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改革が進むタイの銀行業界
デジタル化に伴う送金手数料の無料化と人員削減

2018年5月30日

タイの大手銀行3社は3月、インターネット経由の送金手数料を無料化することを発表した。銀行業界でも、社会経済のデジタル化を見据えた改革が進んでいることの表れだ。他方、こうした改革に伴い一部の銀行では、大規模な人員・店舗の削減が計画されるなど、雇用に与える影響が懸念されている。

デジタル化で先行するSCBとKbank

タイの主要銀行であるサイアム商業銀行(SCB)は3月28日、「インターネットバンキング、もしくはSCBのモバイル決済アプリケーションを利用した銀行間送金手数料を無料化する」と発表した。また同日、バンコク銀行(BBL)とカシコン銀行(Kbank)も、インターネット経由の送金手数料を無料化した。

こうした措置により、従来は送金ごとに発生していた手数料25~35バーツ(約88~123円、1バーツ=約3.5円)が無料となる。そのため、今後インターネットバンキングの利用者が増えると期待される。

一方、銀行にとっては、これまで売り上げの3割を占めていた手数料収入がなくなるため、収益構造やビジネスモデルに大きな影響を与えることは必至だ。そのためSCBは、手続きのデジタル化を進めることで、コストを削減し、収益減を最小限にしようとしている。SCBは1月、「IT技術を活用することで、顧客の利便性を高めつつもコスト削減する。2020年までに、従業員を2万7,000人から1万5,000人に、支店数を1,170店から400店に削減する」と公表した。

他方、Kbankは、こうした大規模な人員削減は公表していない。代わりに、同行のモバイル決済アプリケーションである「KPlus」に、「KADE」と呼ばれる人工知能(AI)を導入し、各顧客にカスタマイズされた金融商品やサービスを提供する予定だ。タイの主要銀行は、SCBとKBankを中心とし、手続きやサービスのデジタル化を大きく進めている。

タイ政府がデジタル化を後押し

銀行業界で進むデジタル化は、タイ社会経済のデジタル化を見据えた戦略であり、タイ政府もこれを後押ししている。タイ政府は2015年12月、将来のキャッシュレス社会を見据えた国家計画である「ナショナルEペイメントマスタープラン」を閣議決定した。

特に、同計画に基づき2017年1月から始まった電子決済制度「プロムペイ」(注)により、国民は携帯電話で簡単に送金ができるほか、従来発生していた5,000バーツ未満の銀行間送金手数料も無料化された。

さらにタイ政府は、プロムペイを利用した個人所得税還付申告に対して、従来の還付申告よりも早い還付を実行している。その結果、プロムペイの登録者数は、2017年8月時点で3,200万人を超えた。つまり、タイ国民の半数はプロムペイを利用している。

デジタル化には人材面で課題あり

しかし、こうした送金手続きのデジタル化は、銀行経営に懸念をもたらしている。その1つが雇用問題である。現地報道によれば、タイの銀行員は、IT技術が普及することで、人の手が不要となり、自分たちが解雇されることを懸念している。従業員や支店数の削減を公表しているのは、SCBだけではない。中堅規模のクルンタイ銀行も、今後5年間で従業員の30%削減を公表しており、銀行業界の雇用環境は日々厳しくなりつつある。SCBではこうした懸念を背景に、労働組合が雇用削減案に対し抗議している。

同時に、社会のデジタル化に向けては、IT技術者など高度人材不足も大きな課題だ。タイ中央銀行は、「タイでは外国語人材やITなどの技術者が特に不足している。これらの問題が深刻化する前に、官民協力して対処する必要がある」と述べている。

他方、タイ政府は、科学技術分野の研究者数を現在の10万人あたり13.6人から、2036年には60人まで増やす計画を掲げている。つまり、現在の4倍に増やす予定だ。

さらに、関連システムの信頼性を高めることも必要だ。2017年12月31日、プロムペイを利用した2万件の送金が、技術的な問題で宛先に送金されず、その資金が消失するという問題が発生した。本件は、翌日の2018年1月1日には解決し、消失した資金は全てタイ中銀(BOT)によって補償されたが、プロムペイの安定性に不安を残した。

最大手バンコク銀行も追随

先述のとおり、タイの主要銀行各社は、コスト削減のために支店数を減らす方針を有している。他方、最大手であるBBLは、デジタル化を進めながらも、中小企業や個人事業主を主要顧客とし、支店数を増やす方針だ。2017年は新規で11支店を開設した。現地報道によれば、同行のチャスリ頭取は、「2018年は、新規開設の店舗数が閉店店舗数を上回る見込みだ。顧客にとって、安全かつ利便性の高いデジタルサービスを提供する」とコメントした。

タイの大手銀行間のデジタル化競争は、IT技術を採用しオペレーションコストを削減しつつ、顧客の利便性を高める点で、同じ方向に向かっているとみられる。タイの消費者が日常的に、携帯電話による送金サービスを利用していることから、インターネットバンキングが、生活の一部としてさらに普及する日も近い。いずれにせよ、タイの大手銀行のデジタル化への競争は、激しさを増していくものと思われる。

表:デジタル化に向けた、タイ大手銀行の動き
サイアム商業銀行(SCB) カシコン銀行(Kbank) バンコク銀行(BBL)
2016年 3月 インターネットバンキング開発会社を設立
4月 インターネットバンキング開発会社を設立
2017年 3月 「InnoHub プロジェクト」開始 (IT関連のスタートアップ支援プロジェクト)
6月 ビーコンベンチャーキャピタル設立 (IT関連のスタートアップ支援が目的)
8月 モバイルアプリケーション「SCB Easy」改訂 モバイルアプリケーション「KPlus」で、QRコードを利用した送金サービスを開始
11月 デジタル支店の開設(特定業態を対象) 「KPlus」に新機能を付加
2018年 1月 「SCB Easy」による小口融資の開始 「SCBビジョン2020」の公表
3月 送金手数料の無料化 送金手数料の無料化 人工知能(AI)である「KADE」の公表 送金手数料の無料化
出所:
現地報道などによりジェトロ作成

注:
プロムペイ(Prompt Pay)は、タイ国民が保有するID番号や携帯電話の番号を各自の銀行口座とリンク付けすることで、銀行間の送金や公共料金などの決済が容易にできるようにする制度。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所 アソシエイト
スワンナカーン・スラポン
2017年より、ジェトロ・バンコク事務所

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