鉱物資源や海洋観光が牽引する西パプア州(インドネシア)
地方経済を見る(2)

2019年3月26日

インドネシアでは、2014年にジョコ・ウィドド政権が誕生して以降、優先政策課題として地方開発が掲げられる。その中で、地方のインフラ整備が進展するとともに、民間レベルでも新たなビジネスチャンスを探る動きが加速してきた。本稿では、パプア州(2019年3月26日記事参照)に続き、西パプア州の経済概況を見ていきたい。

図:西パプア州主要都市
インドネシアの西パプア州の地形図に県、市の位置を示している。 西端に離島部のラジャアンパット県があり、北部にワイサイが位置する。 その東側、本島部の西端にソロン市がある。 本島部の北東にはマノクワリがあり、南西部には湾部のビントゥニ湾県があり、湾の北側にビントゥニが位置する。 ビントゥニから湾を超えて南部にはカイナマが位置している。

出所:地理空間情報庁(BIG)の地図に基づきジェトロ作成

1999年に現在のニューギニア島インドネシア領部(当時はイリアン・ジャヤ州)の西端部分が分離し、2007年に改名されて誕生したのが西パプア州だ。面積は約10万平方キロメートルで、インドネシアの総面積の約5%である。人口は93万7,458人(2018年、インドネシア中央統計庁西パプア州事務所予測値)と少ない。古くから天然の良港として知られるマノクワリが州都だが、石油の街であるソロン市が最大の都市だ。民族構成は、パプア人が58%を占め、残りが他の島々からの移住者である。宗教構成は、プロテスタント53%、イスラム37%、カトリック9%となっており(西パプア州政府資料)、インドネシアでは数少ないキリスト教徒マジョリティーの州だ。同州の2017年の1人当たり名目GDPは7,842万ルピア(約63万円、1ルピア=約0.008円)で、首位のジャカルタ特別州の3分の1程度だが、全34州の中で第6位の水準にある。2018年のGDP成長率は6.24%と、インドネシア全体の5.17%を上回り、全34州の中で第8位となっている(インドネシア中央統計庁)。


ドレリ湾に面したマノクワリの遠景(ジェトロ撮影)

天然ガスに依存した輸出構造

西パプア州の輸出統計をみると、表1のとおり、鉱物性燃料がほとんどであり、その他、宝石類、木材、海産物がわずかに輸出されている。輸出港はビントゥニが全体の約98%を占めており(インドネシア中央統計庁西パプア州事務所)、ビントゥニ湾県で産出される天然ガスが輸出品の大部分であることがわかる。今のところ、工業製品の輸出はほとんどない。輸出先として大きいのは、表2のとおり、中国、韓国、日本となっている。西パプア州商工会議所によると、エビやバナナのせんべい、マグロの加工品など零細な食品加工業は存在するものの、輸出競争力は低く、インフラ整備、市場へのアクセス、人材育成などが課題となっている。

表1:西パプア州における主要産品の輸出金額(FOB) (単位:1,000米ドル、%)
輸出商品 2016年 2017年
金額 シェア 金額 シェア
鉱物性燃料 1,733,058 99.0 1,929,849 98.4
装飾品/宝石 8,153 0.5 12,023 0.6
木材およびその製品 5,367 0.3 9,787 0.5
魚およびエビ 4,432 0.3 3,582 0.2
その他 8 0.0 5,570 0.3
合計 1,751,017 100.0 1,960,812 100.0

出所:インドネシア中央統計庁西パプア州事務所資料を基にジェトロ作成。

表2:西パプア州の主要輸出相手国(FOB) (単位:1,000米ドル、%)
地域 2016年 2017年
金額 シェア 金額 シェア
中国 735,501 42.0 812,305 41.4
韓国 610,622 34.9 519,978 26.5
日本 277,049 15.8 429,508 21.9
台湾 19,924 1.1 64,102 3.3
シンガポール 15,044 0.9 54,238 2.8
メキシコ 18,357 1.0 24,066 1.2
タイ 17,782 1.0 21,060 1.1
その他 56,737 3.2 35,554 1.8
合計 1,751,017 100.0 1,960,812 100.0

出所:インドネシア中央統計庁西パプア州事務所資料を基にジェトロ作成。

3つの戦略的開発地域

そういう中、西パプア州政府では、3つの戦略的開発地域を設定している。1つ目はソロン特別経済地域で、インドネシア国内に12カ所ある特別経済地域(Kawasan Ekonomi Khusus)の1つだ。現在、マラモイ・オロム・ウォボック(Malamoi Olom Wobok)社により、523.7ヘクタールの整備が進められており、造船、農業関連産業、鉱業、物流といった分野の産業集積を目指す計画だ。現地報道によると、国営の非鉄金属会社アネカ・タンバン(PT. Aneka Tambang)の子会社ガス・ニケル(Gas Nikel)社がフェロニッケルの精錬所建設を計画している。

2つ目の開発地域のビントゥニ湾工業地域では、ビントゥニ湾県で産出される天然ガスを原料とした化学産業が集積しつつある。英国BP社がタングーLNGを操業し、マレーシアのゲンティン・オイル(Genting Oil)もカスアリ鉱区の権益を保有している。タングーLNGは、三菱商事などの日本企業も権益を保有しているインドネシア最大級のガス田で、拡張プロジェクトが進行中だ。

3つ目の開発地域、ラジャ・アンパット諸島は、世界的に有名なダイビングスポットである半面、「行きたいけれども、移動コストが高くて遠い」というイメージだったが、2017年にラジャ・アンパットの入り口であるワイゲオ島のワイサイまで空路でアクセスできるようになり、宿泊施設の整備が進んでいる。テレビCMなどでその名を聞かない日はないほどで、インドネシア人にとっても憧れの観光地だ。ラジャ・アンパットに注目が集まる中、西パプア州南部のカイマナ県も「第2のラジャ・アンパット」を目指して、トリトン湾などの海洋観光開発に力を入れようとしている。カイマナ県政府によると、「夕日の街」として知られるカイマナは、西パプアのなかでも治安が特に良い。交通インフラも整っており、ウタロム空港は2,500メートルの滑走路を持ち、さらに2019年中にボーイング737が離着陸できるようにすべく改修中だ。トリトン湾には多様なソフトコーラル(軟質サンゴの一種)やウミガメが生息しているほか、ジンベエザメが見られる場所としても知られており、今後注目されていくだろう。


カイマナ県が海洋観光開発を目指すトリトン湾(ジェトロ撮影)

このほか、外資企業の動きとしては、SDIC PAPUAという中国資本のセメント工場がマノクワリ南部で2016年に操業を開始している。パプア地方はセメントの原料となる石灰石を豊富に産出するが、セメント工場がそれまで存在しなかった。これにより、セメントを調達するためにわざわざ遠く離れたスラウェシ島やジャワ島まで行く必要がなくなり、現地のインフラ整備を加速する効果が期待されている。


SDIC PAPUAのセメント工場(ジェトロ撮影)

海産物なども投資の有望分野

投資の有望分野として西パプア州政府が提示するのは、(1)鉱業(石炭、石油・ガスなど)、(2)漁業(エビ、マグロ、ハタなど)、(3)農業(トウモロコシ、大豆など)、(4)プランテーション(アブラヤシ、カカオ、ナツメグ、コーヒーなど)、(5)観光(ラジャ・アンパット、トリトン湾など)、(6)畜産(肉牛など)、(7)林業〔木材、沈香(じんこう)など〕だ。中でも、日本との関係でみた場合、有力なのがマグロなどの海産物だろう。マグロは小型の木製ボートを用い、ハンドライン(手釣り)で捕獲することが一般的で、巻き網で大量に捕獲する場合と比べて、魚体の状態がよい。マノクワリには、マカッサル人(主に南スラウェシ州に住み、航海術に優れる)が所有するマグロの加工場があり、マグロをロイン(注)の状態で氷詰めにし、マカッサルに送っている。インドネシア海洋漁業省も10~15グロス・トンの漁船を無償提供し、漁業振興に取り組んでいるが、西パプア州商工会議所で漁業分野を担当するパウルス・タリムべカス副会頭によると、漁師のトレーニングができておらず、漁船をうまく活用できていないという。カイマナ県のイスマイル・シルフェラ副県知事も「漁業技術の専門学校を設立したい」と語っており、漁業分野の人材育成が高付加価値化のカギになっている。


マノクワリの魚市場に並ぶキハダマグロ(ジェトロ撮影)

頼れる投資相談窓口、投資・ワンストップ統合サービス局

西パプア州への投資を検討する場合、頼れる相談相手となってくれるのが投資・ワンストップ統合サービス局(PTSP)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます だ。西パプア州は、ドミングス・マンダチャン州知事の下、海外からの投資誘致に前向きに取り組んでいる。パプアでは部族社会の伝統に基づく慣習法(アダット)が根強く残り、土地の権利関係が複雑といわれるが、PTSPを通じて各県政府にコンタクトすることで、トラブルのリスクを最小化できる。廃棄物処理やリサイクルなど、環境分野における課題解決に向けた日本企業との協力にも期待を示していた。

  • 名称:Dinas Penanaman Modal dan Pelayanan Terpadu Satu Pintu (PTSP) Provinsi Papua Barat(西パプア州投資・ワンストップ統合サービス局)
  • 住所:Jl. Brigjen Abraham O Atururi, Manokwari, Papua Barat
  • ウェブサイト:http://ptsp.papuabaratprov.go.id/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

西パプア州投資・ワンストップ統合サービス局の庁舎(ジェトロ撮影)

また、ジャカルタにも西パプア州の連絡事務所があり、情報収集等で活用できる。

  • 名称:Badan Penghubung Daerah Provinsi Papua Barat(西パプア州連絡事務所)
  • 住所:Jl. Cidurian, RT.5/RW.4, Cikini, Menteng, Jakarta Pusat, DKI Jakarta

パプア州、西パプア州というと、なじみが薄く、物理的な距離もさることながら、心理的にもやや距離を感じるかもしれない。他方、インドネシア政府が地方開発に注力する中、鉱物資源や海洋観光といった分野で注目を集め、比較的高い成長率を記録している。

パプア州、西パプア州を含めたインドネシアの地方経済に目を向けることも新たなビジネスチャンスを見つけるきっかけになりうるだろう。


注:
マグロを三枚におろした後、腹と背に割って、合計4つに分割した状態。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
吉田 雄(よしだ ゆう)
2005年、ジェトロ入構。貿易開発部でインドネシアの一村一品支援やASEAN地域・インドの物流環境調査などを担当。2008年からジェトロ徳島で徳島県企業の海外ビジネスを支援。2011年からものづくり産業部でインフラ・プラント分野の海外展開支援に従事。2014年4月から現職。主に機械・環境分野の情報提供やビジネスマッチングを行っている。