米国から見た米中貿易の動向(2019年6月)

2019年8月9日

米国商務省が発表した2019年6月の貿易統計によると、米国の対中物品貿易赤字は300億ドルとなり、前年同月比で縮小したが、対世界の物品貿易赤字額は拡大した。米中間の貿易縮小により、米国の対世界貿易額も縮小した。対中輸出は、大豆や集積回路が増加したが、民間航空機、エンジン、部品や石油・歴青油の落ち込みが目立った。対中輸入は、追加関税措置第1~3弾の対象品目は大幅に減少する一方で、第4弾の対象品目は、発動を見越した駆け込みによる増加がみられた。本稿では、米国の2019年6月の国別貿易額や対中貿易の動向を分析する。

2019年6月の米中貿易額は前年同月比11.2%減少

米国商務省が8月2日に発表した6月の貿易統計(通関ベース、原数値)によると、米国の対中物品貿易赤字額は300億ドルとなり、前年同月比では11.2%縮小したが、対世界の物品貿易赤字は694億ドルとなり、4.4%拡大した(表1参照)。対中の輸出と輸入を合わせた物品貿易額は480億ドルとなり、2018年6月の555億ドルから13.4%減少した。米国の対世界貿易総額に占める中国の割合は13.9%で、前年同月(15.5%)から1.6ポイント減少した。一方、オランダの割合は前年同月比0.4ポイント増の2.0%、メキシコは0.3ポイント増の14.8%と増加した。オランダや韓国、台湾などとの貿易額は増加したが、中国に加え、カナダ、メキシコとの貿易額が減少したことにより、対世界貿易総額は前年同月比で3.3%の減少となった。

貿易額の内訳をみると、全世界への輸出額は1,381億ドルで、前年同月比で5.0%減少した。対中輸出額は90億ドルで16.8%減少し、メキシコ向けもコンピュータ部品(HTS8473項)の減少などにより、7.0%減の207億ドルにとどまり、カナダ向けも石油および歴青油(HTS2709~2710項)の減少などにより、5.7%減少した。一方、ブラジル向けは石油および歴青油(原油を除く、HTS2710項)の増加などにより17.1%増、オランダ向けも石油および歴青油(原油に限る、HTS2709項)の増加などにより10.5%増と、エネルギー関連の輸出増が目立った。

米国の全世界からの輸入額は2,074億ドルで、前年同月比で2.1%減少した。対中輸入額は390億ドルで12.6%減少となり、減少率は5月(10.7%)より拡大した。一方、メキシコからは、乗用車(HTS8703項)や貨物自動車(HTS8704項)の増加などにより、3.2%増加した。

表1:米国の主要国・地域との貿易額(6月、通関ベース、原数値)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 国・地域 輸出 輸入 総額 貿易収支
2018年 2019年 前年同月比 2018年 2019年 前年同月比 2018年 2019年 前年同月比 寄与度 2018年 2019年 前年同月比
1 カナダ 26,353 24,849 △ 5.7 28,094 27,755 △ 1.2 54,447 52,604 △ 3.4 △ 0.52 △ 1,741 △ 2,906 66.9
2 メキシコ 22,203 20,655 △ 7.0 29,558 30,507 3.2 51,761 51,162 △ 1.2 △ 0.17 △ 7,356 △ 9,852 33.9
3 中国 10,860 9,035 △ 16.8 44,612 39,002 △ 12.6 55,472 48,037 △ 13.4 △ 2.08 △ 33,752 △ 29,968 △ 11.2
4 日本 6,386 6,210 △ 2.8 11,506 11,921 3.6 17,892 18,130 1.3 0.07 △ 5,119 △ 5,711 11.6
5 英国 5,346 5,377 0.6 4,645 4,815 3.7 9,991 10,192 2.0 0.06 701 562 △ 19.9
6 韓国 4,830 5,092 5.4 6,076 6,224 2.5 10,905 11,317 3.8 0.12 △ 1,246 △ 1,132 △ 9.1
7 ドイツ 4,759 4,780 0.4 10,100 9,581 △ 5.1 14,859 14,361 △ 3.4 △ 0.14 △ 5,341 △ 4,800 △ 10.1
8 オランダ 4,011 4,431 10.5 1,737 2,448 40.9 5,749 6,879 19.7 0.32 2,274 1,983 △ 12.8
9 ブラジル 3,328 3,896 17.1 2,641 2,624 △ 0.7 5,970 6,520 9.2 0.15 687 1,273 85.2
10 インド 3,275 3,243 △ 1.0 4,173 4,142 △ 0.7 7,449 7,386 △ 0.8 △ 0.02 △ 898 △ 899 0.2
11 フランス 3,817 3,118 △ 18.3 4,315 4,722 9.4 8,133 7,840 △ 3.6 △ 0.08 △ 498 △ 1,603 222.0
12 香港 3,458 2,848 △ 17.7 567 311 △ 45.1 4,025 3,159 △ 21.5 △ 0.24 2,892 2,537 △ 12.3
13 ベルギー 2,903 2,739 △ 5.7 1,516 1,786 17.8 4,420 4,525 2.4 0.03 1,387 952 △ 31.3
14 シンガポール 2,991 2,647 △ 11.5 2,387 2,614 9.5 5,378 5,261 △ 2.2 △ 0.03 603 33 △ 94.5
15 台湾 2,582 2,562 △ 0.8 3,879 4,262 9.9 6,461 6,824 5.6 0.10 △ 1,297 △ 1,699 31.1
16 イタリア 2,260 2,077 △ 8.1 4,642 4,643 0.0 6,901 6,720 △ 2.6 △ 0.05 △ 2,382 △ 2,567 7.8
17 オーストラリア 2,359 2,063 △ 12.6 803 871 8.5 3,162 2,933 △ 7.2 △ 0.06 1,556 1,192 △ 23.4
18 スイス 1,996 1,684 △ 15.6 3,674 3,478 △ 5.3 5,670 5,162 △ 9.0 △ 0.14 △ 1,678 △ 1,794 6.9
19 アラブ首長国連邦 1,716 1,608 △ 6.3 488 512 4.8 2,204 2,119 △ 3.9 △ 0.02 1,228 1,096 △ 10.7
20 スペイン 1,171 1,271 8.5 1,609 1,399 △ 13.1 2,781 2,669 △ 4.0 △ 0.03 △ 438 △ 128 △ 70.8
世界計 145,370 138,062 △ 5.0 211,846 207,447 △ 2.1 357,216 345,510 △ 3.3 △ 3.28 △ 66,476 △ 69,385 4.4

出所:米国商務省センサス局からジェトロ作成

対中輸出は民間航空機、エンジン、部品の減少が目立つ

米国の対中貿易額をHTSコード上位4桁でみると、対中輸出は、中国の追加関税の対象になっている民間航空機、エンジン、部品(HTS8800項)は前年同月比43.9%減少し、金(HTS7108項)は前年6月の3億ドルから18万ドルに急減し、ほぼ輸出がなくなった(表2参照)。また、追加関税の対象にはなっていない石油・歴青油(原油に限る)も39.9%減少した。対中輸出上位品目の全世界への輸出額をみると、対中輸出額が前年同月比でマイナスの品目のうち、石油、歴青油(原油に限る)以外は全世界輸出額も前年同月比でマイナスとなっており、エネルギー製品以外は、対中輸出減少分をカバーする代替輸出先がみつかっていない状況が続いている。石油、歴青油は韓国向けが2.3倍、オランダ向けが3.0倍と急増した。

一方、対中輸出が増加した品目は、大豆(HTS1201項)が6.0倍に増え、集積回路(HT8542項)は38.8%増加した。

表2:米国の主要対中輸出品目の輸出額推移(6月)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 HTS番号 品目 中国 対中輸出が減少している場合の輸出が伸びている国・地域 世界
2018年 2019年 2018年 2019年
金額 金額 前年同月比 寄与度 金額 金額 前年同月比 寄与度
1 8800 民間航空機、エンジン、部品 1,430 802 △ 43.9 △ 5.8 インド411(78.5%増) 12,189 11,179 △ 8.3 △ 0.7
2 8542 集積回路 438 608 38.8 1.6 3,197 3,366 5.3 0.1
3 1201 大豆 100 601 498.2 4.6 1,221 1,136 △ 6.9 △ 0.1
4 8703 乗用車 500 522 4.4 0.2 4,098 4,496 9.7 0.3
5 2709 石油・歴青油(原油に限る) 795 478 △ 39.9 △ 2.9 韓国1,047(134.1%増)
オランダ494(201.4%増)
4,593 5,609 22.1 0.7
6 8486 半導体ボール・ウエハー・デバイス 448 361 △ 19.4 △ 0.8 アイルランド16(41.5%増) 1,527 1,176 △ 23.0 △ 0.2
7 9018 医療・獣医用機器 281 275 △ 2.2 △ 0.1 シンガポール97(19.2%増) 2,589 2,543 △ 1.7 △ 0.0
8 3004 医薬品 115 153 32.4 0.3 1,718 1,898 10.5 0.1
9 9027 物理・化学分析用機器 153 135 △ 12.1 △ 0.2 カナダ62(7.9%増)
オーストラリア20(42.6%増)
イタリア16(35.2%増)
814 794 △ 2.5 △ 0.0
10 3822 診断・理化学用の試薬 75 105 39.8 0.3 0.0 640 673 5.1 0.0
総計 10,860 9,035 △ 16.8 △ 16.8 145,370 138,062 △ 5.0 △ 5.0

出所:米国商務省センサス局からジェトロ作成

対中輸入は追加関税対象品目の落ち込みが目立つ

対中輸入は、電話機(HTS8517項)が前年同月比14.3%減、コンピュータ部品(HTS8473項)が72.5%減となり、電気機器(HTS 85類)や一般機械(HTS 84類)の落ち込みが目立った。また、家具・家具の部品(HTS9403項)が28.3%減、腰掛け(HTS9401項)が25.1%減、照明器具(HTS9405項)が22.7%減となり、家具、寝具(HTS94類)が25.7%減となっている。コンピュータ部品や家具、寝具の多くが第3弾の対象品目になっており、追加関税の影響が顕著になっている。対中輸入上位品目の全世界からの輸入額をみると、対中輸入額が前年同月比でマイナスの全品目が、全世界輸入額も前年同月比でマイナスとなっている。一部の品目はベトナムや台湾のほか、米国の隣国のメキシコやカナダからの輸入が拡大しているが、十分な代替先にはなっていない模様だ。

一方、対中輸入が増加した品目では、コンピュータ(HTS8471項)が前年同月比14.6%増、テレビ・モニター(HTS8528)が20.1%増加し、三輪車、スクーター(HTS9503)は17.9%増、テレビジョンカメラ、デジタルカメラ(HTS8525)は18.7%増となった。これらの品目の多くは第4弾候補の対象品目に入っているため、追加関税発動前の駆け込みでの輸入増とみられる。G20大阪サミットに合わせて開催された米中首脳会談では米中貿易交渉の再開で合意し(2019年7月1日付ビジネス短信参照)、米国の追加関税第4弾発動は延期となったが、7月30~31日に上海で開催された閣僚級の米中貿易協議が不調に終わり、トランプ大統領は9月1日から第4弾を発動すると表明したことから(2019年8月2日付ビジネス短信参照)、7~8月は第4弾対象品目の輸入増加が予想される。

表3 :米国の主要対中輸入品目の輸入額推移(6月)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 HTS番号 品目 中国 対中輸入が減少している場合の輸入が伸びている国・地域 世界
2018年 2019年 2018年 2019年
金額 金額 前年同月比 寄与度 金額 金額 前年同月比 寄与度
1 8471 コンピュータ 4,598 5,270 14.6 1.51 8,290 8,937 7.8 0.31
2 8517 電話機 4,946 4,236 △ 14.3 △ 1.59 ベトナム496(19.7%増)
台湾293(46.8%増)
8,325 6,880 △ 17.4 △ 0.68
3 8528 テレビ・モニター 917 1,102 20.1 0.41 1,813 1,981 9.3 0.08
4 9403 家具・家具の部品 1,154 827 △ 28.3 △ 0.73 ベトナム336(20.6%増)
カナダ227(15.6%増)
2,191 1,964 △ 10.3 △ 0.11
5 9503 三輪車・スクーター 638 752 17.9 0.26 794 926 16.7 0.06
6 9401 腰掛け 965 723 △ 25.1 △ 0.54 ベトナム152(40.7%増) 2,062 1,832 △ 11.2 △ 0.11
7 8708 自動車部品 905 687 △ 24.2 △ 0.49 メキシコ2,072(5.8%増) 5,667 5,436 △ 4.1 △ 0.11
8 8525 テレビジョンカメラ、デジタルカメラ 469 557 18.7 0.20 903 994 10.1 0.04
9 8443 印刷機 532 521 △ 2.0 △ 0.02 マレーシア139(13.3%増) 1,417 1,392 △ 1.8 △ 0.01
10 9405 照明器具 622 481 △ 22.7 △ 0.32 カナダ66(12.3%増) 987 829 △ 16.0 △ 0.07
総計 44,612 39,002 △ 12.6 △ 12.57 211,846 207,447 △ 2.1 △ 2.08

出所:米国商務省センサス局からジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課 課長代理
中溝 丘(なかみぞ たかし)
1997年、ジェトロ入構。海外調査部、国際交流部、経済産業省通商政策局(出向)、ジェトロ・ヒューストン事務所、産業技術部、企画部、経済産業省貿易経済協力局(出向)、ジェトロ・ヒューストン事務所長、サービス産業部などを経て、2016年4月より現職。