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次世代自動車産業を引き付けるアリゾナ州南部 (米国)

2018年5月29日

米国経済が持つ魅力の1つに、地域経済が持つダイナミズムがある。核となる産業や大学などが新たな技術やビジネスの担い手となり、地域経済の成長や拡大の推進役を務める。次世代の自動車技術や新たなビジネスモデルの実証実験に適した事業環境などを武器に、有力企業の注目を集める西部アリゾナ州の南部もその1つだ。

人口増加と企業進出が同時に進展

アリゾナ州には、168万人(2018年)と全米第5番目の人口規模を誇る州都フェニックス市のほか、ツーソン市(54万人)やメサ市(50万人)など大規模な都市が存在し、いずれの都市でも急速な人口増加が続いている。フェニックス市とメサ市を擁するマリコパ郡は2016年以降、2年連続で人口が最も増加した郡となった(2018年4月27日記事参照)。同郡は2025年までに現在の450万人規模から550万人程度まで人口が増加すると予想されている。フェニックス市の東部のベッドタウンとして発達したメサ市は、大都市並みの人口が在住する住宅都市を指すブームバーブの代表例としてしばしば紹介されるなど、国内の若年層にも人気がある。

アリゾナ州への人口流入を促している要因の1つが、大手企業の進出だ。もともと米軍の重要基地があったことから、防衛産業や軍事技術と関係性の高い電気・電子産業が集積しており、ボーイング、ゼネラルダイナミクス、BAEシステムズ、レイセオン、インテル、クアルコムなどの大手企業が拠点を設立してきた。こうした企業に加えて、近年では自動運転を含む新技術の開発を進める大手企業の同地域への進出が続いている(図)。クライスラー、ゼネラルモーターズ(GM)、フォードのデトロイト3に加えて、日本のトヨタ自動車、日産自動車が拠点を構えるほか、グーグルの兄弟会社で自動運転技術の開発を進めるウェイモ(Waymo)、ライドシェア大手のウーバー(Uber)が同地で実証実験を進めている。ウーバーは、本社のあるカリフォルニア州に次ぐ開発拠点として同地を位置付けている。また、同州に拠点を構える企業には、ローカルモーターズやルーシッドモーターズなどの新興自動車メーカーも含まれる。2018年1月には、燃料電池を動力源とするセミトラックを製造するニコラモーターが、本社をユタ州から移転することを発表したばかりだ。同社はフェニックス市に隣接するバックアイ市に工場を設立するのに合わせて、本社機能の移管も決めた。


ウーバーの実験車両(ジェトロ撮影)
図:アリゾナ州南部に集積する自動車メーカー
トヨタ自動車とフォードは、マリコパ郡ウィットマン市、ゼネラルモーターズとローカルモーターズは同郡チャンドラー市、日産自動車はピナル郡スタンフィールド町、クライスラーはフェニックス市の北西約270キロのモハビ郡ユカに拠点を有している。
注:
ウェイモ、ウーバーの所在地は非公開。ルーシッドモーターズ、ニコラモーターは未発表。
出所:
各社ウェブサイトをもとにジェトロ作成(Map Data@2018 Google)

技術開発環境に人気が集まる

なぜ多くの自動車関連企業は同州に進出するのか。最大の理由は、新技術を開発するのに適したビジネス環境にある。米国では、地域経済の産業競争力を高めるのを目的に、自治体や経済界が旗振り役になり、企業の製品開発を促す事業環境整備を競い合う事例が増えている。中でも、裾野産業が広い自動車技術は人気が高く、例えば自動運転技術については30を超える州が試験走行を承認するなど誘致競争が激しい。アリゾナ州は年中試験走行が可能な気候や道路の整備状況が恵まれていることに加えて、州、郡、市などの自治体に加えて、市民も企業活動に協力的であることが高評価につながっている。マリコパ郡のスコッツデール市とテンピ市で試験走行を実施してきたウーバーの広報担当のサラ・アバウド氏は「ダグ・デューシー知事がシェアリング・エコノミーを政策の最優先分野の1つに位置付けている」とアリゾナ州の魅力を語る(注)。

企業誘致にも積極的だ。フェニックス市を中心とする周辺の自治体と産業界の出資によって運営されているグレーター・フェニックス経済協議会(GPEC)は1989年に創立後、約750社の誘致に成功してきた。調査・戦略部門を指揮するステファン・フリージア部長が、2018年1月に日本で開催された対米投資セミナーに来日参加するなど、外国企業の誘致にも積極的に取り組んでいる。

地元政府は、公共政策の面でも自動車技術の開発を後押しする。例えば、マリコパ郡がフェニックス市近郊で実証試験を続ける技術の1つに、コネクテッドカー技術がある。自動車間で相互通信することよって安全性を高めるとともに、渋滞緩和の実現を狙いとするものだ。「最近では、実用性の高さが期待できる業務用車両を対象にしたプロジェクトに力を入れている」と同郡運輸局でプロジェクトを統括しているフェイザル・サレム氏は胸を張る。

大手自動車メーカーの完成車工場はないものの、上述したローカルモーターズやルーシッドモーターズなどの新興企業は、同地を製造の中心地として位置づけている。2010年にフェニックス市の南に位置するチャンドラー市に工場を設立したローカルモーターズは、マイクロファクトリーと呼ぶ小規模工場でコンセプトカーを製造する。2015年1月にデトロイトで開催された北米オートショーの会場で、3Dプリンターを使用した自動車製造を実演して脚光を浴びた同社は、現在は同様の技術を利用して、全自動電気自動車のオリー(Olli)の開発・生産に注力している(2017年6月26日記事参照)。


ローカルモーターズの工場(ジェトロ撮影)

3Dプリンターで製造した部品(ジェトロ撮影)

人材確保のしやすさも魅力

若くて優秀な人材を比較的採用しやすいことも、同地域の魅力である。アリゾナ大学、アリゾナ州立大学など州内の教育機関の卒業生に加えて、カリフォルニアやテキサスなど他州から若年層の移住が高い水準で続いているのは冒頭で触れたとおりだ。現地進出企業からも、人材確保に苦労していない様子がうかがえる。フェニックス市の東部に位置するメサ市のスペシャル・デバイスズ(Special Devices)を2012年に買収した自動車部品大手ダイセル(本社:大阪府)の子会社、ダイセル・セーフティ・システムズ・アメリカのブライアン・フォッセン副社長は「(同社の)ケンタッキー州の工場に比べて、人材の母数が多く、周辺企業との競合も少ない」と分析する。大手タイヤメーカーのブリヂストン(本社:東京都)の研究拠点でプロジェクトを総括するロバート・ホワイト上級部長の意見も同様だ。過去にテキサス州の日系大手化学メーカーの工場で勤務経験のある同氏は「拠点が位置するフェニックスの東部地域には良い人材がたくさんおり、人口が急増している。化学分野の人材が少ないが、フェニックスの居住環境の良さを理由にテキサス州から人材がいくらでも流入する。砂漠地域だが、メサ市の水道料金はヒューストン市と変わらない」と同地域の魅力を強調する。同社は、メサ市で「グアユール」と呼ばれる植物を原料としたタイヤ製造の研究開発を進めている。もともと米国の農務省と国防総省がゴムの代替物として着目した同原料を利用したタイヤの商業化に向けて、2013年から実証実験サイトを運営している。

米国では好景気の下、失業率が全国平均で4%前後まで低下し、業種を問わずエンジニア人材や技術力のあるワーカーの人繰りに苦労する企業が増えている。ジェトロの「2017年度米国進出日系製造業調査(2018年1月)」では、米国内で拠点の新設や移転を考える際に「雇用コスト(現地人材の質・採用可能性など)」を重視する企業が約3分の2に上った。州外からの移住者の流入は、雇用コストを抑える効果も果たしている。


実証実験サイトと原料グアユール(ジェトロ撮影)

自動車分野以外では、半導体産業の集積も続いている。チャンドラー市には半導体大手インテルの国内最大規模の生産拠点が存在する。1996年に進出した同社は、2017年2月に70億ドル規模の追加投資を発表したばかりだ。ほかにも、クアルコムやオランダのNXPなど大手半導体事業者、多くの部品サプライヤーなども拠点を構えている。メサ市で企業誘致を担当するエリック・ボップ氏と前出のフリージア氏は「欧米企業のみならず、富士フィルムや三菱ガス化学など、半導体分野でも日本企業の存在感は増している」と口を揃え、自動車分野とともに、日本企業の同地域への新規進出に期待を示した。


注:
2018年3月18日にテンピ市で起きた事故により、同社は当面、試験運転の実施を見合わすことを決定している。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課長
秋山 士郎(あきやま しろう)
1995年、ジェトロ入構。ジェトロ・アビジャン事務所長、日欧産業協力センター・ブリュッセル事務所代表、ジェトロ対日投資部対日投資課(調査・政策提言担当)、海外調査部欧州課、国際経済課、ニューヨーク事務所次長(調査担当)などを経て2016年8月より現職。

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