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インドネシア自動車産業の行方を占う5つのトピック

2018年9月19日

インドネシアはASEAN最大の自動車市場であり、2017年の販売台数は約106万台と、2位であるタイの約87万台に差を付けている。ASEANで販売される自動車のほぼ3分の1がインドネシアで販売されている。しかし、インドネシア国内の販売台数に目を向けると、2013年に過去最高の123万台を記録した後、世界的な国際商品市況の下落に伴う国内景気の減速などの影響により、販売台数が伸び悩んでいる。2018年8月上旬に開催された「ガイキンド・インドネシア・インターナショナル・オートショー(GIIAS)」の結果をみても、来場者数・販売台数ともに前年から横ばいで、勢いに欠ける印象だ。他方、インドネシアにおいてもCO2排出量削減などの観点から、環境車の普及促進に向けた議論が盛り上がりつつある。このような状況の中、本稿ではインドネシアにおける今後の自動車産業の行方を占うために、自動車産業に関連する5つのトピックを整理した。

自動車向けぜいたく品税の改正を働き掛け

インドネシアでは自動車を購入する際、ぜいたく品税(PPnBM: Pajak Penjualan Atas Barang Mewah) が課せられる。現在、ぜいたく品税の税率は、セダンやMPV(Multi Purpose Vehicle/ミニバン)、SUV(Sport Utility Vehicle)といった自動車の形態およびシリンダー容積に基づいて定められている。例えば、シリンダー容積が1,500CC以下の場合、ぜいたく品税はMPV/SUVの場合10%だが、セダンの場合は30%となっている。セダンは排気量にかかわらず、その形状から富裕層向けの乗用車と位置付けられ、MPV/SUVの3倍のぜいたく品税を課せられている(表参照)。これがMPV/SUVを好む消費者の嗜好(しこう)と合わせて、セダンの販売台数が大きく減少する一因となってきた。2017年の乗用車販売に占めるセダンの割合は1.1%しかなく、ジャカルタ市内でも、タクシーや欧州ブランドの高級車を除き、セダンを目にすることは少ない。これに対して、インドネシア自動車工業会(GAIKINDO)はぜいたく品税の改正を強く政府に働き掛けてきた。GAIKINDOのヨハネス・ナンゴイ会長は「世界全体では乗用車の主流はセダンであり、インドネシアがセダンの輸出を増やそうと思えば、国内市場でもある程度のセダンを吸収する必要がある。そのためには、ぜいたく品税の改正やユーロ4(排ガス規制)への対応が不可欠だ」と語る。このような産業界の声を受け、インドネシア工業省は財務省に対して、ぜいたく品税を自動車の形態ではなく、CO2排出量およびシリンダー容積に基づいて設定するよう提案しているが、財務省は難色を示しているようだ。

表:自動車向けぜいたく品税

乗用車(シリンダー容積別)(―は値なし)
形態(注) 1.2L以下 1.2L超、1.5L以下 1.5L超、2.5L以下 2.5L超、3.0L以下 3.0L超
セダン (D/G)
30%
30%
40%
40%
125%
4x2 (H/B, MPV, SUV) (G)
10%
10%
20%
40%
125%
4x2 (H/B, MPV, SUV) (D)
10%
10%
20%
125%
125%
4x4 (D/G)
30%
30%
40%
40%
125%
KBH2 (D/G)
0%
商用車
形態(注) 税率
ピックアップ(D/G)
タクシー(D/G)
トラック、バス(D/G)
0%
ダブルキャビン(D/G) 20%
注:
D:ディーゼル、G:ガソリン、H/B:ハッチバック、KBH2:省エネ・低価格車(LCGC)
出所:
政令2013年41号

EVなど環境車の普及を促進

インドネシア政府は「環境・気候変動の抑制に関するパリ協定」において、特段の対策を講じなかった場合(BAU: Business As Usual)と比べて、2030年までに温室効果ガスを29%削減するという目標を掲げている。その目標の達成のための重要な手段が電気自動車(EV)など環境車の普及だ。インドネシア工業省は、2030年の自動車生産台数の目標を300万台に設定しており、そのうち25%を低炭素排出車(LCEV: Low Carbon Emission Vehicle)、20%を省エネ・低価格車(KBH2: Kendaraan Bermotor Roda Empat yang Hemat Energi dan Harga Terjangkau)にしたい考えだ。省エネ・低価格車は一般的にLCGC(低価格グリーンカー)と呼ばれ、2013年9月に発売された。排気量(980~1,200cc)、燃費(20km/リットル以上)、車両価格〔9,500万ルピア((約71万円、1ルピア=約0.0075円)以下〕、現地調達率(80%以上)などに関する諸条件(工業大臣令2013年33号など)をクリアすることで、ぜいたく品税は免除される。比較的低価格で手に入れられることから消費者の支持を集め、2017年の販売台数は約23万台で、乗用車全体に占める割合は約22%になっている。工業省としては、LCGCの成功体験をなぞるようにLCEVの市場を創出したいという思いだが、高額なLCEVの普及促進策として、ぜいたく品税や関税の優遇以外のインセンティブはみえていないのが現状だ。なお、工業省はLCEVの定義として、EVのほか、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、燃料電池車を含めているが、エネルギー鉱物資源省は2040年にガソリンエンジンやディーゼルエンジンを搭載する自動車の販売を禁止することを提案しており、省庁間の議論の行方が注視される。内燃機関なしの純粋なEVの普及は充電設備の整備に時間とコストを要するため、まずは「例えばバリ島など地域を絞って集中的に導入したり、公共交通でEVを使ったりする」(ヨハネス・ナンゴイGAIKINDO会長)のが現実的だろう。


GIIASで展示された日野のEVバス(ジェトロ撮影)

バイオディーゼルの使用義務が拡大

インドネシアは産油国であるが、経済発展に伴い石油の消費量が増え続ける一方、1990年代以降、生産量は減少を続け、2003年を境に石油の純輸入国となっている。国営石油会社であるプルタミナが国家財政を支え、「国家の中の国家」と呼ばれた時代から様変わりした。2017年の数字では、生産量4,640万トンに対して、消費量7,370万トンとなっており、消費量が生産量の1.6倍近くに達している(BP資料)。このような中、エネルギー安全保障やCO2排出量削減といった観点で、インドネシアが世界最大の生産量を誇るパームオイルからバイオディーゼルを製造し、石油を代替しようという議論がされてきた。8月15日に署名された大統領令2018年66号で、バイオディーゼルを20%、軽油(Solar)を80%含む「B20」の使用義務が拡大され、9月1日に実施された。従来、「B20」の使用義務は、公共サービス義務(PSO:Public Service Obligation)という位置付けで、国鉄やその他国営企業などに限定されていたが、今回、全てのユーザー(Non-PSO)に拡大された格好だ。2016年からバイオディーゼルを20%含有している低所得者向け補助金つき軽油「SOLAR」(セタン価48、硫黄分3,500ppm)に加え、2018年9月1日から、「DEXLITE」(セタン価51、硫黄分1,200ppm)についてもバイオディーゼル20%の混合が始まった模様だ。

インドネシア・トラック経営者協会(APTRINDO)のキアットマジャ・ルクマン副会長によると、「B20」は2016年から導入されているものの、実際にトラック業界で使用されている軽油に含まれるバイオディーゼルはエンジンの仕様に合わせて5~10%だという(CNN Indonesia、2018年9月1日)。「B20」以上の軽油はタンクの汚れを引き起こすほか、オイルフィルターやエンジンオイルの交換をより頻繁に行う必要がある。さらに、バイオディーゼルは水と結びつきやすい性質であるため、水分離フィルターを取り付ける必要がある。このように「B20」の使用に当たってはユーザーサイドで適切な対策を講じる必要があるが、トラックの「B20」使用に関して政府による実証実験は行われておらず、政府によるユーザーへの周知不足が否めない状況だ。メンテナンスコストの増大による物流コストの上昇も心配だ。トラックなどの商用車だけでなく、三菱自動車のパジェロやトヨタのフォーチュナーといったSUVでもディーゼルエンジン仕様のものが人気で、影響に注意する必要がある。

なお、バイオディーゼルの活用については、石油の輸入減を通じた経常収支の改善を企図することで、通貨ルピア安を食い止めたいという政府の思いもにじむ。ルピアは2018年に入ってからほぼ一本調子で米ドルに対し下落を続けており、中央銀行であるバンク・インドネシアも4度にわたる利上げで対抗しているが、下落に歯止めがかかっていない。

中国系自動車メーカーの参入

インドネシアにおける2018年上半期の自動車販売をみると、販売台数55万3,779台のうち、約98%が日系メーカーの自動車だ(GAIKINDO資料)。このような中、前年7月にSGMW Motor Indonesia(ウーリン)、11月にSokonindo Automobile(DFSK)とそれぞれ中国系自動車メーカーが自動車組立工場の操業を開始した(2018年2月28日記事参照)。特に、ウーリンは順調に販売を伸ばしており、2018年上半期のブランド別販売台数でダットサンや日産を抜き、全体の9位に浮上している。販売台数全体に占めるシェアはまだわずかとはいえ、中国系の両社はディーラー網を整備しつつ、消費者に対する露出度を着実に高めている(2018年9月5日記事参照)。


北ジャカルタ・プルイットにあるDFSKのディーラー(ジェトロ撮影)

生産能力が過剰、輸出増の必要

現在のインドネシアの自動車生産能力(2017年時点)は、日系各社の生産能力拡大や中国系メーカー進出の結果、220万台に達している(GAIKINDO資料、Sokonindoを含まず)。他方、2017年の実際の生産台数は約122万台であり、生産能力が100万台近く過剰な状態だ。その意味でも、輸出を増やす必要がある。現在、トヨタ、ダイハツ、スズキなどがまとまった台数を輸出しており、2017年の完成車の輸出台数は23万1,169台だった。インドネシア政府は、「インダストリー4.0」導入に向けたロードマップ「Making Indonesia 4.0」において、2030年までに「GDPに対する純輸出の割合を10%に引き上げる」という目標を掲げており、自動車は優先5分野に含まれるほか(2018年4月12日記事参照)、前述のルピア安の問題もあり、より積極的に輸出を後押ししていくとみられる。他方で国外に目を向けると、ASEAN域内だけをみても自動車産業の集積で先行しているタイとの競争は避けられない。技術移転や人材育成を通じて自動車産業の成長を促すためにも、インドネシア政府が民間企業の円滑な操業を支える政策を実施していくことが求められる。

以上、自動車産業に関する5つのトピックを整理したが、最後に触れておきたいことは、インドネシアの自動車産業は適切な政策が実施されればまだまだ成長のポテンシャルが高いということだ。インドネシアの自動車市場は2015年に前年比2割弱販売が落ち込んで以降、緩やかに回復を続けており、GAIKINDOは2018年の販売目標として110万台という数字を掲げている。他方、自動車の普及率を周辺国と比較すると、1,000人当たりの自動車数はマレーシアの439台、タイの228台に対して、インドネシアは87台にとどまっている(2015年、国際機関OICA資料)。インドネシアはASEAN全体の面積の4割に、ASEAN全体の人口の4割が居住する大国である。経済発展やインフラ整備の進展に伴い、自動車市場も都市から地方へ、富裕層から中間層へ、持続的に拡大していくことが期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
吉田 雄(よしだ ゆう)
2005年、ジェトロ入構。貿易開発部にてインドネシアの一村一品支援やASEAN地域・インドの物流環境調査などを担当。2008年よりジェトロ徳島にて徳島県企業の海外ビジネスを支援。2011年よりものづくり産業部にてインフラ・プラント分野の海外展開支援に従事。2014年4月より現職。主に機械・環境分野の情報提供やビジネスマッチングを行っている。

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