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産業デジタル化の発展に向け動き出すロシア
求められる外国企業の技術と経験

2018年12月3日

世界的にデジタル化の流れが加速する中、ロシアでも産業デジタル化に向けた動きが進みつつある。政府は2017年に関連のロードマップを策定し、デジタル技術の導入・発展に取り組み始めた。大企業を中心にデジタル技術の導入が図られる一方、ロシアの製造業全体でのデジタル化には、企業の理解や人材の不足などの課題がある。ロシア企業はデジタル技術・機器を外国企業に依存していることから、ロボットをはじめとした日本の技術や製品が参入できる余地は大きい。ロシアの産業デジタル化に向けた現状と日本企業の参入可能性について紹介する。

「テクネット」分野で2035年までのロードマップを策定

ロシア政府は長期的な国家戦略として2016年4月に、世界的に市場拡大が見込まれる有望市場での新技術の開発および国際的競争力の強化に向けた「国家技術イニシアチブ(NTI)」を立ち上げた。戦略イニシアチブ庁(ASI)がNTIのプロジェクトオフィスを運営し、重点市場ごとに産学官連携ワーキンググループを形成している。重点市場には(1)航空(アエロネット)、(2)自動車(オートネット)、(3)船舶(マリネット)、(4)神経工学(ニューロネット)、(5)ヘルスケア(ヘルスネット)、(6)農業(フードネット)、(7)エネルギー資源(エネルギネット)、(8)セキュリティー(セーフネット)、(9)金融(フィンネット)が指定されている。加えて、産業横断型の分野では「テクネット」がある。製造業のデジタル化・ハイテク化全般に関する分野を対象としている。NTIは、各重点分野に担当省庁・支援機関を設定し、インフラの整備や法規制の見直しを図るほか、政府系ファンドが有望企業への補助金や融資プロジェクトを実行している。

2017年2月には、「テクネット」分野で「2035年までのロードマップ(以下、「ロードマップ」)」が策定された(表参照)。「ロードマップ」の主な目的は、高度技術の発展とその技術を活用した「未来の工場」と呼ばれるスマートファクトリーの創設だ。2035年までにロシア国内に40のスマートファクトリー、25の同関連テストベッド(注1)、15の同関連研究施設を立ち上げる。まずは、主要インフラの整備やパイロット事業の立ち上げを行い、中期的には人材育成や認証制度などの法整備、最終的には先進的生産技術の世界的普及・国際的地位の確立を目指す。

表:「テクネット」ロードマップの実行計画

主要方針(1)国際市場でのロシア企業の優先的地位の確立に向けたハイテク製品・サービスの創出・発展・普及
要点 実行開始時期 実行終了時期
テストベッドの運営・展開 2017年第1四半期 2021年第4四半期
先進的技術・能力の伝達・発展の促進 2017年第2四半期 2019年第4四半期
ロシアの「未来の工場」のグローバル・ネットワークの構築 2017年第2四半期 2021年第4四半期
主要方針(2)先進的技術の利用に係る障壁除去のための法規制基盤の段階的改善
要点 実行開始時期 実行終了時期
新素材・加工技術・次世代の設計の認証制度の発展 2017年第2四半期 2025年第4四半期
先進的生産技術分野での法的支援 2017年第1四半期 2025年第4四半期
先進的生産技術製品の認証制度の発展のためのIT支援 2017年第2四半期 2025年第4四半期
主要方針(3)新市場における将来的な労働需要に見合った教育制度の改善
要点 実行開始時期 実行終了時期
テクネット市場の従業員訓練のための高度教育制度の改善 2017年第4四半期 2030年第4四半期
学習空間ネットワーク(機械学習工場など)のインフラ改善 2017年第2四半期 2018年第4四半期
先進的技術の実証、生産活動のロシアおよび海外への普及 2017年第2四半期 2020年第4四半期
主要方針(4)組織による技術的な支援、専門家による分析的支援、NTIによる情報提供
要点 実行開始時期 実行終了時期
ロードマップ実行の管理と調整 2017年第1四半期 2035年第4四半期
専門家による分析的な支援 2017年第2四半期 2035年第3四半期
出所:
国家技術イニシアチブ(NTI)重点市場「テフネット」2035年までのロードマップ

デジタル技術の導入・発展に向け外国企業との連携を図る

グローバルネットワークの構築に向けた、外国企業との連携強化も柱の1つだ。ロシア政府は近年、デジタル関連分野をテーマとした国際イベントを数多く開催している。モスクワ郊外にあるロシア版シリコンバレー・スタートアップ拠点のスコルコボでは、毎年5月と10月にデジタル分野での外国企業とロシアのスタートアップのビジネス交流を目的としたイベントが開催されている(2018年9月6日付地域・分析レポート)。毎年7月にエカテリンブルクで開催される、ロシア最大級の産業総合博覧会「イノプロム」は2018年のメインテーマを「デジタル製造」とし、ロボットやモノのインターネット(IoT)技術、ビッグデータなどを活用した製造現場の「見える化」を図る仕組みである「デジタルツイン」(注2)に関連した機械設備・技術、ソフトウエアなどの展示が目立った。


「イノプロム2018」で製造業のデジタル化技術を展示する企業ブース(ジェトロ撮影)

「イノプロム2018」では、デジタル分野での企業間連携に関する協定も複数署名されている。ドイツのシーメンスはロシアのソフトウエア開発カスペルスキー・ラボ、自動車部品開発・製造のイテルマと戦略的連携協定を締結した。シーメンスは2社と共同で、イルクート(イルクーツク州)が製造する最新の中・短距離旅客機「MS-21」向けの部品を製造する、アエロコンポジトの工場の生産設備や物流のIoT化や情報セキュリティー強化を進める。日本の産業機械大手ファナックは、ロシアの産業機械大手スタン(モスクワ市)と自動化・ロボット化技術の導入を共同で促進する連携協定に署名した。

製造現場への普及には人材やノウハウ不足が課題

ロシアの製造現場でのデジタル化に向けた最大の課題は、政府や大企業レベルでの取り組みが進む一方、中小企業を含めたロシアの製造業全体でのデジタル化の受け入れ態勢が整っていないことだ。産業商務省と有力IT系スタートアップのツィフラが2018年7月に発表した製造業のデジタル化調査(以下、「調査」)(注3)によると、ロシアの製造業の55%の企業は、デジタル化に向けた予算の割り当てが1%未満だ。また、ロシアIoT協会のアンドレイ・コレスニコフ会長は「デジタル技術・製品の導入だけでなく、導入後の管理プロセスが重要」と、デジタル技術に対応する専門人材の重要性を指摘する(「RBK」2018年7月3日)。イノプロム2018に出展したシーメンスのエンジニアはジェトロのインタビューに対し、「製造現場へのデジタル技術の導入には各現場の生産プロセスを理解する必要があり、単に技術や設備を導入しても機能しない。このことをロシアの企業が理解していないことが多い」と述べ、ロシア企業でのデジタル人材の不足に加え、デジタル化への投資を判断する企業経営者の、現場での製造工程に関する知識や問題把握能力が不足していることを課題として挙げている。

ポテンシャルを秘めた製造業向けのデジタル市場

ロシアの製造現場のデジタル化には課題が多く、動きは鈍いが、今後、市場が大きく伸びる可能性がある。米国の調査会社グローバルマーケットインサイツによると、2017年の世界の産業向けIoT市場規模は約3,130億ドルで、2023年には2倍強の7,000億ドルまで成長すると見込まれる。他方、ロシアIT専門メディアのティアドバイザー(TAdviser)によると、2017年のロシアの産業向けIoT市場規模は930億ルーブル(約1,581億円、1ルーブル=約1.7円)で、うち製造業での市場規模を186億ルーブルと見積もる。2020年にはそれぞれ約3倍の2,700億ルーブル、675億ルーブルに達する見込みで、急速な市場の拡大が見込まれている。「テクネット」のロードマップからも、2020年以降に産業デジタル化に向けた政府の政策が具体化することが予想され、産業デジタル化に関心を示すロシア企業は増えるだろう。日本企業にとって、デジタル製品の供給や技術協力でのビジネスチャンスになることを期待したい。


注1:
新技術の実証試験に使用されるプラットフォーム。
注2:
「デジタル上の双子」の意。物理的なモノと空間をデジタル上に再現し、シミュレーションや管理などを行うこと。
注3:
2018年初に工作機械製造や重工業分野の大企業および中企業200社に対して、インタビュー形式で調査を実施。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。

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