在豪日系企業の景況感は改善、ビザ問題が懸念材料に
オーストラリア進出日系企業実態調査

2018年5月16日

ジェトロは2018年3月、現地日系企業向けアンケートである「オーストラリア進出日系企業実態調査(2017年10~11月実施)」をまとめ、メルボルン、パース、シドニーの3都市で結果を発表した。在豪日系企業の景況感は大幅に改善した一方、就労ビザ制度の変更やエネルギー政策に関して不安視する企業が多いことが明らかになった。本稿では調査結果について報告する。

黒字企業が増加、景況感も改善

今回のアンケート調査では、在オーストラリア日系企業181社が回答した。調査結果によると、2017年の営業利益見通しについて、78.9%の企業が「黒字」を見込んだ。これは、近年実施した調査結果のなかで、最も高い値である(図1)。他方、「赤字」と回答した企業の割合は、2016年の16.4%から5.8ポイント縮小して10.6%となった。

また、2017年の景況感を示すDI値は31.1ポイント(前年比19.7ポイント増)に達し、前年より大幅に改善した(注)。

図1:営業利益見込みの推移
2017年の営業利益見通し(回答数180社)。黒字が78.9%、均等が10.6%、赤字が10.6%、2016年は回答数201社。黒字が70.7%、均等が12.9%、赤字が16.4%。2015年は回答数201社。黒字が72.1%、均等が11.9%、赤字が15.9%。
出所:
オーストラリア進出日系企業実態調査

さらに、今後1~2年の事業展開の方向性については、47.5%の企業が「拡大」、44.7%の企業が「現状維持」と回答した。新興国と比較すると「拡大」の割合は低いものの、近年、「拡大」の割合は微増が続いている(図2)。他方、今後1~2年で「事業の縮小」、または「第三国(地域)への移転・撤退」を図る企業は、輸送機械器具、卸・小売業を中心に全体の7.8%を占めた。この点に関連してオーストラリアでは、2017年にトヨタやゼネラルモーターズ(GM)などが自動車生産を終了した。現在、同国で完成車を生産するメーカーはゼロになっている。

図2:今後の事業展開(過去の調査との比較)
今後1~2年の事業展開の方向性。2017年は回答数179社。拡大が47.5%、現状維持が44.7%、縮小・移転・撤退が5.6%、第三国(地域)への移転・撤退が2.2%。2016年は回答数202社。拡大が43.1%、現状維持が49.5%、縮小・移転・撤退が5.5%、第三国(地域)への移転・撤退が2.0%。2015年は回答数199社。拡大が42.7%、現状維持が47.7%、縮小・移転・撤退が8.0%、第三国(地域)への移転・撤退が1.5%。
出所:
オーストラリア進出日系企業実態調査

現地市場開拓では富裕層を重視

現地市場開拓への取り組みを問う質問について、企業向け販売(B to B)型企業では、現在「地場企業」をターゲットにしている企業は83.6%に達した。また、将来のターゲットも「地場企業」と回答した企業も88.5%に上り、日系企業がターゲットとして地場企業を重視する様子が伺える。他方、現在「日系企業」をターゲットにしていると回答した企業は37.3%と少数派であり、将来的にはさらに減少する見通しだ。

同じ質問に対して、消費者向け販売(B to C)型企業では、現在「富裕層」をターゲットにしている企業が57.6%と多かった。将来的なターゲットを「富裕層」と回答した企業も75.0%と多いことから、富裕層向けビジネスに取り組む企業は増加する見込みだ。

従来型メディアの活用に効果あり

「効果が高いと思う広告宣伝方法」については、「自社ウェブサイト」が59.7%と最も高く、「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)」(45.6%)を上回った。ASEANや南西アジアでは、テレビやラジオなどを経ず、最初に所有した電気機器がスマホだという消費者が多い。この一足飛びの「リープフロッグ(かえる飛び)」現象により、SNSの効果が高いという国・地域が多いが、オーストラリアでは状況が異なる。「テレビ」(38.6%)や、「ラジオ」(17.5%)の宣伝効果が高いとする企業が多いのが特徴的である。

現地化の取り組みについては、製造業で41.0%、非製造業では53.6%の企業が「現地化を意識した現地人材の研修・育成の強化」すると回答しており、半数近くの企業が現地における人材育成に注力している。

長期就労ビザがリスクとして急浮上

オーストラリアの投資環境上のメリットについては、高い順に「安定した政治・社会情勢」(74.4%)、「駐在員の生活環境が優れている」(52.2%)、「市場規模・市場性」(47.8%)、「言語コミュニケーション上の障害の少なさ」(44.4%)、「整備された法制度、明確な運用」(21.1%)などが挙がった。

他方、投資環境上のリスクについては、「人件費の高騰」(83.5%)、「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」(38.6%)、「土地・事務所スペースの不足、地価・賃料の上昇」(32.4%)、「現地政府の不透明な政策運営(産業政策、エネルギー政策、外資規制など)」(23.3%)などの回答が多かった。

特に「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」は前回調査の17.0%から20ポイント以上増えた。2017年4月に連邦移民・国境警備省が発表した外国人駐在員向けの長期就労ビザの制度変更について、投資環境上のリスクとして捉えていることを反映した。

「現地政府の不透明な政策運営」については、産業政策、エネルギー政策などについて懸念する日系企業が増えていることが影響した。現在、オーストラリアでは与野党間で全く異なったエネルギー戦略を掲げている。供給量と価格が安定しない再生可能エネルギーが焦点になっている。現ターンブル政権にとって、エネルギーの安定供給は最重要の政策課題の一つだ。現状、エネルギー政策の見通しが不透明な中、エネルギー危機に直面した場合は電力やガス価格などコスト上昇に直結するため、日系企業は影響を受けることを懸念している。

これらは、従来から懸念となっている「人件費の高騰」と合わせ、さらなるコスト高として投資阻害要因にもなり得る。

日豪EPA活用率は輸入で47.1%

日本との輸出入の実績がある企業のうち、日豪EPAを活用している割合は輸出で18.9%、輸入で47.1%だった。ASEANと貿易をしている企業では、FTA・EPAの活用率は、輸出で30.6%、輸入で56.8%だった。

今回の調査結果から、現地日系企業が、コスト上昇やビザ問題など、ビジネス環境上の課題を抱えながらも、富裕層など高付加価値市場をターゲットにし、営業利益や事業拡大に向け取り組む姿勢が伺える。


注:
DI値は、営業利益が前年比で「改善」した企業の割合から「悪化」した企業の割合を引いた数値。
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
小柳 智美(こやなぎ ともみ)
2016年6月、ジェトロ入構。同月よりジェトロ・シドニー事務所所員。