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追加関税で産業界と政治家のせめぎ合いが続くサウスカロライナ州(米国)

2018年8月8日

BMW、ボルボ・カーUSA、メルセデスベンツ USAと欧州系の自動車メーカー3社が生産拠点を置き、全米一のタイヤ生産地でもあるサウスカロライナ州では、米国の追加関税措置と各国の報復措置に対する懸念の声が高まっている。一方で、トランプ大統領と緊密な関係にあるヘンリー・マクマスター州知事や同州選出の連邦議会議員らはトランプ政権の通商政策に理解を示しており、官民の歩調がそろわない状況が続いている。

全米商工会が発表した「追加関税による州別影響」によると、サウスカロライナ州は「深刻なダメージを受ける州」に挙げられている。追加関税の影響を受ける輸出は30億ドル以上にのぼり、うち8割以上は中国向けの自動車・自動車部品が占める。サウスカロライナ州にはBMW、ボルボ・カー USA、メルセデスベンツ USA、ホンダの完成車工場があるほか、ミシュラン、コンチネンタルタイヤ、ブリジストンなどタイヤメーカー5社、自動車繊維部品などサプライヤー250社が進出し、自動車関連産業の経済規模は年間270億ドル、関連産業の雇用者数は6万6,000人にのぼる。2011~2017年に関連産業が創出した雇用者数は2万200人であった。2017年の州の品目別輸出額トップ10の半分を各種自動車、タイヤが占めている。

米国初の製造拠点が今年6月にオープンしたボルボ・カー USAは、開所式でサミュエルソンCEO(最高経営責任者)が「貿易障壁は今後の雇用計画に悪影響を及ぼす可能性がある」と牽制し、駐米スウェーデン大使も強い懸念を表明、追加関税措置への反対を呼び掛けた。(2018年6月27日付ビジネス短信記事参照

北米唯一の製造拠点で1万人を雇用、2017年に27万2,000台を輸出した全米最大の自動車輸出企業BMWも、ロス商務長官宛てに6月28日付で「追加関税は米国で生産されるBMW車の輸出に悪影響を与え、今後の追加投資と雇用を脅かす」と抗議文を送った。同社はさらに、中国での増産と米国製BMW車の中国での販売価格見直しを発表、サウスカロライナ工場拡張計画への影響はないとしているが、州北部地域におけるBMWとそのサプライヤーによる雇用数は数万人といわれる。全輸出のうち3分の1を中国向け輸出が占める同社が、もしも生産調整を行うことになれば、地域経済は致命的なダメージを受ける。

バンの製造拠点を今年開設するダイムラーも、自動車と同部品への輸入に対する追加関税に懸念を表明した。また、同州進出企業の草分け的存在であり、州内5カ所に製造拠点をもつミシュランは米国内のタイヤメーカー9社との共同声明を大統領に提出した。

自動車業界を中心に懸念の声が高まる中、同州最大の産業団体であるサウスカロライナ州商工会も同州連邦議員全9人宛てに政権への働き掛けを要求する陳情書を送った。陳情書で、ピット会頭は「企業はコストの低い海外拠点に生産をシフトし、州の雇用は脅かされる」と警告する。州港湾局のジム・ニューサムCEOも「報復措置が深刻な影響を及ぼすことは間違いない」と懸念を表明している。

こうした産業界の働き掛けにもかかわらず、同州選出の連邦議会議員の大半はトランプ政権の通商政策を支持している。リンゼイ・グラハム上院議員をはじめとする共和党連邦議員8人は企業の訴えに理解を示しつつも、「追加関税が貿易不均衡を是正し、長期的には米国に利益をもたらす」と支持を求める。

追加関税に反対する唯一の共和党連邦議員であり、トランプを批判していたマーク・サンフォード下院議員が米議会中間選挙予備選で敗北する一方で、トランプ大統領とペンス副大統領が異例の州知事予備選応援演説に駆け付け、マクマスター州知事は決選投票で勝利した。

州北部スパルタンバーグの地元紙「ヘラルド・ジャーナル」は7月8日付社説で、追加関税措置に対して沈黙を続けていたマクマスター知事を非難、トランプ大統領との盟友関係を利用して州の雇用を守るべきだ、と主張した。サウスカロライナ州の貿易関連雇用は50万人以上に上り、その影響は州北部や自動車産業だけにとどまらないと、社説は指摘している。

マクマスター知事は7月11日、訪問先の昭和電工サウスカロライナ工場で初めてこの問題に言及、大統領の意向を尊重する姿勢を示しつつ、追加関税が与える影響について大統領およびロス長官に訴えていると明かし、「州の企業や住民が追加関税によって不利益を被ることのないよう最善を尽くす」と述べた。しかし、民主党対立候補のジェームス・スミス州議会議員は、「知事は雇用を破壊する追加関税に対して何もしていない」と攻撃する。同議員はマクマスター知事について、「トランプ大統領との盟友関係が州に恩恵をもたらすというが、唯一の恩恵は彼自身の予備選勝利だ」と皮肉る。

2年前の大統領選挙で当初からトランプ候補の支持者だった当時副知事のマクマスター氏は、ニッキー・ヘイリー前知事がトランプ大統領によって国連大使に任命されたことに伴い知事に昇格しており、今回、実質的な初当選を目指す。外国企業が多い一方で、州共和党員のトランプ支持率が80%ともいわれるサウスカロライナ州では、11月の中間選挙を控え、通商政策に対する今後の動向が注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・アトランタ事務所 マネジャー
ラマース 直子(ラマース なおこ)
2015年よりジェトロ・アトランタ事務所勤務。調査・貿易相談・現地日系企業支援業務等を担当。

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