TPP特恵で関税を引き下げるための実務とは(1)(ニュージーランド )
通関時の書類要件は重くないものの、積送基準に注意

2019年6月21日

「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定」(CPTPP、いわゆるTPP11)は、2018年12月30日に発効している(注1)。物品貿易に限らず、さまざまな分野の自由化やルールを規定する意欲的な協定だが、企業にとって最も関心が高いのが特恵待遇による関税の撤廃・低減といえよう。

一方で、協定文には、特恵関税に関して締約各国を義務付ける基本的な規定が盛り込まれているが、条文に明記されない具体的な対応は輸入国の通関当局などに一任されている。このように、現地当局の権限で対応が左右される範囲が意外と広く、各国でいかなる対応がなされるものかを把握しておくことが実務的な課題となる。

このため、3月から6月にかけて、TPPで日本から特恵輸出する場合を念頭に、特恵関税要求に関する実務対応や課題について、ニュージーランド税関に聴取した。この結果を2回に分けて報告する。1回目は、通関時に必要とされる書類要件、4年に及ぶ輸入後の特恵要求、事前教示制度などについて触れる。2回目では、記録保管義務、検認に関する留意事項、特恵が否認された場合の不利益などを取り扱う

通関時に特別な説明書類は不要

TPPで関税を引き下げるための特恵待遇を要求するに当たっては、原産地証明書を提出する必要がある。これに加えて、通関時に提出を要する書類にはどのようなものがあるのか確認したところ、「最低限、通常の輸入手続きで要する船積書類(shipping documents)を出してもらえば十分」とのことだった。換言すれば、特恵待遇要求のために特別に必要な書類は協定文の要件を満たす原産地証明書だけで、あとは通常の貿易で求められる書類〔船荷証券(B/L)、インボイス、パッキングリストなど〕さえ適切にそろえられていれば、基本的には特恵輸入が認められることになる(注2)。

一方で、「原産地を証明する根拠資料や説明などは提供してもらえるならありがたいが、義務的なものではない」と付言された。また、「通関の段階で特恵が否認される場合には、罰則などの不利益の対象にはならない」という指摘もあった。

現地に直行しない便を使う場合には、要注意

前述の通り、ニュージーランドへ特恵輸出する場合、原産地証明書と通常貿易で必要な船籍書類で充足できる。しかし、注意を要すると考えられるのが積送基準だ。すなわち、貨物の輸送途上にTPP域外の経由地があったり、積み替えがなされたりした場合には、TPP第3.18条第2項の要件を満たす書類の提出が併せて必要になる。既存の自由貿易協定(FTA)などにおいても、「輸入時に書類不備で特恵が否認されるのは、この例が最も多い」という。日本から現地に直行する便はそれほど多くはないと考えられ、適切な対応が求められそうだ。

では、どのような書類が求められるのか。例えば、船積書類として通し船荷証券(スルーB/L)が発行されている場合は、ほぼ問題視されないようだ。そうでない場合は、積み下ろしや蔵置以外の作業がなされていないなどとする書類などを提出する必要が出てくるだろう。これが認められるのかについては、「問題を起こす可能性の度合い(level of potential risk)を勘案し、案件ごとに判断している」とのこと。税関担当者は「輸送過程を通じて貨物がどのような状態にあったのかについて説明を受け、提出された証明書類(evidence)がそれを裏付けているのかを審査することになる」と話す。

輸入後4年間にわたって特恵関税の要求が可能

TPPでは第3.29条で、輸入手続きが完了した後も特恵待遇の要求と支払い済みの関税の還付が認められることが規定されている。協定上の事後要求・還付期間は1年間とされているが、「ニュージーランドでは、輸入時点から4年にわたって対応できる」とのこと。

もっとも、輸入時点の特恵待遇要求とは大きく異なり、原産地証明書だけを提出すれば済むものでもなさそうだ。「審査(scrutiny)は格段に深く突っ込んだものになるだろう。輸入者にはさまざまな質問を投げかけ、説明を求めることになると考えられる」とのコメントを受けた。輸入時点では通関手続きを急ぐ必要があるが、事後要求・還付の場合にはそのような事情が発生しないこともその理由と考えられる。

事前教示事例は、近々公開予定

TPPの第5.3条で、関税分類、関税評価、原産性などに関する事前教示制度の導入を締約国に義務付けている。ニュージーランドでは、既存の制度に基づき、TPPに関する照会にも対応することになっている外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

留意を要することの1つが、有料の制度として設計されていることだ。料金だが、現時点で関税番号分類など一般的な教示については1件当たり40.88ニュージーランド・ドル(約2,900円、NZドル、1NZドル=約71円)。関税評価の場合は1件当たり300NZドル、加えて、査定に要した時間に応じた請求がなされることもある。

事前教示を申請できる対象は、ニュージーランド国内に所在する者とされている(注3)。ただし、「オーストラリアの企業に事前教示した例もあった」とのコメントもあり、外国からの照会が一概に否定されているわけでもなさそうだ。いずれにせよ、実際に要請を受ける主体は、これまでのところ、輸入者か、通関業者(customs broker)や税務事務所などの代理人である場合がほとんどとのこと。

教示に要する期間は、関税分類などでは通常、40業務日以内に回答となる。ただし、関税評価など複雑な場合は150業務日に及ぶこともありうるとされた。

「過去に事前教示をした実例としては、関税分類変更基準に関するものが多い」とのことだった。付加価値基準に関しては、企業機密が絡む度合いが高いためと思われるが、生産者・輸出者と輸入者が親子会社の関係になっている場合がほとんどという(注4)。

事前教示結果に異議のある場合は、税関審査請求部(Customs Appeal Authority)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに申し立てることができる。

事前教示事例は、現時点では公開されていない。しかし、「2018年関税・物品税法(Customs and Excise Act 2018)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」が成立し、第346条に事前教示結果を公開する規定が盛り込まれた。このため、事前教示のほとんどが早晩、インターネット上で公開される予定で、それ以降は日本からも閲覧が可能になる。(注5)


注1:
現在発効しているのは米国の離脱表明を受けたCPTPP(TPP11)だが、本稿で取り上げる事項に関する条文上の根拠はいずれも、CPTPPが取り込んだもともとのTPPの規定に基づいている。このため、本稿では以下、当該協定について「TPP」と表現する。
注2:
この結果として、本来なら特恵が認められない案件が紛れ込むリスクが高まる懸念が生じ、第2回の記事中で触れる通り、検認の対応を強化せざるを得なくなる。この点は、ニュージーランド税関も認識している様子だった。だとすると、通関の時点である程度の説明書類を要請し、その一方で検認を減らすのも一案なのではと指摘したところ、「その場合、通関手続きが遅延してしまいかねない。われわれとしては、とにかく迅速な通関が重要と考えている。通関処理が追いつかず貨物が滞るような事態は極めて望ましくない。企業からのクレーム(complaint)原因にもなる」との説明があった。輸入の取り扱いが同国内最大のオークランド港では、港湾用地や荷役対応余力の逼迫(ひっぱく)などがしばしば問題にされる。ニュージーランド税関の考え方は、このような事情も反映したものだろう。
なお、TPP第5.7条と第5.10条では、原則として、急送貨物は6時間以内、一般貨物は48時間以内の引き取りが規定されているが、ニュージーランドでは「この基準は軽く達成できている」とのこと。輸入通関手続きについてのワンストップサービス窓口(Trade Single Window)も設けられており、円滑に処理されているようだ。例外的に通関が想定外に遅くなる場合もあるが、税額支払いに関する情報が不備、検疫など他省庁関連の規制に関する情報が提供されていない場合がほとんどとのこと。
注3:
このような限定があるのは、有償の制度であることも原因かもしれない。
注4:
他方で、「化学品などに適用される加工工程基準については、過去の対応例が思い当たらない」とのことだった。いずれにせよ、FTAをめぐる事前教示では、原産性の判断に関するものが多くを占めているものと考えられる。
注5:
同法では、「ニュージーランド税関最高責任者(Chief Executive)が公共の利益に資すると考える場合、事前教示結果を公表する(publish)ことができる」と規定されている。すなわち、公表は基本的には義務ではない(このため、公表されない事前教示事例も一部には生じると考えられる)。なお、公表されるのは、
  • 事前教示を要請した者の同意がある、
  • 公開される情報がすでに公知の状態となっている、
  • 公開によって特定の個人・法人が特定されない、
いずれかの場合に限られる。
一方で、ニュージーランドが当事国となっている国際協定を順守する上で必要とされる場合には、公表が義務付けられることについても盛り込まれている。

TPP特恵で関税を引き下げるための実務とは(ニュージーランド )

  1. 通関時の書類要件は重くないものの、積送基準に注意
  2. 検認で特恵待遇が否認されてしまうと
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部主査
林 道郎(はやし みちろう)
1984年ジェトロ入会。海外調査部、ニューヨーク、秋田、メルボルン、盛岡、オークランドの各事務所などを経て現職。「米国の通商関連法概説」「韓米FTAを読む」などを共著・共訳。