域内外の才能が集まり、多数のスタートアップを輩出(アラブ首長国連邦)
アラブ首長国連邦(UAE)のスタートアップ事情

2019年3月14日

経済ハブであるアラブ首長国連邦(UAE)、特にドバイには、中東・北アフリカ(MENA)域内外から集まった起業家らによる約2,000社のスタートアップがあるという。それらドバイ発スタートアップの多くは、現地のイベントなどを活用して、さらに域内諸国に事業拡大している。

アラブ諸国のスタートアップ・ハブとして注目

UAEは早くからインフラやビジネス・フレンドリーな制度を整備し、ドバイを中心に地域の経済ハブとして発展してきた。ドバイには中東・北アフリカ(MENA)地域内の企業だけでなく、同地域でのビジネス開拓・拡大を目的とする多くのグローバル企業も拠点を有している。こうしたUAE、ドバイの環境が域内外の才能を引き付け、近年では起業家・イノベーションの新しいハブとして注目を集めている。

UAEで活躍する起業家の多くは、UAE特にドバイをアラブ諸国のスタートアップのハブとみなして、同国から事業を開始もしくは拡大しようと、MENA域内を中心に、アジアや欧米などからも集まった人々がほとんどだ。ドバイに拠点を置くアクセラレーターのアストロラボ(AstroLabs)は、ドバイに進出する魅力として、(1)企業設立のしやすさ、(2)法人・個人ともに課税されないこと、(3)国籍にかかわらず在住ビザを取得しやすいこと、(4)新興市場へのハブであること、(5)資金アクセスのしやすさ、(6)生活環境の良さを指摘している。また、経済の多角化・高度化を進めるUAEの各政府機関や民間のインキュベーター・アクセラレーターも増加しており、支援が得られやすいこともUAEの魅力に挙げられている。

その結果、UAEには約2,000社のスタートアップがあるとみられる。セクター別には、eコマースが25%と最も多く、マーケットプレース22%、SaaS&IaaS22%、コンテンツ12%、広告・ビッグデータ8%、ディープテック5%、フィンテック4%となっている(注1)。ビジネスモデルを見ると、B2Cが52%で最も多く、B2Bは32%、C2Cは5%、複合型は11%だ。これらのスタートアップの多くは、スケールアップのためにUAEを足掛かりにMENA諸国に展開している。 以下、ドバイ発スタートアップの1つであるFetchrに話を聞いた。

物流の課題に注目して成功したスタートアップ:Fetchr

Fetchr は2012年の設立後、急成長を遂げたUAEのスタートアップである。GPS機能を活用して荷物の集荷・宅配の依頼が可能な携帯アプリを提供し、正確かつ迅速な配達サービスとして成功した。現在はUAEをはじめ、サウジアラビア、エジプト、オマーン、ヨルダン、バーレーンの6カ国に事業拡大している。2018年10月16日に同社のハビーブ・ファルカン営業部長に成功の秘訣(ひけつ)などを聞いた。

質問:
成功の要因は何か。
答え:
市場の問題の特定が大事だ。Fetchrの場合、中東では(日本のようには)住所が明確でないため、荷物の配達に時間も手間も非常にかかるという物流の課題を、市場のニーズとして最初に正確に特定できたことが勝因。最初は事業もeコマースに限定していたが、今では銀行や小売りなど、物流を必要とする多くの顧客向けに拡大できた。
質問:
スタートアップにとってドバイの魅力は。
答え:
ドバイには多数のフリーゾーンがあり、起業しやすい環境。Fetchrも最初はドバイ・ロジスティクス・シティーで設立し、その後ジェベル・アリでもライセンスを取得した。
その他、ドバイは通貨や経済も安定しており、税制面でも優位にあり、地域のハブとして、サウジアラビアなど市場が大きい周辺国へのアクセスも容易だ。ただし、成功できるかどうかは各社のビジネス次第。
質問:
ドバイでVCなど投資家からの支援を受けることは容易か。
答え:
最初は簡単ではない。ドバイ側でどのようなパートナーを得られたかによる。Fetchrの場合は、最初に投資を受けた後は、記事やSNSなどで一気に知名度が上がったため、その後の支援の獲得は難しくなかった。

Fetchrのハビーブ営業部長(左)(ジェトロ撮影)

増加・拡大が続くスタートアップ関連イベント

経済ハブとしてMICE(注2)を数多く開催しているUAE、ことにドバイでは、スタートアップやイノベーション関連のイベントも増加している。スタートアップイベントとして大規模なものは、毎年10月に開催されるGITEX Future Stars(2018年11月22日付記事参照)、毎年2月ごろに開催されるSTEP Conferenceなどがある。

STEP Conferenceは 2019年は2月13~14日にドバイで開催され、250以上のスタートアップが出展、6千人以上の起業家、メディア、インフルエンサー、投資家、VC、銀行、政府関係者などが参加した。4つのカンファレンスを中心に、ピッチコンテストやスタートアップの展示、メンターや投資家との1対1での面談、またグループ講座など、さまざまなイベントで構成されている。 4つのカンファレンスは、(1)起業家やスタートアップらが経験や取り組みを発表・共有する「Step Start」、(2)デジタルマーケティングや広告技術などに関する世界の最新事情をインフルエンサーやブランドマネジャーらが語る「Step Digital」、(3)自動運転やスマートシティー、AIなど最新技術に焦点を当てた「STEP X」、(4)銀行やフィンテック分野のスタートアップ、規制省庁などがフィンテックやブロックチェーン、仮想通貨などについて議論する「STEP Money」からなり、計150人以上が登壇し、自身の経験やUAE・中東のエコシステムへの貢献、評価などについて語った。

このイベントはVISAやペプシ、フォルクスワーゲンなどのグローバル企業や、ドバイのアクセラレーターなどさまざまな機関がパートナーとなっており、参加した投資家の1人は「STEPに参加すれば、UAEやドバイで何が起こっているかだけでなく、アラブ諸国や世界で起こっていることがわかる」と述べている。


ステージ上であいさつするSTEP主催者たち
(ジェトロ撮影)

STEP出展エリアのようす(ジェトロ撮影)

注1:
マーケットプレースはメーカーと小売店をつなげるサービス。SaaSは「Software as a Service」、IaaSは「Infrastructure as a Service」の略で、いずれもクラウドを活用したソフトウエアを提供するサービス。ディープテックはAIや宇宙工学など最先端の技術研究を指す。
注2:
MICEは「Meeting,(会議), Incentive travel(研修旅行), Convention(国際会議), Exhibition/Event(見本市・イベント)」の頭文字をとった、多くの集客や交流が見込まれるビジネスイベントのこと。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課課長代理
米倉 大輔(よねくら だいすけ)
2000年、ジェトロ入構。貿易開発部、経済分析部、ジェトロ盛岡、ジェトロ・リヤド事務所(サウジアラビア)等の勤務を経て、2014年7月より現職。現在は中東諸国のビジネス動向の調査・情報発信を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山本 和美(やまもと かずみ)
2009年、ジェトロ入構。途上国貿易開発部、大阪本部ビジネス情報提供課等の勤務を経て2015年7月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
ガーダ・アシュラフ
カイロ大学卒業後、6年間の調査会社での勤務等を経て2016年4月ジェトロ・ドバイ事務所入所。大学ではマーケティングを専攻。