事)、経済産業省自動車課(中国、アジア、アフリカ担当)、同省北東アジア課(中国担当)を経て、2019年6月から現職。

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