ネット利用が拡大する中国のアクティブシニアに商機

2019年5月23日

2018年末に、中国の60歳以上の人口が約2億5,000万人に達した。高齢者の中でも、アクティブなシニアを指す「活力老人」は、インターネットを使いこなし、ネットショッピングの利用が拡大している。その消費動向をつかみ、インターネットを活用することが、日本企業がアクティブシニアマーケットへ参入する際の鍵となりそうだ。

注目される高齢者の消費市場

中国の60歳以上の人口が2億4,949万人に達し、総人口に占める割合が17.9%となった(注1)。2016年末時点の高齢者の消費市場規模は2兆8,510億元(約45兆6,160億円、1元=約16円)で、2021年には2倍近い5兆6,910億元に上ると試算されている(注2)。

中国政府は、高齢者に関連する消費の拡大に注目している。劉鶴副首相は、高齢化が進み巨大なニーズが生まれている現状について、「このチャンスをつかみ、既存の産業からモデルチェンジして新たな産業として発展させるべきだ」と述べた(「新華網」2018年10月19日付)。

豊富な経験を有する日本企業も、中国の高齢者消費市場に注目している。ジェトロが毎年中国各地で開催する「日中高齢者産業交流会」に参加する企業数は年々増加している(2019年3月29日4月17日記事参照、注3)。

高齢者向け施設を運営する日系企業の中国進出は、2012年ごろから始まった。最近では、南京にエフビー介護サービス(本社:長野県)、天津にメディカル・ケア・サービス(埼玉県)、大連にニチイ学館(東京都)、サンガホールディングス(埼玉県)の施設が開設された(表参照)。

表:中国で高齢者向け施設を運営する日系企業の主な例
企業名 事業概要
ニチイ学館 2018年に大連で介護施設を開設
リエイ 2013年に上海、2017年に南通で介護施設を開設
メディカル・ケア・サービス 2014年に南通、2017年に広州で介護施設を開設
2018年に天津で認知症専門施設を開設
ロングライフ・ホールディング 2012年に青島、2019年に大連で介護施設を開設
AYA医療福祉グループ 2014年に大連初の日本式デイサービス施設を開設、大連市内に3拠点を有する。
エフビー介護サービス 2017年に大連、2018年に南京で介護施設を開設
長谷川トラストグループ 2016年にハルビンで約1,000床の介護施設を開設
サンガホールディングス 2015年に瀋陽で1,000床規模の介護施設を開設
2019年に大連で「民設公助」形式の介護施設を開設
アースサポート 2016年に上海でデイサービス拠点を開設
アコード 2017年に広東省中山市で認知症グループホームを開設

出所:各社ウェブサイトなどを基にジェトロ作成

アクティブシニアのネットショッピング利用が拡大

一方、中国の高齢者は、介護や介助が必要な人ばかりではない。2015年時点の60歳以上の人口のうち、80歳以上は1割で、9割近くが60~79歳であった(図1参照)。中国では、まだまだ元気なアクティブシニアを指す、「活力老人」という言葉がある(注4)。「銀髪族(シルバー族)」と呼ばれることも多い。

図1:年齢別高齢者人口(単位:億人)
中国の高齢者市場全体規模を、日常消費、疫病管理、ケアサービス、養生理療、社交娯楽、養老金融の6分野について分野別に金額で示したもの。2016年の実績と、2017年から2021年までの各年の予測を示している。単位は億人民元。2016年は、上記順に、1,800、2、212、382、324、132で計2,851であった。2017年は2017、2、249、453、394、141で合計3,257。2018年は2,265、3、286、539、480、151で合計3,724。2019年は2,547、4、331、643、586、161で合計4,273。2020年は2,872、6、385、769、718、173で合計4,921。2021年は3,254、8、450、922、882、185で合計5,691。

出所:「2017中国老年消費習慣白書」を基にジェトロ作成

中国の60歳以上の高齢者は、5人に1人がインターネットを利用している。中国インターネット情報センター(CNNIC)によると、2018年12月時点の中国国内のインターネット利用者は8億2,851万人に達し、そのうち6.6%が60歳以上の利用であった。

インターネットの浸透とともに、ネットショッピングの利用も拡大している。2018年10月に、中国の電子商取引(EC)大手アリババが発表した「シルバー族消費増加データ」によると、アリババのプラットフォーム「淘宝(タオバオ)」と「天猫(Tモール)」を利用する50歳以上の消費者は、3年間で1.6倍になった。特に、地方都市の居住者による利用の伸びが顕著だった。また、北京では化粧品、深センではカメラ、成都では運動用品、上海では衣類が最も売れた商品であった。上海における衣類の販売量は北京の2倍で、都市ごとにも特徴があった。なお、アリババのほか、京東、C-trip、蘇寧などもアクティブシニアのネットショッピング利用が拡大していることについてデータを発表している。

ネット活用がビジネスチャンスをつかむ鍵

アクティブシニアマーケットの現状や日本企業の参入ポイントについて、中国の高齢者産業分野の調査活動やコンサルテーション、インキュベーションサービスなどを提供するAge Club(本社:北京)の創始者である段明杰氏に話を聞いた(2019年2月26日)。


Age Clubのオフィスとメディアサイト(ジェトロ撮影)

同社は2016年に設立され、2017~2018年で計800万元ほどの投資を受けた、いわゆるスタートアップ企業だ。高齢者産業分野の調査やコンサルテーション、講演、視察アレンジのほか、同業界のイノベーション企業に対し、インキュベーション機能やオフィススペース、融資を提供して創業支援を行う。また、自社メディアサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます やWeChatの公式アカウントなどでレポートやニュースを発信している。アクセス数は、1週間で計10万回以上になるという。読者や参加者と、商品やサービスのマッチングも行っている。

質問:
設立にいたった経緯は。
答え:
高齢者産業分野におけるコンサル会社でコンサルテーション顧問および産業研究をしていた経験から、同業界には介護が必要な高齢者に対する商品やサービスを扱う企業は多い一方で、アクティブシニアに注目する企業が少ないと感じていた。アクティブシニアには消費力があり、市場の大きさや今後の発展の可能性にビジネスチャンスを見いだした。また、アクティブシニアの中には、退職後に時間をもてあまし、孤独感から体調を崩す人もおり、このような問題の解決にも貢献したいとの考えがあった。
質問:
Age Clubのメディアサイトが他社と異なる点はなにか。
答え:
高齢者産業の業界研究を出発点としており、深い研究ができる点、関連する多くのデータを有する点が強みである。また、同業界の各種プラットフォームやアプリケーション開発企業とのコネクションも多数ある。今後は、日本語のメディアサイトを開設し、同業界の調査結果や市場分析などの情報を日本語でも発信する予定だ。
質問:
現在のアクティブシニア市場をどのように捉えているか。
答え:
弊社の各メディアサイトの読者やお気に入り登録者数の多さから、需要はあると確信しているが、商品やコンテンツなどの供給が足りていない状況である。弊社のメディアサイトは現在、消費者のニーズとベンダーをマッチングするプラットフォーム機能の整備も進めている。メーカーや代理店が、自社商品やサービスを登録し、買い手は自由にコンタクトを取ることができるような仕組みを構築予定だ。日本語にも対応させる予定で、日本企業の参入も歓迎する。
質問:
日本企業が参入する際のポイントはなにか。
答え:
日本では、ネット社会が本格的に到来する前に既に高齢化問題が進展していたため、オフラインの商品やサービスが充実し、エコシステムが形成されている。一方、中国ではネット社会と高齢化問題がまさに同じタイミングで進行しており、オンライン上の商品やサービスが圧倒的に多い。中国では高齢者のインターネット利用も盛んで、特に、化粧品や美容用品、レジャー用品、装飾品などのネットショッピングが伸びており、さらなる伸びも期待されている。中国の高齢者産業分野、とりわけアクティブシニアマーケットへの参入には、オンライン上の商品やサービス展開を図る必要もあるだろう。
中国の高齢者、特にアクティブシニアは、インターネットを使いこなし、ネットショッピングなどでも消費している。オンライン上で良い商品やサービスを見つけると、SNSで発信したり、友人にシェアしたりして情報を拡散することも一般的だ。今後、改革開放政策のもとで育った世代が高齢になるにつれ、自身のために消費する高齢者がさらに増加することが予想される(図2参照)。中国の高齢者、中でもアクティブシニアの特徴を理解し、インターネットを活用することが、ビジネスチャンスをつかむ鍵となるだろう。
図2:都市高齢者の収入別人口予測(単位:億人)
中国の都市における高齢者の収入別人口予測を示したもの。世帯月収4,000元以下の低収入高齢者、4,000元以上10,000元以下の中収入高齢者、10,000元以上の高収入高齢者の3つに区分し、2015年の実績と、2017年以降の予測を示している。2015年時点では都市高齢者人口は1.15億人で、それぞれ2,200万人、7,900万人、1,400万人であった。2017年の予測は、1.32億人のうち、それぞれ2,500万人、9,000万人、1,600万人、2020年の予測は1.62億人のうち、それぞれ3,100万人、1億1,100万人、1,900万人、2022年の予測は1.87億人のうち、それぞれ3,600万人、1億2,900万人、2,200万人である。

出所:「2017中国老年消費習慣白書」を基にジェトロ作成


注1:
国家統計局の2018年末時点の統計。中国では「老年人社会福利機構基本規範」において高齢者を指す「老年人」の定義を60歳以上としており、各種統計などでは高齢者を60歳以上とすることが一般的。なお、同出所によると、65歳以上の人口は1億6,658万人で、総人口に占める割合は11.9%だった。
注2:
上海幸福九号インターネット科学技術「2017中国老年消費習慣白書」。
注3:
2018年度のジェトロ「日中高齢者産業交流会」の開催状況についてはウェブサイト参照(中文)
注4:
「活力老人」に正式な定義はないが、50歳以上からを対象とする場合もある。中国は日本に比べて平均寿命が短く、定年退職年齢も早い、などの理由から、一般的に高齢者を指す年齢層も下がるとされる。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2019年8月16日)
第2段落
(誤)2016年末時点の高齢者の消費市場規模2,851億元(約4兆5,616億円、1元=約16円)で、2021年には2倍近い5,691億元に上る
(正)2016年末時点の高齢者の消費市場規模は2兆8,510億元(約45兆6,160億円、1元=約16円)で、2021年には2倍近い5兆6,910億元に上る
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 対外業務部 副部長
唐澤 和之(からさわ かずゆき)
2012年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部知的財産課(2012~2015年)、ジェトロ北海道(2015~2018年)を経て、2018年9月より現職。