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政府系大手のSTエンジニアリング、日本とシンガポールの高齢化対策に自動運転
実験都市シンガポール、モビリティ改革への挑戦(2)

2019年12月27日

シンガポール政府系企業のSTエンジニアリング(以下、ST)はこのほど、大手高速バス運行会社Willer(ウィラー、本社:大阪)と三井物産のシンガポール子会社でカーシェアリング事業を展開するカー・クラブ(Car Club)と共同で、同国中心部の観光スポットでオンデマンド型の自動シャトルの運行を開始した。STは、地場最大の防衛企業であり、民間分野でも航空、電子、物流など幅広い産業に関わる総合エンジニアリング会社だ。同社は、日本とシンガポールの共通課題である人口高齢化の対策として、日本で自動運転車(AV)の実証実験をすることを計画している。シンガポールのモビリティ改革の特集後編では、STの地上輸送部門、STエンジニアリング・ランド・システムズの自動運転事業の主任を務めるタン・グアンホン博士と、その開発チームのメンバーに、同社のAVの取り組みについてインタビューした(11月5日)。


STエンジニアリング・ランドシステムのAV開発チームを率いるタン博士(右端)と、
そのチームのチャン氏(左端)とゴー氏(真ん中)(ジェトロ撮影)
質問:
シンガポール国内には元々、自動車産業はないのにもかかわらず、STがAVに取り組む理由は。
答え:
(ケン・チャン・プログラムマネジャー)
STは2015年から中心部の植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」でのAVバスの運行を皮切りに、AVの実証実験に取り組んでいる。STエンジニアリング・ランド・システムズは2000年以来、防衛分野の顧客とロボティクスに取り組んでいた。国内に自動車産業がないにもかかわらず、AVの技術開発に取り組むのは、シンガポールは常に次世代の技術導入を目指しているからだ。また、シンガポールは国土全体を「スマート国家」構想(注)の下、新しいテクノロジーを実証実験する国として位置付けている。スマート国家構想では、国家として取り組むべき課題の1つを輸送とみている。STには自動車を製造する能力はないため、自動車のOEMと提携している。STとしての強みは、防衛産業で培ったロボティクスのソリューションを商用化することだ。
質問:
今回ウィラーと始めたガーデンズ・バイ・ザ・ベイでのAVバス運行の経緯は。
答え:
(チャン氏)
ガーデン・バイ・ザ・ベイでSTは、2015年から最近まで運行されていた、園内2カ所のガラスドームを結ぶ15人乗りのAVシャトルバス2台のプロジェクトを受注した。この第1弾の運行は、ガーデン・バイ・ザ・ベイ自身が行っていた。STは今回、ガーデン・バイ・ザ・ベイから第2弾のプロジェクトも受注し、ウィラーとカー・クラブと共同で運行を始めている。
質問:
2019年8月26日からセントーサ島でも、一般乗客を対象にしたオンデマンド型のバスの実証実験に取り組んだが、これまでの乗客の反応は。
答え:
(エイモス・ゴー・プリンシパルエンジニア)
われわれとしても非常に慎重に運行している。これまでのところ、(運行は)順調だ。観光客が多く集まるという環境の中での運行ということもあって、多くのことを学んでいる。
(チャン氏)
セントーサ島ではこれまで11週間にわたる実証実験で3,000人以上がバスに試乗したが、無事故で、乗客の評価は5段階中4~5の高評価だ。人々は思いのほかAVを信頼しているようだ。実験地が観光スポットで、リラックスした環境ということもあって、人々もAVを恐れることなく、安心してバスの前を横切ったりしている。

STがセントーサ島で2019年8月26日~11月15日に実施した
オンデマンド型シャトルバスの実証実験(ジェトロ撮影)
質問:
STがAVの運行に当たり、ウィラーと提携した理由は。
答え:
(タン博士)
ウィラーのアプローチは、STとは異なる。(高速バスの運行バス会社である)ウィラーは利用者の満足度を追求している。これに対し、STはエンジニアリング会社であるため、より技術面にフォーカスしている。AVの事業化に最終的には、利用者への対応が不可欠であり、そのために(運行のノウハウのある)ウィラーと提携した。
質問:
STはウィラーと日本でもAVとの実証実験を視野に入れているとのことだが、その理由は。
答え:
(タン博士)
日本でウィラーや関係者と話し合った結果、AVが日本で必要とされている実態が理解できた。都市へ若者が流入した結果、地方で高齢化が進行し、バスの運転手が不足している。また、地方は交通量が少なく、高齢者が移動するための交通手段が必要とされている。過密化していない地方での移動手段として、AV導入の良いチャンスがあるのではないかと考えている。
質問:
なぜ、日本の地方の方がAVを導入しやすいと考えているのか。
答え:
(タン博士)
AVは過密した環境では、管理しにくい。シンガポールは過密都市であり、他の車や自転車などの突然の動きなど、想定外のことに対応しなくてはいけない。
実証実験を始めるには、日本は最適だと思う。日本人は交通規則をよく守るため、より秩序正しい交通環境だ。またAVは、日本の高齢化の課題の解決手段の1つになる。シンガポールも十数年後に、日本と同じように高齢化に直面することになる。日本で実証実験をすることで、高齢者の輸送問題をどう対応するかを学ぶことができる。われわれとしては早く学ぶか、後で対応するかの選択肢でしかない。
質問:
STがこの先、日本で実証実験を行う上で必要なことは。
答え:
(タン博士)
(AV運行のための)規制の整備や、安全、保険、一般市民からの支持が必要になるだろう。車を公道で走らせるには、保険が不可欠だ。日本人からAVへの支持を得るのは容易ではないか、と考えている。なぜなら、日本の若者はロボットになじみがあり、新しいテクノロジーへの受容度が高い、と思っているからだ。

注:
「スマート国家」構想は、シンガポール政府が2014年から開始した国土全体をデジタル化する、国を挙げての取り組み。同構想に基づく無人自動車の実証実験の概要については、本特集の実験都市国家シンガポール、モビリティ改革への挑戦(1)を参考。

実験都市シンガポール、モビリティ改革への挑戦

  1. 持続可能なクルマ社会へ、自動運転の導入に向けたさまざまな取り組み
  2. 政府系大手のSTエンジニアリング、日本とシンガポールの高齢化対策に自動運転
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。

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