インド企業と共に進めるアフリカ展開
金融と物流のプロに聞いたビジネスのコツとは

2019年5月21日

インドは地理的な近接性、アフリカのインド系住民の存在などを背景に、アフリカビジネスを展開する企業も数多い。2016年11月に締結された日印共同声明PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(206KB) で、日印が協力してアフリカへの協力や産業ネットワーク開発を進めていくことが記されたことを皮切りに、日系企業もインド企業との協業による事業展開や、進出日系企業がインドで製造する製品をアフリカへ輸出する動きが見られる。日系企業がアフリカで新たなネットワークを作る1つの方法として、既にビジネスの地歩を持つインド企業との協業が考えられる。今般、インド地場有力銀行バンク・オブ・バローダの元チーフ・エグゼクティブのアショック・K・グプタ氏と、モーリシャスを拠点とする総合物流会社ヴェロジックのインド現地法人社長、ナワーズ・ゴビンドラム氏に日本企業へのアドバイスなどを聞いた(インタビュー日はそれぞれ3月27日、4月2日)。

各国に精通したパートナー発掘が重要

アショック・K・グプタ氏は、企業金融や投資金融を中心に金融分野の長いキャリアを持つ。前職のバンク・オブ・バローダでは、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ、湾岸諸国オペレーションのチーフとして、ドバイからアフリカ諸国向けの企業金融を担当していた。現在は同行を退職し、シンジケートローン(注1)の仲介や金融・不動産関係のコンサルティングのほか、業界団体での役員を務めている。

質問:
日本企業に対するアフリカビジネスの注意点は。
答え:
アフリカの54カ国の市場を、まとめて開拓することは難しい。統合市場となることが望まれているが、当面は各国に精通するパートナーを見つけることが必要となろう。
また、日本企業は大規模プロジェクトに関心を寄せる印象があるが、長期的な視野でビジネスを検討し、初めは小さく投資を開始し、学びながらビジネスを拡大していくことが重要ではないだろうか。
質問:
現在の活動は。
答え:
インドの中小製造業のアフリカ進出支援をしたいと考えている。インドの消費はブランド志向に変化している。また、ビジネスの透明化が進み、コンプライアンスにもこれまで以上のコストと労力を割かなければならなくなっている。これは、中小企業のキャッシュフローに重くのしかかってくる。一方、インドでは国内市場における価格競争が年々激化している。こうした中で、中小企業が生き残る方策として、インド製品の受け入れ素地がある海外市場、特にアフリカも併せて攻めていくことを勧めている。中小製造業のアフリカ進出には、日本の製造業の技術が欠かせないと考えている。インド企業側は、豊富な人材などを生かしたコスト競争力のあるモノづくりができる。

ビジネスをする国と地域の見極めが重要

モーリシャス人でインド系移民のナワーズ・ゴビンドラム氏はヴェロジック・インディア外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます で社長を務める。ヴェロジック外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、アフリカ大陸から東側に位置する島国モーリシャスに本拠を置き、フランス、インド、モーリシャス、マダガスカル、ケニア、バングラデシュなどに35拠点を有する総合物流企業だ。同社は、モーリシャスを本拠に航空、ホテル、金融、物流事業などを展開するロジャーグループの傘下にある。同氏は、海外産業人材育成協会(AOTS)が日本で実施した物流研修に参加した日本通で、日本企業との協業を志向している。


ヴェロジック・インディアのナワーズ・ゴビンドラム社長(ジェトロ撮影)
質問:
アフリカビジネスの注意点は。
答え:
ビジネスする国を見極めることが重要。政情が安定しないなどカントリーリスクが高い国があるので、事前の環境調査(FS)をしっかり実施することが求められる。またアフリカ全体は大きいが、国によってルールが違う中、どのように国ごとの市場を拡大していくかが重要。例えば東アフリカを攻めるのであれば、ビジネス環境が比較的整っているケニアからビジネスを始め、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジと広げていき、同様に南部であれば南アフリカ共和国からスタートし、ナミビア、ボツワナと進めていくといった格好だ。当社はモーリシャスに立地することで、モーリシャスが加盟している東南部アフリカ市場共同体(COMESA)(注2)、南部アフリカ開発共同体(SADC)(注3)といった経済共同体における域内のヒトやモノの移動についての恩恵を享受している。
質問:
ビジネス面で注目しているアフリカの国は。
答え:
政治が比較的安定しており、市場がある程度大きく、ビジネス環境に改善が見られるといった観点で、注目している国がいくつかある。北部ではアルジェリア、モロッコ、西部はガーナ、セネガル、ナイジェリア、東部はルワンダ、ケニア、タンザニア、エチオピア、南部は南ア、モザンビークなどだ。モーリシャス、マダガスカルも重要な地域だろう。
質問:
インド系移民のビジネスネットワークは機能しているのか。
答え:
アフリカ各国では、インド系企業が一定の存在感を有しており、アフリカ市場開拓のパートナーとなり得る。何世代も前に移り住んだインド系移民は、その国の住人になっているため、インド人としての意識は低いかもしれないが、インドとは同じ文化や言葉を共有しており、往来もあるため、インドとのネットワークが有効に働く場面は大いにあるだろう。インド系住民の多いモーリシャス、南ア、ケニアなどの各国には公式・非公式のインド系ビジネスネットワークが存在し、自身もそうしたサークルに加わっている。
質問:
アフリカビジネスに関心のある日本企業とどのような協業が可能か。
答え:
日本企業のアフリカ市場参入について、当社の物流サービスを提供することはもちろん、関連する業種の企業紹介などができる。また、ビジネスの分野に限らず、当社・自身のアフリカ各国でのネットワークから、企業・人脈を紹介することが可能だ。日本企業のビジネスに対する姿勢は理解しており、ぜひ真剣なパートナーとして、日本企業のアフリカビジネスに協力したいと考えている。

注1:
複数の金融機関が協調してシンジケートを組成し、1つの融資契約書に基づき同一条件で融資を行うこと。
注2:
東南部アフリカ諸国を中心として、21カ国が加盟する地域機関。域内での安定した経済・貿易圏の形成を目的として、1994年12月8日に発足。エジプト、ケニア、マダガスカル、モーリシャス、ルワンダなどが加盟。
注3:
南部アフリカの16カ国が加盟する地域機関。南部アフリカ諸国の人々の貧困削減・生活向上のため、域内の開発、平和・安全保障、経済成長の達成を目的とし、経済統合・共同市場の創設および紛争解決・予防等に向けた活動を実施。マダガスカル、モーリシャス、モザンビーク、ナミビア、南アフリカ共和国などが加盟。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課を経て、2015年7月からジェトロ・ニューデリー事務所勤務。