拡大するバングラデシュの消費市場、スーパーマーケットも増加
ハイパーマーケット「ユニマート」CEOに聞く

2019年12月3日

高成長が続くバングラデシュ。2019/2020年度(2019年7月~2020年6月)も8%台の経済成長が見込まれており(2019年10月11日付ビジネス短信参照)、人口1億6,000万人の同国の内需に高い関心を持つ日本企業も多い。現在、バングラデシュの1人当たりGDPは1,827ドルだが、首都ダッカ中心部に限れば、3,000ドルを超えるという声も聞かれる。アジア経済研究所の調査(2014年)によると、バングラデシュの小売市場は、モダントレードと呼ばれる近代的なスーパーマーケットの市場が2%にとどまる。しかし、近年の経済発展を背景にスーパーマーケットが着実に増加し、市場は広がっている。ジェトロは9月29日、当地でハイパーストアを運営する大手財閥系企業ユニマートのムルトザ・ザマン最高経営責任者(CEO)に、同社の取り組みや同国の消費市場の現状、今後の可能性について聞いた。

質問:
ユニマートのビジョンは。
答え:
Ultimate retail experience(究極のショッピング体験を)」「Solution for daily life(日々の生活に役立つものを提供)」「Figure out social business(ソーシャルビジネスへの理解を)」の3つだ。伝統的な市場で買い物をする際の価格交渉といった手間を不要とすることで、買い物の役割を担うことが多い女性の手間を省き、社会進出を支えることができる。また、プラスチック削減やオーガニック野菜の栽培など、環境や社会に良いインパクトをもたらす取り組みを心掛けている。例えば、最近は消費者のリサイクル意識を高める試みとして、ジュートで製作した自社製エコバックの販売に力を入れている。エコバックは利益を取らずに販売している。

レジカウンター前で自社製エコバックをPR(ジェトロ撮影)
質問:
ターゲットとする顧客層は。
答え:
「健康」や「品質」への意識が高く、高品質で安全な商品への購入意欲のある富裕層だ。現在、ダッカ市内に2店舗を展開しているが、中心部のグルシャン店は1日に2,500人、フードコートには3,000人が訪れる。地場の富裕層が多く居住する南西部のダンモンディには2019年4月に開店し、1日2,000人、フードコートに1,800人が来店しており、好調だと考えている。

近隣国から輸入した高価格な野菜や果物も
豊富にそろう(ジェトロ撮影)

来店客でにぎわうフードコート
(ジェトロ撮影)
質問:
貴社の市場シェア、売り上げの状況と今後の見込みは。
答え:
当社はバングラデシュの小売市場におけるプレミアムセグメントでオンリーワン、かつ先駆者でありたいと思っている。価格競争が激しい他のスーパーマーケットとはターゲットとする顧客層が明確に異なるため、競合とは考えていない。また当社は、バングラデシュで40年以上の歴史を誇り、電力事業や病院運営などを展開する大手財閥「ユナイテッド・グループ」の傘下であることが顧客の信頼を得ている要因の1つと考えている。2018年は前年比22%増の約2,000万ドルの売り上げを記録した。今後数年は前年比15%以上の売り上げ増を見込んでいる。
質問:
人気商品は。
答え:
輸入品の人気が高い。日本の商品だと、大塚製薬のポカリスエット、日清食品のカップラーメン、明治の菓子、富士フイルムの化粧品アスタリフトが人気で、ポカリスエットは月に100万タカ(約130万円、1タカ=約1.3円)売り上げることもある。品目としては、乳製品や食用油、チョコレート、菓子、短粒米、マグロなどの海水魚の缶詰の需要が特に高く、国別では日本、韓国、シンガポールの商品が人気だ。他方、当社に限らず、バングラデシュには日本の食品が非常に少なく、今後、日本食品に関する知識を深め、積極的に調達したいと考えている。
質問:
貴社のビジネスにおける課題は。
答え:
大きく分けて3点ある。まず1つは不動産価格の高騰だ。現在の2店舗は自社所有ビルにあるため影響はないが、今後の店舗展開に当たり、物件を借りる際のコスト面で大きな障壁になると考える。2点目は商品の質の担保で、特に中国やドバイから輸入する商品は質の悪い物や偽物も多く、調達の際に注意している。3点目は輸入の際の税金だ。バングラデシュでは輸入に際し6種類の税金があり、大きなコストとなっている。
質問:
バングラデシュのモダントレードの現状や、消費市場の将来性は。
答え:
ユニマートは2012年の営業開始から順調に売り上げを伸ばしており、モダントレードの発展にも貢献している。現在、バングラデシュの消費市場に占めるモダントレードの割合は、3~4%になっていると認識している。当社では、消費市場の拡大に伴い、今後5年でダッカ以外に10都市を出店先として有望視している。具体的には、今後2-3年のうちにチョットグラム(旧名:チッタゴン)やシレットに出店する計画がある。また、高い経済成長に伴い国民、とりわけ女性の収入が増加することで、当社で扱う高品質な食料品や生活雑貨の売り上げが一層伸びると考えている。
質問:
貴社の店舗で販売する商品にハラール認証は必要か。
答え:
当社の顧客の約90%はムスリムだ。ムスリムの顧客は輸入商品を購入する際、それがハラール認証製品かどうかを必ず確認するため、中東やマレーシア、インドネシアなどのイスラム圏のいずれかのハラール認証を取得した商品であることが望ましい。一方で、バングラデシュ産の商品は「当然ハラール対応」と考えることが前提にあり、ハラール認証がなくても購入することが多い。
質問:
日本の食品を販売する際の課題として考えられることは。
答え:
主に3点あり、1つはハラール認証。当地のムスリムの顧客にとって、ハラール認証を取得していることは高品質の証しでもある。そのため、イスラム圏で既に販売されているハラール対応商品であれば有望だが、そうでない場合のハードルが高い。2つ目は商品の英語ラベル(原材料や内容量など)で、これは当地での販売において必須だ。最後に、当地の消費者の日本食品への知識不足が挙げられる。そのため、当社としては、消費者に日本の食品を知ってもらうためのフェアを開催したいと考えている。日本食、日本食品が浸透するまで時間はかかるが、大きな可能性があると信じている。

ユニマートのザマン最高経営責任者(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所 所長
安藤 裕二(あんどう ゆうじ)
2008年、ジェトロ入構。アジア経済研究所研究企画部、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、生活文化・サービス産業部、ジェトロ浜松などを経て、2019年3月から現職。著書に「知られざる工業国バングラデシュ」。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
山田 和則(やまだ かずのり)
2011年、ジェトロ入構。総務部広報課(2011~14年)、ジェトロ岐阜(2014~16年)、サービス産業部サービス産業課(2016~19年)、お客様サポート部海外展開支援課を経て、2019年9月から現職。