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蓄電技術に大きな投資、エネルギー分野での活用にも期待(英国)
世界のEVトップランナーへ(2)

2018年10月29日

政府は2017年7月に、2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止する方針を発表するなど、自動車分野での排出抑制を促進するとともに、産業戦略に基づき、今後社会が化石燃料から電化にシフトすることに備えた蓄電池技術の研究、導入促進を目指す。中でも電気自動車(EV)の蓄電池の技術開発を重視し、支援スキームも立ち上げた。2018年9月には関係企業などを招集し、ハイレベル会合を開催し英国を自動車技術の先駆者にするという目標を掲げた。同時期に開催された展示会では、EV関連の技術展示が行われ、自動車産業にとどまらないエネルギー分野でのEV活用の可能性がみられた。

電池技術開発に注力

政府は2017年11月に発表した産業戦略において、その重点分野である「クリーン成長」「将来型モビリティー」で電気自動車(EV)などの低排出車が中心的な役割を果たすものと期待している。また、進展が期待される自動運転技術は産業戦略の「人工知能(AI)・データ」の分野にも大きく関わるとみられ、生産性向上への自動車産業の寄与の期待度は高い。政府は産業戦略に基づく、各産業との個別のパートナーシップの在り方を示したセクター・ディールを次々と発表しており、2018年1月には自動車セクター・ディールを発表した。主な施策として、自動車産業において政府・産業界がともに強化すべき分野と具体的な投資金額も示されている。内容を見ると、新型の低炭素自動車技術の研究開発やファラデー・バッテリー・チャレンジへの投資、インターネットに接続可能な通信技術を搭載するコネクテッドカーや自動運転技術など、環境型あるいは先進技術へ注力する方針が多くみられる。また、ゼロ排出タクシーに対する自動車物品税(VED)や、社有EVの場合は無料充電ができるようにするなど、EV関連のビジネス優遇策も盛り込んだ。

前述のファラデー・バッテリー・チャレンジの詳細な内容が2018年3月に発表された。産業戦略に基づく政府基金(ISCE)の一環として、総額2億4,600万ポンド(約361億6,200万円、1ポンド=約147円)が拠出される予定だ。低炭素技術の促進、大気汚染への対応、新産業の育成を目的に掲げており、今後社会が化石燃料から電化にシフトすることに備えた蓄電池技術の研究、導入促進を目指す。政府は、蓄電池市場が2025年までに英国内で50億ポンド、欧州では500億ポンドまで拡大すると予想しており、拡大する市場を捉えるため、まずはEVなど自動車分野に焦点を絞る。

このチャレンジは政府機関のイノベートUKと産官学共同の工学・物理科学研究団体EPSRCによって運営される。活動分野は「研究」「イノベーション」「規模拡大」の3つで、まず研究の分野では7,800万ポンドの予算を用いて、オックスフォード近郊に立ち上げたファラデイ研究所を活用する。ここでは、産学の専門知識を活用して主に蓄電池の普及に必要な基礎研究が行われ、英国を蓄電池関連の新技術の普及、製造、生産それぞれの段階の研究に最適な場所とすることを目指す。また、「イノベーション」の分野では、産学の研究開発に対して8,800万ポンドの資金支援を実施する。ここでは、蓄電池技術の実現可能性調査、企業・研究団体の共同研究開発プロジェクトを対象にコンペを実施し、選定企業に対して必要な資金が付与される。コンペの参加条件として、応募団体は最低1社の中小企業を含むことが求められる。第1回のコンペでは、計66団体の27プロジェクトが総額で4,000万ポンドを獲得した。スタートアップのブリル・パワーが主導する蓄電池制御システムのプロジェクトや、製造関連の研究団体HSSMIのEVの老朽化蓄電池の再利用プロジェクトなど、さまざまな可能性を持つ技術研究が支援されることとなった。

「規模拡大」の分野では、英国電池産業センター(UKBIC)を開設し、予算8,000万ポンドを投じ、既に蓄電池市場に参入した企業の生産能力拡大や、新規参入企業の市場参入支援を行う。零細・中小企業から大企業までを対象としており、蓄電池のサプライチェーンの強化と英国への投資拡大を狙う。基礎研究から研究開発、そして商業化サポートまで、国内の蓄電池に一連のサポートを与えること体系的に普及を推し進めていくものとみられる。

世界初のゼロ排出サミット、低排出車イベントも開催

政府は9月11日には、世界初となる「ゼロ排出車(ZEV)サミット」を開催した(2018年9月19日ビジネス短信参照)。本会合には40カ国以上から政府高官や企業経営者などが招かれた。テレーザ・メイ首相も演壇に立ち、急速に進歩を遂げるEVなど自動車技術で、英国を先駆者の立場に置くという野心的な目標を表明。また、ゼロ排出車や蓄電池、低炭素技術の研究開発に対して政府が1億600万ポンドを拠出することも発表された。また、英国のほか10カ国と3地域の政府・自治体が輸送部門のゼロ排出化に向けた「バーミンガム宣言」に署名したことに加え、将来のEVとエネルギーシステムの効率的で持続可能な運用について、エネルギー企業、自動車企業、政府関係者などが議論する専門家会合が初開催された。また、英国で社有車を多く運用する16の企業からゼロ排出に向けた目標が発表された。

また、ZEVサミットに併せて低排出車技術などの展示イベント「Cenex-LCV2018」が開催された(2018年9月20日ビジネス短信参照)。このイベントは英国のEV充電設備大手であるニューモーションやチャージマスターといった企業スポンサーに加え、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)や運輸省といった省庁や研究団体なども後援機関として名を連ねた。英国内外の自動車関係の企業や充電設備技術を持つ企業、エネルギー関係の企業など多くの企業がブースを出展し、会場内では研究団体・企業のマッチングイベントも開催された。会場各所で行われた講演でも、政府による政策概要の解説や研究団体による研究の紹介、あるいは自動車企業によるEV技術、実証事業の解説があったほか、エネルギー企業からも多くの講演があった。特にエネルギー企業の講演は「ビークル・トゥー・グリッド(V2G)」に関する自社技術や取り組みに焦点が当てられていた。


「Cenex-LCV2018」で活発に意見交換をする参加者(ジェトロ撮影)

EVの充電設備を各社が展示していた(ジェトロ撮影)

自動車からエネルギーへ

ではV2Gとは何か。これはEV(ビークル)といわゆる配電線や送電線といった電力ネットワーク(グリッド)を接続し、EVの蓄電池の充放電機能をグリッドの電力バランス調整に活用する概念あるいは技術をいう。

今後、EVが普及すると使用する動力源がガソリンやディーゼルといった化石燃料から電気に転換(電化)していくことになり、電力需要が増加することが予想される。ただし、電力需要の増加はグリッドへの負担を大きくする可能性がある。英国の配電事業者ウエスタン・パワー・ディストリビューション(WPD)は、会場で行った講演の中で、特に冬場など電力需要がピークに達する時期は、EVの充電による需要が増加することで、地域の配電線の容量を超える電気が必要となる可能性があるとした。同社はこの課題を克服するため、配電事業を行っている地域で複数の企業と「エレクトリック・ネーション」と呼ばれる実証事業を実施している。この実証事業では、実証に参加するEVドライバーにスマートチャージャーとよばれるEVとグリッドの双方向の通信・送電可能な充電設備を提供する。ドライバーは専用アプリを使い実証に参加、EV全体の充電状況をリアルタイムで見られるとともに、自分のEVに優先的に充電するオプションも選べるなどの機能があり、ドライバーが状況に応じてどのような行動を選択するかを調査することができる。本事業では、EV充電が一定の時間帯に集中しグリッドに負担をかけるのを回避するため、どのような選択肢がドライバーの行動に変化をもたらすか分析することを目的としており、エネルギーの使用状況の見える化や、充電時間帯によって電気料金に差をつけるなどの方策による調査も行う予定だという。

また、風力を中心とする再生可能エネルギーもV2G技術と深く関連している。政府統計によると、2018年第1四半期時点で英国の発電電力のうち20%近くが風力発電となっており、今後さらにシェアが増大するものとみられる。一方、風力発電は自然由来のエネルギーであるがゆえに、発電出力を一定に保ちにくいという側面がある。電力には、ネットワーク上の需要と供給をバランスさせなければいけないという特性があり、例えば、風力発電の出力が不足する場合は、他の発電方法でカバーする必要があるほか、場合によっては、ネットワークの容量の増設工事を要する場合があり、コスト増加が懸念点として残る。このような場合に、EV蓄電池としての活用が1つの解決方法となる。例えば、風力発電から過剰に電力が供給されたときにはEVを充電する、逆に不足した場合は走行していないEVからグリッドに対して電力を放電・供給することでネットワーク全体のバランスを取る。このような電力ネットワークのバランシングに参加するEVが増えるほど、エネルギーシステム全体の安定性は向上する。実際にEVとグリッドを接続する場合には、充放電の選択肢はドライバーに委ねられるため、実証事業にてドライバーの行動特性を分析していくことは有用だ。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
木下 裕之(きのした ひろゆき)
2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2018年3月から現職。

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