英国酒類業界における日本産酒類に対する認識の現状
酒類見本市「imbibe live 2019」来場者アンケートの分析から

2019年8月29日

ジェトロは国税庁受託事業として、前年に続き英国の酒類見本市「imbibe live(インバイブライブ)2019」に日本産酒類ブースを出展した。2019年のimbibe liveは7月1~2日の2日間で、延べ1万人が来場した。日本ブースには日本企業18社が参加し、商品は日本酒や焼酎、泡盛、ウイスキー、ジン、ワイン、梅酒、ゆず酒と多岐にわたった。本稿では、imbibe live 2019における日本ブース来場者へのアンケート結果から、英国の酒類業界関係者の日本産酒類に対する認識の現状を分析した。


「imbibe live 2019」の会場(ジェトロ撮影)

調査の概要

アンケートは、日本ブースへの来場者に対する対話型のヒアリングにより実施した。アンケートの設問は以下の通り。この調査では、回答者の自由な発想を引き出すため、各設問には自由回答形式とした。調査結果の分析は、回答内容を整理・類型化した上で集計している。また、前年も同様の設問(2019年から焼酎に関する設問を追加)および調査方法でアンケート調査を行っており、前年の調査結果との比較も含めて分析した。

表:アンケートの設問
項目
1 職業(所属、役職)
2 訪日経験の有無(無しの場合は、今後の希望の有無)
3 日本産酒類ブースを訪れた理由
4 日本酒の取り扱いの有無
5 日本酒以外の日本産酒類の取り扱いの有無(有りの場合、何を取り扱っているか)
6 日本酒に対するイメージ
7 日本酒はどのような料理・機会に合うと思うか
8 日本酒の長所
9 日本酒の短所
10 焼酎を知っているか(知っている場合、その評価)
11 日本ブースで焼酎を試飲したか
12 焼酎の長所
13 焼酎の短所

日本酒の「定着」、ウイスキー・ジンの「拡大」、「これから」の焼酎

アンケートに回答した日本ブース来場者の所属先(有効回答105人)は、バーが34%で最多で、レストランが25%で続いた。卸売り、小売り関係は、それぞれ11%、6%にとどまった。これは、imbibe liveがカクテルのイベントとして発展してきた経緯が影響しているとみられる。

日本ブースを訪れた動機を来場者に尋ねたところ(有効回答105人)、「日本酒が好きだから」「日本酒に興味があるから」といった日本酒を動機とする回答が52%と過半を占めた。前年の同じ設問で日本酒を動機に挙げた回答者は51%であり、日本を代表する酒類として日本酒が定着していることがうかがえる。また、「たまたま通りかかった」という回答は1割にとどまり、来場者の多くが意識的に日本ブースを訪れていることも確認できた。

日本酒の取り扱いの有無については(有効回答117人)、「取り扱い有り」が35%、「無し」が62%、「検討中」が3%という結果だった。前年調査の「取り扱い有り」33%から微増しており、ここでも日本酒の定着状況が確認できた。ただし、このことを裏返せば、日本酒の広がりに頭打ち感があることを示しているとも言え、注意が必要だ。

日本酒以外の日本産酒類の取り扱いの有無を尋ねたところ、取り扱い有り(有効回答50人)のうちウイスキーが70%、ジンが30%を占めた。前年の同じ設問ではウイスキー58%、ジン23%であり、これらの酒類の広がりが確認できる。実際、日本産酒類を取り扱う小売店に話を聞いても、問い合わせが多いのは日本酒よりもウイスキーだという。ジンに関しては、フレーバーによる差別化が容易で、新規参入のハードルが低いことも後押しして、英国ではクラフトジンブームが続いており、日本産も「六(サントリー)」や「季の美(京都蒸留所)」などの銘柄が現地市場に着実に食い込みつつある。

日本の伝統的蒸留酒である焼酎については、取り扱い有りは6人で12%にとどまった。この6人のうち2人は日本人経営のレストラン関係者だった。日本ブースを訪れた動機として焼酎を挙げた回答者も1人だけであり、焼酎は日本産酒類の中で後れをとっている状況が見られる。貿易統計の輸出額を見ても、英国への焼酎の輸出額(FOB)は年間843万円(2018年)にとどまり、その大部分が日本人経営のレストラン・居酒屋で日本人駐在員に消費されているとみられる。

日本酒のイメージ、「日本食・すし・魚介類」と「料理を選ばない」の2軸が併存

日本ブース来場者に日本酒に対するイメージを尋ねたところ(有効回答93人)、「伝統」(20%)、「日本・日本食」(12%)といった声が多数だった。「食事に合う」という回答も13%を占めた。その他、高級、滑らか、おいしいといった肯定的イメージが多数を占めた。他方、「度数が強い」(8%)、「スピリッツ」(3%)といった誤解や、「理解が難しい」(3%)、「単純で面白くない」(2%)といったネガティブなイメージも少数ながら聞かれた。これらの傾向について、前年からの大きな変化は見られなかった。

日本酒に合う料理・機会(オケージョン)を尋ねたところ(有効回答107人)、やはり日本食(全般)が34%で最多となり、魚介類、すしもそれぞれ19%、14%と多数回答となった。一方、「料理を選ばない」という回答も23%を占め、日本食に次ぐ回答数となった。また、野菜・果物、肉類、チーズなど、従来の発想にとらわれない食品を挙げる声も一定数聞かれた。こうした傾向は、前年の調査でも確認されている。このことから、英国では、「日本酒=日本食・すし・魚介類に合う」という特定化のイメージと、「日本酒=幅広い料理と合う」という汎用化のイメージの両方が併存する状況にあると言えよう。

日本酒の長所については(有効回答98人)、「飲みやすい」が20%で最多となり、これに「食事と合う」が17%で続いた。その他の多数意見としては、繊細さ、多様性、香りなどの声が聞かれた。飲みやすさを挙げる回答者が多かった背景としては、英国向けに輸出されている日本酒の多くが吟醸・大吟醸などの口当たりの良い特定名称酒であることが影響していると考えられる。「食事に合う」という点に関しては、先の設問の「料理を選ばない」という回答と結びついていると言えよう。

消費者の認知度向上が急務

日本酒の短所については(有効回答91人)、「(一般消費者に)知られていない」が47%、「飲む機会が少ない」が13%と、エンドユーザーである消費者の認知度の不足、接触機会の不足が圧倒的多数として挙げられた。前年の調査でも、「知られていない」が52%を占めており、この1年で英国の酒類業界関係者の目から見た一般消費者の日本酒に対する認知の状況に変化は見られない。既述のとおり、酒類業界関係者の多くは日本酒を認知し、日本酒を動機として日本ブースを訪れ、日本酒のポテンシャルを高く評価していることから、次のステップとして、彼らの先にいる消費者の認知度向上が必要な段階に来ていることがわかる。


日本産酒類ブース全景(ジェトロ撮影)

商談風景(ジェトロ撮影)

焼酎は酒類業界内での認知度を獲得するところから

imbibe liveの来場者はバー関係者が多いという前年の経験から、2019年は焼酎を中心とする蒸留酒の出品を強化し、アンケートでも焼酎に関する設問を設けた。

まず、焼酎の認知度を来訪者に尋ねたところ(有効回答111人)、「知っている」が34%、「知らない」が66%となり、回答者が「日本ブースを訪れた」「酒類業界関係者」という状況でも、認知度は3割にとどまる状況が確認された。また、日本ブースで焼酎を試飲したかという問いに対しては(有効回答88人)、「試飲した」が31%にとどまり、来訪者の関心はあまり高くない状況が明らかになった。

焼酎を知っていると答えた来場者に、焼酎に対する評価を尋ねたところ(有効回答27人)、「ウイスキーのようで好き」「独特の香りが良い」といったポジティブな評価が78%、「力強さに欠く」「アルコールがきつい」といったネガティブな評価が22%という結果になった。日本酒に対する評価と比較すると、ネガティブな声がやや多いものの、焼酎を認知している業界関係者の間では、概して好意的な評価を得ていると言える。

同様に、焼酎を知っている来場者に焼酎の長所を尋ねたところ(有効回答21人)、「カクテルに使える」という意見が29%で最多となった。この点は、来場者にバー関係者が多いことが影響しているとみられる。逆に、短所については(有効回答24人)、やはり「知られていない」が75%で圧倒的多数となった。

日本酒が酒類業界関係者の認知度を獲得し、最終消費者の需要掘り起しの段階に来ているのに対して、焼酎はまだまだ業界関係者の間でも認知度は限定的であり、まずは彼らに認識・理解してもらうところから始める必要があろう。幸い、英国を拠点とする酒類教育機関WSET(Wine and Spirits Education Trust)で、2019年夏から蒸留酒講座の1科目として、日本の焼酎が導入された。このことは、WSETで蒸留酒を学ぶ酒類関係者が焼酎についても学ぶ機会を得ることを意味しており、業界内での焼酎の認知度向上に寄与することが期待される。日本酒を現在のステータスまで成長させるのにも、10年、20年の歳月を要したという。焼酎も、英国をはじめとする欧州の現地市場に食い込むには、長いスパンでの継続的・戦略的取り組みが求められよう。


日本ブース内に設けたカクテルデモコーナー
(ジェトロ撮影)

WSETとの共催による日本酒セミナー
(ジェトロ撮影)

(アンケート結果の詳細)

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
市橋 寛久(いちはし ひろひさ)
2008年農林水産省入省、2017年7月からジェトロ・ロンドン事務所。