中国最新経済動向(2)各地の特性の変化にビジネスチャンス
在中国事務所長による経済動向セミナーより

2018年10月23日

ジェトロが9月27日に、東京で開催した「中国最新経済動向セミナー」の後半では、ジェトロ成都事務所の田中一誠所長が四川省の最新経済動向を紹介した。講演終了後には、「各地の特性と日本企業のビジネスチャンス」をテーマとしてパネルディスカッションが行われ、活発な議論がなされた。

ジェトロ成都事務所の田中一誠所長は、四川省の変化を中心に最新の経済動向を解説した。

四川省は全国平均を上回る経済成長を続けている。近年、第三次産業の成長が著しく、中国の中でも堅調な経済成長を続けている地域といえる。主な貿易品目は、パソコン(PC)をはじめ、電子計算機、集積回路(IC)および電子部品で、これらの品目は輸出入ともに全体の5割を超える。主な貿易相手国・地域では、日本が貿易総額で4位となり、四川省にとって重要なパートナーといえる。

四川省では現在、5つの産業分野(電子情報、設備製造、食品・飲料、先進材料、エネルギー・化学工業)とデジタルエコノミーの発展に重点を置いている。特に電子産業は四川省における中核産業の1つで、四川省は中西部地域におけるICの最大規模の生産地となっており、IC設計、チップ製造、パッケージテストといった産業チェーンが形成されている。また、自動車産業にも力を入れており、生産は2010年の10万台から2017年は150万台に増加、新エネルギー車の生産も行われるようになってきている。

イノベーションの推進も積極的に行っている。イノベーションを支援する機関として「成都新経済発展研究院(iNED)」を2017年9月に設立し、スタートアップの支援を行うなど、2025年までに成都で7社のユニコーン企業を創出することを目指す。また、ユニコーン企業の集積地「ユニコーン・アイランド」の建設も進められている。


ジェトロ成都事務所の田中一誠所長(ジェトロ撮影)

期待される日本企業の参画・協業

「新しいモノを受け入れる」「ゆったりと生活を楽しむ」などといった消費市場の特徴を有する成都市ではいま、日本食レストランが急増し、アリババ系列スーパー「盒馬鮮生」、カーシェアリング、無人コンビニや無人ホテルなどの新小売り・新サービスが出現している。また、中国でも高齢者の多い四川省では、高齢者市場のニーズも拡大している。

2000年から始まった「西部大開発」により、鉄道、道路網を中心に西部地域のインフラが整備されつつある。「長江経済ベルト発展戦略」において、長江上流に位置する四川省は、重慶市とともに機能的な広域経済圏の形成を進めており、中国西部地域における役割は大きい。2017年4月には、省内の3拠点(天府新地区エリア、青白江鉄路港エリア、川南臨港エリア)に「中国(四川)自由貿易試験区」を設置した。行政手続きの緩和・規範化および「一帯一路」の推進や都市間連携の推進・共同発展などがその狙いである。青白江鉄路港エリアには、成都~欧州間を2週間で結ぶ国際貨物鉄道「蓉欧快鉄」が2013年から運行しており、2018年6月現在、成都と欧州14都市を結んでいる(2018年8月23日記事参照)。ASEANエリアへも貨物鉄道の拡充を進めており、四川省は物流の一大拠点としても注目されつつある。

鉄道だけではない。2020年には国際空港「天府国際空港」が開港予定で、周辺には、「中国(四川)日本合作産業園区」が設置される予定だ。貿易や物流サービス、電子情報、人工知能(AI)、ロボットなどのハイエンド製造、バイオなどの分野で日本企業の参画も期待されている。

四川省政府は、これから「一帯一路」建設や「長江経済ベルト発展戦略」の推進に当たり、日本が強みを持つ分野への参画、特にインフラ開発への参画や電子情報・自動車などの工業分野への進出に加え、教育や医療、介護などの分野で日本企業との協業を期待している(2018年9月12日記事参照)。

沿海部と内陸部の格差が縮小

講演終了後には「各地の特性と日本企業のビジネスチャンス」をテーマにパネルディスカッションが行われた。初めに、ジェトロ海外調査部中国北アジア課の箱﨑大課長から、中国の成長率や日本の対中投資の推移、進出案件の特徴、日系企業調査にみる省ごとの事業展開の方向性について報告があった。報告では、中国の成長率は近年6%台後半で安定的に推移し、日本の対中投資は5年ぶりに増加に転じ、潮目が変化していると指摘した。進出案件の特徴では、製造業は自動車関連と食品関連が多く、サービス業は小売りのほかさまざまな業態が展開しており、高齢化を見越した医薬・ヘルスケアの進出も目立つほか、電子商取引(EC)向けプロダクトがさまざまあることが強調された。また、ジェトロ2017年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査にみる省ごとの事業展開の方向性をみると、沿海部でも「(事業)拡大」の比率に差がでてきており、その格差は長江流域で高く、「内販か輸出か」「内陸か沿海部か」といった二分法では割り切れない地域特性があることを指摘した。これらの報告を踏まえて、「世界の工場」から「世界の市場」へというのはあらがいがたい特徴とした。


左からジェトロ海外調査部中国北アジア課の箱﨑課長、上海事務所の小栗所長、
広州事務所の天野所長、成都事務所の田中所長(ジェトロ撮影)

上海事務所の小栗道明所長は、華東地域(上海市、江蘇省、浙江省、安徽省)の特徴について、GDPはフランスを超え、世界5位の人口規模を抱え、この10年間でフランスや米国と変わらないようなマーケットに成長したと指摘した。広州事務所の天野真也所長は、華南地域の中心都市の1つである広東省広州市には自動車産業が集積し、既に日系の自動車関連企業が多く進出しており、地場系や在中国外資系の関連企業との関係構築がなされていることが特徴とした。

成都事務所の田中所長は、中西部に位置する四川省成都市では、消費者が豊かな生活を送っているというのが特徴と述べた。成都市の自動車保有台数は北京市に次ぎ、インターネットからのぜいたく品の購入量は北京市、上海市に次ぐ3位、海外旅行の頻度は北京市、上海市、広州市に次ぐ4位で、欧米系の大手小売りが多く進出しているため欧米系の商品が多く流通している。一方、日本の商品は少ない上にサービス業の進出もまだ多くない。成都市の消費者はこれまでにない新しいものや、今まで以上に快適なサービスを求めており、日本の小売り・流通、サービス業にとってビジネスチャンスがあると述べた。

また、箱﨑課長がサービスについては華東地域が頭一つ抜け出ている感覚があると言及したことに対し、小栗所長は、確かにそうではあるが、田中所長が講演で挙げたアリババが展開している新型生鮮スーパー「盒馬鮮生」が、沿海部のみならず内陸部にも展開している事例からも、デジタルエコノミーの発展が沿海部と内陸部の格差を縮小させていると指摘した。

積極的な誘致活動から見いだすビジネスチャンス

最後に箱﨑課長から、日系企業のビジネスチャンスの所在や地元政府の誘致にかける意気込みについて質問があった。田中所長は、四川省政府は積極的な誘致活動を行っている。中国の大手企業や欧米などの外資系企業が工場などの大規模な投資をすることは、これら企業を顧客に設備や部品、サービスなどを提供する日本企業にとってビジネスチャンスにつながるため、四川省政府の誘致活動をチェックすることが重要と述べた。

小栗所長は、世界から中国への投資の7割がサービス業であるのに対し、日本から中国への投資の半分が依然製造業であることから、サービス分野における投資拡大の可能性があると言及した。また、日本企業は早期に中国へ進出し、企業数は多いものの、在中国の日系企業向けビジネスを展開してきた企業が多く、今後、本当の意味で中国市場に参入できるかがチャンスでもありリスクでもあると指摘した。地元政府の誘致については、米中貿易摩擦の影響を受けて、華東地域の政府も日本企業との距離を縮める傾向にあり、日本企業の声が政策に反映されるなど、以前よりビジネス環境が改善していると述べた。

天野所長は、広州市長が「民生の安定につながる投資を期待している」ことを紹介し、医薬品、高齢者医療や交通渋滞の緩和などの分野への投資を歓迎しており、ビジネスチャンスがあるとした。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 アドバイザー
嶋 亜弥子(しま あやこ)
2017年4月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
清水 絵里子(しみず えりこ)
2016年4月、ジェトロ入構。海外調査部海外調査計画課を経て、2017年6月より現職。