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正念場を迎える税制改革

第2弾の国会審議(フィリピン)
税制優遇措置見直し法案は、下院を通過

2019年10月2日

外資系企業から高い評価を得てきたフィリピンの税制優遇措置を、2020年1月から抜本的に見直す法案が下院を通過した(2019年9月19日付ビジネス短信参照)。今後、上院審議での変更、時間切れによる廃案といった展開も考えられる。仮に下院案がそのまま実現した場合、法人税は段階的に下がるものの、現行の税制優遇措置は最長でも5年以内に打ち切られる。また、PEZA(経済区庁)のワンストップサービスを享受していた輸出企業は、複数の税務当局に直接、納税することになり、税務の煩雑化が懸念される。

20年ぶりの税制改革に乗り出す

世界銀行によると、2018年のフィリピンにおける1人当たりGNI(国民総所得)は3,830ドルであり、高中所得国(3,935ドル超)入りは遠くない。フィリピン政府は、2040年までに高所得国(1人当たりGNIは1万2,235ドル超)に加わることを目指しており、安定的な経済成長を持続させるため、税制の近代化と合理化を目的とした、20年ぶりの税制改革に乗り出している。包括的税制改革プログラムと呼ばれる税制改革は4つのパッケージに分かれており、第1弾(個人所得税や物品税、付加価値税、相続・贈与税などに関わる改革)は2018年1月に施行された(2018年3月27日付ビジネス短信参照)。

続く第2弾(法人所得税と税制優遇措置に関わる改革)は、前国会で法案が提出されたものの、輸出産業を圧迫して雇用喪失を招くとの懸念から審議が停滞し、時間切れで廃案となった。第2弾は、今国会で改めて法案が提出されて審議に入っている。このほか、第3弾(固定資産税に関する改革)、第4弾(金融関連税に関わる改革)が控えている。

税制改革第2弾では進出企業への負の影響も

9月13日に下院で承認された税制改革第2弾関連法案「CITIRA(法人所得税及びインセンティブ合理化法)」は、2020年1月施行を想定している(現行制度からの主な変更点は表参照)。フィリピンでは長年にわたり、PEZAやBOI(投資委員会)など14の投資誘致機関がそれぞれ独自の支援メニューで投資を誘致してきたが、この改定によって優遇税制措置は一本化される。

また、新たな優遇税制措置は、「SIPP(戦略的投資優先計画)」に含まれる業種が適用対象となる。貿易産業省が想定する適用範囲は、電気・電子、自動車をはじめ、次の「参考」に挙げた業種を含んでおり、非常に広い。適用に当たっては、各投資誘致機関が事業案件の適格性を審査するが、最終的な承認権限は、財務省が委員長を務めるFIRB(Fiscal Incentives Review Board)に属する。

参考:フィリピン貿易産業省が想定する新たな優遇税制措置の主な適用対象業種

  • 電気・電子
  • 自動車、自動車部品
  • 航空宇宙関連部品・整備ビジネス
  • 部品を供給する中小企業
  • ITを活用した各種アウトソーシングビジネス、クリエイティブ産業
  • 付加価値の高い農産物の生産・加工
  • 建設・インフラ・運輸・物流
  • 家具や繊維製品の製造・デザイン
  • 造船、船舶修繕
  • 鉄鋼、工具・金型
  • 各種の研究開発
  • 化学
  • 環境・省エネルギー
  • 医療・教育等の社会福祉サービス 等

この下院案が実現した場合、次のような影響が想定される。まず、輸出企業の税負担増加が懸念される。法人所得税自体は段階的に削減していくが、例えば、IBPAP(ITを活用したアウトソーシングビジネスの業界団体)は、この制度改正で税負担が現行より170%増加すると指摘している。

次に、輸出企業の税務が煩雑化しそうだ。例えば、現在、PEZAの輸出企業はワンストップサービスを提供するPEZAを通じて税金を一括納付しているが、制度改定後は、国、州、市町へ直接、納税するため、各税務当局の担当官との調整に要する時間とコストが増える。これまで免除されていた関税も、5年の免税期間を過ぎると、税関との調整が新たに発生する。

また、既進出企業の優遇措置を打ち切る移行期間も2~5年と短い。関税や付加価値税の減免についても、現在に比べて適用範囲が限定されるため、企業の資金繰りに与える影響や国際競争力の低下が懸念される。

法案審議の先行きに注目

2019年5月の中間選挙で圧勝し、政権基盤を強化したドゥテルテ政権は、前国会で頓挫した税制改革関連法案の審議を迅速に推し進めようとしている。税制改革第2弾を通じて、労働集約的な組み立て加工輸出産業から、付加価値の高い産業に転換し、また、成長著しい国内市場向け産業を振興するという現政権の方向性は、総論として広く支持を得ている。

一方で、進出日系企業などの輸出産業は、多くの雇用を創出し、フィリピン経済に貢献しているため、拙速な改革で安定成長を妨げることを警戒する声も多く、上院で修正が入る可能性がある。例えば、ズビリ上院議員は、現地メディアの取材に対して、適用中の優遇措置打ち切りまでの移行期間が下院案の2~5年から5~7年に緩和される可能性に言及している。

さらに現在、国会では2020年予算審議が最優先されており、この審議が停滞した場合、CITIRA法案審議に十分な時間を確保できず、前国会と同様、時間切れで廃案になる展開もあり得る。

進出日系企業にも影響の大きいCITIRA法案審議の展開は、予断を許さず、今後の先行きに注目が集まる。

表:CITIRA(法人所得税およびインセンティブ合理化法)の概要
税目 摘要 現行 改定後
法人所得税 税率 30% 30%→20%(2021~2029年に毎年1%ずつ削減)
新規事業に対する減免措置 【PEZA】事業登録後4~8年は免除、その後は恒久的に特別税率(総所得の5%)
【BOI】事業登録後4~8年は免除
【スービック等】
恒久的に特別税率(総所得の5%)
【首都圏】事業登録から3年免除した後、最長2年まで軽減(表注1)
【ラグナ、バタンガス、カビテ、リサールの4州】事業登録から4年免除した後、最長3年まで軽減(表注1)
【その他の地域】事業登録から6年間免除した後、最長4年まで軽減(表注1)
既存事業に対する減免措置適用期間 【法人所得税の免除】5年を上限に満了期間まで
【法人所得税免除後に適用された特別税率】
  • 適用実績が10年を超える事業はさらに2年まで
  • 適用実績が5~10年の事業はさらに3年まで
  • 適用実績が5年未満の事業はさらに5年まで
付加価値税 【輸出企業(輸出額が売上高の70%以上)向け販売】0%賦課 【登録企業が使う設備や原材料】要件は表注2参照
  • 輸入に伴う付加価値税を免除
  • 国内調達に伴う付加価値税は0%賦課
関税 【PEZA輸出企業】
【スービック等】
設備や原材料の輸入関税を免除
登録企業が登録事業に使う設備や原材料の輸入関税は最長5年まで免除(登録事業の拡張に使う設備は最長5年まで免除期間を延長できる場合もある)(表注3)
各種控除 【PEZA】訓練費等 資産の減価償却費、労務費、研究開発費、訓練費

表注1: 法人所得税の軽減税率は、2020~21年:18%、2022~23年:17%、2024~25年:16%、2026~27年:15%、2028~29年:14%、2030年~:13%。うち3%は地方税(登録企業の立地する州へ1.5%、市町へ1.5%)を含む。
表注2: エコゾーンやフリーポートの登録企業、または税関保税製造倉庫を活用する者で、輸出額が売上高の90%以上(90%未満でも電子帳票システムを有すれば適用可)。
これらの要件を満たさない登録企業は通常の付加価値税(12%)を賦課する(ただし、付加価値税の還付システムを適用)。なお、「免税」「0%賦課」ともに付加価値税を課さないが、仕入税額控除の扱いが異なる(「免税」が不可、「0%賦課」は可)。
表注3: フリーポートゾーンには5年の年限を適用しない。
出所:フィリピン政府資料、CITIRA法案を基にジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所長
石原 孝志(いしはら たかし)
1990年、ジェトロ入構。農水産部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ヒューストン事務所、展示事業部、ジェトロ・香港事務所等を経て、2017年6月から現職。

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