積年の都市ごみ問題、いまだ前途多難(ロシア)
プーチン大統領も国民に協力求める

2019年1月22日

ロシアのごみ問題について、いまだ出口が見えてこない。ごみを分別する文化が十分に浸透しておらず、焼却や再資源化を行う処理施設も不足しているためだ。国内の一般廃棄物(都市ごみ)の年間排出量7,000万トン以上のうち、処理割合はわずか1割程度で(表1参照)、残りの約9割が埋め立て処分されており(注1)、各地の処分場は飽和状態だ。広大な国土も仇(あだ)となり、違法な埋め立て地が乱立。国内全体で毎年2万カ所以上の土地が不法に荒らされ、2016年時点では違法埋め立て地の数が合法処分場の20倍になるとも言われていた(「ロシア新聞」2016年10月5日)。2018年春には、モスクワ市郊外ボロコラムスク地区の埋め立て処分場で悪臭を巡り大規模な住民抗議運動が発生(注2)するなど、都市ごみ取扱業者や国・自治体の対応(施策)への住民の不信感も根強い。

政府はごみ問題の解決を図るため、2014年の法改正で都市ごみ処理の整備(通称「ごみ改革」)を目的とした新制度を立ち上げたものの、各地方・地域で移行に向けた準備が不足しており、結果として改革実行を部分的に先送りせざるを得ない状況だ。

表1:ロシアの一般廃棄物
一般廃棄物の搬出量
(単位:百万立方メートル)
うち処理量
(単位:百万立方メートル)
割合
(%)
2010 235.4 32.1 13.6
2011 241.1 24.3 10.1
2012 255.8 26.9 10.5
2013 260.9 24.6 9.4
2014 262.8 21.3 8.1
2015 266.5 20.8 7.8
2016 268.8 23.9 8.9
2017 274.4 27.9 10.2
出所:
天然資源・環境省、国家統計局

2017年1月の改正法施行直前に2年間の移行期間を設定

産業廃棄物・都市ごみの扱いを規制する法律には、1998年成立の連邦法「生産と消費の廃棄物について」がある。2014年12月の同法の大幅な追加・修正(注3)で、都市ごみについては、処理の全工程を地域事業者(注4)に一任することや、処理作業の基準となるエリア図を導入するといった新たな制度が設けられた。改正法の施行は2017年1月を予定していたが、各地で地域事業者の選定やエリア図の作成・承認が遅れ、施行直前の2016年12月末に連邦政府は2019年1月1日までの2年間の移行期間の設定を余儀なくされた(1回目の延期)。

その移行期間2年の終了を直前に控えた2018年12月中旬時点で、廃棄物問題を主管する天然資源・環境省によると、ほぼ全ての地域で地域事業者の選定が完了し、国内85の連邦構成体のうち27主体がすでに新制度の一部もしくは完全な運用に移行した。その一方で、ごみ処理施設の不足、収集・搬出料金の(廃物利用費用や処理インフラ建設費用の上乗せなどによる)大幅な値上げや、地域事業者との契約条件が不調となる可能性、特にモスクワなどの大都市でごみの搬出先がないといったことが問題点として残されていた。

2019年1月も全面移行には間に合わず

こうした状況を受け、下院議員グループは漸次的な措置により混乱を防ぐ狙いで、再度の実施猶予期間を定める法案を作成。プーチン大統領は2018年12月25日、連邦法「連邦法『生産と消費の廃棄物について』の第29.1条改正について」に署名し、一部の地域や規定の猶予措置を承認した(2回目の延期)。猶予の内容は、(1)正規の資格を持たずに稼働している埋め立て地の一定期日までの利用、(2)非常事態における地域事業者の選定作業を伴わない(随意の)任命(期限付き)、(3)連邦直轄都市のモスクワ市、サンクトペテルブルク市、セバストポリ市に対する新制度移行への猶予期間の設定、となっている。(1)は、現在稼働中だが所定の証明書やライセンスのない埋め立て地の利用について、天然資源・環境省との取り決めを得た場合に限り、2022年12月31日まで認める。(2)では、都市ごみ処理が地域事業者の事業継続に左右されないようにするため、地域事業者の選定作業が不成立となった場合や同事業者が任命期間満了前に活動を停止した場合、別の事業者に最長1年間、地域事業者の地位を随意で付与することを認める。それでも地域事業者が見つからない場合に備え、さらに2019年12月31日までの猶予期間を設ける。(3)については、新制度のもとで居住地域内での都市ごみの埋め立て処分が禁止されるが、連邦直轄都市は全領域が居住区であることから、法の要求を満たすため都市ごみの(焼却施設などの)高次処理施設を造る必要があり、その建設期間として2021年12月31日までの3年の猶予を設けている。

しかし、現状への妥協を余儀なくされた猶予措置が新制度導入に逆行するとの声も上がっている。複数のメディアは、証明書やライセンスのない埋め立て施設の稼働を一時的にでも認めると、実質的に違法埋め立て地を公認したことになると指摘。下院副議長で超党派の社会団体「全ロシア人民戦線」の一員でもあるオリガ・チモフェワ氏も、「既存(埋め立て)施設をあと数年間利用できるなら、新しいものをわざわざ造る意味はない」と述べ、ごみ改革が「実質的にまたしても『空回り』に終わった」と嘆息する。また、「地域事業者が業務不履行や倒産など(の非常事態)に陥った場合には、知事が自分に近い事業者を任命することも可能」で、癒着の原因になりかねないと危惧している。

一部地域では分別収集も開始

部分的には進展も見られる。新制度では、各地方での都市ごみの分別収集も促進しており、天然資源・環境省によると、2018年12月時点で国内16主体が分別ルールを導入しつつある。このうち、モスクワ州では2019年1月1日から自治体レベルでの分別収集を全面的に開始した。同州の分別ルールでは、基本的にリサイクル可能なごみ(ガラス、プラスチック、古紙、金属)と、リサイクルできないごみ(生ごみ、衛生ごみ、食品容器など)の2種類に分別し、視覚的にわかりやすくするため、各住宅の収集場所で前者用には青色のコンテナ、後者用には灰色のコンテナを設置する。青色コンテナのごみは、選別後、処理工場に送られ再資源化・再利用のための加工が行われる。モスクワ州内では現在3カ所の処理工場が稼働しており、今後新たに12の処理工場を建設する計画だ(「タス通信」12月28日)。灰色コンテナのごみは、種類に応じて焼却、堆肥化、埋め立て処分を行う。この他、特定の場所には危険ごみ(電池、電球、温度計など)用のオレンジ色のコンテナも配置する。2017年から2018年にかけて埋め立て地の飽和でごみ問題が深刻化した同州では、ごみ処理率を向上させ、2018年の埋め立て処分比率91%から2030年には18%まで低減させる目標を掲げる。

分別廃棄の実現には住民自らの協力も必要だ。モスクワ州では7つの区域を5社の地域事業者で担当するが、そのうち4社は主な事業リスクとして住民の分別習慣が乏しい点を挙げる。そのため、環境をテーマにした住民向け講座などの教育プログラムも予定されているという。

プーチン大統領もごみ処理の重要性に言及

連邦政府は国家発展目標の一環としても都市ごみ問題の解決を目指す。プーチン大統領が掲げる2024年までの内政目標に従い、天然資源・環境省が2018年9月に作成した国家事業「環境(エコロジー)」は11の連邦事業で構成(表2参照)される。このうちの一つ「きれいな国(クリーン・カントリー)」では、2018年初の時点で明らかになっている全国の都市居住区内に存在する191カ所の違法埋め立て地を2024年までに閉鎖し、土地の再肥沃(ひよく)化を行う予定。また、都市ごみの処理率を現状の7%から2024年には60%まで引き上げる目標を立てている。

表2:国家事業「環境」の11連邦事業
No. 名称 担当官庁
1 きれいな国 天然資源・環境省
2 一般廃棄物処理の複合制度 天然資源・環境省
産業商務省
3 危険度1・2級廃棄物の処理用インフラ 「ロスアトム」社
4 きれいな空気 連邦天然資源利用監督局
5 きれいな水 建設・住宅公共サービス省
6 ボルガ(川)の健全化 天然資源・環境省
7 バイカル湖保全 天然資源・環境省
8 独自の水資源保全 天然資源・環境省
9 生物多様性とエコツーリズムの発展 天然資源・環境省
10 森林保全 連邦林野庁
11 利用可能な最善技術の導入 天然資源・環境省
産業商務省
出所:
ロシア天然資源・環境省

プーチン大統領は12月20日の記者会見で、「わが国ではソ連時代から数十年にわたり、ごみを分別する習慣がなかった」と、分別意識の低さを認めた上で、ごみ処理産業を一から築き上げる必要性を強調。2024年までに国内で200カ所の処理施設を建設するという数値目標を挙げ、中でも大都市でのごみ焼却場の好例として東京都内の施設を引用し、(住環境悪化へのイメージを理由に)焼却場の建設に反対している国民の理解を求めた。

問題解決に必要なのは?

当初、2019年1月以降は各地の地域事業者が全ての都市ごみ処理を担うことになっていた。しかし、今回も前回(2016年末)同様、施行直前に再び移行期間が設定される結果となった。都市ごみ問題を解決するには、(通常ロシアで行われる)中央政府によるトップダウン式の政策実施だけではなく、住民が分別に積極的に取り組み、環境保全につながる廃棄物処理インフラ発展のためには多少の公共料金値上がりを受け入れるという意識改革が必要だろう。一方で国民が納得できる制度の確立に向け、廃棄物処理セクターの汚職体質の改善も不可欠だ。監督機関の連邦天然資源利用監督局の職員と違法業者との癒着も多数摘発されている。ドミトリー・コビルキン天然資源・環境相は「(ごみ改革の)課題とは、闇経済からの脱却」と断言し、「改革自体も、廃棄物処理の各工程も透明なものにしなければならない」と強調する。

下院のウラジミル・ブルマトフ環境保護委員長も、多くの利害関係が絡み合うごみ処理産業を闇経済のままで残した方がうまく機能する場合もある、という現状を批判している。

日本企業の進出可能性

ロシア政府は廃棄物処理産業を発展させるため、日本を含む外国企業との提携を模索している。ウラル以西の欧州ロシア部では、地理的にも近い欧州メーカーが有利とされるが、シベリアや極東を手始めに日本勢にも参入の可能性がある。過去には2015年にブリヤート共和国で三菱重工環境・化学エンジニアリングがロシア企業と共同で灰溶融炉事業に着手した(2016年4月12日記事参照)。ブリヤート共和国とは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2017年9月、先進的環境適合廃棄物処理システム分野の協力促進で意向表明書を交わしている。また沿海地方では、2017年4月に使用済み紙おむつの固形燃料(ペレット)化事業について、鳥取県のスーパー・フェイズとロシア企業のアバトレード社などが合意。スーパー・フェイズ社は機器・技術を提供し、アバトレード社が事業の実施主体となる予定だ。さらに2018年2月には、ロシアの政府系ファンド「ロシア直接投資基金」が国家持ち株会社「ロステフ」の傘下企業で廃棄物処理関連事業も手がける「RTインベスト」と日立造船のスイス子会社「Hitachi Zosen Inova AG」と共同で廃棄物焼却発電事業を実施することで合意。ごみ焼却発電プラントをモスクワ州に4カ所、タタルスタン共和国カザン市に1カ所をそれぞれ建設する計画(ロシア直接投資基金プレスリリース、2月15日)で、実現すれば、欧州ロシア部の大都市圏に日本の技術が本格的に導入されることになる。RTインベストのキリル・ドミトリエフ社長は日立造船の技術について「世界中のプラントを今まで見てきた中で、最高のもの」と称賛する。プーチン大統領も認める日本のごみ処理産業での取り組みに、ロシア企業も関心を高めてきている。

高度成長期に産業廃棄物がもたらした公害病という負の遺産を抱えた日本は、限られた国土面積の中でごみ処理に腐心してきたからこそ、現在機能している処理産業で諸外国から高い評価を受けている。ロシアが今後、資金を投じることによるハード面(構造物や技術導入)の構築という即物的な視点だけでなく、それらを合法的に正しく運用する人材育成を含めた仕組みづくり、すなわちソフト面にも視点を向けていくのであれば、日本が培ってきた知見やノウハウを生かす可能性はさらに高まるだろう。


注1:
一般廃棄物(都市ごみ)と産業廃棄物の全体でみた場合、排出量のうち処理(廃物利用ならびに危険物の焼却含む無害化処理)率は、2010年から2017年までの期間で40%台から最大60%となっている。
注2:
モスクワ州ボロコラムスク地区の「ヤドロボ」埋め立て場から発生する悪臭が原因で、周辺に住む多数の児童が体調不良を訴えたことをきっかけに、住民が起こした大規模な抗議運動
注3:
この他、事業者に対しては、「拡大生産者責任(EPR)の原則」(製品に対する生産者の責任を、製品ライフサイクルのうち使用後の段階にも拡大する考え方)に基づき、製品の廃物利用(リサイクル)を行わない生産者と輸入者に法改正で環境料金の支払いを義務付けた。
注4:
従来は集合住宅の管理会社が一般廃棄物の回収・運搬業者との契約をしていたが、新制度では地域事業者が回収、運搬、前処理、廃物利用、無害化、隔離保存といった処理工程の全てにおいて責任を負うことになる。各連邦構成主体が選出し、「地域事業者」の地位を最長10年間付与する。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 欧州ロシアCIS課
市谷 恵子(いちたに けいこ)
2018年5月より非常勤嘱託員として調査を担当。