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マンダレーを巡る日中両国の開発競争(ミャンマー)

2019年2月1日

マンダレーは、ミャンマー第2の経済都市であり、1886年に英国に併合されるまでビルマ族最後の王朝コンバウン朝の都が置かれた古都である。現在では、その地理的重要性から、日中両国にとっての戦略的な拠点と位置付けられている。本稿では、こうしたマンダレーをとりまく現状について紹介する。

中国政府による戦略的なインフラ開発

ミャンマーは、中国にとってインド洋に進出するための「出口」にあたる。中国側から見た場合、ミャンマーを通ってインド洋に出るルートは、中国雲南省に隣接するミャンマー北東部のムセからマンダレーを通ってヤンゴンに抜けるか、ムセからマンダレーを経てチャオピューに抜けるかの主に2つがある。前者は第2次世界大戦中に「援蒋ルート」と呼ばれていたルートだが、現在中国は後者のルート整備を模索している。遠浅の河川港であるヤンゴン港は大型船舶の寄港などには不向きで、常時20メートルの水深があるチャオピュー港の方が利便性が高いと判断したものと考えられる。

図:ミャンマー国内地図

注:中国は、ミャンマーで中国と国境を接するムセからマンダレーを経由し、インド洋岸のチャオピューに抜ける「斜め」のルートを開発支援を強化している一方、日本はマンダレーからヤンゴンを南北に結ぶ「縦」のルートの開発支援を強化している。
出所:ジェトロ作成

チャオピューからマンダレーを経て雲南省に至る天然ガスと石油のパイプラインが既に稼働しているほか、2018年11月にはチャオピュー経済特区(SEZ)の深海港開発について、ミャンマー政府と開発主体の中信集団(CITIC)との間で合意ができた(2018年11月19日記事参照)。また2019年1月には、マンダレー・ムセ間の道路建設工事を中国交通建設(CCCC)などが行う予定と報道された(1月10日付「ミャンマー・タイムズ」電子版)。この区間に並行する鉄道には高さ100メートルを超えるゴッティー鉄橋があり、100年以上前に当時の英国植民地政府の主導で建設されたが、老朽化が進み貨物輸送のネックになっている。道路建設では、この鉄橋に並行して新たな橋が建設される予定で、2022年の開通を目指しているとされる(図参照)。

中華系の定着に伴い投資を促進する中国

マンダレーには中華系人口が多い。統計がなく詳細は不明ながら、同市の人口の2割に相当する約20万人に上るとも言われている。こうした中華系住民の大半は、国境を接する雲南省やシャン州に居住する中華系少数民族の家系だ。マンダレーから中国国境までは約450kmで、同市からヤンゴンまでの距離(約600km)より近い。1950年以降にこうした地域からの移民が数多く流入し、長い時間をかけて土着化してきたと考えられる。中には、ミャンマー国籍を持ちながら中国名を併せ持ち、中国語を流ちょうに話す者もいる。

中華系住民は宝石の鉱山採掘などに携わっているとされ、特に世界的にも評価の高いヒスイはカチン州パカンで大規模に採掘され、マンダレーに集積される。実際にパカンには1,000を超す採掘用重機が投入されており、マンダレーで重機のメンテナンス拠点を構えるコマツの担当者は「顧客のほとんどが中華系ミャンマー人となっている」と話す。

マンダレー商工会議所のデータによると、同市への直近の外国投資のうち約半分を中国勢が占め、分野別ではセメント・建設資材が製造の大半を占める(表1参照)。マンダレー近郊では良質な石灰石が採れるとされ、大規模なセメント工場が数多く建設されている。セメントはヤンゴンに供給されるほか、一部中国にも輸出される。

表1:マンダレーへの投資状況(2012年度~2018年度)

国別内訳(単位:件、100万ドル)
件数 金額 構成比
中国 23 1,422 44%
シンガポール 6 815 25%
香港 2 399 12%
オランダ 3 202 6%
韓国 3 101 3%
日本 7 78 2%
タイ 3 34 1%
オーストラリア 2 27 1%
マレーシア 1 26 1%
インドネシア 3 25 1%
合計(その他含む) 60 3,219 100%
業種別内訳(単位:件、100万ドル)
業種 件数 金額 構成比
製造(セメント・建設資材) 6 1,108 34%
電力・エネルギー・鉱山 7 1,020 32%
建設・不動産 6 544 17%
製造(製薬・ヘルスケア) 2 159 5%
製造(食品加工・飲料) 10 123 4%
サービス 4 70 2%
製造(二輪) 5 46 1%
製造(縫製) 8 43 1%
運輸 3 38 1%
製造(飼料・肥料・種子) 5 35 1%
合計(その他含む) 60 3,219 100%
出所:
マンダレー商工会議所からのデータを基にジェトロ作成

マンダレー郊外で地場大手財閥のRoyal Hi-Tech Group(RHTG)が開発するミョータ工場団地にも、中国企業の進出が相次いでいる。団地入居企業8社のうち、4社が中国企業だ(表2参照)。中でも、雲南省保山市に拠点を置く建設会社は、約120ヘクタールに及ぶ土地を確保して大規模な工業団地運営に着手する予定で、投資総額は約4億ドルと言われている。

表2:ミョータ工場団地の主な入居企業
企業名 国籍 業種 時期 投資許可額
Lotus Wood 中国 木材加工 2015年7月 約750万ドル
Japfa Comfeed インドネシア 飼料 2016年10月 約1,600万ドル
Baoshan Myotha Industrial Development 中国 不動産 2017年7月 約3億9,900万ドル
Ding Wang Food 中国 食品加工 2017年8月 約800万ドル
De Heus オランダ 飼料 2017年11月 約1,500万ドル
Gold AYA Motors 中国 二輪製造 2018年3月 約1,500万ドル
出所:
RHTG社からのデータに基づきジェトロ作成

日本はヤンゴン・マンダレー間の連結性を強化

このように、中国によるインフラ開発支援や企業進出が進む一方で、日本もマンダレーと最大都市ヤンゴンとの連結性強化に協力している。

国際協力機構(JICA)によると、陸上輸送については、ヤンゴン・マンダレー間の鉄道の維持・改修、新規車両の導入をODAにより実施しており、2024年の完成を目指している。水上輸送については、マンダレーは内陸にあるものの、付近を流れるエヤワディー川を利用した内陸水運が盛んであり、河川港が複数存在している。ただ既存の河川港は、人力で荷役などが行われる程度の小規模なため、マンダレー市内西部にODAにより新たな河川港を建設予定だ。なお、既に稼働中の近代港湾としてはRHTG社が建設したシミコン港があるが、同港は市街地から離れており、工業団地入居企業の貨物取り扱いが中心となっている。

航空輸送については、1999年に中国の援助で建設されたマンダレー国際空港があるが、2015年から保守運営や維持管理などのオペレーションを三菱商事とJALUXが実施している。その他の主要インフラとして、同市近郊のセタウジ水力発電所の改修(25メガワット)や全国送電網(ナショナルグリッド)の基幹網整備などもODAで実施されている。

日系企業の進出は少数にとどまる

現時点では、マンダレーへの日系企業の進出はそれほど多くない。前述のコマツ以外には、マンダレーブルワリーを買収したキリン、いすゞとトヨタの販売代理店、ITオフショア系企業の進出がある程度で、駐在する日本人も30人程度となっている。

キリンがマンダレーブルワリーを買収したのは、酒造メーカー1社に対し製造工場が1つしか持てないという、ミャンマーの規制によるところが大きい。新規の酒類製造免許が発給される可能性は低いとされ、ヤンゴン以北に製造拠点を有するのはマンダレーブルワリーだけという状況の中で、マンダレーにおける製造拠点を得るための進出だった。

ITオフショア系企業は、ヤンゴンでの人材確保難や不動産価格高騰を受け、ヤンゴンに次ぐ第2拠点としての進出が多い。ヤンゴンに比べて進出企業が少なく、採用は総じて順調のようだ。特に、マンダレー郊外にあるヤダナポーン・サイバーシティ大学の卒業生が優秀であることから、ヤンゴンと遜色のない人材の確保が可能となっている。

マンダレーを中心に「斜め」のラインで開発を目指す中国に対し、日本はヤンゴン・マンダレー間の「縦」の連結性強化に協力している。日中両国のミャンマーに対するインフラ整備支援の「交差点」になっているマンダレーには、今後も多くの投資が集まるものと期待され、その動向が注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・ヤンゴン事務所
下田 聡(しもだ さとし)
2008年経済産業省入省。2016年よりジェトロ・ヤンゴン事務所勤務(出向)

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