マイナスの影響の広まりに懸念(中国)
米中貿易摩擦の在中国日系企業への影響

2019年2月22日

2018年12月1日の米中首脳会談では、米国の第3弾の制裁関税、2,000億ドルに対する10%から25%への関税引き上げの実施を90日間留保することで合意されたが、問題長期化への懸念は依然払拭(ふっしょく)できていない。貿易摩擦問題が中国に進出する日本企業のビジネスにどのような影響を与えているのか。ジェトロのアンケート調査結果から考察したい。

マイナスの影響が4割弱

米中による貿易摩擦は、2018年3月に米国が1974年通商法301条による制裁措置の発動を決定して以降、激化している。同年7月に第1弾として対中輸入額340億ドル(25%)、8月に第2弾として160億ドル(25%)、9月には第3弾として2,000億ドル(10%)と、現在、米国の対中輸入額(金額ベース)の約半分に制裁関税が賦課され、中国側も報復関税で応じ、米中間での貿易戦争に発展している。

12月1日にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで行われた米中首脳会談では、米国が第3弾の2,000億ドルに対し賦課している制裁関税率(10%)を25%に引き上げる時期について、90日間留保することで合意した。しかし、米国が中国に対し求める知的財産権の保護や技術移転の強要禁止など、5分野の構造改革に関する協議の行方は依然不透明で、米中貿易摩擦は長期化するとの見方が広まっている。

ジェトロは2018年10月26日~11月9日にかけて、中国大陸7事務所(北京、上海、大連、青島、武漢、成都、広州)管轄区内の日系企業(1,628社)に対し、保護主義的な動きによる自社事業への影響に関するアンケート調査(以下、「アンケート調査」)を実施し、557社から回答を得た。

「アンケート調査」結果では、「マイナスの影響がある」と回答した企業は37.3%、「影響はない」も37.3%と、両者が並んだ。一方、「分からない」が24.1%、「プラスの影響がある」との回答は1.3%であった(図参照)。マイナスの影響が4割弱だったのは、中国に進出する日系企業のビジネスは内販型が主流であること、輸出企業については、輸出先が日本、東南アジアが多く、米国向けに輸出する企業は極めて限られているためと考えられる。ただ、2019年初からの株価の下落、為替変動による業績の悪化、技術覇権などの問題の長期化で、マイナスの影響の拡大が懸念されている。

図:保護主義的な動きによる自社事業への影響について
「マイナスの影響がある」と回答した企業は37.3%、「影響はない」が同じく37.3%、「分からない」が24.1%、「プラスの影響がある」が1.3%となった。

注:557社からの回答を基に集計。
出所:ジェトロ作成

輸出志向が高いエリアほどマイナスの影響あり

マイナスの影響があると回答した企業の割合を地域別にみると、広州(51.4%)、青島(41.5%)、上海(39.0%)と、輸出企業が多い地域でマイナスの影響が強いことが分かる。

ほぼ同時期に香港、台湾の日系企業を対象に実施したアンケート調査と比較した場合、マイナスの影響があると回答した企業の割合は中国大陸(37.3%)より、香港・マカオ(45.4%)、台湾(41.3%)で高い傾向であることも特徴的だ。

香港・マカオ、台湾の日系企業が米中貿易摩擦のマイナスの影響を懸念する向きが強いのは、中国大陸と米国を結ぶサプライチェーンにかかわるビジネスに対する影響をより強く反映した結果と思われる。

ちなみに、台湾の中華経済研究院が台湾の全製造業に対して実施したアンケートによれば、全体の61.6%が中国に工場あるいは営業拠点を有しており、米中貿易摩擦の影響により、それらの66.0%が何らかの措置を講じているとの結果もある。

「国内売り上げ」、「海外売り上げ(輸出)」でマイナスの影響

次に、マイナスの影響がどの範囲に及ぶかという点について、中国大陸の日系企業は、(1)「国内売り上げ」55.3%、(2)「海外売り上げ(輸出)」48.1%との回答が多く、(3)「調達・輸入コスト」28.8%を大きく上回った。この傾向は、米国、カナダ、中南米の日系企業とは対象的で、米国、カナダ、中南米に進出する日系企業は、「調達・輸入コスト」との回答が圧倒的に多く、「販売価格の引き上げ」、「調達先の変更」などの対応策を講じる。

中国に進出している日系企業の具体的なビジネスへの影響に対するコメントは、以下のとおり。

国内売り上げの減少

日系化学メーカーA社は「印刷用インキを現地の印刷会社に納品。新聞、雑誌、パッケージ、ラベルなどあらゆる印刷物に使用されており、米国の中国からの輸入が減少すれば、中国からの輸出品のパッケージ、ラベル、説明書などに使用されるインキも減少する。当社にとっては国内売り上げに直接的な影響がある」。

日系電気機械メーカーB社は「電機工具(完成品)を現地の工場向けに工場設備として納品。米国向けに輸出をしている工場に一部減産や受注先延ばしの動きがある。当社からの調達にも一部保留やキャンセルがあり、今後、当社の売り上げにも影響が出てくる。」

日系保険会社C社は「保険会社の主な商品に貨物保険があるが、貿易摩擦の影響で関税障壁が高くなり、貿易量が減少、取り引きが停滞することを懸念する」。

海外売り上げ(輸出)

日系自動車部品メーカーD社は「自動車用のコントロールケーブルを製造。ほぼ全て輸出用で米国向けが約6割。米国側の制裁関税を回避するため、米国の拠点で代替生産を検討。中国から半製品をメキシコに輸出、メキシコで完成品にして米国に輸出する方法も考えている」。

日系商社E社は「米国向けの輸出を考えていた商品があったが、その商品が米国の追加課税品目に該当。中国外で生産する商品で代替する」。

調達・輸入コスト

日系自動車部品メーカーF社は「中国国内で自動車部品を生産。装置部品の一部を米国から輸入しており、コスト増は頭の痛い問題となっている」。

米中双方の今後の対応に注目

ジェトロが2018年10月9日~11月9日に実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、中国進出の日系企業の事業拡大意欲は、2016年に40%を回復して以降、拡大傾向を維持している。2018年は「拡大」と回答した企業は48.7%に上り、逆に「縮小」もしくは「第三国(地域)への移転・撤退」と回答した企業は6.6%と、2013年以来5年ぶりの低さであった。このように、現地で活動する日系企業の事業拡大意欲は堅調を維持しているといえる。

しかし、世界第1位と第2位の貿易大国である中国と米国による貿易戦争の長期化に伴い、世界経済の減速を懸念する声は日増しに高まっている。特に、近年の生産工程は複数国をまたいで行うことが多く、サプライチェーンはよりグローバルな広がりをみせている。今回の米中による相互の関税引き上げは、両国間の貿易の停滞にとどまらず、工程間分業が進化する日本企業に対しても、大きな影響を与える可能性がある。人民元の為替相場の変動など、マクロ経済に与える影響を含め、今後の動向を注意深く見極める必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 課長代理
水谷 俊博(みずたに としひろ)
2000年、ブラザー工業入社。2006年、ジェトロ入構。ジェトロ・ヤンゴン事務所勤務(2011~2014年)。ジェトロ海外調査部アジア大洋州課(2014~2018年)を経て現職。